【完結】横暴領主に捕まった、とある狩人の話

ゆらり

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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

41 いつまでも、いつまでも

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 ――辺境伯が伴侶を得た。

 その報せは公のものではなかったが、さざ波のように高位貴族の間に広がった。

 宝石の如き美貌と、辺境を統べるにふさわしい武勇に富んだ伯爵の頑なな心を射止めたのだから、さぞや淑やかで美しい姫君なのだろうと想像をたくましくする貴族もいたが……、実のところはそうではなかった。

 日焼けした肌に、蜂蜜色の瞳と銀の髪という平民の多く持つ色味をした……、しかも辺境伯よりも年上の男であり長躯の狩人だった。報せを知った貴族は一様に何の冗談かと耳を疑ったが、辺境伯がそのような噂を許すとも思えず、概ね真実であるのだろうというところに落ち着いた。

 かくして、辺境の民は銀髪を紫紺の飾り紐で結わえた狩人の姿を、美しい領主の傍らに見ることとなった。どちらかといえば、ぼんやりとしていて鈍臭い気質をしたシタンが、まさか領主の伴侶に収まるなどとは、彼を見知っている者にとって思いも寄らないことではあった。

 しかし、最も身近な身内であるシタンの両親は、二人が結ばれたことに関してそれほど驚きはしなかった。

「……父さんと母さん、あんまり驚かなかったけど、なんでだろ」
「私がお前のことを好いていたのを、あの頃から気付いていたのやもしれんな」
「ええっ! お、俺が気付かなかったのに!」
「ふ……。お前は、本当に鈍臭いからな。そこが可愛いが、たまに歯がゆくもあるぞ」

 シタンが王都から辺境地へ戻り、本当の意味で結ばれたその日から、ラズラウディアの顔には花が綻ぶような笑みが富に浮かぶようになった。

 表情に乏しく冷たい印象すら受ける美貌であったはずの彼のその笑みは、見る者を魅了し惹き付けて止まないものだったが……、それを向けられるのは伴侶であるシタンのみであった。




 ――辺境伯ラズラウディア・ファルフォレストは生涯に渡り、狩人であり後年に王国随一の弓の名手として謳われるシタンただ一人を愛した。

 やがて老境に差し掛かる年齢となった頃。遠縁の貴族家から引き取り養育していた男子を後継者とし、辺境伯の座を退いたラズラウディアは、伴侶であるシタンの所有する小屋へと居を移した。

 そして、いつまでも、いつまでも、二人は辺境の森で慎ましくも幸せに暮らしたという。












※ラズラウディア視点の番外編、これにて終幕とします。お読みいただきありがとうございました。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

たろじろさぶ
ネタバレ含む
2023.12.12 ゆらり

一気読みするほど楽しんで頂けて嬉しいです。ありがとうございます!

自作の中で一番のおっとり系キャラです。鈍臭いので人一倍いじめられやすいですが、好かれるのも人一倍。のっけからアレなシーンから始まるお話ですが、ほどほどのバランスになりました。

ハッピーエンドが大好きです。これからも幸せな小説を書きたいと思います。

感想有難うございました!

解除
亀蔵
2023.01.29 亀蔵

完結おめでとうございます!最後まで最高に面白かったです!ラズとシタンのやり取りがかわいくて、とっても癒やされました!お疲れ様でした!

2023.01.31 ゆらり

再びの感想ありがとうございます。少しイチャイチャしすぎかなと思いましたが、気に入って頂けたようで安心しました。最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

解除
亀蔵
2022.12.08 亀蔵

面白すぎて一気読みしてしまいました!
ラズもハルもシタンもキャラ全員が素敵で最高です!!!
更新楽しみにしています!

2022.12.09 ゆらり

感想ありがとうございます。
素敵で最高! 嬉しいです。不定期ですが、まったりお付き合い頂ければ幸いです。

解除

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