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本編第一部「金の王と美貌の旅人」
7 秘密の隠れ家のような
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――決闘騒ぎから数日後。夜の酒場にてふたりは酒を飲んでいた。
「なあキュリオ、明日は俺の家に来ないか」
今までは、店で会うばかりだった。
自宅への招待などしてこなかった男が珍しくそんな誘いを掛けてきたことに、誘われた側のキュリオは不思議そうに小首を傾げる。
「酒場で飲む方が面倒がないだろうに、急にどうしたのかね?」
「いや、その……、どうしても、お前を招待したいんだ」
照れ臭そうに少年のような表情を浮かべる顔をしげしげと見詰めた後、キュリオはくっと酒を一息に飲み干した。そして、「ふむ……」と、少しばかり考えるような気配を見せた。
その若干のためらいをうかがわせる仕草に、リヤは「無理にとは言わないが」と、少し眉根を下げると「……いや、気が進まないという訳ではない。ただ、こんなふうに誰かの家に招かれることなど、久しくなかったことだからね。少し戸惑ったのだよ」と、キュリオは二杯目の酒を頼みながら応えた。
旅から旅の暮らしが常である、彼らしい戸惑いではあった。ほんのりと唇を綻ばせて、面はゆそうに笑うその姿は、友からの招待を少なからず喜んでいるかのように見える。
「招待を受けよう。ほかならぬ君の招きだから」
「よし! 決まりだな。明日の夕刻に迎えに来るから、酒場で待っていてくれよ」
喜色を満面に湛えて、リヤは弾む声を上げながら友の細い肩を抱いた。
――そして訪れた、翌日の夕刻。
馴染みの酒場で落ち合った二人が向かったのは、街の外れに建つ小さな廃屋だった。辺りは静まり返っていて人気が無く、薄気味の悪い空気が漂っている。
「ここなのかね?」
そんなはずはないだろうと言いたげなキュリオの問いに、リヤは笑いながら「いや、ここじゃない」と、言って廃屋へと向かっていく。そして、懐の隠しから取り出した鍵を挿し込んで、小気味の良い金属音を響かせながら開いた。
「この廃屋の、奥に入口がある」
「まるで秘密の隠れ家のようだね。なかなかに面白い」
「面白いのはこれからだ。ついてきてくれ」
足を踏み入れた廃屋の中は、朽ちかけた外観とは真逆に手入れが行き届いていた。薄暗い部屋の、何も置かれていない床の中央に、真四角の穴がぽっかりと口を開けている。目を凝らすと、下に向かう階段がうっすらと見て取れた。
「ここを下りるのか……」
「滅多に客を通さない特別な道だ」
階段を下り、迷路の如く長く入り組んだ道を延々と進んで重厚な扉へと辿り着いた。その扉に取りつけられた鋳物の獣が咥えている輪をリヤが持ち、不規則な拍子をつけて何度か扉に軽く打ち付ける。
――すると、一拍の間の後に、扉が音もなく向こう側へと開いた。
「なあキュリオ、明日は俺の家に来ないか」
今までは、店で会うばかりだった。
自宅への招待などしてこなかった男が珍しくそんな誘いを掛けてきたことに、誘われた側のキュリオは不思議そうに小首を傾げる。
「酒場で飲む方が面倒がないだろうに、急にどうしたのかね?」
「いや、その……、どうしても、お前を招待したいんだ」
照れ臭そうに少年のような表情を浮かべる顔をしげしげと見詰めた後、キュリオはくっと酒を一息に飲み干した。そして、「ふむ……」と、少しばかり考えるような気配を見せた。
その若干のためらいをうかがわせる仕草に、リヤは「無理にとは言わないが」と、少し眉根を下げると「……いや、気が進まないという訳ではない。ただ、こんなふうに誰かの家に招かれることなど、久しくなかったことだからね。少し戸惑ったのだよ」と、キュリオは二杯目の酒を頼みながら応えた。
旅から旅の暮らしが常である、彼らしい戸惑いではあった。ほんのりと唇を綻ばせて、面はゆそうに笑うその姿は、友からの招待を少なからず喜んでいるかのように見える。
「招待を受けよう。ほかならぬ君の招きだから」
「よし! 決まりだな。明日の夕刻に迎えに来るから、酒場で待っていてくれよ」
喜色を満面に湛えて、リヤは弾む声を上げながら友の細い肩を抱いた。
――そして訪れた、翌日の夕刻。
馴染みの酒場で落ち合った二人が向かったのは、街の外れに建つ小さな廃屋だった。辺りは静まり返っていて人気が無く、薄気味の悪い空気が漂っている。
「ここなのかね?」
そんなはずはないだろうと言いたげなキュリオの問いに、リヤは笑いながら「いや、ここじゃない」と、言って廃屋へと向かっていく。そして、懐の隠しから取り出した鍵を挿し込んで、小気味の良い金属音を響かせながら開いた。
「この廃屋の、奥に入口がある」
「まるで秘密の隠れ家のようだね。なかなかに面白い」
「面白いのはこれからだ。ついてきてくれ」
足を踏み入れた廃屋の中は、朽ちかけた外観とは真逆に手入れが行き届いていた。薄暗い部屋の、何も置かれていない床の中央に、真四角の穴がぽっかりと口を開けている。目を凝らすと、下に向かう階段がうっすらと見て取れた。
「ここを下りるのか……」
「滅多に客を通さない特別な道だ」
階段を下り、迷路の如く長く入り組んだ道を延々と進んで重厚な扉へと辿り着いた。その扉に取りつけられた鋳物の獣が咥えている輪をリヤが持ち、不規則な拍子をつけて何度か扉に軽く打ち付ける。
――すると、一拍の間の後に、扉が音もなく向こう側へと開いた。
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