モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
59 / 94
第一の神獣。死の軍勢の片鱗

49話 ランク外の定義.2

しおりを挟む
 トウカは焦った。ラウドの負傷は完全な予想外であったのだ。彼女の頭にラウドの死がぎる。

(マズイ、マズイ、マズイ!)

 彼女はモンスターの「突撃、魔法、自爆」それらを全て無視してラウドの元に駆けつける。
 彼はトウカと違い頑丈な体をしていない。彼がいくら強くても致命傷を受けていたら死んでしまう。
 それに比べ、トウカの身体は傷ついたそばから修復されていき、どんなに攻撃を受けても何もなかったかの様に元に戻る。それは、「人では無い何か」としか表現できない異様さであった。 

「大丈夫!?」

 力無く落下するラウドを抱える。彼女は攻撃を受け続けた。そのため、辿り着いた時には衣類が魔道具のバングルを残して跡形もなく消し飛んでいた。しかし、身体は戦闘などなかったかの様に無傷である。
 
「うっ…」

 項垂れて声にならない唸りをあげる。彼は1度目の爆発を受けてからも自爆攻撃を受け続けていた。その為、自身の身を守ることで手一杯であり、足場を作る余裕も逃げる余裕も無かった。

「ねぇ、大丈夫!?」

 トウカは心配になり再度声をかける。
 バングルに開いた穴から消毒用魔道具と包帯を取り出す。
 そのバングルは、黒と燻銀いぶしぎんで構成されている。内側には指が三本入るほどの穴、外側にはナイフの浮き彫りが装飾されていた。

「悪い…おごった。お前は…無事か、流石だな」

 ラウドは自らの過信と油断を恥じる。満身創痍であり、ぐったりとしている。
 ただ、ほぼ裸のトウカに心を乱されて、ぎこちなく目を逸らす。

(いい加減慣れろ、俺!)

 ラウドは自分に言い聞かせて平静を保つ。トウカの戦い方のせいで珍しくは無いが、いつになっても見慣れることが出来ない。

「しゃべらないで、傷に響くわ。戻って治してもらいなさい」

 トウカが段階的に衝撃を殺しながら班員の元にラウドを運ぶ。
 
「うっ…!」

 トウカは背中に集中的に攻撃を受けてしまった

「投げろ。着地くらいはできる。お前も無限に再生できるわけじゃ無いだろ」

 ラウドは弱々しい声で言う。満身創痍になっていた。

「…分かったわ」

 トウカは少し躊躇ったが、状況を鑑みてラウドを班員の元に投げた。『水魔法』と『炎魔法』を服の代わりにして全身を覆った。

(覚悟なさい!)

 バングルに開いた穴に手を入れて魔道具のナイフを二本取り出す。

「(あなた達、撤退な…)…あー、もう!」

 トウカが『念話魔法』で班員に呼びかけようとしたが発動しなかった。
 だが、すぐに状況を理解する。すぐに首をなぞり確認する。案の定、魔道具の破損であった。
 彼女は直ぐにバングルのナイフの装飾を触る。手動操作にて『念話魔法』のコアを『炎魔法』のものと交換してセットする。

「(撤退なs…)…ッ!」

 今度こそ、魔法を発動させたトウカだが後一歩間に合わなかった。
 彼女の真横を既視感のあるモンスターの塊が通り抜けた。
 
「おい!おい…なん、で…」

 トウカは言葉なかばで黙ってしまった。
 横を通り過ぎたモンスターは多数いるモンスターの一体に過ぎなかった。気づいた頃には既には絨毯爆撃が行われていた。
 それはトウカに絶望感を与えるには十分であった。

「えっ、え…?…ッ!?」

 トウカは受け入れられず放心してしまった。土手どてぱらに風穴を開けられてようやく正気を取り戻した。

(…救護!)

 トウカは分身を二体を生成した。二人に魔道具のナイフを投げ渡して殿しんがりに残しラウドの元に飛んだ。

(ラウドがあの程度の攻撃で死ぬはずがないじゃない。彼は私よりも強いのよ)

 トウカは自分に言い聞かせる。ラウドが瀕死であることは無意識に考えない様にしていた。

「そ、そんな…」

 辿り着いた先で膝をつく。
 辺りには何もなく、見渡す限り荒れた土のみがリュート広がっていた。地面には円形に盛り上がっている箇所があり、そこで耐えていたことは想像に難く無い。
 しかし、そこにラウドの姿は無く、人がいた痕跡すらない。

「うっ、うっ…」

 ぽつりぽつりと涙を流す。流された涙は地面につくなりすぐに蒸発する。

(私のせいで…私の…)

 ここまであからさまに使われたら誰でも気づく、気づいてしまう。
 ラウド達を襲った「」それは分身のものと酷似している。さらに、その攻撃は初めから使われていたわけでは無い。
 トウカは極めて殺傷能力の高い武器を与えてしまったのである。

 しばらくすると、涙だけでなく、指先も同じように霧散し始めた。

(もう持たない!自爆するわ)

 分身から念話の連絡が入る。

「……」

 トウカは静かに立ち上がり涙を拭う。
 その後、何を思ったのかナイフの魔道具を取り出し、コアを抜き取った。

…ガリッ!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

処理中です...