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本編

36 魔術師様がブチ飛んだこと言い出すのは、想定内でなあああ!

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 ――魔術師様と調理場で朝飯を食べた俺。

 食後のデザートとして出してきたオシャレなグラス入りフルーツゼリーをちまちまと食べながら、初めてこのお屋敷に来て、カムロさんに朝飯を作ったときを思い出していた。

 目をきらきらさせて、俺が料理を作るのを見たがったり味見をしたがったり……。真っ先に蜂蜜をかけた甘いパンプティングを平らげて、オムレツやサラダは後で食べてたなぁ。今になって思い出してみるとすごく可愛いな!

 食後の満足そうな顔は、本当に満たされたって表情だった。

 俺と出逢ったときが、カムロさんが一番……、寂しさを感じていたときだったのかな。信用できない人達を追い出して、誰もいなくなったお屋敷で、たった独りで紅茶を淹れて買い置きの甘いお菓子をもそもそ食べてるカムロさんを想像してみた。

 ……なっ、なんか、涙が出そうだぞ!

 目の前でニコニコと2杯目のフルーツゼリーを食べているカムロさんは、無邪気な笑顔を見せているのがやっぱり可愛くて……、幸せそうだ。俺、このお屋敷に来てよかった。この人を……どのくらいか分からないけど、幸せに出来たのが嬉しい!

 でもって、そんなカムロさんを見てると、俺も幸せな気分になれるぞ!

 しみじみとそう感じながら、ゼリー2杯目に突入! 丁寧に皮を剥いて種を取り除いたマスカットや、柑橘系の果肉がごろっと入ったゼリーが絶妙に美味い! 1杯だけ……なんて思ったけど、ついつい2杯目に手を出してしまったぞ。やっぱり手間を掛けて作ると、食感がいいし味もすごくよくなる! また作ろう!



 大満足の朝飯タイム終了! いつも通りの1日が始まった。

 ちょーっと体がギシギシいってたりとか、椅子に座ると尻に違和感があったりとか……、気にしなくなっていた外れない指輪が、ちょっと気になってたまに眺めちゃったりとか、カムロさんが妙にくっついてきたりとかするけど。

 あれ? いつも通りじゃないなこれ!

 ソワソワするっていうか、フワフワっていうか。んがああ! ムズムズする!

「――うぁ、カムロさん、ナイフ使ってるんで危ないですよ」

 調理場で仕事をしているときに、後ろからカムロさんが抱き付いてきて困った。背中にすりすり頬ずりしながら甘えてくるんだけど、それがかなり邪魔っていうか危ない! 

「ん……。もう少しだけ」

 甘えん坊度がアップしてて、すんごく可愛い! でも危ないから、やっぱりやめて欲しい!

「怪我してからじゃ遅いですから、離れてください」

 安 全 第 一 セーフティ・ファースト

 そこは譲れない。うっかり手が滑って、ざっくり指を切ったら1日どころか数日は憂鬱気分なの間違いなしだからな! 仕事に支障が出る! ジャム用に果物の皮を剥いていたナイフを置いて、布巾で手を拭いてからぺりっと俺の腹に回された腕を解いた。

 おっ? 素直に解かれてくれたぞ。てっきりぎゅうぎゅうされるのかと思ったけど。意外だなーと思いながら振り返ると、不満顔をしたカムロさんと目が合った。駄々っ子の目をしている!

「もう少しくっついていたいです」
「ダメです。甘えるなら、おやつの時間にしてください。今、忙しいですから」

 ちょっと厳しめに、きりっとした顔で申し渡して差し上げる。甘やかさないっ!

「邪魔をしてすみませんでした。自重しますね……」

 ぬあああ! しょんぼり顔も可愛い! ぎゅうっと抱き締めてなでなでしながら甘やかしたい! でも、昨日の今日なんですよ! 気持ちが追いついてないっていうか! 嬉しいけどなんか現実味がイマイチないっていうか! 家政夫業もおろそかに出来ないし! もうなんかすみませんねええええ! 

「仕方ありません。大人しく書斎に戻りますよ」
「そうしてください」

 とぼとぼと去っていく背中を見送って、ふーっと息を吐く。ずっとくっつかれてたら、それこそ俺の指と心臓が持ちませんでございますよ! マジ自重してくださいませ魔術師様! 
 
 一夜明けて可愛さ爆発してるカムロさんだけど、顔つきが少し変わった気がする。

 超綺麗なだけじゃなくて、いい意味での雄っぽい色気が混じっているというか。旦那様! って感じの貫禄が出てる気がするんだよ! ただでさえ超美形なのに魅力度がぐんと上がっている! それでいて可愛いとか! もう俺はどうしていいか分らんですよ! 

 あああもう! 床に転がってギャーギャー騒ぎたい! 恥ずかしい! 

 でも、嬉しいぞ! カムロさんが俺を……すごく必要としてくれていて……、あ、愛してるって言ってくれたりしたのが! 胸があったかくなるし、仕事も頑張ろうって思っちゃうぞおおお! 

 おっと、落ち着け俺!

 カムロさんは甘えたモードが暴走しかけてるみたいだけど、俺もなんか頑張り家政夫モードが暴走しそうだ。騎士団のことだってまだ解決していないし、それから先のことだってまだ分からない。浮かれるのもセーブしないとだ! 

 ――騎士に戻りたい気持ちは、揺らがない。

 中途半端なことはしたくないから、近いうちに家政夫は辞めようと思う。俺は騎士なんだから。でも、カムロさんから離れたくはないんだよなぁ……。俺がいないと、飯をまともに食わなさそうだし。 

 うーん、昼間は騎士団で働いて、夜はお屋敷に帰ってきて飯作って……みたいなのがいいと思うんだけどなぁ。虫がよすぎる考えか? でもお屋敷からだと騎士団は遠い。騎士団用の宿舎はボロいけど、本部からすごく近くて便利なんだよ!

 あーだこーだ考えてる間に、ジャムが出来た! 熱いうちに瓶詰めしなくちゃだ。

 諸々のことは、騎士団の件が解決したらしっかり話し合ってみよう。俺からも、ちゃんと気持ちを伝えなくちゃいけない。カムロさんのこと、大好きだってことや……、これからもずっと飯を作ってあげたいってことも。それから……照れ臭いけど、もっと大切なことも伝えたいし。

 







 ――魔術師様がブチ飛んだこと言い出すのは、想定内でなああぁ!





※カムロ氏、尻に敷かれそうな予感しかしない。内面がギャース! していて、とても落ち着きがないように見えていますが、外側から見たハスは割としっかり者。時々、取り乱すのはご愛敬ということで。
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