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本編第二部「金の王と不変の佳人」
2 逢瀬の夜 ※R18
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――夜も更けて、長い晩酌が終わったその後。
離れ家にある天蓋つきの広い寝台に、夜着を纏ったリヤスーダの姿があった。寝台の端に腰かけている彼の、その男らしく端正な面は僅かに強張りを見せている。
「……待たせたねリヤ」
暫くして、隠しの背高な衝立の合間からベルセニアに付き添われて姿を現したのは、リヤスーダと同じく夜着姿のキュリオだった。薄く軟らかな灯りの中で、白く美しい顔がほの明るく輝いて見える。
ベルセニアがついと耳元に顔を寄せ何事か囁くと、キュリオは淡い笑みを浮かべて小さく頷いた。そして、統べるような歩みで寝台へと近寄り、伸ばされた逞しい腕に自ら捕らわれた。
リヤスーダの腕にキュリオの細身が納まるのを見届けた後、ベルセニアはきりりとした表情を崩さぬままに「御用がありましたら、何時でもお呼びください。良い夜をお過ごしくださいませ」と、決まりの挨拶をしてから楚々とした所作で会釈をし、音も立てずにその場を辞していった。
「――ベルセニアは何と言ったのだ」
リヤスーダに問われたキュリオは小さく笑みを浮かべながら「嫌だと声を上げてくだされば、すぐさま駆け付けさせて頂きますよ……だそうだ」と、実によどみのないきりりとした口調で答えた。
ベルセニアの口調を真似たその返答に、聞いたリヤスーダは苦虫を噛み潰したような顔になり「あれは、俺を一体何だと思っているのか……」と、呻くように呟いた。
「獣とでも思われているのだろうかね」などと笑うキュリオを、「お前も口が過ぎるぞ」と、軽く唇に口付けてシーツの上に押し倒す。
「君がもし獣ならば、骨も何もかも食らい尽くされて腹に納められたい。そうしたら、きっともう何も憂う事もなく君の血肉になって溶けて、安らかに死ねそうだ」
無邪気な言葉遊びのような口ぶりだが、それにしては酷く凄まじい睦言にリヤスーダは小さく身震いをして「なんという恐ろしい例え方をするんだ。お前を食らう夢を見てしまいそうだから止めろ」と、彼を嗜める。
「それはそれで、……私は幸せだよ。末永く君のものになれるのだから」
リヤスーダが見下ろす先には、白い寝台の上に広がる見事な黒髪と典雅な白面の美貌がある。ほの暗い灯りの下で、穏やかに微笑む姿は溜息が出る程に美しく、まるで一時の幻のように儚くも見えた。
「こう言うのも何だが、お前……、最初に出逢った頃より美しくなったな」
「ベルセニアが余りに楽しそうで真剣だから、彼女の好きにさせている。爪も髪も肌も、何から何まですっかり手入れされているからね。今日の支度だとて、数刻も掛かっているのだよ。……私のような者には勿体ない扱いだ」
「同情するべきなのか、喜ぶべきなのかよくわからんな」
「まあ、ほどほどにしてもらいたいものだが、彼女には何かと元気づけられたよ」
「あれの話はもう止せ。お前との時間は、そう多くは無い」
楽し気に侍女の話をするキュリオの首筋を甘く食み、次いで深く唇を奪う。
「ん……っ」
頭を撫でながら、舌を絡めて水音を立てる。キュリオがそれに応えて、自分からも舌を絡めながら、リヤスーダの大きな背中を抱き込んで長い口付けをつづけた。
「ふ、はぁ、んっ……」
口付けの合間に夜着の前がはだけられ、褐色の手が白く薄い胸に触れる。
「少し脈が速いな。さすがにお前でもこうなる事はあるのだな」
「当然だ……。触れられると、とても温かい……」
「もっと温かくしてやろう」
夜着を大きく開いて下腹部にまで手を伸ばすと、唇や胸に口付けをしながら、隠す素振りも見せず浅く開いた脚の間に在る、まだ少しの熱も持っていない物を愛撫した。
「あ……、んんっ……」
小さく声が上がり、リヤスーダに比べれば幾分か華奢な腰が僅かに跳ねる。
「嫌ではないな?」
「……嫌なものか……」
丁寧にリヤスーダが愛撫を続けること暫しの後。
「あ、ぅ……、はぁっ、はっ、んんっ――」
耐える表情も見せずに心持ち息を乱しながら震えて、顎を仰け反らせてキュリオは静かに達した。褐色の指に滴った精もそのままに、ぬるりと内腿を掴みながら上半身の方へと覆いかぶさってきたリヤスーダが、彼の上下する腹や胸を舐め上げ頬に口付けを落とす。
「はぁ……。君の手、やはりとても好きだよ。心地良い」
うっとりと言ったその顔には薄く朱が走り、艶やかな笑みが浮かんでいた。
「――私も、君を良くしたい」
柔らかな声と共に、リヤスーダへと白くしなやかな腕が伸ばされた。
離れ家にある天蓋つきの広い寝台に、夜着を纏ったリヤスーダの姿があった。寝台の端に腰かけている彼の、その男らしく端正な面は僅かに強張りを見せている。
「……待たせたねリヤ」
暫くして、隠しの背高な衝立の合間からベルセニアに付き添われて姿を現したのは、リヤスーダと同じく夜着姿のキュリオだった。薄く軟らかな灯りの中で、白く美しい顔がほの明るく輝いて見える。
ベルセニアがついと耳元に顔を寄せ何事か囁くと、キュリオは淡い笑みを浮かべて小さく頷いた。そして、統べるような歩みで寝台へと近寄り、伸ばされた逞しい腕に自ら捕らわれた。
リヤスーダの腕にキュリオの細身が納まるのを見届けた後、ベルセニアはきりりとした表情を崩さぬままに「御用がありましたら、何時でもお呼びください。良い夜をお過ごしくださいませ」と、決まりの挨拶をしてから楚々とした所作で会釈をし、音も立てずにその場を辞していった。
「――ベルセニアは何と言ったのだ」
リヤスーダに問われたキュリオは小さく笑みを浮かべながら「嫌だと声を上げてくだされば、すぐさま駆け付けさせて頂きますよ……だそうだ」と、実によどみのないきりりとした口調で答えた。
ベルセニアの口調を真似たその返答に、聞いたリヤスーダは苦虫を噛み潰したような顔になり「あれは、俺を一体何だと思っているのか……」と、呻くように呟いた。
「獣とでも思われているのだろうかね」などと笑うキュリオを、「お前も口が過ぎるぞ」と、軽く唇に口付けてシーツの上に押し倒す。
「君がもし獣ならば、骨も何もかも食らい尽くされて腹に納められたい。そうしたら、きっともう何も憂う事もなく君の血肉になって溶けて、安らかに死ねそうだ」
無邪気な言葉遊びのような口ぶりだが、それにしては酷く凄まじい睦言にリヤスーダは小さく身震いをして「なんという恐ろしい例え方をするんだ。お前を食らう夢を見てしまいそうだから止めろ」と、彼を嗜める。
「それはそれで、……私は幸せだよ。末永く君のものになれるのだから」
リヤスーダが見下ろす先には、白い寝台の上に広がる見事な黒髪と典雅な白面の美貌がある。ほの暗い灯りの下で、穏やかに微笑む姿は溜息が出る程に美しく、まるで一時の幻のように儚くも見えた。
「こう言うのも何だが、お前……、最初に出逢った頃より美しくなったな」
「ベルセニアが余りに楽しそうで真剣だから、彼女の好きにさせている。爪も髪も肌も、何から何まですっかり手入れされているからね。今日の支度だとて、数刻も掛かっているのだよ。……私のような者には勿体ない扱いだ」
「同情するべきなのか、喜ぶべきなのかよくわからんな」
「まあ、ほどほどにしてもらいたいものだが、彼女には何かと元気づけられたよ」
「あれの話はもう止せ。お前との時間は、そう多くは無い」
楽し気に侍女の話をするキュリオの首筋を甘く食み、次いで深く唇を奪う。
「ん……っ」
頭を撫でながら、舌を絡めて水音を立てる。キュリオがそれに応えて、自分からも舌を絡めながら、リヤスーダの大きな背中を抱き込んで長い口付けをつづけた。
「ふ、はぁ、んっ……」
口付けの合間に夜着の前がはだけられ、褐色の手が白く薄い胸に触れる。
「少し脈が速いな。さすがにお前でもこうなる事はあるのだな」
「当然だ……。触れられると、とても温かい……」
「もっと温かくしてやろう」
夜着を大きく開いて下腹部にまで手を伸ばすと、唇や胸に口付けをしながら、隠す素振りも見せず浅く開いた脚の間に在る、まだ少しの熱も持っていない物を愛撫した。
「あ……、んんっ……」
小さく声が上がり、リヤスーダに比べれば幾分か華奢な腰が僅かに跳ねる。
「嫌ではないな?」
「……嫌なものか……」
丁寧にリヤスーダが愛撫を続けること暫しの後。
「あ、ぅ……、はぁっ、はっ、んんっ――」
耐える表情も見せずに心持ち息を乱しながら震えて、顎を仰け反らせてキュリオは静かに達した。褐色の指に滴った精もそのままに、ぬるりと内腿を掴みながら上半身の方へと覆いかぶさってきたリヤスーダが、彼の上下する腹や胸を舐め上げ頬に口付けを落とす。
「はぁ……。君の手、やはりとても好きだよ。心地良い」
うっとりと言ったその顔には薄く朱が走り、艶やかな笑みが浮かんでいた。
「――私も、君を良くしたい」
柔らかな声と共に、リヤスーダへと白くしなやかな腕が伸ばされた。
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