2 / 4
出会い 後編
しおりを挟む
「あの、どちら様ですか?」
「僕は内藤昌豊といいます。そしてこの人が馬場信春。覚えている、と聞きたいところだけどその様子難しいよね……」
「ごめんなさい、わからないです……」
富士見野高校近くにあるカフェにて。2人は山県昌景と名乗る人と対面していた。しかし残念ながら昌景は2人のことを知らないようで戸惑うばかり。
「一つだけ聞かせてくれ。君は長篠の戦いを知っているか?」
「えぇ、授業で習っているので」
「俺と昌豊、そして昌景の三人で参戦して共に戦った時のことは覚えているか?」
「な、なんのことでしょうか」
「そうか……」
これ以上の進展はないだろうと判断した2人は連絡先を渡して解散とした。
「あの人にも信春と同じ現象が起きてるってことだね」
「そうだな。だが戦の話を持ちかけたら少しだけ動揺を見せていた。完全に忘れているというわけではなさそうだ。俺たちのことは覚えていなくとも、過ごした記憶だけは残っている。次会う機会があれば思い出話をしてみようと思う」
昌景の記憶を思い出させる方法を模索しながら電車を乗り継ぎ、家までの帰路を歩いていく。
「写真があれば何か手がかりが掴めるかもしれないけど前世ではカメラは無かったから……うわっ!」
前から走って来た男にぶつかってしまい、昌豊は後ろによろけてしまう。
「す、すみません」
「大丈夫か?」
「は、はい……ってえ!?」
男が信春の顔を見た瞬間、慌てたような表情に変わる。
「あなたは……馬場信春さん!?」
見知らぬ人に名前を当てられ、信春は困惑する。しかし昌豊は動じることなく、言葉を紡いだ。
「彼のこと、知っているの?」
「もちろんです! ずっと探していましたから! あ、申し遅れました。僕は高坂昌信と申します。えっと、あなたは内藤昌豊さんですね?」
「そうだよ。どうして分かったの?」
「その話は僕の家でしても大丈夫ですか? この近くにありますので」
昌信の名乗る男の誘いを承諾し、2人は家に向かうことに。
「どうぞ」
昌豊と信春の目の前にお茶を差し出される。そして真向かいに昌信がテーブルの椅子に座った。
「まずどこから話しましょうか……とりあえず自己紹介からですね」
高坂昌信の名乗る男は富士見野大学情報学部の1年生。例の富士見野高校とは付属校という関係であるが外部生として入学している。そのため山県昌景の存在はニュースで知ったという。
「なぜ僕が2人の名前を知っているかという疑問から答えましょう。実は前世の記憶を持ったままこの世界に転生してしまったからなんです。なので2人と出会う前から名前は知っていましたし、共に戦場で戦った記憶も覚えています」
「そうなんだね、じゃあ、信玄様のことも知ってる?」
「知ってますよ。というか僕が古典を教えてもらった時の先生でしたよ。家庭教師ですけどね」
「「え!?」」
本当かと信春が詰め寄ると昌信は頷く。ここで自分たちの当主に関する情報を得られたのは大きい。
「連絡とか取れたりする?」
「出来ますよ。いまかけてみましょうか?」
そう言って昌信はスマホを取り出して武田信玄という人に電話をかける。しかし不在を告げるメッセージが流れ、電話を切ると首を振った。
「そもそもだけどなぜ御館様の連絡先を知ってるの?」
「お別れする時に教えてもらったんです。何かあった時のためにと」
「なるほど。ところで、今は一人暮らしか?」
「そうですけど……」
「もしよければ俺たちと一緒に暮らさないか?」
「はぁ!? なに言ってんの信春!」
「構いませんよ。あなたたちも信玄様のこと、探しているんですよね? それだったら別々で行動するよりも一緒のほうが見つかる可能性も上がると思うので」
「よし、決まりだな」
「よしじゃない!」
こうして流れで昌信とも同居生活を送ることになってしまった。
*
「結局何者だったんだろ……」
一方その頃、昌景は自室のベッドでぼんやりと天井を見つめながら考えをぐるぐると巡らせていた。
(あっちが僕のことを知っているのは無理ないけど、長篠がどうとか言ってたよね。三人で別れの盃を交わしたのは覚えてるけどそれ以外はなにも……どうしてかな)
「失礼するよ」
突然の来訪者と部屋に入られたことに驚きを隠せない。
「は、え、え!?」
「急に来て申し訳ない。私は武田信玄。君の担任に頼まれてやって来たんだ」
実は昌景の成績はあまり芳しくなく、常に低空飛行。特に数学と古典は常に赤点でこのままでは留年の可能性があると危惧した担任が個別に依頼し、家庭教師として信玄が派遣されたのである。
「今日から週2日、宿題等の面倒を見ることになるからそのつもりでよろしくね」
「やめてくれーー! 勉強は嫌だー!」
「僕は内藤昌豊といいます。そしてこの人が馬場信春。覚えている、と聞きたいところだけどその様子難しいよね……」
「ごめんなさい、わからないです……」
富士見野高校近くにあるカフェにて。2人は山県昌景と名乗る人と対面していた。しかし残念ながら昌景は2人のことを知らないようで戸惑うばかり。
「一つだけ聞かせてくれ。君は長篠の戦いを知っているか?」
「えぇ、授業で習っているので」
「俺と昌豊、そして昌景の三人で参戦して共に戦った時のことは覚えているか?」
「な、なんのことでしょうか」
「そうか……」
これ以上の進展はないだろうと判断した2人は連絡先を渡して解散とした。
「あの人にも信春と同じ現象が起きてるってことだね」
「そうだな。だが戦の話を持ちかけたら少しだけ動揺を見せていた。完全に忘れているというわけではなさそうだ。俺たちのことは覚えていなくとも、過ごした記憶だけは残っている。次会う機会があれば思い出話をしてみようと思う」
昌景の記憶を思い出させる方法を模索しながら電車を乗り継ぎ、家までの帰路を歩いていく。
「写真があれば何か手がかりが掴めるかもしれないけど前世ではカメラは無かったから……うわっ!」
前から走って来た男にぶつかってしまい、昌豊は後ろによろけてしまう。
「す、すみません」
「大丈夫か?」
「は、はい……ってえ!?」
男が信春の顔を見た瞬間、慌てたような表情に変わる。
「あなたは……馬場信春さん!?」
見知らぬ人に名前を当てられ、信春は困惑する。しかし昌豊は動じることなく、言葉を紡いだ。
「彼のこと、知っているの?」
「もちろんです! ずっと探していましたから! あ、申し遅れました。僕は高坂昌信と申します。えっと、あなたは内藤昌豊さんですね?」
「そうだよ。どうして分かったの?」
「その話は僕の家でしても大丈夫ですか? この近くにありますので」
昌信の名乗る男の誘いを承諾し、2人は家に向かうことに。
「どうぞ」
昌豊と信春の目の前にお茶を差し出される。そして真向かいに昌信がテーブルの椅子に座った。
「まずどこから話しましょうか……とりあえず自己紹介からですね」
高坂昌信の名乗る男は富士見野大学情報学部の1年生。例の富士見野高校とは付属校という関係であるが外部生として入学している。そのため山県昌景の存在はニュースで知ったという。
「なぜ僕が2人の名前を知っているかという疑問から答えましょう。実は前世の記憶を持ったままこの世界に転生してしまったからなんです。なので2人と出会う前から名前は知っていましたし、共に戦場で戦った記憶も覚えています」
「そうなんだね、じゃあ、信玄様のことも知ってる?」
「知ってますよ。というか僕が古典を教えてもらった時の先生でしたよ。家庭教師ですけどね」
「「え!?」」
本当かと信春が詰め寄ると昌信は頷く。ここで自分たちの当主に関する情報を得られたのは大きい。
「連絡とか取れたりする?」
「出来ますよ。いまかけてみましょうか?」
そう言って昌信はスマホを取り出して武田信玄という人に電話をかける。しかし不在を告げるメッセージが流れ、電話を切ると首を振った。
「そもそもだけどなぜ御館様の連絡先を知ってるの?」
「お別れする時に教えてもらったんです。何かあった時のためにと」
「なるほど。ところで、今は一人暮らしか?」
「そうですけど……」
「もしよければ俺たちと一緒に暮らさないか?」
「はぁ!? なに言ってんの信春!」
「構いませんよ。あなたたちも信玄様のこと、探しているんですよね? それだったら別々で行動するよりも一緒のほうが見つかる可能性も上がると思うので」
「よし、決まりだな」
「よしじゃない!」
こうして流れで昌信とも同居生活を送ることになってしまった。
*
「結局何者だったんだろ……」
一方その頃、昌景は自室のベッドでぼんやりと天井を見つめながら考えをぐるぐると巡らせていた。
(あっちが僕のことを知っているのは無理ないけど、長篠がどうとか言ってたよね。三人で別れの盃を交わしたのは覚えてるけどそれ以外はなにも……どうしてかな)
「失礼するよ」
突然の来訪者と部屋に入られたことに驚きを隠せない。
「は、え、え!?」
「急に来て申し訳ない。私は武田信玄。君の担任に頼まれてやって来たんだ」
実は昌景の成績はあまり芳しくなく、常に低空飛行。特に数学と古典は常に赤点でこのままでは留年の可能性があると危惧した担任が個別に依頼し、家庭教師として信玄が派遣されたのである。
「今日から週2日、宿題等の面倒を見ることになるからそのつもりでよろしくね」
「やめてくれーー! 勉強は嫌だー!」
0
あなたにおすすめの小説
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる