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第一の神獣。死の軍勢の片鱗
50話 ランク外の定義.3
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ガリっ!
トウカは取り出したコアを口に運んだ。ガリガリと噛み砕き、まるで食べ物を食べるようにして飲み込んだ。
ごっくん…
トウカは確かめるようにお腹をさする。彼女は苦しむ様子もなくただじっとしている。
しばらくすると体に変化が表れてきた。零れる涙が蒸発するまでの時間が長くなり、指先の霧散は止まる。そして、トウカ自身が青白く光り始めた。体を覆う水と合わさり、戦場に不釣り合いなほどに光り輝いた。
その時、万軍の動きが止まった。周辺生物への無差別な攻撃を辞めてトウカに対して集中する。上質な餌の香りを嗅ぎつけたのだ。
彼らが感じたのは『進化』の兆候である。どんなに強い生物であろうとその瞬間だけは無防備になる。体の強度は大幅に落ち、攻撃することも、その場から動くことも出来なくなる。
どんなに強かろうと進化の最中だけは皆等しく「餌」である。
万軍はトウカを喰らうために動く。これは理性的な判断では無く本能的な反射である。
モンスターはこのようなチャンスがあれば飛びついてしまう。彼らは身の安全さえ確保されていれば何に変えても喰らいに行くのである。これは生まれた時からコアに刻まれているプログラムである。
万軍は本能のままトウカに襲いかかった。その様子に理性を感じられない。元より、「群れの一欠片」。人に例えるなら指先程度の体積比率である。万軍は群れ全体で一つの脳と喩えられる「軍隊系モンスター」の一種である。そのため、今の状態で普段通りの思考力を発揮することは不可能であった。
だから、気づかなかった。それが誘き寄せるための撒き餌であることを。
万軍の送った尖兵がコアを残して霧散した。
「喰らい尽くしてあげる」
トウカが二体の分身を生成して迎え撃つ。ナイフを取り出し分身に配る。
分身はナイフを受け取ると走った。モンスターの体を切り刻むと慣れた手つきでコアを取り出した。
「一つ!」
「二つ!」
分身はコアを本体のトウカに投げる。
ガリっ!
トウカは受け取るなり、それを口に頬張り噛み砕く。
ごっくん。
トウカがコアを飲み込む。すると先程と同じように体が光り、万軍が反応した。
ただ、先程と違うのはトウカ達が自ら万軍の方へ走っていることである。
万軍は進化の最中に攻撃と移動を行う異質な存在を不気味に思いたじろいた。トウカ達が近づくと、万軍は避けるようにしてその箇所だけを凹ませる。
(囲んで叩こうと言うわけね…)
トウカは立ち止まり、バングルの穴から予備のシールを取り出した。
細長いシールを慣れた手つきでバングルと自身のこめかみを繋ぐ。腕から肩、首、頬と来てこめかみに貼り付ける。シールは付けるなり肌に馴染み透明になった。
分身の二人はナイフを持って突撃する。
(空間魔法、炎魔法、チェンジ)
魔道具を自身の思念で操作する。シールの貼られた箇所が白く光る。すると体を覆う水に炎が追加される。
「仇は取るわよ」
トウカは炎の弓と水の矢を形成する。弓は何の変哲もない炎の弓であったが、矢は少し違った。水の矢の矢尻の中央に圧縮された炎の球が埋め込まれている。
「ハァーーッ!」
腕が引きちぎれる勢いで弦を弾く。矢を放つ瞬間に大量に同じ矢を形成する。
放たれた矢は散弾のように前方のモンスターを襲う。矢の一つ一つがモンスターを何体も貫通する。さらに、10秒ほどの時間を置いてから爆発した。
「もう一回…」
トウカは万軍を睨みつける。壊れかけた腕を修復し、弓を構える。
「クッ…!」
形成した弓が霧散を始めたのである。焦っていたトウカは分身が戻ってくることを待たずに手元のナイフを分解する。
取り出したコアを口に入れようとした時、状態に合わない呑気な声が聞こえてきた。
「おい、人間を辞めたくないんじゃ無かったのか?」
リオンがミーニャを連れて転移して来ていた。トウカの頭上からとなり降りた。
「えっと…何してるにゃ?」
ミーニャはトウカの様子に違和感を感じ質問する。
「決まってるじゃない。敵討ちよ」
トウカは血相を変えて弓を形成し直す。ちょうどその時万軍の元に行っていた分身からコアが大量に投げ飛ばされて来た。
「待て!」
リオンがコアを口に運ぼうとするトウカの手を掴む。
「離しなさい!…ッ!」
トウカは手を振り払うおうとした。しかし、思いのほか強く掴まれていたため、振り払うことが出来なかった。
「んー、あ”ーちょっと待て」
リオンは懐から自身のカードを取り出した。
「どうした?リオン。今回の貸しじゃ「お仕置き」は無くせないぞ。交渉するならお前の生徒と交渉しろ」
リオンのカードから声が聞こえてきた。
「って、貴方生きていたの!?」
トウカは驚きのあまり声を発した。目から涙が溢れリオンを殴った。
「イッタ!何すんだこの痴女!」
いきなり殴られたリオンは怒りを露わにして怒鳴った。
「生きてるならもっと早く伝えなさいよ。人間辞めちゃったじゃない!」
「寿命増えてよかったじゃねぇか」
リオンは意趣返しに嫌味を言う。
「あのねぇ、他にも色々あるでしょう!」
「まぁ待て、ちょっと進行したところで、そんなに変わんないだろ」
「じゃあ、貴方も食べなさいよ!「あ~ん」してあげるわ、感謝しなさい愚弟。あ~ん」
トウカがコアを鷲掴みにしてリオンを押し倒す。
「やめろ!俺はまだ人間だ!」
リオンは力一杯抵抗して暴れる。
「私は違うって言うの!?」
「無意味な言い争いは止めるにゃ、私たちはもう手遅れにゃ」
ミーニャが二人を見かけて仲裁に入る。
「それは言わないで…」
「それは言うな…」
トウカとリオンは肩を落として落ち込んだ。
トウカは取り出したコアを口に運んだ。ガリガリと噛み砕き、まるで食べ物を食べるようにして飲み込んだ。
ごっくん…
トウカは確かめるようにお腹をさする。彼女は苦しむ様子もなくただじっとしている。
しばらくすると体に変化が表れてきた。零れる涙が蒸発するまでの時間が長くなり、指先の霧散は止まる。そして、トウカ自身が青白く光り始めた。体を覆う水と合わさり、戦場に不釣り合いなほどに光り輝いた。
その時、万軍の動きが止まった。周辺生物への無差別な攻撃を辞めてトウカに対して集中する。上質な餌の香りを嗅ぎつけたのだ。
彼らが感じたのは『進化』の兆候である。どんなに強い生物であろうとその瞬間だけは無防備になる。体の強度は大幅に落ち、攻撃することも、その場から動くことも出来なくなる。
どんなに強かろうと進化の最中だけは皆等しく「餌」である。
万軍はトウカを喰らうために動く。これは理性的な判断では無く本能的な反射である。
モンスターはこのようなチャンスがあれば飛びついてしまう。彼らは身の安全さえ確保されていれば何に変えても喰らいに行くのである。これは生まれた時からコアに刻まれているプログラムである。
万軍は本能のままトウカに襲いかかった。その様子に理性を感じられない。元より、「群れの一欠片」。人に例えるなら指先程度の体積比率である。万軍は群れ全体で一つの脳と喩えられる「軍隊系モンスター」の一種である。そのため、今の状態で普段通りの思考力を発揮することは不可能であった。
だから、気づかなかった。それが誘き寄せるための撒き餌であることを。
万軍の送った尖兵がコアを残して霧散した。
「喰らい尽くしてあげる」
トウカが二体の分身を生成して迎え撃つ。ナイフを取り出し分身に配る。
分身はナイフを受け取ると走った。モンスターの体を切り刻むと慣れた手つきでコアを取り出した。
「一つ!」
「二つ!」
分身はコアを本体のトウカに投げる。
ガリっ!
トウカは受け取るなり、それを口に頬張り噛み砕く。
ごっくん。
トウカがコアを飲み込む。すると先程と同じように体が光り、万軍が反応した。
ただ、先程と違うのはトウカ達が自ら万軍の方へ走っていることである。
万軍は進化の最中に攻撃と移動を行う異質な存在を不気味に思いたじろいた。トウカ達が近づくと、万軍は避けるようにしてその箇所だけを凹ませる。
(囲んで叩こうと言うわけね…)
トウカは立ち止まり、バングルの穴から予備のシールを取り出した。
細長いシールを慣れた手つきでバングルと自身のこめかみを繋ぐ。腕から肩、首、頬と来てこめかみに貼り付ける。シールは付けるなり肌に馴染み透明になった。
分身の二人はナイフを持って突撃する。
(空間魔法、炎魔法、チェンジ)
魔道具を自身の思念で操作する。シールの貼られた箇所が白く光る。すると体を覆う水に炎が追加される。
「仇は取るわよ」
トウカは炎の弓と水の矢を形成する。弓は何の変哲もない炎の弓であったが、矢は少し違った。水の矢の矢尻の中央に圧縮された炎の球が埋め込まれている。
「ハァーーッ!」
腕が引きちぎれる勢いで弦を弾く。矢を放つ瞬間に大量に同じ矢を形成する。
放たれた矢は散弾のように前方のモンスターを襲う。矢の一つ一つがモンスターを何体も貫通する。さらに、10秒ほどの時間を置いてから爆発した。
「もう一回…」
トウカは万軍を睨みつける。壊れかけた腕を修復し、弓を構える。
「クッ…!」
形成した弓が霧散を始めたのである。焦っていたトウカは分身が戻ってくることを待たずに手元のナイフを分解する。
取り出したコアを口に入れようとした時、状態に合わない呑気な声が聞こえてきた。
「おい、人間を辞めたくないんじゃ無かったのか?」
リオンがミーニャを連れて転移して来ていた。トウカの頭上からとなり降りた。
「えっと…何してるにゃ?」
ミーニャはトウカの様子に違和感を感じ質問する。
「決まってるじゃない。敵討ちよ」
トウカは血相を変えて弓を形成し直す。ちょうどその時万軍の元に行っていた分身からコアが大量に投げ飛ばされて来た。
「待て!」
リオンがコアを口に運ぼうとするトウカの手を掴む。
「離しなさい!…ッ!」
トウカは手を振り払うおうとした。しかし、思いのほか強く掴まれていたため、振り払うことが出来なかった。
「んー、あ”ーちょっと待て」
リオンは懐から自身のカードを取り出した。
「どうした?リオン。今回の貸しじゃ「お仕置き」は無くせないぞ。交渉するならお前の生徒と交渉しろ」
リオンのカードから声が聞こえてきた。
「って、貴方生きていたの!?」
トウカは驚きのあまり声を発した。目から涙が溢れリオンを殴った。
「イッタ!何すんだこの痴女!」
いきなり殴られたリオンは怒りを露わにして怒鳴った。
「生きてるならもっと早く伝えなさいよ。人間辞めちゃったじゃない!」
「寿命増えてよかったじゃねぇか」
リオンは意趣返しに嫌味を言う。
「あのねぇ、他にも色々あるでしょう!」
「まぁ待て、ちょっと進行したところで、そんなに変わんないだろ」
「じゃあ、貴方も食べなさいよ!「あ~ん」してあげるわ、感謝しなさい愚弟。あ~ん」
トウカがコアを鷲掴みにしてリオンを押し倒す。
「やめろ!俺はまだ人間だ!」
リオンは力一杯抵抗して暴れる。
「私は違うって言うの!?」
「無意味な言い争いは止めるにゃ、私たちはもう手遅れにゃ」
ミーニャが二人を見かけて仲裁に入る。
「それは言わないで…」
「それは言うな…」
トウカとリオンは肩を落として落ち込んだ。
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