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11 ラズラウド②
しおりを挟むラズが遊びに来る日の始まりは、決まって釣りをするところからだった。
「シタン。教わった僕が釣れるのに、なんでそんなにお前は釣れないんだ」
「知らないよ。俺が知りたいくらいだよ。ラズはなんでそんなに釣れるんだよ……」
「僕だって知らない」
下手の横好きのシタンとは真反対に、ラズラウドは釣りが上手かった。今まで釣りをしたことがないのが嘘ではないのかと思うほどに、最初から沢山の魚を釣り上げた。
「少ないよりは沢山の方が良い。お前に食べて貰える」
そう言いながら、次々とラズが釣り上げる何匹もの魚を焚火で焼いて、仲良く分け合って平らげる。腹が満たされた後は時間が許す限り森で遊んだ。石投げでも木登りでもなんでも、一度見聞きしたことはやりこなしてしまう器用さと賢さがラズにはあったが、どちらかと言えば『鈍臭い』シタンを馬鹿にすることはなかった。
「ラズは凄いね。なんでもできるんだねぇ」
「そんな事はない。お前と一緒でないと、どんな遊びをしてもきっと楽しくない」
「あ、そうだね。一人で遊んでもつまんないもんね」
物分かりが良く大人びている反面、同年代の平民の子供なら大抵知っている遊びや家の手伝いなどに関しては、不自然なほどに無知だった。
「――シタン、枝なんか拾ってどうするんだ」
「ご飯の支度に要るんだよ。母さんに渡すと喜んでくれる」
「そうか。それなら僕も手伝おう」
シタンのすることに何でも目を輝かせながら興味を示して、自分でやりたがった。家の手伝いをする時間の方が、遊ぶ時間よりも多かった日もあったくらいだ。
「助かるわ。いっぱい拾ってくれてありがとうね。重かったでしょうに」
「このくらい平気です。お母さんの役に立てて嬉しいし、シタンと一緒なら楽しいです」
可愛くて賢く礼儀正しいラズを、シタンの母親はとても気に入ってあれこれと教えていた。二人して竈の前に並んで、料理をしている姿を何度か見た。寡黙であまり愛想のない父親でさえも、さしてなにをするでもなかったが表情が柔らかかったのを覚えている。
「上の子達が出て行ってしまって、少し寂しかったのよ。シタンもラズちゃんが来るととても嬉しがるし。ほんと、お友達になってくれてありがとうね。ラズちゃん」
「そんな、お礼なんて……。僕の方が言わなくてはいけないくらいです」
「そう? それならお互いさまよ。これからも仲良くしてちょうだいね」
「はい!」
シタンには二人の兄がいたが、独り立ちして家を出ていた。両親と三人だけの静かな暮らしに加わった少年が、一番身近な存在になるのに時間は掛からなかった。
「お前と友達になれて良かった」
ある時に、ラズが花のような笑顔とともに告げてくれた気持ちを思い出すと、今でも胸の奥が温かくなる。
「うん……。俺もだよ」
ーーあの頃、ラズはシタンにとって幸せそのものだった。
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