【完結】金の王と美貌の旅人

ゆらり

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本編第一部「金の王と美貌の旅人」

23 出逢わなければ

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 ――独り残された寝台の上で、私は小さく溜息を漏らした。

「何をしても構わないというのに……」

 どうしてあんな苦しそうな顔をして彼は逃げてしまったのだろう。リヤスーダに触れられて嫌悪を感じたことなど、ただの一度もない。

 身を投げ出すようなことを言ったのがいけなかったのか。恥を知らぬ汚らわしい男だと思われたのかもしれない。実際この体は、決して綺麗なものではない。

 私は、リヤスーダの傍に居ていい存在ではないのだ。

 ……人間は己とは異なる時を刻む者を、容易には受け入れない。例えリヤスーダが受け入れたのだとしても……周囲の者達は果たしでどうだろうか。いつかは、軋みが生まれるだろう。そしてそれが、あからさまな形での災いとなる日が来ないとも限らない。

 出逢わなければよかったのだ。

 だが、出会ってしまった。そして、我が身には酷く不相応なものを望んでしまった。
 
 彼の温かい手が触れた肌が仄かに熱を持っている気がして、胸から腹まで、触れられた部分を辿って両手を這わせて確かめてみたが、温もりは感じられない。冷たい肌を焼き焦がすような、熱い命に満ち溢れた温もりが、泣きたいほどに恋しい。

 憎しみでもいい。愛も快楽も感じられない痛みだけを与えられてでも、この体に熱を分け与えてくれたのなら、どんなにか幸せだろう。寂しさと残念さに、溜息をつきながら夜着の前を掻き合わせ、冷え切った体を少しでも温めるために寝床に潜り込む。

 瞼を閉じると、苦しそうなリヤスーダの顔が脳裏に浮かんだ。

 今、彼が何を考えているのかは詳らかには解らないが、私のせいで苦しんでいるのは確かだ。こんな、汚れた化け物である私と出逢わなければ、彼は彼なりの平穏な日々を送れていたのだろうか。

 そう思うと何やら申し訳ない心地になって、感じたことのない疲労感に襲われた。

 逃げ出せるとしても逃げてはいけない。想いを告げる前ならいざ知らず、私は彼の心を揺さぶり傷付けた。彼が罪人である私を逃がす気がないのならば。

 ……囚われていることこそが、償いであるのならば。

 微睡みの中に意識をゆらゆらと漂わせながら、取り留めもなく悩んでいた私は、やはり酷く疲れていたらしく、早々に意識を放り出して眠りに落ちることが出来たのだった。
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