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一章【王城脱走編】
第十一話:亡霊教会
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何をされたのか、思い出すのすら悍ましかった。
部屋中に広がる血の海が、拷問の凄惨さを物語っている。あり得ない量の出血をしても尚、十字架の治癒魔法によりデオドラは命が繋がれていた。
もはや記憶すら曖昧だが、あまりの苦痛に死を懇願したかもしれない。隷属すると約束したかもしれない。しかし現在に至るまでアイゼルは拷問の手を休めなかったし、何より、常に『誅罰』が発動していた。今でさえもロイヤルギアスの毒魔法は終わる様子が見られない。
何分、あるいは何時間。もしくは何日経っただろうか。
それだけの体感時間を、地獄の責め苦に費やしていた。
思考すら疲れる。
鼓動すら億劫だ。
侮っていた。見栄を張っていた。
どれだけ屈強でも、人類最強でも、無敵ではないのだから。
壊れない人間など、存在する筈がないのだから。
「うふふふ、ふふふ、うふははッ! アハハハハハハハハハッ!!」
――耳が蕩ける。何かが響く。
鬼か悪魔が笑っていた。綺麗な色の女が、恐ろしい美声で鳴いている。
「凄いわ、凄いわ! もう七回も頭を割って脳をかき混ぜてるのに、まだ正気を保ってるんですの!? お腹を裂いても手足を刺しても、全く貴方の正気は衰えない!!」
「ぅ、ぁ、あ……」
「喋る余力は無いようですわね。でも、目はしっかり私のことを睨んでいる。それはまだ、正気と呼べるものですわ」
そう言う女の瞳に自分の姿が映り、戦慄した。
あらゆる肉を削がれ、身体を失ってしまったと思ったのに。もはや痛みを感じる部分なんて、きっと存在しないだろうと思っていたのに。
そこには、五体満足のデオドラ・ロイーゼがいた。
無限地獄が今から始まるらしい。
妖精への恩を一蹴した現代人になど屈するものか。デオドラは挑発のために開口するが、言葉と呼べない音が喉から漏れ出るだけだった。
「趣味全開でやってるのに、まだ足りないとは。ではでは、今度は全身をぱっくり開いて、余すところなく私がキスして差し上げますわ!! これはご褒美! そう、楽しませてくれるご褒美ですわ!! さぁ、感謝なさいゴミ虫が!!」
とろとろとろとろとろとろ。
腹が捩れた。物理的に。捩れたと言うか捻じれたと言うか。
解体されながら、デオドラは意識を手放すことすら許されない。
感覚が鈍化せず、新鮮な痛みが鮮烈に世界を駆け巡る。
痛いのに眠かった。
終わりの見えない地獄で眠ろうと、目を閉じたその時、何処かで扉が開け放たれた。
「アイゼル様!!」
「きゃあっ!? って、最高騎士!? 急に何ですの!?」
騎士の乱入に悪魔が驚いていた。何だか知らないが、ざまぁみろとデオドラは微笑んだ。
「時間が無いので率直にお伝えします! この城に亡霊教会が攻め入りました! 陛下より、至急避難せよとのお達しです!」
「教会が? このタイミングで?」
つい先刻まで絶え間なく狂乱していたアイゼルだが、教会という単語を聞いた途端に落ち着きを取り戻し、暫し沈黙した。
彼女が考え込んでいる間も、流れるような激痛は全く収束しようとしない。しかし、悪魔の嬌声を聞かずに済む間だけは、心に安らぎが訪れたような気がしていた。
「成る程。では、教会の目的は魔人の奪取――いえ、奪還と言うべきかしら。ともかく、あの連中はデオドラを盗むつもりでしょうね。
私だって、避難くらい一人で出来ますわ。最高騎士、貴方はデオドラを守りなさい。奪われると厄介です」
「……お言葉ですが第一王女よ。私は陛下より、貴方様の身を最優先にと命じられていますので」
騎士は王女の細い総身を掴み上げると、軽々と自らの肩に乗せた。
「ちょ、最高騎士! 子供扱いは辞めて欲しいですわ!!」
「良いから、今は黙って私に助けられてください!!」
次の瞬間、騎士の目がデオドラへと向く。
不愉快ではなかった。直感的に、優しい温度を灯している瞳だと察知できたから。
「……デオドラ・ロイーゼ」
「ぁ……?」
「不運な人ですね。貴方も。では、また後程」
騎士はそう言い残すと、女を担いで立ち去った。
少しすると『誅罰』が終了する。
使役者と一定の距離が空くと自然に停止する仕組みなのか、視界外のアイゼルが意図的に解除したのか、もはやどうでも良い。
とにかく眠くて、デオドラは抵抗することなく強烈な睡魔を受け入れた。
×××
『――ようやく意識が繋がったか』
果たして夢か、現実か。
ここはデオドラの内界である。この心理世界に存在する事象は全て彼の妄想の筈だ。しかし、そこで聞こえた懐かしい声は、虚構と断言するには鮮明すぎた。
まるで、外から呼びかけられたかのような。
『答えろデオドラ。我が息子よ。どうしてまだそんな所にいる?』
「……母さんこそ、どうしてそんな怒った顔をしているんだ?」
『やれやれ、質問に質問で返すか』
妖精王は朗らかな微笑を浮かべた。
『デオドラ、怒った顔をしているのはお前の方さ』
「俺が怒ってる? 誰に?」
『恥じるな。むしろあんなことをされて、許せる方が異常だ』
母の声が心に溶け込む。幸福なぬくもりに包まれて、頬に涙が流れた。
落ちた滴は柔らかい指で受け止められる。
頬に触れられ、身を委ねた。
『人間が好きだった。だから助けたのに、奴らは裏切った。憎い、殺したい、滅ぼしたい、許さない。湧き出る感情が、我を突き動かして止まらない。
お前も、我の息子ならきっと、そうなんだろう?』
だがしかし、それはデオドラの知る妖精王の言葉ではない。
果てしない慈愛に満ちた究極の生物だった母の、善意ある導きの天啓ではない。
『苦しいだろう』
「……いや」
『辛いだろう』
「別に」
『痛いだろう』
「…………まさか。俺は妖精王・フェアリスの息子だぜ。泣き言は言わないよ」
きっと昔から、そうだった。
壮烈な兄と、厳格な母に囲まれて、世界で最も偉大な家族に報いるため、世界で最も強い男を演じてきた。誰にでも誇れる自分を保つため、意固地になって独善的な特攻を続けた。
弱音も吐いたし、向上心を捨てたこともある。だが、挑戦を諦めたことはなかった。
何にも縋らず、誰にも頼らず生きてきた自負と矜持がある。だから、妖精王の甘美な声に泣きついたり出来ないのだ。
息子の背伸びを見守る母は、ふっと微笑み溢す。
『お前は優しい子だな。誰かを助けるばかりで、誰にも助けを乞わない。だから、お前を助けるのはいつも我か、或いはジェスターの仕事だった』
「もう俺はとっくに親離れしてるよ」
『そうかもしれない。我が子離れできず、ジェスターが弟離れできず、お前を失い嘆いているだけかもしれない。だからこうして会えて、凄く我は幸せだぞ』
妖精王が見せる聖母の一面は、眩しい程に美しい。
だが、時折ふと別の側面が顔を覗かせる。
瘴気とも邪気とも言い難い、殺意に似た無限の憎悪。愛情深い性質をそのまま反転させたかのように、底のない害意が流れ出る。
『あと一か月待っていろ』
この世の悲憤を全て集めたものよりも濃いフェアリスの声は、どうしようもなく芯から黒に染まっていた。
『一か月後、人間を滅ぼす。お前も手伝え』
「……それは」
二つ返事で了承はできなかった。
賛同してしまえば、戻れない場所に引きずり込まれてしまうと直感したからでもあり。
目の前の女が、本当の母かどうか確信が持てなかったからでもある。
ただ一つ言えるのは、眼前の妖精王が、デオドラの母と同じ顔をしているということだけだった。
『信じて貰えるか分からないが敢えて言おう。
――お前のことも、ジェスターのことも、我は未だに変わらず愛しているよ。共に手を取り、世界を壊そう。信頼できるのは妖精と家族だけだ……そのことを、よく覚えておきなさい』
×××
「……かあ、さん……」
届くかどうかも分からない声が紡がれた。
無意識の内に母を呼び止めても、現実は無情にもデオドラを元の世界へと引き戻した。
そこでふとデオドラは、精神世界での妖精王と立ち代わるように、複数の気配が自分を囲んでいることに気が付く。
レイノールともセリアとも、アイゼルとも最高騎士とも違う、全く知らない気配ばかり。
ゆっくりと目を開く。
――少女と目が合った。
「魔人様がお目覚めなのです!!」
その少女は両手を上げて歓喜した。
藍色の髪を揺らし、左右非対称の翡翠と紅の瞳でデオドラを遇する。
純朴な素振りや、幼い顔立ち、身の丈から、年の頃は十代中盤かそれに届かないくらいだろうと推察できる。
「お迎えに上がったのです!!」
「誰、だ」
回復しつつある言語能力で少女の正体を問う。
いや、疑問なのは少女の素性だけではない。二重回しの黒い外套という装束で統一された、周囲の不気味な集団な何者なのか。
デオドラの疑念に真摯に応えるべく、少女は黒衣の端を持ち上げて恭しく一礼した。
「お初にお目にかかるのです、魔人様!」
敵意は感じない。
その一言だけで、少女たちが自分の味方なのだと理解できた。
――しかし。
「千年の時を経て、誓いは此処に果たされた!
我々は亡霊教会。魔人様の従順なる下僕なのです!」
――亡霊教会と名乗った彼女たちは、『デオドラ・ロイーゼ』の味方でなく、『災厄の魔人』の従僕だったのだ。
部下を侍らせた覚えなどないデオドラは、何処か諦観した面持ちを繕うと、糸が切れたかのように俯いた。
(……意味が、分からない。……疲れた)
眠気は抜けていない。
今は無性に、眠り続けたい気分だった。
部屋中に広がる血の海が、拷問の凄惨さを物語っている。あり得ない量の出血をしても尚、十字架の治癒魔法によりデオドラは命が繋がれていた。
もはや記憶すら曖昧だが、あまりの苦痛に死を懇願したかもしれない。隷属すると約束したかもしれない。しかし現在に至るまでアイゼルは拷問の手を休めなかったし、何より、常に『誅罰』が発動していた。今でさえもロイヤルギアスの毒魔法は終わる様子が見られない。
何分、あるいは何時間。もしくは何日経っただろうか。
それだけの体感時間を、地獄の責め苦に費やしていた。
思考すら疲れる。
鼓動すら億劫だ。
侮っていた。見栄を張っていた。
どれだけ屈強でも、人類最強でも、無敵ではないのだから。
壊れない人間など、存在する筈がないのだから。
「うふふふ、ふふふ、うふははッ! アハハハハハハハハハッ!!」
――耳が蕩ける。何かが響く。
鬼か悪魔が笑っていた。綺麗な色の女が、恐ろしい美声で鳴いている。
「凄いわ、凄いわ! もう七回も頭を割って脳をかき混ぜてるのに、まだ正気を保ってるんですの!? お腹を裂いても手足を刺しても、全く貴方の正気は衰えない!!」
「ぅ、ぁ、あ……」
「喋る余力は無いようですわね。でも、目はしっかり私のことを睨んでいる。それはまだ、正気と呼べるものですわ」
そう言う女の瞳に自分の姿が映り、戦慄した。
あらゆる肉を削がれ、身体を失ってしまったと思ったのに。もはや痛みを感じる部分なんて、きっと存在しないだろうと思っていたのに。
そこには、五体満足のデオドラ・ロイーゼがいた。
無限地獄が今から始まるらしい。
妖精への恩を一蹴した現代人になど屈するものか。デオドラは挑発のために開口するが、言葉と呼べない音が喉から漏れ出るだけだった。
「趣味全開でやってるのに、まだ足りないとは。ではでは、今度は全身をぱっくり開いて、余すところなく私がキスして差し上げますわ!! これはご褒美! そう、楽しませてくれるご褒美ですわ!! さぁ、感謝なさいゴミ虫が!!」
とろとろとろとろとろとろ。
腹が捩れた。物理的に。捩れたと言うか捻じれたと言うか。
解体されながら、デオドラは意識を手放すことすら許されない。
感覚が鈍化せず、新鮮な痛みが鮮烈に世界を駆け巡る。
痛いのに眠かった。
終わりの見えない地獄で眠ろうと、目を閉じたその時、何処かで扉が開け放たれた。
「アイゼル様!!」
「きゃあっ!? って、最高騎士!? 急に何ですの!?」
騎士の乱入に悪魔が驚いていた。何だか知らないが、ざまぁみろとデオドラは微笑んだ。
「時間が無いので率直にお伝えします! この城に亡霊教会が攻め入りました! 陛下より、至急避難せよとのお達しです!」
「教会が? このタイミングで?」
つい先刻まで絶え間なく狂乱していたアイゼルだが、教会という単語を聞いた途端に落ち着きを取り戻し、暫し沈黙した。
彼女が考え込んでいる間も、流れるような激痛は全く収束しようとしない。しかし、悪魔の嬌声を聞かずに済む間だけは、心に安らぎが訪れたような気がしていた。
「成る程。では、教会の目的は魔人の奪取――いえ、奪還と言うべきかしら。ともかく、あの連中はデオドラを盗むつもりでしょうね。
私だって、避難くらい一人で出来ますわ。最高騎士、貴方はデオドラを守りなさい。奪われると厄介です」
「……お言葉ですが第一王女よ。私は陛下より、貴方様の身を最優先にと命じられていますので」
騎士は王女の細い総身を掴み上げると、軽々と自らの肩に乗せた。
「ちょ、最高騎士! 子供扱いは辞めて欲しいですわ!!」
「良いから、今は黙って私に助けられてください!!」
次の瞬間、騎士の目がデオドラへと向く。
不愉快ではなかった。直感的に、優しい温度を灯している瞳だと察知できたから。
「……デオドラ・ロイーゼ」
「ぁ……?」
「不運な人ですね。貴方も。では、また後程」
騎士はそう言い残すと、女を担いで立ち去った。
少しすると『誅罰』が終了する。
使役者と一定の距離が空くと自然に停止する仕組みなのか、視界外のアイゼルが意図的に解除したのか、もはやどうでも良い。
とにかく眠くて、デオドラは抵抗することなく強烈な睡魔を受け入れた。
×××
『――ようやく意識が繋がったか』
果たして夢か、現実か。
ここはデオドラの内界である。この心理世界に存在する事象は全て彼の妄想の筈だ。しかし、そこで聞こえた懐かしい声は、虚構と断言するには鮮明すぎた。
まるで、外から呼びかけられたかのような。
『答えろデオドラ。我が息子よ。どうしてまだそんな所にいる?』
「……母さんこそ、どうしてそんな怒った顔をしているんだ?」
『やれやれ、質問に質問で返すか』
妖精王は朗らかな微笑を浮かべた。
『デオドラ、怒った顔をしているのはお前の方さ』
「俺が怒ってる? 誰に?」
『恥じるな。むしろあんなことをされて、許せる方が異常だ』
母の声が心に溶け込む。幸福なぬくもりに包まれて、頬に涙が流れた。
落ちた滴は柔らかい指で受け止められる。
頬に触れられ、身を委ねた。
『人間が好きだった。だから助けたのに、奴らは裏切った。憎い、殺したい、滅ぼしたい、許さない。湧き出る感情が、我を突き動かして止まらない。
お前も、我の息子ならきっと、そうなんだろう?』
だがしかし、それはデオドラの知る妖精王の言葉ではない。
果てしない慈愛に満ちた究極の生物だった母の、善意ある導きの天啓ではない。
『苦しいだろう』
「……いや」
『辛いだろう』
「別に」
『痛いだろう』
「…………まさか。俺は妖精王・フェアリスの息子だぜ。泣き言は言わないよ」
きっと昔から、そうだった。
壮烈な兄と、厳格な母に囲まれて、世界で最も偉大な家族に報いるため、世界で最も強い男を演じてきた。誰にでも誇れる自分を保つため、意固地になって独善的な特攻を続けた。
弱音も吐いたし、向上心を捨てたこともある。だが、挑戦を諦めたことはなかった。
何にも縋らず、誰にも頼らず生きてきた自負と矜持がある。だから、妖精王の甘美な声に泣きついたり出来ないのだ。
息子の背伸びを見守る母は、ふっと微笑み溢す。
『お前は優しい子だな。誰かを助けるばかりで、誰にも助けを乞わない。だから、お前を助けるのはいつも我か、或いはジェスターの仕事だった』
「もう俺はとっくに親離れしてるよ」
『そうかもしれない。我が子離れできず、ジェスターが弟離れできず、お前を失い嘆いているだけかもしれない。だからこうして会えて、凄く我は幸せだぞ』
妖精王が見せる聖母の一面は、眩しい程に美しい。
だが、時折ふと別の側面が顔を覗かせる。
瘴気とも邪気とも言い難い、殺意に似た無限の憎悪。愛情深い性質をそのまま反転させたかのように、底のない害意が流れ出る。
『あと一か月待っていろ』
この世の悲憤を全て集めたものよりも濃いフェアリスの声は、どうしようもなく芯から黒に染まっていた。
『一か月後、人間を滅ぼす。お前も手伝え』
「……それは」
二つ返事で了承はできなかった。
賛同してしまえば、戻れない場所に引きずり込まれてしまうと直感したからでもあり。
目の前の女が、本当の母かどうか確信が持てなかったからでもある。
ただ一つ言えるのは、眼前の妖精王が、デオドラの母と同じ顔をしているということだけだった。
『信じて貰えるか分からないが敢えて言おう。
――お前のことも、ジェスターのことも、我は未だに変わらず愛しているよ。共に手を取り、世界を壊そう。信頼できるのは妖精と家族だけだ……そのことを、よく覚えておきなさい』
×××
「……かあ、さん……」
届くかどうかも分からない声が紡がれた。
無意識の内に母を呼び止めても、現実は無情にもデオドラを元の世界へと引き戻した。
そこでふとデオドラは、精神世界での妖精王と立ち代わるように、複数の気配が自分を囲んでいることに気が付く。
レイノールともセリアとも、アイゼルとも最高騎士とも違う、全く知らない気配ばかり。
ゆっくりと目を開く。
――少女と目が合った。
「魔人様がお目覚めなのです!!」
その少女は両手を上げて歓喜した。
藍色の髪を揺らし、左右非対称の翡翠と紅の瞳でデオドラを遇する。
純朴な素振りや、幼い顔立ち、身の丈から、年の頃は十代中盤かそれに届かないくらいだろうと推察できる。
「お迎えに上がったのです!!」
「誰、だ」
回復しつつある言語能力で少女の正体を問う。
いや、疑問なのは少女の素性だけではない。二重回しの黒い外套という装束で統一された、周囲の不気味な集団な何者なのか。
デオドラの疑念に真摯に応えるべく、少女は黒衣の端を持ち上げて恭しく一礼した。
「お初にお目にかかるのです、魔人様!」
敵意は感じない。
その一言だけで、少女たちが自分の味方なのだと理解できた。
――しかし。
「千年の時を経て、誓いは此処に果たされた!
我々は亡霊教会。魔人様の従順なる下僕なのです!」
――亡霊教会と名乗った彼女たちは、『デオドラ・ロイーゼ』の味方でなく、『災厄の魔人』の従僕だったのだ。
部下を侍らせた覚えなどないデオドラは、何処か諦観した面持ちを繕うと、糸が切れたかのように俯いた。
(……意味が、分からない。……疲れた)
眠気は抜けていない。
今は無性に、眠り続けたい気分だった。
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