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本編

15 終身雇用が、終身刑に聞こえたのは気のせいかな?

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 ――なんでか魔術師様にきゅっと抱き締められた俺。どうしてこうなった!

「んなっ、ちょ、カ、カムロさん、どうどう! 落ち着いて!」

 きゅっ! というよりぎしっ! っていう感じに腕の力が強くなってきたので、焦ってぽんぽんと背中を叩いてみた。子供じゃあるまいしとは思ったけど、やらないよりマシだ! おっ? ちょっとだけ力が緩んだぞ。 

「い、今すぐに出ていくとか、そういうことじゃないですからっ! まだ居ます! 居ますから!」
「いつか出ていくみたいじゃないですか」
「うっ……」

 た、確かに。騎士団に戻るなら当然、このお屋敷からは出ていかなくちゃと思っていた。住み込みで働いていたら騎士は務まらないし、逆だってそうだ。

「その場しのぎの言葉なんて、要りません」

 肩口に顔を埋められて、すりすりと頬ずりされた。く、くすぐったい! 

「んんっ、……とにかく、放してくださいよ」
「嫌です。放したら出ていきそうですから」
「いやいやいやいや。出て行きませんて。はぁあ……」

 背中をポンポンしながら、つやっつやの髪をした頭をなでなでしてみた。さっきより更に腕の力が緩んだけど、なかなか離れてくれない。機嫌を直してくださいませんでしょうか。これではまるで、赤ん坊をあやしているようですよ。そろそろお離れ下さいませ。

 ……超魔術師様が、でっかい駄々っ子になってしまったぞ。

 なんでそんなに俺に甘えるんですか。俺なんか下っ端騎士で、料理ができるだけの人間なのに。カムロさんみたいな凄い人が引き留める価値なんて、少しもなさそうなのに。いつ居なくなっても別に、構わないじゃないですか。

 ――なんて考えた途端に、ちょっと胸の奥がチクッとした気がした。

 え。なんだこれ。

 奇妙な感覚に戸惑っていると、肩口に顔を埋めたまま、「――いっそのこと、終身雇用契約、私としませんか」なんてことを魔術師様がおっしゃいましたよ。

 ……はい?

 いや、聞き取れましたけどね。耳を疑う発言だったので、聞き間違いかと思いまして。そこまで長く雇ってもらえるくらい評価されてるのは光栄っていうか嬉しいですけど……っていうか、手を掴まれてからきゅっされるまでに聞いた発言が過激すぎて、光栄を通り越して恐怖しかない!

「今なんておっしゃいましたか」
「終身雇用契約」

 意味がよく分かりませんでございすよ。まったくもって何を仰っているのやら。

 とりあえず……、10時のおやつにしませんか? カムロさん。今日はパウンドケーキにフルーツとプティングを添えたデラックスなヤツです。食べたいなら離れてくださいよ。


 ――終身雇用が、終身刑死ぬまで逃がしませんに聞こえたのは気のせいかな?
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