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国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと

国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと53-決戦編-

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-激怒・雷火の暴君竜 〈ジゾライド改二〉-

 先行して降下せざるを得なくなった剣持の〈スモーオロチ〉は、太平洋に流れ込む河口付近で停まっていた。
 川底は浅い上に中洲も多く、踏破は十分に可能だったが、ここで10分近い足止めを食らうことになった。
 地上から単機でロケット発射場に進軍しても、待ち受けている敵戦力に対抗できる望みは薄い。バンザイ突撃で死にに行くようなものだ。
 後続の僚機が陸路で合流するのを待つ間、コクピットで剣持は孤独に北の方角を眺めていた。
「ふう……」
 強力なゴーストジャミングで、モニタにはブロックノイズが走る。ロケット発射場の望遠映像も良く見えない。
 通信はほぼ途絶。電子戦で完全に敗北している。
 遠方からは、砲火の音が聞こえてくる。
『この発砲音は カールグスタフです 十発の同時斉射を 二回に分けて──』
 頼みもしないのにウルが解説をした。
 AIなりの気遣いなのかも知れない。
「は、カールグスタフの二十発同時斉射だ? どんな敵と戦ってんだよ」
『詳細は 不明です 敵の大型ウェポンキャリアーだと 思われます』
 データが無いのだから、AIでもこれ以上の解析のしようがない。
 多連装ロケットシステムのように対戦車砲を数十発も担ぐ機動兵器? そんなものを敵はどこから調達したのか、どんなカテゴリの兵器なのか。全く想像がつかない。
 剣持は苦笑した。
「やっぱり負け戦だな」
 諦めとも取れる言葉に、ウルは答えなかった。
「敵のロケットの発射予定時刻は?」
『発射はネット中継されています 予定通りなら 2分後 です』
 発射場は、まだ4キロメートルも先だ。
 今からではどう足掻いても阻止は間に合わない。
「最初から分かり切っていたことだ。俺たちは戦術どころか、戦略レベルで負けていた」
『……その通りです』
 感情のないウルの声が、俄かに詰まったように聞こえた。
『私は 私を運用する 人間のオーダーに 可能な限り 応えたい それが 存在意義です しかし……』
「そりゃ、出来ないこともあるさ。いつだって、無理難題の尻拭いは俺たち下っ端の仕事さ」
 剣持は肩をすくめた。
 無能な上層部は自分達が追い詰められていることすら認識しないまま突き進み、まんまと敵の罠にはまった。
 息の根を止められる寸前で、なんとかしろと助けを求められてもどうしようもない。
 前の戦争からまるで進歩のないお歴々だが、剣持はそれに愚直に従う気など毛頭ない。
「俺のモットーはな、無能な上官は殺して良い、だ。自分らの保身のために部下に死を強いるような奴は特にな。クソくらえだよ」
『任務を放棄する と解釈して良いのでしょうか 剣持一尉』
「負け戦に命を賭ける義理はない。だが、俺は戦いを全うする。誰でもない、俺自身のためにな」
 今まさに剣持は自衛隊の機材を使っての私闘を宣言したわけで、ウルがこの発言を記録して、しかる場所に提出すれば大問題だ。
 今度こそ剣持は正式に罷免されるだろう──が、そんなことはどうでも良かった。
 剣持は、既に自分が生き残ることなど考えていなかった。
 後方から、ディーゼルエンジンの駆動音が接近するのを感じた。
「……やっと来たか」
 後方確認用の映像ウインドウが展開し、剣持は僚機の現着を確認した。
 総勢12両の、無人〈スモーオロチ〉一個中隊が立ち並んでいる。
 内3両は、対ジゾライドを想定したキネクト装備だった。
 ロケット推進の高機動ドローンであるキネティック・デバイスと、〈アルティ〉から流用したマニ・ドライブを大容量コンデンサと同時装備している。
 進軍の指示を出すべく、剣持はモニタ上にマップデータを表示した。
「周囲は田畑ばかりだが、連中もそこを戦場にしようとは思わんだろう。結局、海岸沿いを行くしかない……」
 タッチパネルのモニタ上のマップを、指で小突く。
 河を越えた先の海岸は、陸自の訓練場になっている。そこから少し内陸に入れば、ロケット発射上まで約4キロメートルもの無人の野が広がっているのだ。
「ここが戦場……か」
 剣持は指でモニタを弾いて、マップデータを閉じた。
『剣持一尉』
 スピーカーから、ウルが話しかけてきた。
 無意味な戦いを継続する責任を問うつもりなのかと思いきや──
『私は せめて あなたの願いを 叶えたい』
 思いがけず殊勝なことを言い出して、剣持は吹き出した。
「フハッ! 気持ち悪いこと言うなよ。調子狂うぜ……」
『それでは──』
 スピーカーがブツッ……とノイズを吐いて、ウルの音声が切り替わった。
『この声の方が、私の意図が伝わりますか?』
 とんでもなく場違いな、透き通った少女の声だった。
 ウカとかいう……ウ計画の広報用マスコットの音声だ。
 ウルとは同一存在の彼女は、打って変わって感情の篭った声で話す。
『剣持一尉、私は嘘を吐けません。そんな風には作られていないからです。私は、あなたのお手伝いをしたい……その気持ちに、偽りはありません』
 切実な声だった。
 剣持は、真剣な面持ちで問い返した。
「もうお前とは無関係な戦いなのにか?」
 話している最中に、大気が震動した。
 予定通りの、ロケット発射時刻だった。
 4キロメートル先の轟音と衝撃で外気が揺れて、装甲を伝わってコクピットにまで浸透している。
 ブロックノイズ混じりの望遠映像が、空高く飛翔していくロケットのブラスト光を捉えていた。
 敵ロケットの発射阻止は、完全に失敗したのだ。
『勝敗は──もう関係ありません』
「非合理的な答だな?」
『あなたから学んだんです、剣持一尉。私は私のために。存在意義、生き甲斐のために……戦いたいんです』
「そいつは、ますます非合理的だな?」
 剣持は思わず笑いを零した。
 人間に奉仕するという口実で、まるで自分のために戦おうとしているように聞こえる。
「了解。それじゃあ、最後まで付き合ってもらおうか」
『ありがとうございます、剣持一尉っ! 地獄まで、お供します!』
「縁起でもないこと言うな! それと、俺は女の子と一緒にドンパチする趣味はない。声を元に戻せ」
『はい 分かりました 剣持一尉』
 スピーカーの声は、元通り無感情なウルに戻った。
 しかし、心なしか嬉しそうに聞こえた。
「全無人機に進軍ルートを送信しろ。前方の河を渡って、海岸線を行く」
『了解 全機 警戒モードで 進行します』
 無人機の〈スモーオロチ〉を前面に出す形で、渡河が始まった。
 ウルはトラップを警戒していたが、剣持は違った。
(そんな小細工をする奴かよ……)
 忌々しくも、敵を理解してしまっている。
 砂の多い河口付近の中洲を飛び越えて、全〈スモーオロチ〉が河を渡った。
 デルタムーバーは砂浜程度なら走破できるが、防風林を強引に突っ切るようなオフロード性能は持っていない。所詮は市街戦用の戦闘車両だ。
 民間の田畑を避けると、部隊は海岸を通るしかない。
 それは幅100メートルの回廊であり、敵にとっては格好のキルゾーンだった。
「仕掛けてくるな。確実に……」
『スケープゴート ですか』
「そのため無人機だ」
 剣持たちの部隊は、各機20メートル程度の間隔を置いて低速走行していた。
 一気に全速力で海岸を走破しないのは、剣持の作戦だった。
 河口から500メートル北上し、陸自訓練場の敷地内に入った時──
『敵 発砲を確認 105mm砲です!』
 どこかで、稲妻に似た発砲音がした。
 ウルの報告とほぼ同時に、先頭を走っていた〈スモーオロチ〉を至近弾が襲った。
 足元で爆ぜた榴弾の爆風で無人機が浮かび上がって、転倒しかけたのを姿勢制御で立て直した所に直撃をくらった。
 前面装甲をAPFSDSが貫通する硬い音と共に、無人〈スモーオロチ〉の胴体部が消し飛んでいた。
 いかに強靭な複合装甲を持つ〈スモーオロチ〉とて、所詮デルタムーバーは軽量戦闘車両に過ぎない。105mm砲の直撃には到底耐えられるわけがなかった。
「敵はどこから撃ってきた!」
『1Km前方で マズルフラッシュ確認』
 剣持にウルが応え、モニタ内に射点位置の望遠映像が表示された。無人機を生贄に捧げた成果だった。
 光学画像では105㎜砲の火点に、ぼんやりと異形の巨体が見える。
「赤外線探知は!」
『エラー 探知不能』
「敵射点への反撃を!」
『ATM ジャミングにより 使用不能です 敵 既に移動開始』
「散開! 前衛は戦闘機動で敵との距離を詰めろ!」
 剣持が指示している最中にも、また雷鳴に似た発砲音が響いた。
 別の〈スモーオロチ〉が砲撃の直撃を受けて脚部を欠損し、行動不能になった所に第二射を受けて爆散した。
 再び敵射点の観測映像が表示された。
 銀色のティラノサウルス型戦闘機械傀儡が、前傾姿勢で防風林を踏み砕き、疾走しながらこちらに砲撃を加えている。
「スラローム射撃だぁ? あのバケモノはそういうこと出来るメカだったかよ!」
『ジゾライド改二タイプは データ不足です 申し訳ありません』
「出来るんじゃ仕方ないだろ! 目くらまし! スモーク!」
 剣持の指示と同時にスモークディスチャージャーの散布界がオートで設定され、トリガーを引いて発射。
 残存10両の無人機たちも走行しつつスモークを散布し、敵の索敵を妨害した。
 気休め程度と思っていた煙幕だったが、敵の更なる砲撃は見当違いの方角へと外れていった
 電子戦機の支援を受けず、光学観測のみで砲撃している証拠だ。
「敵のセンサー性能は弱い! 動いていればまず当たらん! 各機、回避しつつ包囲しろ!」
『了解 牽制は こちらの判断で 行います』
 細かいことはウルに任せて、剣持はアクセルを踏み込んだ。
 背面のロードブースターと合わせて八脚八輪のタイヤが唸りを上げて砂を巻き上げ、〈スモーオロチ〉が付近の砂利道に乗り上げた。
 十両の無人機と共に、砲火の中を駆け抜ける。
 時おり無人機が機関砲を牽制に撃つが、レーダーが使えない現状で高速で移動する対象への命中率はゼロに等しく、当たっても敵〈ジゾライド改二〉の装甲は撃ち抜けない。ただの気休めだ。
 105mm砲に続き、機関砲が嵐のように撃ち込まれてきた。
『警告 35mm機関砲です 連射の直撃は耐えられません』
「分かってる!」
 本来なら対空砲である機関砲の水平射撃が、部隊を襲った。
 発砲音は豆鉄砲の連射のようでも、一分間200発の機関砲弾が二連装で地上を薙ぎ払うのは破壊的脅威だった。
 遮蔽物もなく、建物を利用した三次元機動のできない平地ではデルタムーバーは何の防御手段ない。
 次々と無人機が機関砲の餌食にされていく。
 一発程度なら直撃でも前面装甲で弾けるが、ある無人機は数十発の集中攻撃で全身を引き千切られた。
 別の無人機は運悪く腰部関節に直撃を受けて上下真っ二つに引き裂かれた。
 また別の無人機は、脚部関節に被弾して転倒し行動不能になった。
「なっろォ!」
 剣持は回避行動を取るが避け切れるものではない。
 ウルが自己判断でフレキシブルアームを展開し、翡翠色のメタマテリアルシールドを張って防御する。
 シールド表面に被弾して猛烈な電磁反応の火花が散り、視界ゼロの中で剣持はアクセルを踏み続けた。
 前へ! 前へ! 奴を一刻も早く攻撃の射程距離に捉えるために!
 一瞬、機関砲弾が止んだと思えば、別の警報がコクピットに鳴り響いた。
『高熱源体の発射を確認 ロケット弾です』
「残った機体を俺の後につけろ!」
 行動可能な残存6両が剣持機の背後に一直線に並んだ。
 1両が合流に遅れ、ロケット弾の嵐に飲み込まれた。
 4基のロケット弾ポッドから斉射された、合計76発の対装甲用HEDP弾頭のロケット弾が、赤いプラストを吐きながら地上3メートルの高さを飛翔していく。
 着発信管の弾頭は、触れたもの全てを火球に飲み込む。
 転倒して行動不能になっていた無人〈スモーオロチ〉が、既に撃破された残骸が爆発の中に消えていく。
「ぬっおおおお……!」
 剣持は歯を食いしばり、渦巻く両目を見開いて、炎の中を突き進む。
 アクセルは踏み続ける。レバーは絶対に放さない。目は死んでも閉じない。
 剣持機のメタマテリアルシールドはロケット弾の直撃を受け止め、後続の僚機を守り切った。
 爆炎を突きぬけた剣持の〈スモーオロチ〉の光学カメラが、ブロックノイズだらけの映像をモニタに映した。
 500メートル前方の燃え上がる防風林の中に、〈ジゾライド〉が背中を見せて立っていた。
 背部に装備したロケット弾ポッドを発射するために、こちらに背中を向けていたのだ。
「見つけたぞ! ジゾライドォ!」
 剣持、殺気に吼える。
 瞬時にレバー横のボタンをダブルクリックして武装選択。フレキシブルアームのロングソード。
 ウルが最適な出力と展開数を設定し、〈スモーオロチ〉の背中から8本の蛇頭がせり上がった。
「ブラスト・ソード!」
『シュート』
 剣持の音声とトリガーの入力と共に、八股の大蛇が烈火の刃を吐き出した。
 計八本の電磁錬成された赤色マテリアルの剣が超音速で伸長──その長さ、500メートル!
 刃の薄さは原子一個分であり、あらゆる物質は切断される。
 〈ジゾライド改二〉がいかに高速機動しようが、このタイミングでは回避は間に合わない。
 殺れる! 確実に! 殺ってくれ!
 それは剣持の確信ではなく、神に祈るような切実な願望だった。
 どうか、これで決まってくれ……と。
 しかし、剣持は忘れていた。
 現実に、人間に都合の良い神などは存在しない。
 人の願いは、竜の背中に容易く打ち砕かれた。
 〈ジゾライド改二〉の剣山のごとき背ビレが青白く帯電し、電光のカッターを放った。
 更には背中から腕が生えて、メタマテリアルの刃を切り払った。
 八本の赤色マテリアルソードは、強電磁場で励起状態を破壊され、緑色マテリアルの刃で切断されていた。
「なに? なんだ? なんだアレは!」
 未知の現象を目の当たりにして、剣持の目がぐるぐると渦巻いた。
 不可解。何回。理解不能。
 映像を解析したウルが、モニタ上にデータを表示した。
『ジゾライドの背面に 電磁フィールドの発生を確認 背面ハードポイントには デルタムーバーの 腕部が接続されています』
「腕っ? 腕って言ったか!」
『該当データあり 第三世代型試作機 通称オクトオロチの 腕部です メタマテリアルブレードを装備した 近接攻撃異常特化の機体です』
「な・ん・だ・そりゃあああああっ!」
 剣持は絶叫した。
 知らない試作機の、しかも腕だけを〈ジゾライド改二〉が背中に付けて、こちらの攻撃を防ぎ切ったなど理解できない。納得もできない……が、現実を直視できなければ死ぬ!
 剣持の〈スモーオロチ〉改め〈ヤマタオロチ〉が、横滑りしながらブレーキをかけた。
 陸自の訓練場の敷地はとうに越えて、戦場は港湾区画に入っていた。
 雪の降り積もる舗装された道路、水産加工所、民間企業や漁協の事務所が点在する、漁港に到達してしまった。
 防風林から、〈ジゾライド改二〉が飛び出した。
 超重量級の機体とは思えぬ跳躍力でジャンプし、水産工場の建屋近くに着地した。
 105mmライフル砲二門を背中に装備した総重量40トン近い巨体が、アスファルトを砕き、粉塵を巻き上げて両脚と尻尾を地に叩きつけた。
 直立二足歩行のティラノサウルス型戦闘機械傀儡と、剣持のデルタムーバー部隊が、約200メートルの距離を空けて対峙した。
 迂闊に攻撃できないのは、周囲に民間施設があるからだ。
「やろォ……」
『剣持一尉 各企業は冬季休業中です 民間人の反応は ありません』
 ウルがアドバイスするものの、剣持は攻撃に躊躇していた。
 もう少し北に行けば、無人の浜が広がっている。
 せめてそこに移動できれば……。
 敵も、あの左大という男も民間を巻き込むのは本意ではあるまい。
(呼びかけてみるか……?)
 そう思いかけた矢先、〈ジゾライド改二〉が口から蒸気を吐き出した。
 放熱の仕草が、欠伸のようにも見える。
『剣持ィ~~? お前ェ……まさか、つまんねーこと考えてんじゃねぇだろうな?』
 〈ジゾライド改二〉の外部スピーカーから、操者である左大億三郎の声がした。
『前にも言ったよなぁ? お前らは人類支配を目論む悪のAIと? それを推し進める悪の政治屋の手先なんだからよ、覚悟キメでこいって……』
 左大は性懲りもなく独善的な自論を述べた。
 剣持は激昂した。
「意味わかんねーこと言ってんじゃねぇぞ、恐竜キ〇ガイがァ!」
 思わず〈ヤマタオロチ〉の外部スピーカーを全開にして叫んでしまった。
「戦いに面白いもつまんねぇもあるか! テメーは! これをゲームか何かと勘違いしてんのかッ!」
『あ~? 愚問だな? 俺にとっちゃ、人生の全てがゲームみたいなもんだぜ?』
「あぁ?」
『お前らの胴元のクソ悪党どもには感謝してるんだぜ~? 何事もなく未練だらけの人生を腐って終えるだけだった俺に、こうして華々しいラストバトルの機会を与えてくれたのは──他ならぬお前らだ。お前らが変な陰謀なんか考えなければ、こんなことにはならなかったんだぜ? あぁ~~……揉め事を起こしてくれてぇ~~っ! ありがとうよ~~っ! ヒャーーッハッハハハーーーーーッッ!』
 分かり切っていたことだが……左大の言動は常軌を逸していた。
 狂った笑い声が無人の漁港に響き渡る。
 〈ジゾライド改二〉の爪が、至近の水産工場の建屋を殴りつけた。
 左大の意思表示だった。
 軽金属の外壁がひしゃげ、火花を上げて破壊された。
『最高のラストバトルにしようぜ剣持? 何もかもブッ壊そうぜ? 何もかもブッ殺そうぜ? 遠慮せせず、どこだろうと何だろうと撃って撃って撃ちまくって、破壊しようぜ?』
「イカレてるな……テメェは……!」
『あ~? SFみたいなディストピア作ろうとしてるお前らより、遥かにマトモだと思うがね~? なあ剣持よ? お前──いつまで正気のフリしてるんだ?』
 〈ジゾライド改二〉の両目が赤い眼光を発して、モニタ越しに剣持を睨んだ。
『もうロケットは宇宙に行っちまった。戦う意味なんてない。マトモな指揮官なら、とっとと撤退してるわな? なのになんで、お前はここに来た?』
「うっ……」
『ここに来るまで、何機のデルタムーバーが吹っ飛んだ? 何十億円の機材が失われた? お前は自分の欲望のために、守るべき国民の血税を浪費したんだ。本質的に俺と何も変わらん。いい加減に自分が狂っていると自覚しろ。お前は俺と同じ社会不適合者のイカレポンチなんだよ、剣持弾くん?』
 左大は狂っているのか理性があるのか、判然としない物言いで図星を突いた。
 剣持は反論できなかった。
「ううっ……」
『なあ、剣持よ……。お前は俺と同じ種類の人間だ。バケモノなんだよ。それを認めろ。お前は自分の欲望のために全てを犠牲に出来る人間だ。素直になれ。裸になれ。自由になれ。そうでなければ、お前は俺を倒せない。とっとと、俺と同じステージに上がってこい剣持……!』
 悪魔の……いや竜の誘いが、空間をぐにゃりと捻じ曲げていく。
 竜を追う者を竜へと誘い、人生の退屈を晴らすためだけに殺し合おうと誘惑する狂気の声……!
 剣持は悪酔いに似た感覚の中で、ぐにゃぐにゃと視界が歪んで──
 ごちゃごちゃと考えるのを止めた。
「ぬぁぁぁ……な・め・る・なぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
 面倒な思考を放棄して、トリガーを引いた。考えても無駄なことは悩まない。悩もうとするのは人生の罠だ。悩みは行動するのを阻む。迷いは決意を鈍らせる。人生の時間を浪費させる。
 だから、何も考えずにとにかく行動するのが正解なのだ。それが剣持の人生観なのだ。
 正確に〈ジゾライド改二〉だけを狙った機関砲の一撃が放たれた。
 砲弾は厚い装甲に弾かれて、ダメージを与えることはなかった。
 無心の一撃──これが剣持の答だった。
「お前の理屈なぞ知ったことか! 俺は俺だ! 俺のまま! そのふざけた恐竜のバケモノを破壊してやる! 徹底的にだッッッ!!」
『はははは! それも良い! お前はそれで良いんだろうな、剣持よォ! ヒャーーーーッハハハハーーーーーッッ!』
 左大の声に同調するように、〈ジゾライド改二〉が吼えた。
 自らの相手に相応しい勇者の出現に歓喜するかのように、天に向かって鋼鉄の竜王が雄叫びを上げた。
 対する〈ヤマタオロチ〉が、八本の蛇頭をうねらせて身構えた。
 超重装の竜王と、九頭の大蛇とが対峙する様は、神話のごとく。
 いま、最後の血戦の幕開き、
 地獄の蓋が
 決
 壊
 す
 る。
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