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国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと

インターミッション2.5

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 ・秘密結社「暁のイルミナ」についての解説
 約2000年前に地中海一帯で発生したグノーシス主義者たちを源流とした秘密結社。
 ヨーロッパにおけるグノーシス主義は4世紀ごろには廃れたが、その思想は一部の商工ギルド、石工組合などに残り、やがて一種の秘密結社を形成していった。
 時と共に結社は知識人や富裕層のクラブ的な側面を持ち、富と知識が集中。
 彼らは宗教的教義、道徳、倫理観に捉われず、知識の発展により古代グノーシス主義が唱える高次元に到達しようとした。
 こうして中世に〈暁のイルミナ〉と呼ばれる技術崇拝結社が成立した。

 以降、結社はヨーロッパの政財界に深く根を降ろし、時代を経て全世界に伝播。
 人類社会を裏から牛耳る巨大な組織と化した。
 結社は人類の科学、思想の発展のためには手段を選ばなかった。
 意図的に革命を起こし、世界を二度の大戦に誘導し、やがて超大国の対立という形で互いを研鑽させた。
 人類の発展の過程で何千万人という人間が死のうとも、彼ら結社の支配層にとっては有象無象の家畜がくたばるだけの話である。良心などまるで痛まない。

 東西冷戦の影で世界中から非合法に何十万人という人間を拉致し、生体実験に使用した。
 人類種をより高度な生命に進化させるための崇高な実験である。
 それは同時に、結社の幹部たちが寿命を延ばすための新鮮で健康な生体部品の採取も兼ねていた。
 おびただしい数の死体の山を築いて、実験はある程度の成果を出した。
 古代から伝わる〈ギガスの腕輪〉と呼ばれるアーティファクト。
 装着した者が適合すれば人間以上の存在となるが、不適合なら石灰となって崩れ果てるという伝説の神器である。
 この神器の適正を科学的に解き明かし、適合率を上げることに成功したのだ。
 とはいえ、当時は僅か数%の上昇に過ぎなかった。

 やがて時が過ぎ、21世紀に入った頃、結社は日本政府と接触。
 政治家、医療および防衛関係の官僚と結社の利害が一致した。
 日本政府は全国民の医療ビッグデータを結社に譲渡し、国民を生贄として供した。
 〈ギガスの腕輪〉と高い適合率があると判定された日本人は結社に拉致、あるいは勧誘され、結社の理想とする高次元の姿。異形の獣人――改造人間に変えられた。

 しかし、結社内の別派閥が〈ギガスの腕輪〉による人為的な進化を良しとせず反発。
 それに呼応した日本政府内の別派閥と結びつき、内部抗争が勃発。
 自衛隊が研究開発中だった新型装備で武装した非公式部隊と、改造人間たちとの血みどろの暗闘が始まった。

 この戦いに巻き込まれる形で参戦したのが、後に〈サザンクロス〉の異名で呼ばれる南郷十字(当時17歳)だった。
 過程は省くが、結果として結社と結託していた日本政府内の派閥は壊滅。
 結社も全ての改造人間を抹殺された上、日本に赴いた総裁(彼自身も改造人間だった)を殺害され、甚大なダメージを負った。
 これが世界的秘密結社の崩壊に繋がった。
 高次元世界に至る神の似姿、進化した生命であるはずの改造人間が、ただの人間によって倒されてしまったわけで、
 もはや教義も権威もあったものではなかった。
 組織は内部抗争と分裂を繰り返し、著しく弱体化。
 ある派閥は影響力を排除したい政府に犯罪組織として取り潰され、ある派閥は矮小なカルト団体として細々と存続し、ある派閥は某国に生体改造ノウハウを手土産に吸収され、
 複雑な経緯を経て〈暁のイルミナ〉は長い歴史に幕を下ろすことになった。
 〈暁のイルミナ〉の表の世界での顔である〈イルミナ製薬〉も政財界への影響力を失い、様々な汚職と犯罪行為が明るみとなって解体された。

 こうして既に〈暁のイルミナ〉は人知れず壊滅しているわけだが、この秘密結社の名前は割とメジャーで、大昔からオカルト系の話や陰謀論に良く使用される。
 あまりにも有名なので、あらゆる事件を〈暁のイルミナ〉と結びつけるタイプの陰謀論者は「設定が陳腐すぎる」としてオカルトマニアからも嫌われる傾向にある。


 ・強力改造人間軍団
 少年時代から現在に至るまで南郷十字が対峙し、撃滅してきた改造人間は百体をゆうに超す。
 改造人間(改人とも略される)はD~Aクラスまで区分されている。

 Dクラス:ギガスの腕輪との適合に失敗した個体。寿命が短く、延命処置を餌に戦闘員として配備される。戦闘能力は低く、銃器で対処可能。

 Cクラス:一応の成功体だが、時間経過と共に肉体の回帰願望に伴う食人衝動に支配され、知性を喪失していく。撃破には電磁兵器や機関砲などが必要。

 Bクラス:適合成功体。特にリスクもなく超人的能力を行使できる。生命力、反応速度も人間を遥かに超えている。欠点があるとすれば、自己の生命への執着が強いこと。

 Aクラス:完成体。結社の理想とする高次元に至る超人。〈ギガスの腕輪〉の事象改変機能を復元し、神に等しい能力を持つ。ほぼ理論上の存在で、現在まで2体しか確認されていない。

 これらの中でも特に強力だった個体を紹介しよう。
 南郷十字は何の異能もなければ改造人間でもない。
 彼の武器は人が誰しも持ち得る、非力なる三本の矢。
 知恵と戦術、そして決死の覚悟である。

 1.シミタ-マンティス
 カマキリ型Bクラス改造人間。
 カマキリとはいうが鎌は持たず、分子変換で形成した鋭利な曲刀を武器とする。
 南郷の右腕を切断した張本人でもある。
 オカマ口調で喋る剣術家であり、剣者として生きるために全ての倫理から超越した改造人間になることを受け入れた男。
 南郷を「見込みのある戦士」として目をつけて執着していた。
 最期は南郷によって「剣術もクソもない手段」で跡形もなく粉砕される。
 後にエイリアスビートルによって再生改人として復元された。

 2.エレクトジェリー
 クラゲ型Bクラス改造人間。
 あらゆる電子運動を操り、イオンクラフトによる浮遊、電子機器の乗っ取り、サージ電流による電子部品の破壊などを行うほか、液体火薬の精製とカルシウムで形成された生体ミサイルによる長距離精密誘導攻撃を得意とした。
 電子妨害の範囲は最大で半径500メートル以上。
 電子機器に溢れた市街戦ではほぼ無敵だった。
 最期は南郷によって強引に「電子妨害の出来ない場所」に運ばれて圧死した。
 後にエイリアスビートルによって再生改人として復元された。

 3.ドラゴンカース
 竜型Aクラス改造人間。
 適合者として拉致された南郷の幼馴染の少女、辰野佳澄の成れの果て。
 改造前に施された洗脳や精神操作が影響し、組織の意向を無視して気ままに破壊と殺戮を楽しむ性格に変貌している。
 外見は怪人体も人間体も大差なく、角が生えて魔道士のようなローブをまとう程度の変化しかない。
 あらゆる物質の分子運動を制御し、固体を液体に、気体を固体に変え、静止した物体を超音速にまで加速させるなど自由自在に操る。
 更には魔術的な呪いの概念まで使用する最悪の魔女である。
 南郷と幾度かの戦いの後、「呪いが発動する前に電磁的に力場を破壊する」という対抗策を取られ、最終的に討滅された。
 彼女を自らの手で殺めたことで、南郷の精神は崩壊した。

 4.トリオ・バイト
 三葉虫型Bクラス改造人間。
 能力的にはBクラスだが、〈暁のイルミナ〉の総裁(グランドガバナー)が素体であるため、忖度でAクラス扱いされている。
 総裁は三つ子の兄弟であり、三人の合議制で指示を出す形式を取っていた。
 それを継承する形で、三人の総裁が一体の改人に結合する形で調整が行われた。
 改造後は人間体、怪人体の双方で“一つの肉体から三人分の首が生えた”異形と化している。
 三人分のサイキック能力「無限再生」「大気操作」「思考透視」を操る極めて強力な改造人間だったが、
 激怒の極みにあった南郷に「死ぬまで殺す」執拗な猛攻を受け、細胞テロメアの再生限界を超過して全身が癌化。最期は腐った肉塊と化して絶命した。

 5.エイリアスビートル
 カブトムシ型Aクラス改造人間。
 組織にとっての最大の敵対者、普通の人間でありながら改人をことごとく倒す南郷十字に対抗するために調整された、最強の改造人間。
 他の改造人間のコピー、そして戦う度に進化する自己調整能力を持つ。
 だが戦闘特化した形質は組織の教義に反するものであり、来日した総裁の意向で実戦投入前に凍結、廃棄処分されてしまった。
 組織壊滅の10年後、南郷十字抹殺を目論む日本政府の一派によって再生され、南郷と死闘を繰り広げた。
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