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本編第一部「金の王と美貌の旅人」
26 離れ家
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――キュリオが閉じ込められた場所は、どうやら王宮の一角にある離れ家であるらしい。
朝餉と着替えを済ました後、ベルセニアに庭を案内された。
「幾代か前に、お妃様の療養のために造られた離れ家なのです。そのお妃様が身罷られてしまわれた後は、お使いになられる方が居りませんでしたの」
「なるほど、道理で立派な離れだ。私のような者が住んでいいのかね」
「いいも悪いもござません。そもそも、全てリヤスーダ様が悪いのですから」
侍女の棘のある口振りに苦笑しながら、キュリオは穏やかな日差しに照らされた庭を見渡す。
「歩いていると、なんとも言えず気が休まる庭だね。まるで本当の森を歩いているようだよ」
「病がちで遠出が難しかったお妃様に少しでも慰めをと、趣向を凝らした庭でございますので」
野草や小さな果実の成る小振りな低木が茂り、大小の自然のままの姿をしていて苔生した岩々が点々と配置されている。それらすべてが相まって、整然とした庭とはひと味もふた味も違う野趣の溢れる風景を造り上げていた。
「お気に召して頂けて何よりでございます。あちらの四阿は日中にお過ごしになられるのには、きっと丁度いいですよ。よろしければお使いください」
侍女が手で示した先の獣道じみた小道の終わりに、木々に囲まれた素朴なこしらえの四阿が見えた。
「ふむ。本を読みながら過ごしたい場所だ」
「蔵書ならば別棟にございますので、ご希望とあれば運ばせて頂きますよ。読書がお好きですか」
「……ああ、そうだね。随分昔になるが故郷にいた頃には、暇さえあればよく本を読んでいたものだったよ。最も、旅暮らしではそれも儘ならないがね」
ここでなら落ち着いて読めそうだと、キュリオは嬉し気に言いながら目を細める。
「わかりました。蔵書は幾らでもございますから、心行くまでお読みください。お好みの本を後で教えてくださいまし。各種取り揃えてどっさりとお持ち致しましょう!」
その様子に、俄然やる気を見せて燃えるベルセニア。
「ここへ来るついでに少しずつで構わない。私は一冊一冊、じっくりと読むのが好きだ」
「ではその様に致します。四阿の方は明日には使えるよう、本日中に整えておきます」
気合十分な侍女に、キュリオは微笑みながらこう尋ねた。
「私に何か手伝えることはあるかね」
「キュリオ様に助力頂く必要はございません。お気遣いありがとうございます」
無表情でぴしゃりと断るベルセニアと、残念そうな表情になるキュリオ。
「そうかね。掃除くらいはしようかと思ったのだが」
「私の仕事でございます。キュリオ様の御手を煩わせることではございません」
「……しかし、世話を掛けているのだから少し」
「仕事でございますので」
「少しだけでも、駄目かね?」
これ以上ないほどにやんわりとした声音で、「駄目でございます。ですが、お気持ちはとても嬉しゅうございますよ。キュリオ様」と、断る侍女は優しく微笑んでいたが、その目は笑っていなかった。
絶対に手伝わせることなどさせないという強固な意志を示されて、キュリオは叱られた子供のようにしょんぼりした顔をしつつ手伝いを断念したのだった。
朝餉と着替えを済ました後、ベルセニアに庭を案内された。
「幾代か前に、お妃様の療養のために造られた離れ家なのです。そのお妃様が身罷られてしまわれた後は、お使いになられる方が居りませんでしたの」
「なるほど、道理で立派な離れだ。私のような者が住んでいいのかね」
「いいも悪いもござません。そもそも、全てリヤスーダ様が悪いのですから」
侍女の棘のある口振りに苦笑しながら、キュリオは穏やかな日差しに照らされた庭を見渡す。
「歩いていると、なんとも言えず気が休まる庭だね。まるで本当の森を歩いているようだよ」
「病がちで遠出が難しかったお妃様に少しでも慰めをと、趣向を凝らした庭でございますので」
野草や小さな果実の成る小振りな低木が茂り、大小の自然のままの姿をしていて苔生した岩々が点々と配置されている。それらすべてが相まって、整然とした庭とはひと味もふた味も違う野趣の溢れる風景を造り上げていた。
「お気に召して頂けて何よりでございます。あちらの四阿は日中にお過ごしになられるのには、きっと丁度いいですよ。よろしければお使いください」
侍女が手で示した先の獣道じみた小道の終わりに、木々に囲まれた素朴なこしらえの四阿が見えた。
「ふむ。本を読みながら過ごしたい場所だ」
「蔵書ならば別棟にございますので、ご希望とあれば運ばせて頂きますよ。読書がお好きですか」
「……ああ、そうだね。随分昔になるが故郷にいた頃には、暇さえあればよく本を読んでいたものだったよ。最も、旅暮らしではそれも儘ならないがね」
ここでなら落ち着いて読めそうだと、キュリオは嬉し気に言いながら目を細める。
「わかりました。蔵書は幾らでもございますから、心行くまでお読みください。お好みの本を後で教えてくださいまし。各種取り揃えてどっさりとお持ち致しましょう!」
その様子に、俄然やる気を見せて燃えるベルセニア。
「ここへ来るついでに少しずつで構わない。私は一冊一冊、じっくりと読むのが好きだ」
「ではその様に致します。四阿の方は明日には使えるよう、本日中に整えておきます」
気合十分な侍女に、キュリオは微笑みながらこう尋ねた。
「私に何か手伝えることはあるかね」
「キュリオ様に助力頂く必要はございません。お気遣いありがとうございます」
無表情でぴしゃりと断るベルセニアと、残念そうな表情になるキュリオ。
「そうかね。掃除くらいはしようかと思ったのだが」
「私の仕事でございます。キュリオ様の御手を煩わせることではございません」
「……しかし、世話を掛けているのだから少し」
「仕事でございますので」
「少しだけでも、駄目かね?」
これ以上ないほどにやんわりとした声音で、「駄目でございます。ですが、お気持ちはとても嬉しゅうございますよ。キュリオ様」と、断る侍女は優しく微笑んでいたが、その目は笑っていなかった。
絶対に手伝わせることなどさせないという強固な意志を示されて、キュリオは叱られた子供のようにしょんぼりした顔をしつつ手伝いを断念したのだった。
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