モンスターコア

ざっくん

文字の大きさ
上 下
28 / 94
受験戦争

21話 森のアサシン.1 2/24 手直ししました。

しおりを挟む
 リュートはカイザから逃げた後、森林地帯に来ていた。

「ふぅ、(逃げ切れたかな?)」

 後ろを振り返る。見えるのは木ばかりで、後をつけられている様子もない。
 反省も兼ねて先程の戦いを思い返すことにした。

(まずはカイザ…)

 『水魔法』で形成した長物、主に槍を用いて戦う。戦法は圧倒的な技術を軸にしたゴリ押しだと予想していた。しかし、本質は全く別のものであった。硬質系の『糸魔法』と『消音魔法』を駆使しする狡猾な立ち回りをしていた。
 さらに、比較的硬い『岩魔法』の筒やドームが難なく切断されたり、逆に『岩魔法』のナイフで糸が切れなかったりしていた。それは、『硬質化魔法』により性質をそのままに硬度が上がっていたためだと予想ができる。
 隙をついた際に発動されたの『重力魔法』。これで、カイザの持つ魔法について粗方の見当がついた。

 『水魔法』『糸魔法』『重力魔法』『硬質化魔法』『消音魔法』である。

(情報って大切だよね…本当に…もう本当に…)

 リュートは情報の大切さをしみじみと感じる。それと同時に、昨日の試合でカイザから何も引き出せずに散った対戦相手に対する怨みがそ膨れ上がる。

(でも…運が良かった)

 リュートは長い間相対していながらカイザの初見殺しじみた糸による攻撃に晒されることは無かった。

「ありがとう」

 振り返り山岳地帯に手を合わせる。身を挺し攻撃を受けてくれた少女とナックに感謝して黙祷を捧げる。

 特に良いところなくリタイアしたナックであるが、実はかなりの実力者である。
 主に『爆破魔法』を使用した正面戦闘を得意としている。
 『爆破魔法』とは、爆発を発生させる運動魔法の一種である。射程が短く扱いづらいため『座標魔法』や『付与魔法』などと掛け合わせる運用が一般的である。
 しかし、彼はカイトと匹敵する戦闘センスと反射神経に、爆発する手を加えて殴りかかって来る。    
 それを可能にするのは基本技術の魔糸をさらに進化させた発展技術の魔布である。
※魔糸・・・主に弓の弦に使われている技術。耐久力に優れ、伸縮も自由自在である。しかし、デメリットとして、自分以外の魔法や物理的接触に弱く簡単に壊れてしまう
 魔布まふとは、魔糸を布状に広げたものである。
 ナックはそれを駆使して自分の手と体をを守っている。それを良いことに彼は『風魔法』『圧縮魔法』『衝撃魔法』で爆発を極限まで強化した『爆破魔法』での、ノーリスク自爆特攻とか言う理不尽を押し付けて来る。出会ってしまったら逃げるに限る「避けるべき相手」である。

(…何あの理不尽!)

 唐突に複眼の少女を思い出した。
 実技試験の得点が高くないためマークから外れていた。それなのに強い理不尽なほどに。

(逆に昨日の試験が気になる…)

 あの強さで点数が低くなるのは想像がつかない。
 魔法については分かりやすかった。冷静になって考えれば理解するのはそう難しくない。
 彼女の種族がピクシーであることを前提としてかんがえる。
 空を飛んでたのは『飛翔魔法』である。それは羽に特化した『衝撃魔法』で虫や鳥系のモンスターが持っている。
 風の大剣も『念力魔法』が『身体魔法』で補助することで扱っていると予想できる。
 あの正体不明で女性をリタイアさせた攻撃は複眼と『魔眼魔法』の合わせ技である。攻撃系の魔法と組み合わせている。
 
(見えないのはずるい。複眼のせいなんだろうけど…)

※魔法は発動時に一定以上のマナで発動すると、魔法が持つ特色に合わせて魔法自体が可視化される。
 少女の場合は複眼一つ一つで発動させた弱い魔法を『屈折魔法』の様な運動魔法で一点集中させる。そうすることでとても見えにくい攻撃を可能としていた。着弾地点はしっかりと色を見ることができるはずである。
 しかし、カイトが言ってたようにマナの消費が多く連発は出来ないと言うデメリットも抱えていた。

(目の一つ一つで魔法を発動させてるんだ…改めて考えるとすごい技術)

※『魔眼魔法』・・・『声魔法』と似たような性能で視線に魔法をのせることができる。

(これで大体分かったかかな…ん?)

 リュートが少女に対する考察を終わらせようとした時、重大なことに気づいた。

 『風魔法』『魔眼魔法』『飛翔魔法』それと、大剣を振り回すための魔法、視線を集めるための魔法、魔眼魔法と掛け合わせる魔法。

(6個?…後で考えよう)

 考えることをやめた。

(糸…)

 まだ対戦の可能性があるカイザについてのこうさすにシフトした。
 戦った経験から糸で自陣を固めてから迎え撃つ戦闘スタイルだと言うことが想像できる。
 余計な戦いをするタイプにも見えない。
 よって、見つけたら避ける。バッタリ会ったら戦う。

(これで良いだろう。無理に逃げると隙になる)

 などとリュートが悶々と考える。

(ん?)

 隣のサバンナ地帯からサリアのものと思われる『声魔法』のブレスが空に向かって立ち登っていた。

「サリアは不利なルールなのにすごいな~」

 考えすぎて疲れたため独り言を言って気を紛らす。

「…ッ!」

 リュートは後ろに振り向く。モード2の発信機で先程まで手前にあった赤点が背後に移動していた。
しかし、目の届く場所には誰もいない。再び発信機に目を移すと右側に赤点が付いている。

(速い、速すぎる)

 状況を呑み込めずに混乱する。森の中とはいえ人に気づかれず移動するのは簡単なことではない。
 休む間もなく赤点が四方八方へ移動し始めた。

(囲まれて…)

 よく目を凝らすと木の影にこちらを伺う人影を見つけた。
 その人影は見つかった事に気づいたのか何かを投げて来た。
 身を守るために盾を形成して構える。攻撃を弾こうとした時、周囲を囲むように八つの『光魔法』のナイフが飛んできた。
 咄嗟に地面に倒れナイフを躱す。仰向けに倒れたためすぐさま『岩魔法』で自分を囲うようにドーム状の壁を作った。

ガキン!

 ナイフがドームに当たった音がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

火駆闘戯 第一部

高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。 それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。 人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。 焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。 タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。

処理中です...