4 / 61
本編第一部「金の王と美貌の旅人」
4 朝陽の中で見たものは
しおりを挟む
――翌朝。
「ん……?」
寝床の上で薄く目を開けたリヤは、抱き込んでいる者の髪に頬を摺り寄せた。
柔らかさはないが、抱き締めやすい細身の躰。艶やかな黒髪の合間からのぞく白いうなじは肌理細やかで、まどろみながら再び頬をすり寄せて心地良さに吐息を漏らす。
「起きたかね?」
腕の中から聞こえた穏やかな声に、はっとして瞼を見開く。
「あ……、す、済まない!」
「なかなか起きないから、どうしようかと思ったよ」
腕から解放されて寝床の上でやおら身を起こした旅人が、呆然としているリヤを口元に笑みを浮かべて見下ろしている。
「……お前」
昨夜はフードに隠されていた顔が、今は朝日の中で全て晒されていた。
濃い翡翠の色を宿した涼し気な瞳と、描いた様に優美な眉。すっと通った鼻筋と、それに続く薄く形の良い唇。艶のある黒髪に縁取られた白い細面の中に、それらが絶妙の配置で並んでいた。 この国の民が特徴としている褐色の肌と明るい髪色とは対照的な、典雅で中性的な異国の美しさだ。
「……その様な顔をしていたのか」
リヤは彼の姿に魅了され、そう呟いたまま食い入る様に見詰めることしか出来なかった。旅人はそんなリヤからふいと視線を逸らし簡素な寝床から降りると、椅子に掛けてあった外套を身に着けてフードを被る。顔が隠されると、漸く正気を取りせた。
「……君、リヤという名だったか。悪酔いして私を抱き込んだまま寝てしまってね。抜け出そうにも上手くいかなかったから、諦めて一緒に眠ったのだよ」
軽い口調で「酒癖が悪いのかね」と、小首を傾げながら尋ねてくる旅人に、リヤは寝床から素早く起き上がって「そんなことはない!」と激しく首を横に振った。
「そうかね? 何にせよ、身ぐるみ剥がされなくて幸いだったね。何かあれば家人が泣くよ」
「ああ、そうだな。……済まなかった」
苦笑しながら詫びを入れると、旅人はリヤの傍へ歩いて来て肩を軽く叩く。
「私はこの都に暫く滞在する。良ければまた、あの店で飲もう」
好意的な言葉に、胸の内がすっと軽くなり喜びに満ちていくのを感じた。
「ああ、いいとも! また飲もう。次は詫びに俺が奢る」
「詫びなどいい。……私の名はキュリオという。よろしく、リヤ」
リヤの笑顔を受けて、旅人キュリオの口元もまた綻んでいた。
「ん……?」
寝床の上で薄く目を開けたリヤは、抱き込んでいる者の髪に頬を摺り寄せた。
柔らかさはないが、抱き締めやすい細身の躰。艶やかな黒髪の合間からのぞく白いうなじは肌理細やかで、まどろみながら再び頬をすり寄せて心地良さに吐息を漏らす。
「起きたかね?」
腕の中から聞こえた穏やかな声に、はっとして瞼を見開く。
「あ……、す、済まない!」
「なかなか起きないから、どうしようかと思ったよ」
腕から解放されて寝床の上でやおら身を起こした旅人が、呆然としているリヤを口元に笑みを浮かべて見下ろしている。
「……お前」
昨夜はフードに隠されていた顔が、今は朝日の中で全て晒されていた。
濃い翡翠の色を宿した涼し気な瞳と、描いた様に優美な眉。すっと通った鼻筋と、それに続く薄く形の良い唇。艶のある黒髪に縁取られた白い細面の中に、それらが絶妙の配置で並んでいた。 この国の民が特徴としている褐色の肌と明るい髪色とは対照的な、典雅で中性的な異国の美しさだ。
「……その様な顔をしていたのか」
リヤは彼の姿に魅了され、そう呟いたまま食い入る様に見詰めることしか出来なかった。旅人はそんなリヤからふいと視線を逸らし簡素な寝床から降りると、椅子に掛けてあった外套を身に着けてフードを被る。顔が隠されると、漸く正気を取りせた。
「……君、リヤという名だったか。悪酔いして私を抱き込んだまま寝てしまってね。抜け出そうにも上手くいかなかったから、諦めて一緒に眠ったのだよ」
軽い口調で「酒癖が悪いのかね」と、小首を傾げながら尋ねてくる旅人に、リヤは寝床から素早く起き上がって「そんなことはない!」と激しく首を横に振った。
「そうかね? 何にせよ、身ぐるみ剥がされなくて幸いだったね。何かあれば家人が泣くよ」
「ああ、そうだな。……済まなかった」
苦笑しながら詫びを入れると、旅人はリヤの傍へ歩いて来て肩を軽く叩く。
「私はこの都に暫く滞在する。良ければまた、あの店で飲もう」
好意的な言葉に、胸の内がすっと軽くなり喜びに満ちていくのを感じた。
「ああ、いいとも! また飲もう。次は詫びに俺が奢る」
「詫びなどいい。……私の名はキュリオという。よろしく、リヤ」
リヤの笑顔を受けて、旅人キュリオの口元もまた綻んでいた。
12
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる