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国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと
国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと32-炎上編-
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わたくし、東瀬織が三ヶ月でこの国を潰すと宣言してから――およそ二ヶ月が経過しました。
今は二月の下旬でございます。
先日、クローリクさんに隠れ家を発見されてしまいましたので、わたくしの住処は移転いたしました。
こんなこともあろうかと、他にも数か所の隠れ家を用意しておりまして、そのうちの一つ――ちょっとした湖畔の廃ぺんしょんに引っ越したのですが
「あーーっ! またいたーーッ!」
クローリクさんと景くんに、また見つかってしまいました。
「な・ん・で! 来るんですのよぉぉぉぉぉぉ!」
「ぐ・う・ぜ・ん! だーーーッ!」
わたくしとしたことが、思わずクローリクさんと力比べに突入してしまいました。
一瞬、クローリクさんは敵の工作員なのではと疑いましたが、景くんによると廃墟探検に繰り出したら、本当に偶然たまたま遭遇してしまったとのこと。
クローリクさん本人はごく普通の女子高生で経歴に不審な点は何一つありませんし、彼女のお爺様はむしろ味方陣営でございます。
但馬健吾博士――冷戦終了後に亡命先のロシアで生活に困窮していたところを、左大さんの祖父に拾われる形で娘夫婦と共に帰国。
以来、左大家に恩義を感じて戦闘機械傀儡に用いる人工筋肉の技術提供に協力したそうです。
但馬博士は既に現役を引退されておりますが、南郷さんの新しい義手の調整にも協力してくださりました。
話は戻りますが、どこに逃げてもクローリクさんに見つかってしまうような気がしたので、わたくしは観念してここに腰を据えることにいたしました。
「隠れなくて……いいの?」
ある時、景くんが疑問を口にいたしました。
クローリクさんに見つかって以来、景くんはたまに放課後一人で訪ねてきてくださるのです。
まあ確かに、クローリクさんごときに容易に見つかってしまう場所に留まり、更に景くんのような素人さんが通うのは安全保障上よろしくありません。
ですが一方で――
「わたくしの精神衛生上、とても良いことですわ~~♪」
こうしてソファの上で景くんに密着して、幸せなひと時を過ごせるのです。
ほぉ~~ら、こうしてわたくしはぐいぐいぐい、と景くんに我が身を押し込みます。
景くんの存在は、戦いと工作活動でささくれた心を癒してくれます。
わたくしの愛と迫りくる柔らかな女体を景くんの小さな体と未熟な心は受け止めきれず、照れてちょっこんと身を縮めておりますね~?
これでは子犬というより、蛇に睨まれたアマガエルでございます♪
「だ、だからぁ……僕がここ来ても平気なの……って」
「それはご心配なく♪ 敵にバレる心配はもうありませんわ」
「なんで……? 敵は政府なんでしょ? なら……」
景くんの心配は尤もなこと。
しかし、見識がまだまだ足りませんわ。
「政府……といっても一枚岩ではございません。各省庁には縄張りがあり、それは不可侵たるもの。縦割りの絶対防壁は秘密の計画などでは壊せません」
「えっ……そういうものなの?」
「はい。役人を動かせるのは、上からの正式な辞令のみ。公式の文書が必要なんですよ。ですからぁ――わたくしはその、人の愚かしきしがらみを利用したのです」
「つまり……?」
「ウ計画の担当者は警視庁公安部に門前払いされました。これで警察機構を用いた捜査、監視が不可能となりました。ウ計画が使える予算、人員は限られております。外部の人間を雇うにしても、既に南郷さんと園衛様に返り討ちに合っていますから、マトモな判断力のある闇業者は仕事を請けませんわ。園衛様と南郷さんに勝てるような人材……いると思いますか?」
景くんは「うーん……」と唸って黙ってしまいました。
どうも尺然としないようですね。
「景くん? 国を統治する人間がそんなに頭が悪いわけがない……と思ってませんか? もっと的確な対応が出来るはずだ、と」
「うん……まあ」
「それは――誤りでございますよ」
私の口が三日月の形を描いて、にたりと笑みを浮かべます。
「官僚機構というものは試験が出来れば誰でも受かるものです。議員先生にしても……今世の民主主義というものは、わたくしから見れば衆愚でございます。それらは欺瞞と自己保身に特化し過ぎで甚だ柔軟性に欠け、いつしか実用性よりも形式を尊ぶようになったと見えます」
「ええと……?」
「一言で言えば、腐敗しているのですよ。平和というぬるま湯に浸かって、ぐすぐずにふやけた腐乱死体……といった所でしょうかあ? うふふふふふ……」
あー……また、思わず物凄い顔で笑ってしまいました。
「うっ……ちょっ……瀬織……っ」
ああ、景くんが怯えて仰け反っております。ごめんなさいごめんなさい……。
ですが、わたくし自分の内なる闇を抑えきれません。じわぁっっ……と全身から湿った瘴気となって溢れてしまいます♪
「それでは少し……わたくしの国崩しがどんなものかぁ……お教えいたしましょう」
怯える蛙を逃すまいと……わたくしはぬるり、と、
するり、と
景くんの間近に顔を寄せるのです。
窓の外は夕刻の闇。
明かりのない部屋は冷たく昏い闇紫。
なんとも居心地の良い雰囲気になって――まいりました。
今は二月の下旬でございます。
先日、クローリクさんに隠れ家を発見されてしまいましたので、わたくしの住処は移転いたしました。
こんなこともあろうかと、他にも数か所の隠れ家を用意しておりまして、そのうちの一つ――ちょっとした湖畔の廃ぺんしょんに引っ越したのですが
「あーーっ! またいたーーッ!」
クローリクさんと景くんに、また見つかってしまいました。
「な・ん・で! 来るんですのよぉぉぉぉぉぉ!」
「ぐ・う・ぜ・ん! だーーーッ!」
わたくしとしたことが、思わずクローリクさんと力比べに突入してしまいました。
一瞬、クローリクさんは敵の工作員なのではと疑いましたが、景くんによると廃墟探検に繰り出したら、本当に偶然たまたま遭遇してしまったとのこと。
クローリクさん本人はごく普通の女子高生で経歴に不審な点は何一つありませんし、彼女のお爺様はむしろ味方陣営でございます。
但馬健吾博士――冷戦終了後に亡命先のロシアで生活に困窮していたところを、左大さんの祖父に拾われる形で娘夫婦と共に帰国。
以来、左大家に恩義を感じて戦闘機械傀儡に用いる人工筋肉の技術提供に協力したそうです。
但馬博士は既に現役を引退されておりますが、南郷さんの新しい義手の調整にも協力してくださりました。
話は戻りますが、どこに逃げてもクローリクさんに見つかってしまうような気がしたので、わたくしは観念してここに腰を据えることにいたしました。
「隠れなくて……いいの?」
ある時、景くんが疑問を口にいたしました。
クローリクさんに見つかって以来、景くんはたまに放課後一人で訪ねてきてくださるのです。
まあ確かに、クローリクさんごときに容易に見つかってしまう場所に留まり、更に景くんのような素人さんが通うのは安全保障上よろしくありません。
ですが一方で――
「わたくしの精神衛生上、とても良いことですわ~~♪」
こうしてソファの上で景くんに密着して、幸せなひと時を過ごせるのです。
ほぉ~~ら、こうしてわたくしはぐいぐいぐい、と景くんに我が身を押し込みます。
景くんの存在は、戦いと工作活動でささくれた心を癒してくれます。
わたくしの愛と迫りくる柔らかな女体を景くんの小さな体と未熟な心は受け止めきれず、照れてちょっこんと身を縮めておりますね~?
これでは子犬というより、蛇に睨まれたアマガエルでございます♪
「だ、だからぁ……僕がここ来ても平気なの……って」
「それはご心配なく♪ 敵にバレる心配はもうありませんわ」
「なんで……? 敵は政府なんでしょ? なら……」
景くんの心配は尤もなこと。
しかし、見識がまだまだ足りませんわ。
「政府……といっても一枚岩ではございません。各省庁には縄張りがあり、それは不可侵たるもの。縦割りの絶対防壁は秘密の計画などでは壊せません」
「えっ……そういうものなの?」
「はい。役人を動かせるのは、上からの正式な辞令のみ。公式の文書が必要なんですよ。ですからぁ――わたくしはその、人の愚かしきしがらみを利用したのです」
「つまり……?」
「ウ計画の担当者は警視庁公安部に門前払いされました。これで警察機構を用いた捜査、監視が不可能となりました。ウ計画が使える予算、人員は限られております。外部の人間を雇うにしても、既に南郷さんと園衛様に返り討ちに合っていますから、マトモな判断力のある闇業者は仕事を請けませんわ。園衛様と南郷さんに勝てるような人材……いると思いますか?」
景くんは「うーん……」と唸って黙ってしまいました。
どうも尺然としないようですね。
「景くん? 国を統治する人間がそんなに頭が悪いわけがない……と思ってませんか? もっと的確な対応が出来るはずだ、と」
「うん……まあ」
「それは――誤りでございますよ」
私の口が三日月の形を描いて、にたりと笑みを浮かべます。
「官僚機構というものは試験が出来れば誰でも受かるものです。議員先生にしても……今世の民主主義というものは、わたくしから見れば衆愚でございます。それらは欺瞞と自己保身に特化し過ぎで甚だ柔軟性に欠け、いつしか実用性よりも形式を尊ぶようになったと見えます」
「ええと……?」
「一言で言えば、腐敗しているのですよ。平和というぬるま湯に浸かって、ぐすぐずにふやけた腐乱死体……といった所でしょうかあ? うふふふふふ……」
あー……また、思わず物凄い顔で笑ってしまいました。
「うっ……ちょっ……瀬織……っ」
ああ、景くんが怯えて仰け反っております。ごめんなさいごめんなさい……。
ですが、わたくし自分の内なる闇を抑えきれません。じわぁっっ……と全身から湿った瘴気となって溢れてしまいます♪
「それでは少し……わたくしの国崩しがどんなものかぁ……お教えいたしましょう」
怯える蛙を逃すまいと……わたくしはぬるり、と、
するり、と
景くんの間近に顔を寄せるのです。
窓の外は夕刻の闇。
明かりのない部屋は冷たく昏い闇紫。
なんとも居心地の良い雰囲気になって――まいりました。
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