モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
61 / 94
第一の神獣。死の軍勢の片鱗

51話 実践パワーレベリング.1

しおりを挟む
 半ば強制的にパワーレベリングをさせられたリュート達であったが、魔道具の影響もあってか危なげなく送られてくるモンスターを処理していた。
 そのため、数を追うごとに班訳や塹壕掘などが進み、安全性と効率が高められていった。

「そろそろ時間です!B班、位置についてください!」

 サイカが声を上げる。彼女はリオンにメモを渡されたこともあり、その場の流れでまとめ役を行なっている。
 彼女が円滑に指揮をすることで、他の者は余った時間を有効に使うことができた。

 班はA.B.C.の三つからなりそれぞれ十人程度である。
 一つの班がモンスターを相手にしている間に、残り二つの班が用意と休憩を行う。

 現在、モンスターの相手をしているのはB班である。チームリーダーを務めるのはレンとなっている。
 彼はサイカが指揮を取れなくなるような緊迫した状態に陥った際に撤退や迎撃などの判断をする事になっている。
 しかし、誰もそのような事が起こることはないと思っていた。その証拠に具体的なことは何一つ決まっていなかった。

 時間になりモンスターが送られてきた。
 丸々と太った鼠型外生生物ラット系モンスターが現れた。歩くのもおぼつかないほどの肥満度であり、少なくても自身で餌を取っていない事が窺える。

 だが、現時点のリュート達では全くかなわない差がそこにはある。戦略の余地も挟まない生物としての圧倒的なマナ総量の差がある。攻撃力、防御力は元より、苦手である瞬発力でさえクラスで最速のカリスを凌駕する。

 しかし、モンスターがその実力を発揮することはなかった。姿を現した瞬間に頭と腹、右腕に風穴が空いた。地面に着地する間も無く勝敗が決した。
 モンスターは何も出来ず、状況を理解することもなくコアを残して霧散した。

 このように一方的な戦闘になっているのは、魔道具と奇襲のできる状況が大きい。
 特に魔道具、アヤメの目利きでは高級な魔道機械であるとされた。
 しかし、この魔道具の特別なところはそれだけでは無かった。これらは、常識外れな威力を発揮した。Sランク相当のマナを持つモンスターを一撃で撃破するほどである。
 原因は使用されているコアの質にあった。サリアが言うには一国がいくら資財を使おうと手に入れられない物であるそうだ。
 それが大量に用意されている。

「うっ…!」

 ニナが口を抑え膝をついた。何の前触れもなく起きた事に皆が驚き駆けつける。
 最初に駆けつけたのはアカリである。彼女はニナから最も近かったためすぐに対象する事ができた。

「ねぇ、大丈夫!?立てる?」

 アカリは肩を貸して安全地帯の家へと向かう。

「どうしました?何があったのか家の中で話してください」

 サイカが駆けつけて反対側の肩を持つ。ニナの様子を見ると、顔が少し赤くなっており、足がおぼつかなくなってしまっている。

「ただのマナ中毒です。心配をおかけして申し訳ございません。対処方法も存じております。一人で対処可能です」

 ニナは辛そうにしているが、二人を押し退けて歩く。

「千鳥足になってます。家までは運ばれてください」

 サイカはふらふらのニナを再度捕まえて歩く。幸いモンスターが送られて来たすぐ後のため、時間には余裕がある。

「ニナ!無事か!?」

 カリスが猛スピードで駆けつける。彼はそれなりに遠くに位置していたが、先に着いた二人と遜色ない時間でたどり着いた。
 その時の彼はニナの元に向かう野次馬と救助者を引き返させる覇気を持っていた。

「マナ中毒になりました。クラスの方々に痴態を晒すのは忍びないので付き添いをおねがいします」

 ニナはあざとくカリスにもたれ掛かる。

「聞いたとおりだ。連れていくがいいか?」

 カリスは二人に尋ねる。彼は恥じらう様子もなく肩を貸し、家の方に歩いて行った。

「ん"ーー……」

 サイカが声に唸り声を上げる。片手で顔を覆って空を見上げる。

「…ッ!待って、どうしたの!?」

 アカリはサイカの声に驚いて聞く。

「もう、行くとこまで行けばいいのに…」

 サイカが少しイライラしながら声を漏らす。

「メイドと主人でしょ?普通なんじゃない?」

 アカリはよく知らないため「そう言うもの」だと受け入れた。

「絶対違う…絶対、はぁ…」

 サイカはアカリの発言に強いいきどおりを覚え、ため息をつく。

バリッ!

 唐突に空がひび割れる。モンスターが見えない壁にへばりつくようにしてこちらを見ている。

「…ッ!退避ッー!」

 サイカが大声で叫ぶ。
 その声を皮切りに皆が家に向かって走る。

 モンスターが歯を立てて壁を噛もうのしている。しかし、ツルツルと滑って上手く噛み砕けずにいる。しばらくすると、諦めたのか動きが無くなり、静かになった。
 モンスターのコアに吸い込まれるように消える。そして残ったコアがひび割れて爆発した。
 爆発音に混じりパリンと何かが割れる決定的な音がした。どうやら、障壁が破壊されたようである。

 モンスターが飛んできたであろう方向を確認すると、似たような影が向かって来ていることが分かった。

 ほとんどの者はリオンへの連絡するべきであると考えたが、本気で戦おうとする命知らずが数人いた。
 その先頭に立つのはサリアである。しかも、彼女は現時点で唯一の連絡手段である赤い球の魔道具を所持していた。

「いいじゃない。こういうのを待ってたの。みんなで戦うわよ!」

 サリアは振り返ると、これ見よがしに赤い球をクラスの皆に見せつけた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...