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本編

14 きょ、距離が近いどころか、ゼロ距離なんですがあぁ!  

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――近況をぼかしまくった内容の手紙を、実家に送ることに決定した!

 これはこれで、モヤッとした心配をされそうだけど、クシャポイした秀逸な手紙よりマシだっ! 封筒に入れてしっかり糊付けして封印っと。 よーし! もう開けない。開けないぞ! 書き直しなんてしない。 

 ふー。ひと仕事終えた気分だ。 

 10時のおやつの支度までに、もう1通の方を書こう。

 こっちは元騎士の伯父さん宛て。騎士団の件を相談するための手紙だ。ひと晩ぐっすり眠ったら、かなり冷静になれた。ブレッデでのんびり暮らしているご隠居様な伯父さんに、ほんとは心配も迷惑も掛けたくない。だけど、この件は俺が独りで抱え込んでもどうにもならないし、放置していい問題じゃない。

 ……今も現役顔負けの実力がある伯父さんは、カムロさんとは違った方向でブチ飛んだ人だけどな! 俺にとっては頼れる師匠で、憧れの人。相談もしたいけど、久しぶりに会いたいって気持ちもある。

「うーん、これはこれで苦戦しそうだな。順を追って話をまとめないと……」

 報告書のつもりで書こう。クビにされた時のこと、それからセブナスとの会話。情報はそんなに多くないけど、書き出してみるとあからさまに犯罪臭。

 あー! ちくしょう! ムカムカするなぁ。

 でも、感情を乗せちゃいけない。あくまでも客観的に! これ大事! 私情を挟まないって難しい。書き出した紙をガン見しながら、ぐぬぬと悩む。思ったより時間が掛かるなぁ。

 10時のおやつ、そろそろ支度しないと……。

「おや、こんなところで書き物ですか」
「のわああっ!」

 び、びっくりした。いつの間にか、横合いにカムロさんが立っていた。

「あ、すみません。驚かせてしまって」
「い、いえ……」

 ひ、久々に心臓止まるかと思ったぞ! 

「何を書いていたんですか」
「騎士団の件を父方の伯父に相談しようと思ってですね、書き出してたんですよ」

 苦笑いしながら、手元の紙を見ると驚いて落とした羽ペンが転がって、ぺっちょりとインク跡がついてしまっていた。あぅち! やってしまったぞ! ま、いいか。書き出したのを送るワケじゃないし。……なんて思いながら羽ペンを取ろうとした手を、カムロさんが掴む。

 ぬぁ! なんでございましょうか魔術師様! これでは字が書けませんよ。おいたはおやめください!

「やっぱり、忘れられませんか」

 ん? 騎士団クビにされたことかな。

 そりゃあ、忘れたくても、忘れられないに決まってる。まだ2カ月足らずだ。1年経っても10年経っても……、きっと、死ぬまで忘れることなんてないだろうな。それくらいの出来事だ。

「えっ? そりゃ、まあ、はい」
「そうですか……」

 俺の割とごつい手を包み込む綺麗でひんやりとした手に、きゅっと力が込められた。

「騎士団に戻りたいと、思っていたりします?」

 ――どくりと、心臓が妙な音を立てた気がした。

 ま、真っ向からの質問はやめてくれぇ! この問題はデリケートなんだぞ! 震え声で「な、なんですかいきなり」って返してしまいましたよ。ど、動揺が激しいぞ俺ぇ!

「そういうものを書いているからです。何も気にしていなければ、しないでしょう」
「図星! 正直、戻りたいです」

 本音は戻りたいって決まってる。伯父さんみたいな頼れる立派な騎士になるのが、俺の夢だ。

「戻らなくていいと思います。ハス君を悪者にして、クビにした騎士団になんて……」

 そのご意見、ごもっともでございます。でも、クソ団長どもさえ何とかできれば、きっといい方向にいくはずだ。戻らないという選択肢はなくなるぞ。

「俺、辞めたくて辞めたワケじゃないって、カムロさん知ってるじゃないですか。今の騎士団は、確かにアレですけど、その問題が解決したら戻りたいですよ」
「駄目です」

 あれ? なんか駄々っ子の気配がするぞ……。

「給料は今の倍……いえ、もっと出します。私なら出せます。待遇だってもっと良くします」
「いやその、倍とか、もっととか! そんなもらえな」
「もらってください。ハス君がここに居てくれるなら、なんでもしますから」

 えっ、こわっ! こわあああ! 

 金はいくらあってもいいとは思うけど、不相応が限界突破してるのはいかがなものでございましょうか! 超魔術師様ともあろう者が、なんでもしますとか軽々しくおっしゃるなんて! いけません! お気を確かにいぃぃ!

「なんでもなんて、そんなこと」
「なんでもしますよ。貴方のためなら……」

 ひぃぃ! 圧が凄い!

 大体こういうときは、大人しい終わり方をしないブチ飛んだパターンの方だ。極めつけのヤバさを感じて縮み上がりながら、ばっと椅子から立ち上がって逃げようとした俺だったけど……。

「逃げないで下さい」

 カムロさんが掴んだ手を放してくれない! 引き抜こうとしても無理だった。

 あれっ? 意外と力強くていらっしゃいますね。ここんとこ、剣を振り回していなかったから筋力が落ちてるのかな。デスクワーク多そうな魔術師様の手を振り解けないとは! 鈍りすぎか!

「うわっ!」

 ぐいっと、引き戻されて今度は両肩を掴まれた。逃がす気ないのが満々でツライ!

「カムロさん落ち着いてくださいよ、一時休戦というか、距離と時間を置いた方が」
「私は落ち着いていますよ。ええ、とても……」
「どこがですか」

 にこやかなのに、まったくちっとも目が笑っていねえええ! 

「ハス君、私を選んでください」

 すいっと顔を近付けられた。それはそれは美しい笑みを浮かべた超美形魔術師様に迫られる、地味顔家政夫の図。え、絵面が崩壊してませんか! 距離が近い! 近いから! チューされちゃう距離ですよ! うああああ! 誰かあああ!

「ここに居て……」

 逃げ出すことも忘れ去ってプルプル震えていると、きゅっと抱き締められた。

「むぐっ!」

 頭と背中を抱き込まれたせいで、肩のあたりに顔を押し付けられる。な、なんかいい匂いが……。美形は匂いまで美形かっ! ちくしょう! ん? 意外と筋肉質っていうか、俺より少し背が高いな。顔でも背丈でも負けてる! ぬあああ!

 負けたとか勝ったとか、今この状態で考えてるのはおかしいぞ俺。

 なんて、混乱を突き抜けて冷静なツッコミを自分に入れるくらいに、俺はビビりまくていた。なんで俺、カムロさんに抱き締められているんでしょうかね? 誰か教えてくれぇ! 


 ――きょ、距離が近いどころか、ゼロ距離なんですがあぁ!
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