ヒト・カタ・ヒト・ヒラ

さんかいきょー

文字の大きさ
上 下
216 / 237
国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと

ゴッドストライカー澪・寄り道の巻

しおりを挟む


-世界ボウラー日本代表・神喰澪(かみじきれい)
別名ゴッドストライカー澪-

 南郷がコキュートスとの決着をつけ、園衛が敵歩兵ドロイド部隊を斬滅させていた頃──
 ロケット発射場から20キロメートルほど南の海岸に、三艘の黒いゴムボートが乗り上げていた。
 海上で〈ズライグ・ブルー〉に迎撃された輸送船から脱出したボートだった。
 といっても、救命ボートではない。
 自衛隊では戦闘強襲偵察用舟艇の名称で配備されている、ガソリンエンジンつき軍用ボートだった。
 輸送船に積まれていた〈アルティ〉たちは、船が航行不能と判断してボートを使って脱出。
 最も近い揚陸可能地点である、この浜辺に到達したのだった。
 戦闘強襲偵察用舟艇の最大積載量は約1.2トン。
 〈アルティ〉の機体重量を加味すれば一艘につき十体の搭載が限界であり、重装備の持ち出しは断念せざるを得なかった。
 ほぼ素手の〈アルティ〉が二十体、国道を北に進んでいた。
 ボートに乗ってきた数より少ないのは、断続的に落伍しているからだ。
 膝関節の不調で砂浜で擱座する機体もいれば、バッテリーの不具合で道路上に倒れる機体もいる。
『警告 コンディションレッド』
『警告 データリンク不能 光学カメラ 各種センサー 不調 警告 警告』
 またある機体は目の潰れた状態で、ガードレールのない岸壁から転落していった。
 これらは、納品時に意図的に仕込まれた初期不良による損失だった。
 そんな死の行軍の中──幸運にも破壊工作を受けてない製造ロットの〈アルティ〉が、行く手に立ち塞がる人影を捉えた。
 前方100メートル、道路のど真ん中に、女性らしきシルエットが立っていた。
『前方の人物の 画像認識 要注意人物に 該当あり』
 〈アルティ〉たちの歩みが止まった。
 機能に異常のある〈アルティ〉が止まった機体にぶつかって転倒したり、方向を見失って国道を外れて海に直進していく。
 北へ向かう国道は、一本道だ。
 他に迂回路はない。
 一直線の道の先に、群がる機兵たちはさながら──
「ボウリングのピンね」
 国道のど真ん中に陣取る、その女が呟いた。
 車の通りのない真冬の国道に、人の迷惑など顧みず、人ならざる者たちを阻む女がいた。
 真冬の北海道に似つかわしくない動き易さ重視の薄手の服、引き締まった体躯、手には指貫グロープ、鋭い目つきのその女は──
『要注意人物 神喰澪 職業 プロボウラー』
 〈アルティ〉が、女の素性を確認した。
 神喰澪は、かつて宮元園衛の配下として戦った経歴のある女だ。監視対象ではあるが、今は一般人なので警戒レベルは低い。
 なにより、神喰澪は今では戦闘とは無縁のボウリング選手であるから、さほど警戒する必要はない──そのはずだった。
 神喰澪は、おもむろにボールを取り出した。
 金色の──ボウリング用マイボール。
 どこから見ても、ボウリング。
 よって、〈アルティ〉達の警戒レベルは未だ低い。
 神喰澪が持っているのは武器ではなくボールなのだ。
「私の前の一直線のレーン上に、ピンが自動で並んでいる。誰がどう見ても、これはボウリング。ピンを倒すのが私の仕事。そして生き様……ッ!」
 神喰澪は、プロボウラーとして当たり前のことを言っている。
 そして当たり前のように投球のフォームを取った。
 全身運動で円を描くような動きで、神喰澪の残像が虚空に映る。
 その時、初めて〈アルティ〉のセンサーが異常を察知した。
『警戒対象の 魔力反応 増大』
『警戒レベル引き上げ マニドライブ 展開』
 数機の〈アルティ〉が胸部マニドライブを展開中に、機能異常を起こした。
 初期不良のため、装甲が展開し切らなかった。
 100メートル前方にて──神喰澪がボウリングの投球を放った。
「ゴォォォォォッド! ストラァァァァァァィクッッッ!」
 黄金の輝きが、レーンと化した国道を貫いた。
 それは、ボウリングという特定環境、特定概念下でのみ発動される破魔の力だった。
 光速に到達した投球は重金属粒子の黄金の熱線となって国道のレーンを撃ち抜いて、立ち並ぶ魔のピンと定義された〈アルティ〉たちを消滅させ、そのまま海上へと抜けていった。
 ピンが全て消えたのだから完璧なストライクであり、もはやゲームは続けられない。
 これにて、超光速のゲームセット。
 投球の跡──アスファルトは溶解し、熱線によって抉れた傷痕は地層にまで達していた。
 必殺の投球技ゴッドストライクを投射し終えた、神喰澪の全身から放熱の湯気が迸った。
「フゥッ! ああも当てやすい配置にいるなんて、ボウリングのルールを知らなかったようね」
 膨大な熱量の強制冷却。薄着はそのためでもある。
 神喰澪は、白煙を上げる指貫グローブをフッ……と虚空に振った。
「しかと務めは果たしましたよ、園衛様」
 彼女もまた、園衛に呼ばれ馳せ参じた戦力の一人だった。
 神喰澪、またの名をゴッドストライカー澪。
 今日の一投は、彼女の旅のちょっとした寄り道に過ぎない。
 ゴッドストライカー澪の行く先には、まだ見ぬ世界ボウラーとのボウリング勝負が待ち構えているのだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...