【完結】横暴領主に捕まった、とある狩人の話

ゆらり

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62 心の底からの感謝

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「だ、だって、あの時のラズって凄く怖かったし。お、怒ってるみたいだったから」

 恥ずかしい気分になりながら、もごもごと言い訳をしていると「君達、前から知り合いだったんだね。なんとなくそんな気がしていたけど……」と、背後でハイレリウスの声がした。 

 ラズラウドを抱きしめたまま後ろを見ると、驚きと呆れが入り混じったような表情で、こちらを見ているハイレリウスと目が合った。

「……あ、ああ、うん……。えっと、子供の時に会えなくなってた、友達のラズだよ」
「君、本気で気付かなかったのかな」
「えっ。いや昔のラズって、すごく可愛くて小さかったから……」
「はは。ありがちな話だね。それでも、もっと早く気付いても良さそうなものだけど……。まあ何にせよ、そんな風に仲良く抱き合って話せるならもう安心かな。なんだか妬けてしまうよ」
「あ、いや、これは、嬉しくてつい……、ちょっとラズ、は、放してくれよ」

 さすがに人前で抱き合ったままでは気まずくなって身を離そうとするが、ラズラウドは離れようとしない。それどころか首筋に顔を埋めてさらにしっかりとくっついてくる。

「あはは! 驚いたな。あの辺境伯がすっかり甘えたがりだね。後は二人でよく話し合ってきちんと仲直りするんだよ」

 子供同士の喧嘩でも仲裁していたかのような言い方をして大らかに笑いながら、ハイレリウスはひらひらと手を振った。そのまま部屋を出て行ってしまいそうな勢いだ。

「えっ、帰っちゃうの? ま、待ってくださいよ。ちょ、ラズっ、ほんとに放してくれよ!」

 慌てながら肩を押しやると、不満そうな顔をしながらもラズラウドは離れてくれた。大急ぎでハイレリウスの方へと向かう。

「ハル様、また今度、辺境に来るようなら蜜酒でもご馳走するよ。あんまり高いのは無理だけど」
「君と飲めるのならば、どんな酒でも良い。奉納祭には必ず来るから、その時にでも一緒に飲もう。あと、森の散策なんかにも付き合ってもらえたら、嬉しいれけど……どうかな?」

 ハイレリウスが微笑みながら言った、ささやか過ぎる願いに「うん! 俺で良ければ」と、笑顔で返事をした途端、ラズラウドに背後から抱き竦められてしまう。

「うわ。な、なにすんだよ。急に」
「散策は許すが、酒を飲むのは私とだけにしておけ」
「えっ、なんで」
「なにかあってからでは遅い」
「なにかってなんだよ。酒飲むくらい別にいいだろ……」
「駄目だ」
「ぷっ、あははは!」

 シタンとラズラウドのやり取りをにこにこ……いや、にやにやと言った方がしっくりくる顔で見ていたハイレリウスが、腹を抱えて大笑いし出した。

「はぁっ、まったく君達ときたら面白過ぎるよ。君の狩人殿は、私にとっては大切な友だ。襲ったりはしないから安心してくれ」
「えっ、ハル様が俺を襲うと思ったのか? そんな訳ないだろ。なに考えてるんだよぉ……」

 顔を赤くしながら文句を言うと、ラズラウドは「ふん。お前に馴れ馴れしく触れるような男は油断ならん。用心に越したことはない」と、シタンからしてみればとんでもないことを言い出す始末だ。

「なっ、なんてこと言ってるんだよぉ!」

 ……失礼にもほどがある。

 ハイレリウスはまた笑っている、笑い過ぎて涙目になっていた。……不愉快には感じていないだろうが、そうかと言って流せるほどシタンは図太くはない。

「ハル様、ラズの言うことなんて、気にしなくていいよ。俺、ハル様に友だって言ってもらえて嬉しいよ。また会えるの、楽しみにしてるから」
「ああ、気にしないよ。シタン、私も会えるのを楽しみにしている。……さて、それでは行くよ」
「うん、気を付けて。ハル様、ほんとにありがと!」

 ハイレリウスがいなければ、ラズラウドとまともに話せなかっただろう。綺麗で眩しい笑顔を見せて部屋から去っていく彼に、シタンは心の底から感謝をした。
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