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23 やっぱりそれか
しおりを挟む――戻って来た老人の手によって、食卓に煮込み肉や汁物等の温かい料理が並べられた。
豪華な食事に腹が鳴った。正直すぎる自分の胃袋に、思わず苦笑いをしてしまう。老人が孫でも見るような微笑まし気な笑みとともに、「どうぞお食べください」食事を勧めてくれた。
「うん。ありがと」
さっそく席に座って恵みの神への祈りを念入りにしてから、料理に手を伸ばす。良く煮込まれていてほろりと柔らかい肉と白い麺麭を頬張り、根菜と茸がたっぷり入っていて旨味のある汁物を飲んで、また麺麭を頬張る。どれも良い塩梅の味付けで美味い。食後に出された良い香りのする茶や卵をたっぷり使った菓子も、すべて美味かった。
「はぁ……。美味かった」
「お口に合いまして大変ようございます。後ほど領主様がおいでになられるまで、今暫くおくつろぎください」
「へっ? ……あ、来るの?」
思わず間抜けな声が出た。もやもやした気分や領主のことなど、料理に夢中になっていたらすっかり忘れていた。単純なもので、腹一杯になったら眠くなってきたし後は横になるだけだとさえ思っていたのだ。
「はい。シタン様と共寝なさるそうです」
「とっ、とも、共寝ぇっ!?」
やっぱりそれか。
ぼっと顔が熱くなってしまう。また、あんな気持ちの良いことをするということか。もう怖くはないが、面と向かってそれをするのだと老人に言われたのがとてつもなく恥ずかしい。
途端にそわつきだしたシタンを目にしても、老人は優しい態度を崩さずに「さ、お支度いたしましょう」と、隣室で入浴や髭剃りなどをうながされた。新しい夜着に着替えさせられ、そのほか粗方の世話をやり尽くした老人が部屋を出て行って一人になると、いろいろと余計なことを考え始めてしまう。
最初こそ言いがかりから始まって強姦されるという酷い流れで体の関係を持ったが、昨夜の抱き方は優しくて気持ちが良くて……、領主がただ怖いだけの男ではないと思えた。
「調子、狂うよな。あんなに怖かったのに、なんでだろう」
あの溶け合うような交わりは、気持ち良いだけではなかった。何度も名を呼ばれて強く求められ続けて、単純な肉欲とは違う悦びがあった。
胸の辺りがぽかぽかと温かくなって、なんだか領主が来るのが待ち遠しく……いや、何故あんな奴が来るのが待ち遠しいのか。こちらとしては、強姦を帳消しにしてやるつもりなんてない。
そうだ。アイツはろくでなしだ。あんな奴、来なくていい。
このまま抱かれ続けて体が慣らされてしまい、女を抱けない体になってしまったらどうするのか。そんなことになったら、嫁を迎えて所帯を持つ未来がなくなってしまう。なんとかして奴の魔の手から逃れなければいけないが。
……逃れる方法が思いつかない。
嫌われでもして放り出されるのが一番だが、成功したとして怒らせるのは身の危険がありそうだ。腕でなく、首でも斬り落とされたらどうするのか。ろくでなしの貴族の約束なんて信じられない。
悶々と悩んでいるうちに、領主が寝室にやって来てしまった。
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