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エピソード1-1:赤井vs通り魔
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俺たちの地球に、よそ者がやってきてから60年くらい経った。
小学校の歴史の授業で習うことだ。誰だって知っている。
戦後の歴史、1960年代の部分に〈巨大生物災害〉がどうの〈外惑星人の受け入れ〉がこうのと、1ページくらい割いて掲載されている。
中学、高校だともう少しページが割かれているが、今のガキどもは習ってもすぐに忘れる。
それくらい“どうでも良い”歴史なんだ。
『早く殺すとこ見せろよ』
『いつまでチンタラ歩いてんだハゲ』
スマホに映る配信ページのコメント欄で、そのバカどもが喚いている。
「急かすなよ」
俺はイラ立ちを抑え、息を殺すように呟いた。
空気の読めない新参はムカつく。ゴチャゴチャとうるさい。
だが、それが心地いい。
煽るザコどもへの殺意で頭の奥がじわぁっ……と熱くなる。
これは魂のアイドリングなんだ。
「すぐ……エンカウントだ」
俺の視点と同軸の固定カメラが移すのは、薄暗い秋の夜道。
現在時刻は午前1時。
終電の通り過ぎた線路沿いの、人気のない路地。
監視カメラだらけの現代でも穴はいくらでもある。首都圏から川一つ越えた北関東の駅周辺なぞ、メインストリートを外れれば穴場だらけ。
そう──ここは穴場なんだ。
殺人の穴場。
人間じゃない奴が人間を殺せる、穴場なんだ。
100メートル先に人影が見えた。
歩いている。
背格好、歩幅、足音から判断すると女。ややフラついている。酒を飲んでいるんだろう。
アレは、違う。
俺の目当てじゃない。
『ヤバくない?』
『助けてやれよ』
『いい餌じゃん』
スマホに走るコメント──最後のそれは、俺も思った。
でも、どうしようか。
助ける? そしたらここまで来た交通費が無駄になる。
見殺し? 配信的にはそっちの方が盛り上がる。俺の評判は落ちる。でも、それはそれで美味しい。
「どうしよっかなー」
抑揚のない声で呟く。
迷っていると、100メートル先で事態が動いた。
何かがコンクリート塀を乗り越えて、シュッ!
と、空裂音がした。
「あちゃー」
電灯の下、女の体が切断されて転がっていた。
残念、手遅れ、バラバラだ。
女を切断した張本人が、猛スピードで走り去る。
「キケェ―――――ッッ!」
人間ではない影が、人間ではない声を上げて逃げていく。
いや、逃げる──のではないな。
目的を達成したから、歓喜と勝利の雄叫びを上げての凱旋だ。
『あーあ、死んじゃった』
『え、マジ……?』
『はよ通報』
『とっとと追えよ』
んなことは言われなくても分かってるんだよ。
俺は全速力で駆けだす。
100メートル先のバラバラ死体は避けて通る。
視聴者サービスで死体を一瞬映す。見事な六分割。即死だった。鮮やかな切り口だからか、意外と出血は少ない。
「ふっ、ふっ、ふっ」
呼吸のペースはリズム良く。
走る俺の肉体は加速していく。
「ふっ、ふっ、ふっ」
人間ではない影の背中が見えてきた。
シルエットが大体判別できる。
細身で筋肉質の体。肌の色はたぶん銀色。異様に長い両腕。腕の先端は刃物になっている。
『バケモンじゃん』
『妖怪かな?』
分かっていてもネタバレしない視聴者はマナーがいい。
奴が僅かに速度を落とす。横断歩道に差し掛かったからだ。
この意味が分かるか、視聴者ども?
『バケモノでも轢かれると死ぬ』
そういうこと。
横断歩道の信号は赤。タイミングよく、トラックが車道を横切る。。
奴の動きが止まって──
「はい! 追いついた!」
俺は勢いをつけたまま、奴の背中に飛び蹴りをかました。
トラックに衝突させるつもりだったが、残念なことにトラックは通過。
奴は車道に顔面を擦りつけて転倒した。
「アァーーーッ!」
打って代わって、奴は人間のような悲鳴を上げた。
それもそのはず。
奴の姿かたちは、人間に変わっていたからだ。
「はっ」
思わず笑みがこぼれた。
俺の目の前には、顔に擦り傷を作って、すっかり怯えた様子の外国人が尻もちをついている。
「アゥゥ……ナンデスカ、アナタ……?」
片言の日本語だ。
確かに一見すると外国人だが、見た目がチグハグだ。ラテン系と東南アジア系とインド系がごっちゃになったパズルのような風貌。こんな都合の良いハーフだかクォーターがいるか? なんと両目の色まで違う。白目と黒目の比率も逆だ。
つまり、こいつは擬態がヘタクソなんだ。
「はは。そういうの良いから。やめようぜ?」
良くあるパターンだ。どいつもこいつも、こういう反応をするんだ。マニュアルでも配布されてるんだろうか?
『さあ、くるぞくるぞ』
『いつもの台詞が』
『魔法の言葉だ!』
視聴者はパターンが好きだ。待ち望んでいる。
奴は魚みたいにパクパクと口を開閉させて、視聴者の期待に応えてくれた。
「ワタシ、ニホンゴワカラナーイ……」
はい、きたよ! お決まりの台詞!
『キタ――――!』
『なんでも許してくれる魔法の呪文だ~~!』
『殺せ殺せはよ殺せ』
視聴者がドッと湧いた。
俺も眼下の素晴らしきエンターテイナーに心の中で拍手を送った。
「オゥイェース。オレも宇宙語ワカラナーイ♪」
そう言って、俺はポケットからアルコールスプレーを取り出した。
お手軽な消毒用エタノールを、プシュッと噴射。
「日本語分からないみたいだから説明しても無駄だと思うけどよ、エタノールって簡単に火が点くんだわ」
プシュ、プシュ、プシュ、と奴の体に向かって噴射、噴射、噴射。
「今からお前を燃やそうと思う。ああ、でも日本語分からないんだよなあ?」
おやおや? おかしいな?
日本語分からないはずなのに、奴の表情が変わっていくぞ?
怯えた被害者の顔から、無表情のゴムマスクみたいな顔に……!
「はは、日本語分かってんじゃねぇかよ?」
俺はもう、イキかけていた。
戦争が始まる直前は、気持ちが良い。
奴が人間の皮を脱ぐ。顔面が真っ二つに割れて、中身の正体が見えた。トカゲ面の宇宙人野郎!
頭の奥がカッと熱くなる。
イグニッションの時だ。脳のエンジンに火が点く。真っ赤に爆発する!
「赤井・ファイトォ!」
これは俺のエンジンキーを回す合図の言葉だ。
開戦を告げるゴングなんだ。
「キケェ――――ッ!」
奇声を上げて、奴が両手を振り上げた。
両手は人体を容易に切断する剣になっている。変な宇宙人だよな? この手でどうやって飯食ってんだろうな?
俺は迷うことなく、奴の両腕の間に踏み込んだ。
「ほれ?」
次の瞬間には、俺の拳が奴の首に、エラみたいな呼吸器官に突き刺さっていた。
「ギッ、ギッ、ゲッ……!」
奴は呼吸を止められ、両腕をバタバタと不様に振り回す。
この対応、完全に素人だ。
俺は奴の背後に回って、何度も呼吸器官を抉るように殴り続けた。
「このヒーク星人って奴の両手は鋭利な刃物だが、間合いの内側に入れば何も出来ない。背中から拘束すれば、この通りサンドバッグだ。こいつらは骨格の都合上、背中まで手が届かないのさ!」
素人の視聴者にも分かるよう詳しく説明してやった。
『へー、頭脳バトルやん』
『オ、ナイス説明』
『BEU-JAPAAAAAAAN!!!!!!!!』
最後のコメントは常連の外国人のものだ。意味は良く分からないが、いつもコメントと同時に高額の投げ銭をしてくれる。
ヒーク星人を一発殴ることに、小気味いい効果音と共に視聴者から銭が飛んでくる。
「いいよねぇ~? ブッ殺しても良い奴を殺して金貰えんのは最高だよなぁ~~!」
日本語が分かるヒーク星人の耳元で、俺は絶頂の声を上げた。
脆弱な呼吸器官を潰されたヒーク星人は血泡を吹いている。爬虫類のような目が悲痛に何かを訴えている。
「え、なに? 人間殺しまくってたくせに? 自分が負けそうになったら被害者面か~? オイ、マジで笑えんなこのクソ宇宙人」
俺は笑顔で、ヒーク星人の首に腕を回した。
「おーい! 今まで何人殺した~~?」
ヒーク星人に聞いたのだが、返答できる状態ではなかった。
代わりに、視聴者たちがコメントしてくれた。
『12人』
『さっきので13人目だ』
『じゃブッ殺されても因果応報な』
『はよ死ねやカスwwwwwwwww』
配信も盛り上がってまいりました。
この動画の生放送は外国の戦争や殺人事件、悲惨事故の動画を見るのと大して変わらない。現代人はスナッフ動画に慣れ過ぎた
殺しても良い奴を殺す。大義名分ありの悪党成敗。この共通意識と集団心理のバニラシェイクは人間の自我も良識も倫理観も甘く溶かす。
動画配信の生放送は観客参加型のエンターテイメントだ!
「宇宙人は死ね!!!」
俺は死刑宣告と同時に、体重と腕力でヒーク星人の首をヘシ折った。
ゴキュ……という重く鈍い骨折音は、地球人と変わらない。
スマホからは、投げ銭の効果音が幾重にも重なるのが聞こえた。
『やったぜ』
『ざまあwwwwww』
『連続通り魔事件解決~~!』
視聴者は処刑ショーに満足したようだ。
ヒーク星人の絶命を確認すると、俺はその場から離れた。
15メートルほど離れると、ヒーク星人の死体は爆発した。
「宇宙人て、死ぬと爆発するんだよなあ。なんでだろうな?」
俺はおどけながら、発泡スチロールのように弾けるヒーク星人の様子を撮影する。
視聴者も爆発の理由は分からないようで
『なんでじゃろ?』
『破壊工作員だから証拠隠滅のために自爆する』
『死体を地球人に調べられたくないから?』
各々好き勝手に考察して盛り上がっていた。
この熱を維持したまま、絶頂のままで終わりたい。
「今回の赤井vsチャンネルはここまで。生きてたら、またお会うぜ?」
簡潔に別れを告げて、俺は生放送を終了した。
俺の名は赤井通(あかいとおる)。
私人抹殺系配信者だ。
俺は、人権のないバケモノを殺して稼いでいる。
「あ~あ~↑今日もいい仕事したなぁ~~↑↑」
ぐっと背筋を伸ばしてストレッチして、スマホをドブ川に投げ捨てた。
もう用済みの道具だ。あの端末情報は動画サイトのブラックリスト入りしたので、もう使えない。
ヒーク星人の爆発跡の近くに、奴の使っていたスマホが落ちている。
拾って電源を入れると、使える状態だった。
地球のスマホは宇宙人の生体認証には対応していない。基本、奴らはロックを掛けられない。
「戦利品ゲット~~」
次回は、このスマホでアカウントを作って配信する。
今の日本、殺して良い奴のネタは……いくらでもある。
●この世界の地球の状況…1960年代から公に外惑星人の移住を受け入れている。彼らは表面的には手厚く保護されているが、日本を含む大半の国の外惑星人に関する法律をよく読むと“基本的人権”は認められていない。
小学校の歴史の授業で習うことだ。誰だって知っている。
戦後の歴史、1960年代の部分に〈巨大生物災害〉がどうの〈外惑星人の受け入れ〉がこうのと、1ページくらい割いて掲載されている。
中学、高校だともう少しページが割かれているが、今のガキどもは習ってもすぐに忘れる。
それくらい“どうでも良い”歴史なんだ。
『早く殺すとこ見せろよ』
『いつまでチンタラ歩いてんだハゲ』
スマホに映る配信ページのコメント欄で、そのバカどもが喚いている。
「急かすなよ」
俺はイラ立ちを抑え、息を殺すように呟いた。
空気の読めない新参はムカつく。ゴチャゴチャとうるさい。
だが、それが心地いい。
煽るザコどもへの殺意で頭の奥がじわぁっ……と熱くなる。
これは魂のアイドリングなんだ。
「すぐ……エンカウントだ」
俺の視点と同軸の固定カメラが移すのは、薄暗い秋の夜道。
現在時刻は午前1時。
終電の通り過ぎた線路沿いの、人気のない路地。
監視カメラだらけの現代でも穴はいくらでもある。首都圏から川一つ越えた北関東の駅周辺なぞ、メインストリートを外れれば穴場だらけ。
そう──ここは穴場なんだ。
殺人の穴場。
人間じゃない奴が人間を殺せる、穴場なんだ。
100メートル先に人影が見えた。
歩いている。
背格好、歩幅、足音から判断すると女。ややフラついている。酒を飲んでいるんだろう。
アレは、違う。
俺の目当てじゃない。
『ヤバくない?』
『助けてやれよ』
『いい餌じゃん』
スマホに走るコメント──最後のそれは、俺も思った。
でも、どうしようか。
助ける? そしたらここまで来た交通費が無駄になる。
見殺し? 配信的にはそっちの方が盛り上がる。俺の評判は落ちる。でも、それはそれで美味しい。
「どうしよっかなー」
抑揚のない声で呟く。
迷っていると、100メートル先で事態が動いた。
何かがコンクリート塀を乗り越えて、シュッ!
と、空裂音がした。
「あちゃー」
電灯の下、女の体が切断されて転がっていた。
残念、手遅れ、バラバラだ。
女を切断した張本人が、猛スピードで走り去る。
「キケェ―――――ッッ!」
人間ではない影が、人間ではない声を上げて逃げていく。
いや、逃げる──のではないな。
目的を達成したから、歓喜と勝利の雄叫びを上げての凱旋だ。
『あーあ、死んじゃった』
『え、マジ……?』
『はよ通報』
『とっとと追えよ』
んなことは言われなくても分かってるんだよ。
俺は全速力で駆けだす。
100メートル先のバラバラ死体は避けて通る。
視聴者サービスで死体を一瞬映す。見事な六分割。即死だった。鮮やかな切り口だからか、意外と出血は少ない。
「ふっ、ふっ、ふっ」
呼吸のペースはリズム良く。
走る俺の肉体は加速していく。
「ふっ、ふっ、ふっ」
人間ではない影の背中が見えてきた。
シルエットが大体判別できる。
細身で筋肉質の体。肌の色はたぶん銀色。異様に長い両腕。腕の先端は刃物になっている。
『バケモンじゃん』
『妖怪かな?』
分かっていてもネタバレしない視聴者はマナーがいい。
奴が僅かに速度を落とす。横断歩道に差し掛かったからだ。
この意味が分かるか、視聴者ども?
『バケモノでも轢かれると死ぬ』
そういうこと。
横断歩道の信号は赤。タイミングよく、トラックが車道を横切る。。
奴の動きが止まって──
「はい! 追いついた!」
俺は勢いをつけたまま、奴の背中に飛び蹴りをかました。
トラックに衝突させるつもりだったが、残念なことにトラックは通過。
奴は車道に顔面を擦りつけて転倒した。
「アァーーーッ!」
打って代わって、奴は人間のような悲鳴を上げた。
それもそのはず。
奴の姿かたちは、人間に変わっていたからだ。
「はっ」
思わず笑みがこぼれた。
俺の目の前には、顔に擦り傷を作って、すっかり怯えた様子の外国人が尻もちをついている。
「アゥゥ……ナンデスカ、アナタ……?」
片言の日本語だ。
確かに一見すると外国人だが、見た目がチグハグだ。ラテン系と東南アジア系とインド系がごっちゃになったパズルのような風貌。こんな都合の良いハーフだかクォーターがいるか? なんと両目の色まで違う。白目と黒目の比率も逆だ。
つまり、こいつは擬態がヘタクソなんだ。
「はは。そういうの良いから。やめようぜ?」
良くあるパターンだ。どいつもこいつも、こういう反応をするんだ。マニュアルでも配布されてるんだろうか?
『さあ、くるぞくるぞ』
『いつもの台詞が』
『魔法の言葉だ!』
視聴者はパターンが好きだ。待ち望んでいる。
奴は魚みたいにパクパクと口を開閉させて、視聴者の期待に応えてくれた。
「ワタシ、ニホンゴワカラナーイ……」
はい、きたよ! お決まりの台詞!
『キタ――――!』
『なんでも許してくれる魔法の呪文だ~~!』
『殺せ殺せはよ殺せ』
視聴者がドッと湧いた。
俺も眼下の素晴らしきエンターテイナーに心の中で拍手を送った。
「オゥイェース。オレも宇宙語ワカラナーイ♪」
そう言って、俺はポケットからアルコールスプレーを取り出した。
お手軽な消毒用エタノールを、プシュッと噴射。
「日本語分からないみたいだから説明しても無駄だと思うけどよ、エタノールって簡単に火が点くんだわ」
プシュ、プシュ、プシュ、と奴の体に向かって噴射、噴射、噴射。
「今からお前を燃やそうと思う。ああ、でも日本語分からないんだよなあ?」
おやおや? おかしいな?
日本語分からないはずなのに、奴の表情が変わっていくぞ?
怯えた被害者の顔から、無表情のゴムマスクみたいな顔に……!
「はは、日本語分かってんじゃねぇかよ?」
俺はもう、イキかけていた。
戦争が始まる直前は、気持ちが良い。
奴が人間の皮を脱ぐ。顔面が真っ二つに割れて、中身の正体が見えた。トカゲ面の宇宙人野郎!
頭の奥がカッと熱くなる。
イグニッションの時だ。脳のエンジンに火が点く。真っ赤に爆発する!
「赤井・ファイトォ!」
これは俺のエンジンキーを回す合図の言葉だ。
開戦を告げるゴングなんだ。
「キケェ――――ッ!」
奇声を上げて、奴が両手を振り上げた。
両手は人体を容易に切断する剣になっている。変な宇宙人だよな? この手でどうやって飯食ってんだろうな?
俺は迷うことなく、奴の両腕の間に踏み込んだ。
「ほれ?」
次の瞬間には、俺の拳が奴の首に、エラみたいな呼吸器官に突き刺さっていた。
「ギッ、ギッ、ゲッ……!」
奴は呼吸を止められ、両腕をバタバタと不様に振り回す。
この対応、完全に素人だ。
俺は奴の背後に回って、何度も呼吸器官を抉るように殴り続けた。
「このヒーク星人って奴の両手は鋭利な刃物だが、間合いの内側に入れば何も出来ない。背中から拘束すれば、この通りサンドバッグだ。こいつらは骨格の都合上、背中まで手が届かないのさ!」
素人の視聴者にも分かるよう詳しく説明してやった。
『へー、頭脳バトルやん』
『オ、ナイス説明』
『BEU-JAPAAAAAAAN!!!!!!!!』
最後のコメントは常連の外国人のものだ。意味は良く分からないが、いつもコメントと同時に高額の投げ銭をしてくれる。
ヒーク星人を一発殴ることに、小気味いい効果音と共に視聴者から銭が飛んでくる。
「いいよねぇ~? ブッ殺しても良い奴を殺して金貰えんのは最高だよなぁ~~!」
日本語が分かるヒーク星人の耳元で、俺は絶頂の声を上げた。
脆弱な呼吸器官を潰されたヒーク星人は血泡を吹いている。爬虫類のような目が悲痛に何かを訴えている。
「え、なに? 人間殺しまくってたくせに? 自分が負けそうになったら被害者面か~? オイ、マジで笑えんなこのクソ宇宙人」
俺は笑顔で、ヒーク星人の首に腕を回した。
「おーい! 今まで何人殺した~~?」
ヒーク星人に聞いたのだが、返答できる状態ではなかった。
代わりに、視聴者たちがコメントしてくれた。
『12人』
『さっきので13人目だ』
『じゃブッ殺されても因果応報な』
『はよ死ねやカスwwwwwwwww』
配信も盛り上がってまいりました。
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殺しても良い奴を殺す。大義名分ありの悪党成敗。この共通意識と集団心理のバニラシェイクは人間の自我も良識も倫理観も甘く溶かす。
動画配信の生放送は観客参加型のエンターテイメントだ!
「宇宙人は死ね!!!」
俺は死刑宣告と同時に、体重と腕力でヒーク星人の首をヘシ折った。
ゴキュ……という重く鈍い骨折音は、地球人と変わらない。
スマホからは、投げ銭の効果音が幾重にも重なるのが聞こえた。
『やったぜ』
『ざまあwwwwww』
『連続通り魔事件解決~~!』
視聴者は処刑ショーに満足したようだ。
ヒーク星人の絶命を確認すると、俺はその場から離れた。
15メートルほど離れると、ヒーク星人の死体は爆発した。
「宇宙人て、死ぬと爆発するんだよなあ。なんでだろうな?」
俺はおどけながら、発泡スチロールのように弾けるヒーク星人の様子を撮影する。
視聴者も爆発の理由は分からないようで
『なんでじゃろ?』
『破壊工作員だから証拠隠滅のために自爆する』
『死体を地球人に調べられたくないから?』
各々好き勝手に考察して盛り上がっていた。
この熱を維持したまま、絶頂のままで終わりたい。
「今回の赤井vsチャンネルはここまで。生きてたら、またお会うぜ?」
簡潔に別れを告げて、俺は生放送を終了した。
俺の名は赤井通(あかいとおる)。
私人抹殺系配信者だ。
俺は、人権のないバケモノを殺して稼いでいる。
「あ~あ~↑今日もいい仕事したなぁ~~↑↑」
ぐっと背筋を伸ばしてストレッチして、スマホをドブ川に投げ捨てた。
もう用済みの道具だ。あの端末情報は動画サイトのブラックリスト入りしたので、もう使えない。
ヒーク星人の爆発跡の近くに、奴の使っていたスマホが落ちている。
拾って電源を入れると、使える状態だった。
地球のスマホは宇宙人の生体認証には対応していない。基本、奴らはロックを掛けられない。
「戦利品ゲット~~」
次回は、このスマホでアカウントを作って配信する。
今の日本、殺して良い奴のネタは……いくらでもある。
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