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国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと
国崩し・東瀬織と悪意の箱のこと21-炎上編-
しおりを挟む-この国、燃やして燃やして大・炎・上させますわよ~~!-
広島県の山間部に位置する、ごくありふれた地方自治体。
区分としては市だが、規模的には町と大して変わらないような、閑散とした田舎の街。一応、高速道路のインターチェンジはあるが、国道は市の外れに細い道が一本通るのみで、昼間でも車の通りは多くない。
そんな辺鄙な田舎町に、犬神自動車工業という工場がある。
土地も建屋もかなり大規模な工場だった。
『犬神自動車工業 主な取引先は トキタ自動車 ヒノシタ自動車 それら大手の 自動車部品の 下請け製造会社 です』
薄暗いコクピット内に、サポートAIウルの解説が響いた。
ご丁寧に、モニタ上に会社の公式サイトのスクリーンショットや会社概要まで表示してくれている。
『周囲には 他の製造業の営業所 および工場が 林立しています この立地ならば 物資の搬出 および 機体整備に 使用する 電力消費を 偽装できます』
カメラの外部映像が、犬神自動車工業に隣接する他の工場建屋をぐるり舐め回した。
「なるほど。木を隠すには絶好の立地か」
搭乗オペレーターの剣持弾が小さく頷いた。
現在、剣持の乗るデルタムーバー〈スモーオロチ〉は山の斜面の森に身を隠していた。
デルタムーバーは全高4メートル近い有関節装甲車だが、四足動物のごとく屈むことで全高を半分以下にまで縮めることが可能だ。
陸自伝統の濃緑と土色の迷彩は静止状態なら風景に溶け込み、判別するのは難しい。
ここは犬神自動車工業から高速道路を挟んだ所にある、何の変哲もない小山だった。
『あの工業団地を調べれば 地下に 不自然な 送電ケーブルが 繋がっている 可能性が 高いです』
「そして、電気をあそこに引いている……と」
剣持の〈スモーオロチ〉が頭頂部カメラをペリスコープとして伸長させ、斜面の上を撮影した。
うっそうと茂った木々の奥、日中だというのに光すら届かぬ深い森の中に、ぽつんと四角い建物があった。安物のプレハブ作りで苔が生え、一見すると林業関係の倉庫に見える。
だが、立地が不自然すぎるのだ。
ここに至るまでは一本の林道すらなく、立ち入るには徒歩で道なき道を進むしかない。車両が侵入できないのなら、林業の倉庫としては使えない。そもそも、どうやって倉庫自体を建設したのか。
〈スモーオロチ〉が胸部コロニウム結晶センサーユニットを展開した。
『解析 開始』
ウルのアナウンスと同時に、各種センサーが同時に不審な倉庫の解析を始めた。
〈スモーオロチ〉には小型・高性能センサー素子を用いた過剰なまでの索敵、探知能力が備わっている。
尤も、IRセンサーよる二酸化炭素関知や体温識別などは、もっぱら災害時の救助に使用されることが多い機能だ。
『内部は 空洞です 生体反応 なし』
「ハズレってワケではあるまい?」
『震動を感知 地下に なんらかの 施設が あります』
「なるほど。秘密基地としては上出来だな。普通なら誰にも分からん」
剣持は素直に感心していた。
敵は賢(さか)しく、凄まじく用意周到だ。
この秘密の施設は森の中にあるので空撮でも衛星写真からでも露見しない。
「そもそも、どうやってこんな所に基地なんぞ作ったんだ? 軽トラックすら入れないぞ?」
『戦闘機械傀儡の中には 不整地での 輸送に適した機体が 存在しました』
ウルはモニタに件の傀儡とやらのデータを表示した。
〈ケンザン〉という名の、ステゴサウルスを模した冗談のような機動兵器の三面図と仕様書だった。
これを運用していた組織は過去に自衛隊と連携していたので、当時の共有データが機密情報として残っている。
なるほど、基地建設のカラクリは理解できた。
「良くこんな所にあると分かったな?」
『この近隣の 監視カメラに 左大億三郎 が映っていました』
ウルは平然と空恐ろしいことを言った。
一般のカメラ映像をネットワーク経由で入手できるようなAIが日本に浸透しているのだから、もはや個人情報などあったものではない。
しかし、監視カメラにあの男が……野生の直感と人間の知性を併せ持つ左大億三郎が撮影されるようなヘマをやらかすとは思えなかった。
「どうにも話がうますぎる気がするんだが……」
『敵の 罠だと?』
「大体、どこで撮影されたんだ?」
『この近隣の 小規模な 書店です』
また、なんとも違和感しかない単語が出てきた。
「は? 本屋だ?」
『彼は 本を一冊 購入していきました』
「どんな本だ?」
『武者軍団を追放された盗人の俺がファンタジー異世界に転生! 光の俺と闇の俺に分裂して再合体! なんと神様になっちゃいました! 今さら武者軍団に戻ってこい? 冗談よしてよ! 第1巻 です』
ウルは抑揚に欠けた、いつもの合成音声で、淡々と、珍妙な怪文書を読み上げた。
「は……? なんだって……?」
『武者軍団を追放された盗人の俺がファンタジー異世界に転生! 光の俺と闇の俺に分裂して再合体! なんと神様になっちゃいました! 今さら武者』
「もういい……二回も言うな……」
剣持は思わず眉間を抑えた。
要するに、左大は出版社の方針で長ったらしい怪文書めいたタイトルがつけられた流行ジャンルのコミックだかライトノベルだかを買っていった。
分かるが、分からない。
あの男がそういったジャンルの本を買う? 想像がつかない! 明らかにおかしい!
「やっぱり罠なんじゃないのか!」
『可能性は 否定できません しかし ターゲットが潜伏しているのは 確実です』
「罠だとしても、食い破れってか?」
『肯定 そのための戦力が 我々であり 剣持一尉 です』
後方の茂みで巨大な物体が動いた。
僚機の〈スモーオロチ〉だった。剣持機含め4両1個小隊。剣持機以外は全てウルが制御する無人機だった。武装は対戦車ミサイル、機関砲、対装甲パイルドライバーの重装備だ。
他にも随伴歩兵として小型ロボットである〈アルティ〉が20体、4班に分かれて各〈スモーオロチ〉の周囲を警戒している。
『部隊行動基準 設定 武装の使用制限なし 各員 公共の秩序を 維持するため 武力を行使せよ』
ウルの言う部隊行動基準とは、自衛隊における交戦規定にあたる。
本来なら自衛隊法に則り作製されるものだ。
法を私物化する者が我儘に設定して良いものではない。
「はっ……いつもの超法規的処置かよ?」
『異論がありますか 剣持一尉』
「挟む口なら一つある。公共の利益を守ると言ったな? なら、市街地、及び民間人の安全を最優先とする」
ほんの数百メートル横には高速道路が走り、平日の工業団地が今も稼働している。流れ弾など冗談ではないのだ。
『高速道は 緊急工事として 通行止めを 要請中』
「作戦の延期は?」
『非公式防衛活動の タイムスケジュールは 極めて繊細 と ご理解ください』
国家権力といっても一枚岩ではなく、ウ計画とやらも万能の錦の御旗ではなかった。
実行部隊を関西方面まで派遣し、活動するにも権力の縄張りの隙間をすりぬける僅かな時間しか許されていない。
左大を捕捉し、これだけの戦力を投入できるのは。平日昼間のこのタイミングしかなかった。
政治家まがいの言葉遊びは剣持の趣味ではないが、今はウルに首輪をつけるために必要な詭弁だ。
「お前が護るのは体制であっても、俺たち自衛隊が護るのは国民の生命と財産だ」
『了解 市街地 または民間人に 銃口が向いた場合 当機 および 全無人機の トリガーは オートロック します』
「物分かりがいいな? 嘘じゃないだろうな?」
『剣持一尉 我々は 情報を 制限することはあっても 人間に嘘を吐く 機能は 実装 されていません 我々の仕事は 人間の サポートです』
確かに……それはそうだろう。
もしもAIが嘘を吐けるのなら、それは人間の制御からの逸脱を意味している。
国家の全てを司るAIが支配する側の人間を欺き始めたら、国家は根幹から崩壊する。
お偉方はウ計画とやらをお家繁栄のために利用する気なのだから、AIには機能制限をかけていて当然だ。
ウルはあくまで人間に使われる側の道具、ということだ。
「よろしい。では、本時刻を以て作戦を開始する」
『了解 1410 時刻合わせ カウント スタート』
「できれば穏便に済ませたい。降伏勧告は……」
『無意味 かと』
「そうだな……」
剣持は口に出しかけた甘い考えを飲み込んだ。
左大億三郎は尋常ではない。マトモな人間ですらない。一般的な文明人の価値観は当てはまらない。
平和ボケした考えは通用しない。人間ではなく怪物を相手にするようなものだ。
たとえばモンスター映画で、人の言葉を話す怪物と話し合おうとしたマヌケがどういった末路を辿るか。
怪物に食い殺されたマヌケを見て、視聴者はこう思うだろう。
とっとと怪物の隠れ家に火を放つべきだったと。
あるいは軍隊で包囲して最大火力を叩き込んで殲滅すべきだったと。
それを今、実行する。
「全機、照準同期。機関砲の一斉射撃の後、突入する」
剣持はシフトレバーを操作して、機体を降着姿勢から立ち上がらせた。
深い茂みの中から、ぬるりと〈スモーオロチ〉が立ち上がる。
その臀部には巨大な拡張装備――敵方の小美玉分舎から接収し、再調整したロードブースター〈カグツチ〉がドッキングしていた。
剣持機が右腕ハードポイントの25mm機関砲を件の建物に向けた時、コクピット内にアラームが鳴った。
『警告 熱源反応 増大』
「なにっ?」
『爆発します! 退避してくださ――』
剣持が反射的に機体を屈めた次の瞬間、ターゲットの建物が閃光と共に弾け飛んだ。
破片と粉塵が四方八方に吹きとび、森の木々をなぎ倒し、数体の〈アルティ〉が爆風に飲み込まれて消えた。
突然の爆発は、麓から見れば山から煙が立ち上ったように見えた。
伝播する揺れは軽い地震と変わらず、工場で働く人々も「おっ?」と少し身構える程度で、特に気もしなかった。
直後の異様なる咆哮を聞くまでは。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
万人が初めて耳にする、生なき竜の雄叫び。
ある者は首を傾げ、ある者は本能が恐怖した。
山々に響き渡る竜の叫びは、野の獣たちの本能を揺さぶり、野鳥や猪が一斉に逃げ出す。
生ある者すべての遺伝子に刻まれた、絶対なる捕食者への畏れが蘇ったのだ。
爆発から一瞬の後、この地上に竜が降り立った。
無人〈スモーオロチ〉の内一両が、踏み潰されていた。
堅牢なる金属の装甲に覆われた、竜の剛脚に。
爆発の勢いで天空へと跳躍し、重力落下と質量を以て打ち下ろされた、竜脚の一撃に。
「な……っ、なにぃッ!」
剣持は戦慄した。
立ちこめる噴煙の奥、僚機を蹂躙した巨竜のシルエットがモニタに表示されている。
各種センサーが巨竜を画像解析するも、ジャミングでノイズが除去し切れない。
太陽の逆光を受けて、巨竜が勝ち誇るように、宣戦を布告するように、二本の脚で――仁王立ちした。
再びの、竜の叫びが世界を震わす。
“直立二足歩行“のティラノサウルスを模した最強の戦闘機械傀儡が、初陣の悦びに絶頂している。
画像解析が終わり、モニタに竜の姿が補正表示されていく。
全高約5メートル、長大な尾、無数の剣のごとき背ビレ、恐竜というより怪獣めいた手足、全身を青とライトグレーに塗装された、角ばった意匠の戦闘機械竜の姿が。
『解析完了 敵 戦闘機械傀儡 ティラノサウルス型試作機 ジゾライド改二 脅威判定 Aダブルプラス』
「最大脅威判定だと……」
白い噴煙の中、〈ジゾライド改二〉の鋭い両目が赤く光った。
戦いと殺戮に、竜王が歓喜している。
剣持は、冷や汗に濡れた手で操作レバーを握った。
「じ……自爆を利用しての奇襲攻撃……マトモな神経じゃねぇな……!」
『剣持一尉 敵機は 稼働試験時のデータしかありません 訓練時に使用した 仮想敵データに 50%の性能上昇値を加算して オペレーションを 行います』
「データがアテにならないんじゃ――」
剣持が殺気を感じて機体を跳躍させた。
ロードブースターの人工筋肉を合わせた脚力で地上10メートルまで上昇、一気に麓まで跳ぶ!
離脱とほぼ同時に、剣持機の存在していた茂みが吹き飛んでいた。
〈ジゾライド改二〉が、その位置に出現していた。
瞬間移動としか思えない超音速の機動力! 僅かに遅れて地面が破砕される音が響いた。
「――ぶっつけ本番じゃねぇかぁぁぁぁっっ……!」
剣持が呻きながら、空中から機関砲を掃射。
ポンポンポンという地味な発砲音が山中に響く。着弾判定なし。既に照準から〈ジゾライド改二〉は消えていた。
「早すぎる! 見えない! なんなんだアイツはっ!」
『敵 運動能力 想定値の 300%を 超えています』
「敵の装甲値は!」
『データでは10式戦車と同等の 複合装甲 です 対戦車ミサイルの直撃 あるいは ファングユニットによる打撃以外は 無効です』
「チートかぁぁぁぁぁっ!」
陸自の主力戦車と同じ装甲の恐竜が超音速で向かってくるなど冗談が過ぎる。
しかし、そんな妄想じみた怪物がまた別の無人〈スモーオロチ〉を捕まえた。
ノーマルの〈スモーオロチ〉の跳躍力はせいぜい4メートルが限界。ビルも崖もない山の斜面ではワイヤーアンカーによる離脱も行えず、脚部を〈ジゾライド改二〉に噛みつかれてしまった。
そして、そのまま玩具のように振り回されて、地面に叩きつけられた。
重装甲で名高い日本製第3世代型デルタムーバーが、全備重量8トンを超える有関節装甲車が、プラモデル同然に四散した。
〈ジゾライド改二〉の30トンを超える巨体が着地すると、大量の土煙が地表から噴出した。
『はーっはっはつはっはーーーッ! たーのーしーいーなーーーーっ! 剣持ィィィィィ~~~~♪』
どこからか、狂った男の奇声が聞こえた。心底戦いを愉しんでいる声だ。
左大億三郎……あのイカレた男の声だった。
戦闘機械傀儡は遠隔操作ゆえ、どこかで戦いを眺めて笑っているのだ。
「クッソ野郎がぁぁぁぁ……!」
剣持は奥歯を噛みしめた。本気で忌々しく思う。
もはや状況は隠蔽だの隠密だの生易しいことを言っていられない。
奴は、左大は、公の大事になるのを承知の上で自爆奇襲をやっているのだ。
左大億三郎は狂っているようで正気であり、狂暴なようで全て計算づくで行動する、最も厄介な敵だった。
剣持の〈スモーオロチ〉が高速道の高架下に着地。そのままバック機動で、敵を正面に捉えたまま後退する。
「位置取りが悪い!」
『了解 補正します』
ウルの自動制御で機体は警報を鳴らしながらバックする。
大型トラックのように『バックします バックします』と警告しつつ、ガードレールを越えて県道に侵入。一般市民の自動車が驚いて急ブレーキを踏んだが、構わずに道路を横断。
このまま道路に沿って移動するのは、工場を背にすることになる。格闘戦に持ち込まれれば、確実に巻き込んでしまう。
「適切なバトルフィールドに移動!」
『ナビゲーション開始 北に300メートル――』
ウルがモニタ上にナビ用ミニマップを表示する。
オートでカメラが捉えた別の映像では、山の斜面を駆け下りる〈ジゾライド改二〉と、引き摺られながら砕け散っていく無人〈スモーオロチ〉の惨状が映し出されていた。
『けーーんーーもーーちぃーーーっ! もっともっと楽しくしてやるぜぇぇぇぇぇぇっ!』
左大の声が鳴り響き、〈ジゾライド改二〉が〈スモーオロチ〉の残骸を投げ飛ばした。
「な!」
投擲攻撃と思って身構えた剣持だったが、残骸は剣持機の頭上を飛び越し――道路の反対側の犬神自動車工業の敷地内に侵入。工場建屋に衝突して壁を吹き飛ばした。
誤射ではない。奴は確実に狙って投げた。
「野郎っ! なんてことを!」
『敵 突撃してきます!』
ウルが警告した時には、既に〈ジゾライド改二〉が剣持機の半径50メートル以内に侵入していた。前傾姿勢で地面を削って疾走しながら突っ込んでくる。
コクピットに鳴り響く接近警報。衝突まで1秒とない。
彼我質量と設計強度に差があり過ぎる。ぶつかればトラックと軽自動車の事故さながらに、一方的に〈スモーオロチ〉が潰される。
回避か、迎撃か、それとも――
「オートガード!」
『了解!』
剣持、一瞬の判断。
機体をドリフトさせながら跳躍用アクセルペダルを踏み、ウルによる機体操作でオートガードを発動。
機体臀部に装着されたロードブースター〈カグツチ〉から四本のグラップルアームが展開。人工筋肉と装甲の触手ともいえる機構が前面に伸びた。
グラップルアーム先端のファングユニットが顎を開き、さながら大蛇の頭と化してメタマテリアルのシールドを発生させた。
翡翠色の防御障壁と、〈ジゾライド改二〉の大質量突撃が接触!
運動エネルギーが熱に変換され火花が飛び散り、負荷に耐え切れずにシールドは崩壊。
だが、その衝撃と崩壊点からの反作用を利用して、〈スモーオロチ〉は自ら跳躍することでダメージを受け流した。
空中を舞う、〈スモーオロチ〉。
「ぬおおおおおっ! 姿勢制御をっ!」
『了解』
ウルがグラップルアームを操作することで、空中で重心コントロールを行い、〈スモーオロチ〉は辛うじて着地。
だが、場所が最悪だった。
犬神自動車工業の敷地内に入ってしまった。
地表の機材や小型フォークリフトを弾きながら、着地した〈スモーオロチ〉が慣性で滑走する。下手にブレーキを踏めば自重で破損し兼ねない。
もはや成すがままに民間人の財産を破壊し、蹂躙し、やっと〈スモーオロチ〉は停止した。
タイヤからは白煙が上がり、突撃を受け止めた四本のグラップルアームがだらりと垂れさがっている。
「くそ……やられた……!」
剣持は奥歯を噛んだ。
モニタに複数の画像ウインドウが表示される。工場の一般市民たちの様子。ある者は呆然自失、ある者はスマホを取り出して撮影、ある者は一目散に逃げていく。
『警告 民間施設内です トリガー オートロック』
ウルが、事前通告のとおり火器の使用制限を行った。
左大の策に……まんまとハメられたのだ。
工場のスピーカーから、けたたましい避難警報が鳴り響いた。
人の本能に恐怖を呼び起こすように作られた警報の中、恐怖が形成した竜が……工場敷地内に現れた。
『さあああああ? どう戦うよ? 剣持ィィィィィ~~?』
歓喜に震える左大の声が、煽るように吼えた。
〈ジゾライド改二〉はアスファルトを砕き踏みしめて、挑発の一吼えを発した。
熱に燃える顎の奥から、鋼鉄の竜王が地獄に誘う。
死と恐怖に抗う者よ。お前もまた、一線を越えろ――と。
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