モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
60 / 94
第一の神獣。死の軍勢の片鱗

50話 ランク外の定義.3 

しおりを挟む
 ガリっ!

 トウカは取り出したコアを口に運んだ。ガリガリと噛み砕き、まるで食べ物を食べるようにして飲み込んだ。

ごっくん…

 トウカは確かめるようにお腹をさする。彼女は苦しむ様子もなくただじっとしている。
 しばらくすると体に変化が表れてきた。零れる涙が蒸発するまでの時間が長くなり、指先の霧散は止まる。そして、トウカ自身が青白く光り始めた。体を覆う水と合わさり、戦場に不釣り合いなほどに光り輝いた。
 
 その時、万軍の動きが止まった。周辺生物への無差別な攻撃を辞めてトウカに対して集中する。上質な餌の香りを嗅ぎつけたのだ。

 彼らが感じたのは『進化』の兆候である。どんなに強い生物モンスターであろうとその瞬間だけは無防備になる。体の強度は大幅に落ち、攻撃することも、その場から動くことも出来なくなる。
 どんなに強かろうと進化の最中だけは皆等しく「」である。

 万軍はトウカを喰らうために動く。これは理性的な判断では無く本能的な反射である。
 モンスターはこのようなチャンスがあれば飛びついてしまう。彼らは身の安全さえ確保されていれば何に変えても喰らいに行くのである。これは生まれた時からコアに刻まれているプログラムである。

 万軍は本能のままトウカに襲いかかった。その様子に理性を感じられない。元より、「群れの一欠片」。人に例えるなら指先程度の体積比率である。万軍は群れ全体で一つの脳と喩えられる「軍隊系モンスター」の一種である。そのため、今の状態で普段通りの思考力を発揮することは不可能であった。
 だから、気づかなかった。それが誘き寄せるための撒き餌であることを。

 万軍の送った尖兵がコアを残して霧散した。

「喰らい尽くしてあげる」

 トウカが二体の分身を生成して迎え撃つ。ナイフを取り出し分身に配る。
 分身はナイフを受け取ると走った。モンスターの体を切り刻むと慣れた手つきでコアを取り出した。

「一つ!」

「二つ!」

 分身はコアを本体のトウカに投げる。

ガリっ!

 トウカは受け取るなり、それを口に頬張り噛み砕く。

ごっくん。

 トウカがコアを飲み込む。すると先程と同じように体が光り、万軍が反応した。

 ただ、先程と違うのはトウカ達が自ら万軍の方へ走っていることである。

 万軍は進化の最中に攻撃と移動を行う異質な存在を不気味に思いたじろいた。トウカ達が近づくと、万軍は避けるようにしてその箇所だけを凹ませる。

(囲んで叩こうと言うわけね…)

 トウカは立ち止まり、バングルの穴から予備のシールを取り出した。
 細長いシールを慣れた手つきでバングルと自身のこめかみを繋ぐ。腕から肩、首、頬と来てこめかみに貼り付ける。シールは付けるなり肌に馴染み透明になった。

 分身の二人はナイフを持って突撃する。

(空間魔法、炎魔法、チェンジ)

 魔道具を自身の思念で操作する。シールの貼られた箇所が白く光る。すると体を覆う水に炎が追加される。

「仇は取るわよ」

 トウカは炎の弓と水の矢を形成する。弓は何の変哲もない炎の弓であったが、矢は少し違った。水の矢の矢尻の中央に圧縮された炎の球が埋め込まれている。

「ハァーーッ!」

 腕が引きちぎれる勢いで弦を弾く。矢を放つ瞬間に大量に同じ矢を形成する。
 放たれた矢は散弾のように前方のモンスターを襲う。矢の一つ一つがモンスターを何体も貫通する。さらに、10秒ほどの時間を置いてから爆発した。

「もう一回…」

 トウカは万軍を睨みつける。壊れかけた腕を修復し、弓を構える。

「クッ…!」

 形成した弓が霧散を始めたのである。焦っていたトウカは分身が戻ってくることを待たずに手元のナイフを分解する。
 取り出したコアを口に入れようとした時、状態に合わない呑気な声が聞こえてきた。

「おい、人間を辞めたくないんじゃ無かったのか?」

 リオンがミーニャを連れて転移して来ていた。トウカの頭上からとなり降りた。

「えっと…何してるにゃ?」

 ミーニャはトウカの様子に違和感を感じ質問する。

「決まってるじゃない。敵討ちよ」

 トウカは血相を変えて弓を形成し直す。ちょうどその時万軍の元に行っていた分身からコアが大量に投げ飛ばされて来た。
 
「待て!」

 リオンがコアを口に運ぼうとするトウカの手を掴む。

「離しなさい!…ッ!」

 トウカは手を振り払うおうとした。しかし、思いのほか強く掴まれていたため、振り払うことが出来なかった。

「んー、あ”ーちょっと待て」

 リオンは懐から自身のカードを取り出した。

「どうした?リオン。今回の貸しじゃ「お仕置き」は無くせないぞ。交渉するならお前の生徒と交渉しろ」

 リオンのカードから声が聞こえてきた。

「って、貴方生きていたの!?」

 トウカは驚きのあまり声を発した。目から涙が溢れリオンを殴った。

「イッタ!何すんだこの痴女!」

 いきなり殴られたリオンは怒りを露わにして怒鳴った。

「生きてるならもっと早く伝えなさいよ。人間辞めちゃったじゃない!」

「寿命増えてよかったじゃねぇか」

 リオンは意趣返しに嫌味を言う。

「あのねぇ、他にも色々あるでしょう!」

「まぁ待て、ちょっと進行したところで、そんなに変わんないだろ」

「じゃあ、貴方も食べなさいよ!「あ~ん」してあげるわ、感謝しなさい愚弟。あ~ん」

 トウカがコアを鷲掴みにしてリオンを押し倒す。

「やめろ!俺はまだ人間だ!」

 リオンは力一杯抵抗して暴れる。

「私は違うって言うの!?」

「無意味な言い争いは止めるにゃ、私たちはもう手遅れにゃ」

 ミーニャが二人を見かけて仲裁に入る。

「それは言わないで…」

「それは言うな…」

 トウカとリオンは肩を落として落ち込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...