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25 濡れた唇

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「――そう残念がるな。残りは瓶ごとくれてやる」

 見下ろす領主の唇は、酒で少し濡れていた。赤い唇はそれだけで艶やかさを増していて、口付けの甘い痺れを思い出させる。この後、抱かれることを嫌でも意識してしまって、シタンは領主の白い手の中にある空になった杯に視線をずらした。

「べ、別に、いいよ。こんなに美味くないけど、家にもあるし……」
「わざわざ不味い安酒を飲むのか。物好きな男だ」

 かつんと杯を目の前に置きながら、領主が嘲笑うかのような言葉を浴びせてくる。

「まっ、不味くないっ! それなりに高いやつだよっ!」

 嫌味なやつだ。意地になって「あんたからなんて、いらないっ!」と、やさぐれながら睨み上げると、領主はシタンの顎を指先で捕らえて口付けをしてきた。深く舌を挿し込まれるだけで体が甘く痺れる。

「んぅ……っ!」

 そのまま強く腕を引かれて腰が浮いた拍子に、椅子が派手な音を立てて倒れた。両腕でしっかりと抱き締められて、熱い舌に残る甘い蜜酒の味と香りがお互いの唾液と混じり合っていく。

「ん……はぁっ……」
「ふ……。昨夜よりも甘い……」

 ちゅと、音を立てて口付けを止めて、ぬらりとシタンの唇を舐めて領主が呟く。昨日に城へと連れてこられる前に、家で蜜酒を飲んでいたのを思い出した。

「……昨日、貴様に口付けた時、微かに蜂蜜の味がした。だから蜜酒を出したのだ」
 
 赤みが濃くなった唇が弧を描き、潤んだ瞳が細められる。領主からあふれ出す凄まじい色気と蜜酒の甘さが強烈な熱となってシタンを襲う。ぐらぐらと頭が煮えたぎって目眩がした。抱き締められていなかったら不格好に倒れていたことだろう。

「……うぅ、はあっ……、はぁ……っ、あ……っ」

 際限なく体が火照っていく息苦しさに大きく吐き出した息も、甘く熱い。抱きしめられているだけで官能が高まってしまい、事が始まる前からシタンは領主の手管に溺れかけた。ほんの少ししか酒を飲んでいないのに、酷く酔っぱらってもいる。

 これは駄目なやつだ。もう逃げられない。

「もっとも、貴様との口付けは蜜酒など飲んでいなくとも、私には甘く感じるが」

 とんでもない口説きを受けている気がしたが、煮えたぎり過ぎた頭では真面に領主の言うことを噛み砕けなくなっていた。この男は一体、なにを考えているのか。困惑と興奮が入り混じってしまい、冷静な考えなど働かない。

「んっ、はぁ……、んふっ……」

 今度は軽く、唇を重ねられた。
 
 熱い。
 
 柔らかい唇も腕も。目の前の男そのものが甘くて、熱い。こんな甘くて強烈な熱に当てられては、ひとたまりもない。

「ん、んんっ……」

 じゃれ付くように数度唇を重ねられた後、深く挿し込まれた舌を拒むどころか、自分からも大きく口を開けて受け入れてしまった。
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