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本編

27 思ってもみなかった、割と重たい感じの告白をされた

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 ――3時のおやつに引き続き、夕飯のときも異常に大人しいカムロさんにビビった。

 下手に触れない方がいいよな。何が飛び出すか分からないし!

 ヒヤヒヤしながら夕飯を食べ終えて、やっと俺の長い1日が終わろうとしていた。密度が濃かったなぁ今日は……。心も体も疲れたけど、仕事はまだ終わってない。

 ……家政夫の夜はちょっと長い!

 夕飯の後片付けをして、明日の献立を考えて、その下ごしらえをする。あとは、調理場の掃除。きっちり綺麗にしておかないと、どうも気持ち悪いんだよ! 衛生面も考えると余計に! 

 我が雇い主であらせられる超魔術師様が、魔術でちょいちょいしてくださっているとはいえど、やはり気になるものなのでございますよ。

 今日もありがとな! って気分で、きゅっきゅと調理台や使った魔道具を拭く。


 ――よーし、終わった終わった! 

 調理場で伸びをしていたところにカムロさんがやって来た。あれ? 珍しいなー。この時間帯になると部屋に引っ込んでるのに。

「ハス君、少し話をしたいのですが、いいですか」

 部屋着っていうか、ゆるっとしたガウンみたいなものを着ていて、普段の魔術師っぽいローブを羽織った姿とはちょっと違った雰囲気だ。なんか色っぽいなぁ。大人の色気っていうのかなこれ。

「はい。あ、もうちょっと後でいいですか。風呂とか済ませたいんで」
「わかりました。後で私の部屋に来てください。寝室の扉は開けておきますので、そちらからどうぞ」
「了解です」

 使用済みの布巾やらエプロンやらを洗濯機に放り込んだりして、自分の部屋に戻って風呂を済ませた。話がどれだけ長いかにもよるけど、後はもう寝るだけくらいにしておいた方がいいからな。

 いつも風呂したら即就寝なんでパンイチなんだけど、さすがにそれはマズいので昼間着ている洗いざらしのシャツとズボン姿で行くことにした。カムロさんと俺の寝室を繋いでいる扉から夜這い……じゃないったらない! 話をしにいくだけだぞ! 

 とにかく突撃!

「お邪魔しまーす!」
「はは。いらっしゃい」

 ふざけた感じで突撃したら、カムロさんが楽しそうに笑って出迎えてくれた。

 そんなカムロさん側の寝室は、俺の方に比べて重厚な感じだ。いかにも主人の部屋っていうような渋さがある。ベッドはでっかいのが広々とした部屋の南側にあって、北側にソファーとテーブルがあった。凝った造りのスタンドランプがそばにあって、薄っすらオレンジ色の淡い光で周りを照らしている。

 ……なんていうか、すごくいいムードだ。

 ゆったりとソファーに座って微笑むカムロさんが、ランプの灯りに照らされているお姿は、まるで一流絵師の描いた絵画みたいだった! 美形は何をしても美形なんだよな。そのまま額に入れて、飾れる勢いで綺麗だ!

 そんな絵になるカムロさんが、これまた綺麗な手を上げて「こちらへどうぞ」と、ソファーの片側を示してくれたので、ささっと駆け寄って座らせてもらった。

 ソファーはひとつだけで、かなりでっかい。応接間みたいにソファーふたつで対面になってないのは、なんでだろうね? 夫婦で仲良くひとつのソファーに座るってイメージ……なんですかね? 聞いたら何か愉快なコメントが返ってきそうなのでお口は閉じておきます。ははは。

 もしかしたらそんな設定かもしれないソファーに、男2人で座るってどうなんでございましょうね。なんだか絵面的に微妙じゃありませんかね。片方が俺だしな!

 ……深く考えたらいけない気がする! よし、考えるのやめよう!

「何か飲みますか? 色々ありますけど」

 壁際にグラスと酒瓶をひとつずつ置いたら、いっぱいになるくらいのサイズの簡易なカウンターと、ずらりと銘酒の並んだ棚があった。ミニバーかぁ。これはまた贅沢だな。

「カムロさん、飲むんですか」
「いえ。私の趣味ではないんですけどね。この屋敷を購入した時に設えてあったというか……」

 小さく苦笑するカムロさん。あー、英雄様がデザート好きの甘党だなんてイメージないんだろうな。向こうは気を利かせたつもりが、的外れだったと。

「基本的に、飲まないので減りません。飾りですね」

 目玉が飛び出すくらい高い酒だってありそうな感じだけど、飾りかぁ……。料理に使えるのがあったら、調理場の方に置いた方が良さそうだぞ。使わないと勿体ない。

 そういえば調理場に最初からお高い酒が1本置いてあったんだけど、もしかして元はここの棚にあったのかな。芳醇っていうのかな? とにかくすごくいい香りで紅茶に少し入れると良い感じなんだよ。パウンドケーキの香り付けにも使ったぞ。何ランクも上の高級感が出る!

「あはは。俺は酒場でエールは飲むけど、寝酒はしないんで遠慮しときます」

 なんて話をした後、穏やかに微笑んでいたカムロさんが急に真剣な顔になって、俺をじっと見詰めてきた。本題に入るみたいだな。ちょっとだけ顔を引き締めて、カムロさんの方へと少し膝を向ける姿勢を取った。

「……話、するんでしたっけ」
「ええ。ハス君に謝りたくて」

 えっ、なんで? 

 クラさんと意味不明な喧嘩したことかな。それともあれかな。出ていくなってしがみついたこととか、いつもデザートを先に食べようとしてごめんなさいとか? 

 あっ! もしかして抜けない指輪のことかな? 悪戯してすみませんでしたとか言って、指から抜いてくれないかなぁ。もうどうでもよくなってるけどな! どうせ彼女いないし! 出来る予定もないしなあああ!

 ……ぜいぜい。

 まっ、まあ、ろくなことされてないけど、どれも場を改めて謝罪をするほど、深刻な問題じゃないぞ。ほかに何か謝るようなことがあるのかな? 全く予想がつかなくて首を傾げる俺を前に、少しの間を置いてカムロさんがゆっくりと口を開いた。

「私は……、貴方がずっとここに居てくれるのなら、冤罪は晴れない方がいいと思っていました。そのためなら、騎士団の腐敗など、どうなろうと放置しておけば良いとまで思っていたんです……」

 ……お、おう。




 ――思ってもみなかった、割と重たい感じの告白をされた。
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