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1 レンレ村のトトセ
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僕はトトセ。レンレという村に住んでる。
「おはようタタンさん」
「おはようトトセ。今日も一人で薬草摘みかい」
「うん! 僕も薬草をちゃんと覚えたからね。母さんにゆっくりしてもらいたいし」
最近やっと色んな薬草が見て分かるようになったんだよね。前は母さんが無理をして薬草摘みをしていたけれど、時々熱を出したりして大変だったんだ。
今まで母さんが僕を苦労して育ててくれたから、これからは僕が母さんを守りたいんだ。僕が物心つく前に居なくなったっていう、父さんの分まで。父さん、いつか帰って来てくれるかなぁ。
「そうかい。トトセも立派に働けるようになったんだねぇ。しっかり頑張りな。あっ、痛み止めの薬草を見つけたら摘んできてくれないかい。うちのジジイが腰を痛めててねぇ……」
「はいはい。見つけたら摘んでくるよ。お駄賃よろしくね」
近所に住んでるタタンおばあさんは、僕のお得意様になってくれてる。お駄賃は野菜とか美味しい手料理とか、たまに銅貨だったりもして、タタンさんが色んな物で払ってくれるから、いつもとても助かってる。
頼まれ事がなくてもおすそ分けだとか、作り過ぎたとかでも食べ物を持って来てくれるから、貰い過ぎている気もするけれど。
「気を付けて行っておいでよ」
「はーい! 行ってくるね!」
タタンさんに見送られながら、僕は大きな籠をしっかり背中に背負い直して森へ向かっていく。
「いたっ!」
突然、こつんと後ろ頭を小突かれて振り返ると、弓矢を背負った背の高い男の子が立っていた。
「お前、また薬草摘みかよ」
隣の家に住むレンドだ。
僕よりも体が大きくて腕も太くてずっと年上に見えるれけれど、これでも同い年。レンドの家は両親も兄弟もみんな狩人で、「俺のとこは、お前んとこと違って毎日たっぷり肉が食べられるんだぞ。羨ましいだろ」って、前に自慢してた。だから体が大きいのかな。
「うん、そうだよ。タタンさんに痛み止めも頼まれたし、母さんの熱冷ましも欲しいから」
「ふん。タタンの婆なんかに使われてんなよ。あの婆、ろくに金も払わないんだろ」
「駄目だよ婆なんて言ったら……。ちゃんとお駄賃くれるもん」
「ばっかだな。痛み止めを行商人から買うと幾らすると思ってんだよ」
「あれは偉い薬師さんが作ってるのだから高いのに決まってるでしょ。僕はばかじゃないもの。そのくらい知っているよ」
そこら辺に生えている草をむしるだけだから、高いお金なんて逆にいらない。軽く潰して痛いとこにペタッと貼るだけ。簡単だけどその分、薬師さんのより効きが悪いみたいだし。
それに、タタンさんは僕と母さんのことを、自分の娘と孫みたいにかわいがってくれるんだよ。悪く言われると気分が悪い。
「ちっ、トトセのくせに生意気だな」
「いっ!」
レンドはちょっと怒った顔をして、僕のおでこを指ではじいてきた。
「もう、レンドの方がばかだよ! ばかばか!」
「はあっ? この野郎、俺がせっかく親切で言ってやってんのに!」
「ちっとも親切じゃないから!」
相手にしていると日が暮れる。
レンドが「ほんとに生意気だなお前」って、またおでこを弾こうとするから、ぶんぶんと籠を振り回してやった。
「うわっ! おい、あぶねぇな!」
本気で振り回したのに、ひらっと体を捻って避けられた。おでこを弾かれずに済んだから十分だよね。当たらなかったのは悔しいけど。
「痛いことするからだよ。もう僕は行くからね」
「ふん。さっさと行けよ」
レンドはむすっとした顔をしてそっぽをむいた。
「レンドが意地悪しなければ、もうとっくに森に行けてたよ。レンドは狩りに行くんでしょ? 日が暮れると危ないんだから早く行かないと。気を付けてね」
体の大きいレンドは、僕よりも早く大人と同じように狩りの仕事を始めてる。やっと薬草摘みができるようになった僕とは大違いだ。でも、まだ子供なんだよね。僕にこんな風に意地悪するとことか。
「うるせぇな。かあちゃんかよ……。お前に言われなくても気を付ける。いい獲物が獲れても分けてやらねぇからな」
大きな獲物が獲れると、みんなに配ってくれることもあるんだよね。村のまとめ役をしてるレンドのお父さん……ファズさんはやさしくてかっこいいのに、何でこんなのが生まれるんだろうね。不思議だね。
「いらないよ。じゃあねレンド。無理しないでね」
「ほんとにうるせぇな」
そっぽを向いたまんまのレンドをほっといて、僕は森まで続く道を駆け足で進んだ。狩場と薬草摘みの場所は違うから、もう今日は意地悪されないんじゃないかな。
何が気に入らないのか知らないけれど、レンドは僕によく意地悪をする。さっきみたいに頭を小突かれたり、嫌なことを言われたり……ほとんど毎日だよ。もうなんなの。
僕の事、嫌いなのかな?
だったら構わなければいいのにね。レンドってよく分からない子なんだよ。
「おはようタタンさん」
「おはようトトセ。今日も一人で薬草摘みかい」
「うん! 僕も薬草をちゃんと覚えたからね。母さんにゆっくりしてもらいたいし」
最近やっと色んな薬草が見て分かるようになったんだよね。前は母さんが無理をして薬草摘みをしていたけれど、時々熱を出したりして大変だったんだ。
今まで母さんが僕を苦労して育ててくれたから、これからは僕が母さんを守りたいんだ。僕が物心つく前に居なくなったっていう、父さんの分まで。父さん、いつか帰って来てくれるかなぁ。
「そうかい。トトセも立派に働けるようになったんだねぇ。しっかり頑張りな。あっ、痛み止めの薬草を見つけたら摘んできてくれないかい。うちのジジイが腰を痛めててねぇ……」
「はいはい。見つけたら摘んでくるよ。お駄賃よろしくね」
近所に住んでるタタンおばあさんは、僕のお得意様になってくれてる。お駄賃は野菜とか美味しい手料理とか、たまに銅貨だったりもして、タタンさんが色んな物で払ってくれるから、いつもとても助かってる。
頼まれ事がなくてもおすそ分けだとか、作り過ぎたとかでも食べ物を持って来てくれるから、貰い過ぎている気もするけれど。
「気を付けて行っておいでよ」
「はーい! 行ってくるね!」
タタンさんに見送られながら、僕は大きな籠をしっかり背中に背負い直して森へ向かっていく。
「いたっ!」
突然、こつんと後ろ頭を小突かれて振り返ると、弓矢を背負った背の高い男の子が立っていた。
「お前、また薬草摘みかよ」
隣の家に住むレンドだ。
僕よりも体が大きくて腕も太くてずっと年上に見えるれけれど、これでも同い年。レンドの家は両親も兄弟もみんな狩人で、「俺のとこは、お前んとこと違って毎日たっぷり肉が食べられるんだぞ。羨ましいだろ」って、前に自慢してた。だから体が大きいのかな。
「うん、そうだよ。タタンさんに痛み止めも頼まれたし、母さんの熱冷ましも欲しいから」
「ふん。タタンの婆なんかに使われてんなよ。あの婆、ろくに金も払わないんだろ」
「駄目だよ婆なんて言ったら……。ちゃんとお駄賃くれるもん」
「ばっかだな。痛み止めを行商人から買うと幾らすると思ってんだよ」
「あれは偉い薬師さんが作ってるのだから高いのに決まってるでしょ。僕はばかじゃないもの。そのくらい知っているよ」
そこら辺に生えている草をむしるだけだから、高いお金なんて逆にいらない。軽く潰して痛いとこにペタッと貼るだけ。簡単だけどその分、薬師さんのより効きが悪いみたいだし。
それに、タタンさんは僕と母さんのことを、自分の娘と孫みたいにかわいがってくれるんだよ。悪く言われると気分が悪い。
「ちっ、トトセのくせに生意気だな」
「いっ!」
レンドはちょっと怒った顔をして、僕のおでこを指ではじいてきた。
「もう、レンドの方がばかだよ! ばかばか!」
「はあっ? この野郎、俺がせっかく親切で言ってやってんのに!」
「ちっとも親切じゃないから!」
相手にしていると日が暮れる。
レンドが「ほんとに生意気だなお前」って、またおでこを弾こうとするから、ぶんぶんと籠を振り回してやった。
「うわっ! おい、あぶねぇな!」
本気で振り回したのに、ひらっと体を捻って避けられた。おでこを弾かれずに済んだから十分だよね。当たらなかったのは悔しいけど。
「痛いことするからだよ。もう僕は行くからね」
「ふん。さっさと行けよ」
レンドはむすっとした顔をしてそっぽをむいた。
「レンドが意地悪しなければ、もうとっくに森に行けてたよ。レンドは狩りに行くんでしょ? 日が暮れると危ないんだから早く行かないと。気を付けてね」
体の大きいレンドは、僕よりも早く大人と同じように狩りの仕事を始めてる。やっと薬草摘みができるようになった僕とは大違いだ。でも、まだ子供なんだよね。僕にこんな風に意地悪するとことか。
「うるせぇな。かあちゃんかよ……。お前に言われなくても気を付ける。いい獲物が獲れても分けてやらねぇからな」
大きな獲物が獲れると、みんなに配ってくれることもあるんだよね。村のまとめ役をしてるレンドのお父さん……ファズさんはやさしくてかっこいいのに、何でこんなのが生まれるんだろうね。不思議だね。
「いらないよ。じゃあねレンド。無理しないでね」
「ほんとにうるせぇな」
そっぽを向いたまんまのレンドをほっといて、僕は森まで続く道を駆け足で進んだ。狩場と薬草摘みの場所は違うから、もう今日は意地悪されないんじゃないかな。
何が気に入らないのか知らないけれど、レンドは僕によく意地悪をする。さっきみたいに頭を小突かれたり、嫌なことを言われたり……ほとんど毎日だよ。もうなんなの。
僕の事、嫌いなのかな?
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