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本編第一部「金の王と美貌の旅人」
4 朝陽の中で見たものは
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――翌朝。
「ん……?」
寝床の上で薄く目を開けたリヤは、抱き込んでいる者の髪に頬を摺り寄せた。
柔らかさはないが、抱き締めやすい細身の躰。艶やかな黒髪の合間からのぞく白いうなじは肌理細やかで、まどろみながら再び頬をすり寄せて心地良さに吐息を漏らす。
「起きたかね?」
腕の中から聞こえた穏やかな声に、はっとして瞼を見開く。
「あ……、す、済まない!」
「なかなか起きないから、どうしようかと思ったよ」
腕から解放されて寝床の上でやおら身を起こした旅人が、呆然としているリヤを口元に笑みを浮かべて見下ろしている。
「……お前」
昨夜はフードに隠されていた顔が、今は朝日の中で全て晒されていた。
濃い翡翠の色を宿した涼し気な瞳と、描いた様に優美な眉。すっと通った鼻筋と、それに続く薄く形の良い唇。艶のある黒髪に縁取られた白い細面の中に、それらが絶妙の配置で並んでいた。 この国の民が特徴としている褐色の肌と明るい髪色とは対照的な、典雅で中性的な異国の美しさだ。
「……その様な顔をしていたのか」
リヤは彼の姿に魅了され、そう呟いたまま食い入る様に見詰めることしか出来なかった。旅人はそんなリヤからふいと視線を逸らし簡素な寝床から降りると、椅子に掛けてあった外套を身に着けてフードを被る。顔が隠されると、漸く正気を取りせた。
「……君、リヤという名だったか。悪酔いして私を抱き込んだまま寝てしまってね。抜け出そうにも上手くいかなかったから、諦めて一緒に眠ったのだよ」
軽い口調で「酒癖が悪いのかね」と、小首を傾げながら尋ねてくる旅人に、リヤは寝床から素早く起き上がって「そんなことはない!」と激しく首を横に振った。
「そうかね? 何にせよ、身ぐるみ剥がされなくて幸いだったね。何かあれば家人が泣くよ」
「ああ、そうだな。……済まなかった」
苦笑しながら詫びを入れると、旅人はリヤの傍へ歩いて来て肩を軽く叩く。
「私はこの都に暫く滞在する。良ければまた、あの店で飲もう」
好意的な言葉に、胸の内がすっと軽くなり喜びに満ちていくのを感じた。
「ああ、いいとも! また飲もう。次は詫びに俺が奢る」
「詫びなどいい。……私の名はキュリオという。よろしく、リヤ」
リヤの笑顔を受けて、旅人キュリオの口元もまた綻んでいた。
「ん……?」
寝床の上で薄く目を開けたリヤは、抱き込んでいる者の髪に頬を摺り寄せた。
柔らかさはないが、抱き締めやすい細身の躰。艶やかな黒髪の合間からのぞく白いうなじは肌理細やかで、まどろみながら再び頬をすり寄せて心地良さに吐息を漏らす。
「起きたかね?」
腕の中から聞こえた穏やかな声に、はっとして瞼を見開く。
「あ……、す、済まない!」
「なかなか起きないから、どうしようかと思ったよ」
腕から解放されて寝床の上でやおら身を起こした旅人が、呆然としているリヤを口元に笑みを浮かべて見下ろしている。
「……お前」
昨夜はフードに隠されていた顔が、今は朝日の中で全て晒されていた。
濃い翡翠の色を宿した涼し気な瞳と、描いた様に優美な眉。すっと通った鼻筋と、それに続く薄く形の良い唇。艶のある黒髪に縁取られた白い細面の中に、それらが絶妙の配置で並んでいた。 この国の民が特徴としている褐色の肌と明るい髪色とは対照的な、典雅で中性的な異国の美しさだ。
「……その様な顔をしていたのか」
リヤは彼の姿に魅了され、そう呟いたまま食い入る様に見詰めることしか出来なかった。旅人はそんなリヤからふいと視線を逸らし簡素な寝床から降りると、椅子に掛けてあった外套を身に着けてフードを被る。顔が隠されると、漸く正気を取りせた。
「……君、リヤという名だったか。悪酔いして私を抱き込んだまま寝てしまってね。抜け出そうにも上手くいかなかったから、諦めて一緒に眠ったのだよ」
軽い口調で「酒癖が悪いのかね」と、小首を傾げながら尋ねてくる旅人に、リヤは寝床から素早く起き上がって「そんなことはない!」と激しく首を横に振った。
「そうかね? 何にせよ、身ぐるみ剥がされなくて幸いだったね。何かあれば家人が泣くよ」
「ああ、そうだな。……済まなかった」
苦笑しながら詫びを入れると、旅人はリヤの傍へ歩いて来て肩を軽く叩く。
「私はこの都に暫く滞在する。良ければまた、あの店で飲もう」
好意的な言葉に、胸の内がすっと軽くなり喜びに満ちていくのを感じた。
「ああ、いいとも! また飲もう。次は詫びに俺が奢る」
「詫びなどいい。……私の名はキュリオという。よろしく、リヤ」
リヤの笑顔を受けて、旅人キュリオの口元もまた綻んでいた。
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