【完結】騎士団をクビになった俺、美形魔術師に雇われました。運が良いのか? 悪いのか?

ゆらり

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番外編 騎士団に復帰後のアレコレ

おっ? これは、きっとすごく大切な話だ!

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――誘拐犯が、カムロさんのお兄様だった! 


 そして、よろしくって挨拶されたんですが。未だかつてない意味の解らなさ!
 
「よ、よろしくお願いします?」

 誘拐犯によろしくもへったくれもないぞ俺ぇ! でも、カムロさんのお兄さんなんだよな。えっ、ほんとに? ジョークとかじゃないよな? このタイミングで?

「ははは。クルクル表情が変わって、面白いね」

 楽しそうに笑う顔が眩しいっ!

 カムロさんのお兄さんって言うだけあって、なかなかの美形っぷりだなぁ。この人の方が顎の辺りガッシリしていて親しみやすい感じだけど、唇の厚みとか眉の形とか、あちこがちよく似てる。顔を見て喋っていると、時々カムロさんの顔とダブって見えて不思議な気分だ。

 ……ってのは置いておくとして、ツッコミどころ満載なんですが!

「どうして俺を誘拐したんですか」

 普通に犯罪! 

 しれっと挨拶かまして涼しいお顔で笑って下さりやがってますけど、しょっ引きますよコラァ! 俺、平和を守る騎士だからなあああ! あっさり攫われたけどな! ちくしょう!

「カムロが君を紹介してくれないからさ。入籍や結婚のことは知っていたけれど……、直接の連絡はなかったからね。寂しくてちょっと悪戯をしたくなったんだよ」
「いやいやいやいやいや。何言ってくれちゃってんですか。ちょっと悪戯とかそういうお茶目なレベルじゃないですから。ダメ! 誘拐はダメですよ! 犯罪っ! 捕まりますよ!」

 思わず素で突っ込んじゃったぞ!

「あはは。そうだね。犯罪だね。それに関しては同意するよ。反省はしないけれど」

 ……ぬぁ。罪悪感ゼロな感じの、清々しいまでの笑顔だ! この人、絶対に頭のネジとか歯車が何個か飛んでいらっしゃるに違いないぞ! 

「ふざけやがらないで下さい。そして反省してください。……っていうか誘拐とか二度とやらんでくださいよ。マジやめてくださいお願いします。俺はともかくカムロさんがブチ切れますんで」

 本音ダダモレになってるけどしょうがないよね! 相手が真っ当じゃないからね! 

「それが目的だよ。小さな頃ならともかく、少しくらいのことでは完璧に無視されるからね、構ってもらうにはこのくらしないと。結婚祝いのサプライズだと思ってくれればいいよ」

 質の悪い構ってちゃんだ! っていうか誘拐が結婚祝いサプライズとか聞いたことないですね! 流行の最先端とかじゃないよな? ブチ飛び方がおかしい! 

 文字通り頭を抱えて「サプライズが過ぎる!」って叫んだら、「あっはっは! ハス君は、とてもいいリアクションをするね」なんて、お兄様が爆笑し始めたぞ。

 ……もう好きに笑ってくれて結構ですよ。はあぁ。

「ふふふ。ああ、まったく、凄く面白いな。気に入ったよ」

 散々笑った後、やっと笑いを収めたお兄さんはすっと真顔になって「……どんな子を選んだのかと気になっていたけど、君なら安心だ。カムロの事、私と……父と母の分まで、よろしく頼むよ」って言ってきた。

 それは、とても真剣な顔だった。さっきまでのネジと歯車飛んだ態度とはぜんぜん違っていて、まるで別人みたいな真顔だったんで、凄くびっくりした!

 俺がしゃきっと背筋を伸して「はいっ! 一生大切にします!」って気合の入った返事をしたら、すごく優しい笑顔になって「ふふ。いい返事だ。私も両親も……愛し方を間違えてしまったし、それを変えることが出来なかった。けれど、君はカムロの欲しがっていた愛し方をしてくれそうだね」なんて、言ってくれた。

 キアムルさんは微笑みながら椅子に腰を下ろして、「笑い疲れたよ。君も座るといい」って言ってきたんで、俺は素直に席に着いた。

「少し喉が渇いたね。冷めないうちにお茶を飲もうか」

 正直ちょっと小腹も空いてるし、俺も喉が渇いてた! 向かい側に座っているキアムルさんが、手際よくポットからシンプルな白いティーカップに紅茶を入れてくれて、俺の前に出してくれた。

「ありがとうございます。頂きます」
「うちの店で取り扱ってる紅茶と焼き菓子だ。味は折り紙付きだよ」

 うちの店ってことは、キアムルさんも何か商売してるんだな。……んん、家で飲んでるのとそう変わりないくらいの美味さだ。高いやつっぽい! 焼き菓子はハーブが練り込んであるタイプのクッキーで、カリっと香ばしく焼き上げられていて独特の風味と甘さが癖になる味だ! 

「美味しいです」
「それはよかった」

 普通にお茶してるみたいだなぁ。不思議と、誘拐されたっていう緊張感なんて何もない。呑気にモグモグウマー! してる俺を見て、キアムルさんも紅茶を飲みながら微笑んでいたんだけど……、「――媚薬とか睡眠薬とか毒は入っていないから、安心していいよ」なんて、唐突に言うもんだから「ぶっはげほがほ!」ってなったわ! 

「げほ、んんっ……、ちっとも安心できない言い方しないでくださいませんかね」
「はは。君があまりにも無防備だから、ついね」

 まあそうですよね普通にお茶してますからね! 危機感が逃避してるのは認めますよ!

「キアムルさん、俺に危害を加える気がな……いや、誘拐したからもう加えられてますけど、その後は丁重に扱ってくれましたよね。ちょっと色々とんでもない人だなとは思いますけど、話していて嫌な感じもしないんで」

 さらっと思ったことを言ってみると、キアムルさんは目を丸くして何度かぱちぱち瞬きした。あっれ? こういうとこもカムロさんと似てるなぁ。ちょっと可愛い?

「肝が据わっているというか、なんというか。君もなかなかの男だね」
「はぁ。そうでしょうか」
「そうだとも。素晴らしいよ」

 えっなんで。褒められてる? 素晴らしいってどこがでしょうね? なんだか妙に感心した顔をされちゃったぞ。すんごく解せぬ!

 それから紅茶を半分くらい残してカップを置いたキアムルさんが「少し、昔の話を聞いてくれないかな」とか言ってきたから、俺も飲み食いするのを止めて「はい」って返事をした。

 天気がいい日の、一番濃い部分の青みたいな瞳がじっと俺を見詰めてくる。

「……カムロはね、特別な子供だったよ」

 聞いていると安心するような低めの柔らかい声で、キアムルさんがゆっくりと話し始めた。




 ――おっ? これは、きっとすごく大切な話だ!
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