【完結】横暴領主に捕まった、とある狩人の話

ゆらり

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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

1  サフィアリア

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 ※ラズラウディア視点の過去から始まるお話です。重め。本編とは別物です。
************************************


――辺境を治める伯爵には、サフィアリアという娘がいた。

 伯爵が爵位を継いだ頃に婚礼を挙げた、美しい妻との間に儲けた待望の第一子。

  母譲りの眩い白肌と、父に似た艶やかな黒髪。深い夜闇が訪れる間際の淡く儚い星空を封じ込めたような紫紺の瞳。まるで宝石のごとく美しい女児だった。

 「将来は、きっと素敵な殿方と結ばれるのでしょうね」と、慈母の眼差しを注ぎながら妻が言えば、「サフィアリアを娶るのならば、私よりも武に優れた男でなければならん」と、伯爵は娘の愛らしさにだらしなく下げていた目尻を吊り上げて拳を固く握りしめた。

 ひたすら愛くるしく美しい娘を、伯爵夫妻は溺愛した。
 
 ――しかし、その幸福に溢れた日々は、サフィアリアが三歳の誕生日を迎える前に終わりを迎える。

 彼女が熱病に罹ったのだ。
 
 幼い子供が発症するごくありふれた病だ。熱を出して全身に赤いできものが現れるが、三日もすれば痕も残らず治まるそれが、生まれつき体の弱かったサフィアリアの命の灯を、容易く吹き消してしまった。
 
 苦しみのうちに世を去ってしまった愛娘の最期は、無残で痛ましいものとして伯爵夫妻の目に焼き付いた。

「わたくしがもっと、あの子を丈夫に産んでいれば、このようなことにはならなかったのです」
「そんなことはない。これは運命だ。誰が悪いという訳ではない」

 悲嘆に暮れて床に伏せがちになった妻を、伯爵は幾度となく抱き締めて、慰めの言葉を掛け続けた。

 ――数年後。

 妻は赤子を身籠る。自分達の元に再び愛娘が生まれてくるのだと信じて疑わず、夫妻は出産の日を心待ちにした。やがて十月十日が過ぎて生まれた赤子は、白い肌も艶やかな黒髪も紫紺の瞳も、姉であるサフィアリアと酷似した美しい――男児だった。

 たったひとつだけ、その事実だけが、彼らの願いとは異なっていたのだ。

 継子である男児が生まれたことは、喜ばしいことであるはずなのだが――『サフィアリアの生まれ変わり』ではなかったことが――夫妻の心に歪な影を落とす形となった。
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