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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

9  伯爵の決断

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 ――別れの日は、唐突に訪れる。


 ラズラウディアは早朝に父の執務室へと呼び出された。父との時間に、良い思い出などひとつもない。暗鬱な気分で扉を軽く叩き「ラズラウディアです」と、声を掛ける。

「――入れ」

 低く厳めしい声に応じて扉をゆっくりと開き中へと入ると、明り取りのために広く大きく設けられた窓から、どんよりとした曇り空が見えた。その空を背に机に向かい、無表情で書類に目を通している父の姿が目に入る。

 すでに老境へ差し掛かる齢ではあるが、それを感じさせない引き締まった体つきをしていて、日焼けした端正な面に美髯を蓄えた偉丈夫だ。

「父上、如何なさいましたか」
「お前の今後について話をする」

 乾いた声音で伺いを立てるラズラウディアに目を向けずに数枚の書類に押印を施してから、立ち上がってすぐそばまで歩み寄って来た。

「今後とは……」
「そのままの意味だ。お前が領主として将来、この地を治めるに相応しい者となる為に、成さねばならぬことを申し渡す」

 嫌な予感がした。それこそ、今のこの日常が一変するようなことを告げられる予感だ。

「――狩人の倅と親しいそうだな。今日を限りに、会うことを禁ずる」

 呼吸さえ忘れて、愕然とした。

「知らぬとでも思ったか。お前の行動は、民の暮らしを知るという意味では有意義ではある。一概に間違いとは言わぬ。だが、近頃のお前は心がその場に在らず、何事にも身が入っていないではないか。それでは無意味なのだ」
「そ、そんな、そんなことはありません!」
「口ではどうとでも言えような」

 冷淡な眼差しに晒され、心臓が嫌な音を立て始める。言わなければならない。父を納得させるだけの言葉を。そうでなければ、シタンに会えなくなるのだ。

「――ち、父上っ……、僕は……」

 失う恐怖に唇が震えて、舌がもつれる。少しでも気を抜けば、膝から崩れ落ちて床に伏してしまいそうだ。父の意に沿うように身を入れて何事にも励むとでも言えばよいのだろうか。

 いや、そんな上辺だけの言葉では納得などしないだろう。どうすればと考えれば考えるほど、言うべき文句など浮かばなくなっていく。

「……ラズラウディアよ。今のお前は、この辺境を治める私の継子として相応しくはない。成長を促す為に近日中に王都へ送り出す。それが私の決断だ」
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