4 / 112
4 甘い口付けと責め苦
しおりを挟む――かさついた唇を柔らかい物が塞ぎ、口内に温い水が流れ込んでくる。乾いた喉に心地が良い。蜂蜜の甘みと、香草のさわやかな味が広がった。
「ん……っ」
唇への刺激に、意識が浮上していく。
甘い。美味しい……。もっと欲しい。喉に染み渡っていく甘味に釣られて舌を動かし、唇を塞いでいる柔らかい物を舐めて水を強請る。一旦それは逃げていったが、直ぐにまた唇を塞がれた。
「はぁ……っ、んんっ……、ふっ、……んっ……」
何度が注がれて、ようやくにして喉の乾きが幾らか癒えた。薄っすらと目蓋を開けると、紫紺の瞳がシタンを見つめていた。窓からの光に透けて、蒼みを帯びた深い紫に輝くそれに呆然と見入る。この世の物とは思えないほど綺麗だった。
「ようやく起きたか」
しっとりと濡れた艶やかで朱い唇が、低い男の声を発した。
領主の声だ。
「ひっ!」
細く悲鳴を上げて身じろぎした途端に、全身に激痛が走る。
「ぐ、あっ! い、痛い……っ、あぅ……。も、嫌だぁ……っ」
体内の奥深くまで刻み付けられた苦痛と紙一重だった快楽と、無理矢理に体を拓かれ犯されたことへの強い恐怖の記憶が蘇る。意識がそこへ向くと同時に尻の孔に力が入って、熱く太い物を咥え込まされていた内壁が卑しくうねるのを感じた。
「う、ううっ……」
寝台に身を沈め、半泣きで怯え震えるシタンの頬を領主の手がゆるりと撫でた。この男に気絶するまで犯されて、身も心も屈服させられたのだ。触れる手つきは優しいが、鋭い眼差しに晒されてのそれは逆に恐ろしいばかりだ。
「さ、触るなよぉ……! ん、うっ……!」
顔を背けようとしたが、顎を掴まれ強引に唇を重ねられた。柔らかい唇の感触に、眠っている隙に口移しで水を飲まされたのだと思い至ると、羞恥と苛立ちの入り混じった感情が込み上げて顔が熱くなった。
「なっ、なにするんだよ……っ! 対価は、もう払っただろ。や、やめてくれよぉ……」
痛みを堪えて相手の両肩を押しやり涙声で訴えると、いつの間にか着替えさせられていた白絹の夜着の上から腕を撫でられた。たったそれだけの動作が、激しい行為の後だからか酷く卑猥に見える。
「腕の対価にはまだ、足りない」
「そ、そんなっ……」
「私が満足するまで、払って貰うぞ」
「やめっ……! ん……っ」
今度は深く唇を奪われた。挿し込まれた舌が口内を隈なく愛撫し、音を立てて強く舌を吸われる。
「んぅ、ぐっ……!」
下腹と股間のきわどい部分をまさぐられ、ぬるい熱がじわじわと広がる。口と腹への刺激によって直ぐに息が上がり、尻の奥が切なく疼いて体から力が抜けていく。どうにか引き剥がそうと領主の背中の辺りを掴むが、弱々しい抵抗では男の長躯を引き剥がすことなどできなかった。
このまま、また犯されてしまうのか。快楽の甘さとは裏腹に、焦りが募っていく。
「ふぅ……、んぁ、あっ、……ふ……」
舌を吸われる度に脳髄が痺れる。ぬるい熱と愛撫によって徐々に体は火照り、快楽を貪欲に拾い始める。引き剥がそうと背中に回したはずの腕は、気付けば男に縋り付いているだけに過ぎなくなっていた。
「淫らな体だ。他の者になど、尻尾を振らぬよう躾けてやろう」
「あ、あんたみたいなのが、他に、いて、あぅ、たまるかぁ……っ」
夜着の前をはだけられて、鎖骨や胸元にも点々と唇で触れられた。鈍い痛みを感じるほどきつく肌を吸われながら、下腹部を強かに掴まれて体が跳ねた。
「いっ! やめっ、あっ、はぁっ……!」
夜着で辛うじて目立たないが、一物が僅かに兆して硬さを帯び始めている。絶頂するほどでもないが、かといって堪えられるほどの弱さでもないその刺激に、滑らかな敷布の上で膝を擦り合わせ、身をくねらせながら息も絶え絶えに喘ぐ。
「はぁっ、あっ……。……も、もう勘弁してくれよぉ……っ、はぁ、あぁ……っ」
頭がおかしくなりそうだ。涙を流しながら、情けなく懇願することしかできなかった。
「今日のところは、これまでだ」
腹をまさぐっていた手が、離れていく。
「あっ……」
「暫く眠っていろ」
荒く息をしながら見上げるシタンの両目を、領主が片手で覆う。
追い打ちを掛けられて更に疲弊した体は、眠れと言われずとも休息を必要としていた。呼吸が整うのに従って、中途半端に高められた熱は緩やかに引いて眠気が濃くなっていく。そうして、視界を覆う手の温もりが目蓋に移る頃に、深い眠りへと引き込まれていった。
20
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】金の王と美貌の旅人
ゆらり
BL
――あるところに、黄金色の髪を持つ優れた王が治める国があった。
その国の片隅にある酒場で、異国の旅人が出会ったのは商家の長男坊だという青年だった。互いに酒に強い二人は直ぐに意気投合し、飲み比べをし始めたのだが……。
残酷な描写には※R15、18禁には※R18がつきます。青年側の女性関係についてや主人公以外との婚礼等の話があります。そういった展開が苦手な方はご注意ください。ハッピーエンド保障。
ムーンライトノベルズにて完結した小説「金の王と不変の佳人(タイトル変更)」を加筆修正して連載。完結しました。アルファポリス版は番外編追加予定。※「王弟殿下と赤痣の闘士」と時間軸が繋がっています。よろしければそちらもお楽しみ頂ければ幸いです。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
涯(はて)の楽園
栗木 妙
BL
平民の自分が、この身一つで栄達を望むのであれば、軍に入るのが最も手っ取り早い方法だった。ようやく軍の最高峰である近衛騎士団への入団が叶った矢先に左遷させられてしまった俺の、飛ばされた先は、『軍人の墓場』と名高いカンザリア要塞島。そして、そこを治める総督は、男嫌いと有名な、とんでもない色男で―――。
[架空の世界を舞台にした物語。あくまで恋愛が主軸ですが、シリアス&ダークな要素も有。苦手な方はご注意ください。全体を通して一人称で語られますが、章ごとに視点が変わります。]
※同一世界を舞台にした他関連作品もございます。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/index?tag_id=17966
※当作品は別サイトでも公開しております。
(以後、更新ある場合は↓こちら↓にてさせていただきます)
https://novel18.syosetu.com/n5766bg/
神様ぁ(泣)こんなんやだよ
ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。
『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』
「??あっ!獣人の世界ですか?!」
『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』
「じゃ!可愛い猫耳」
『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』
白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた
「さ、、((クシュ))っむい」
『誰だ』
俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか?
ん?エバ(イブ)って女じゃねーの?
その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾
え?ん?ぴ、ピエん?
修正
(2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる