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設定解説のこと3.5

その3.5-1

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 ・南郷十字
 27歳、男性。独身。好物はメロンソーダ。
 かつて主人公だった男。
 この世界で最も多くの改造人間を殺した"普通の人間"であり、彼自身に特別な能力は何もない。
 裏の世界や都市伝説では、装甲服のバイザーの不具合が欠けた十字星に見えることから「サザンクロス」の異名で呼ばれている。
 目的達成のために自らの犠牲を厭わない冷徹な判断力と、近代兵器の運用能力、そして蓄積された戦闘経験によって、あらゆる人外魔道の類を殲滅する。
 性格は根暗で、きつい口調で人を遠ざけようとするが、それは自分の厄介事に他人を巻き込みたくないが故。
 年下の少年少女には比較的温厚な、大人としての態度で接する。
 こういう生き方をするハメになった17歳時の負傷で片目と右腕を損失しており、それらの部位は精巧な義体で代用されている。
 過去の経験から、権力者、特に公権力に強い嫌悪感を抱いている。
 戦闘能力は最強の対妖魔猟兵である宮元園衛とほぼ同等だが、無職なので経済力は大きく劣っている。


 ・辰野佳澄/ドラゴンカース
 享年19歳(肉体年齢は17歳で永久停止)、女性。故人である。
 南郷十字の幼馴染だったが、改造人間の適合者として17歳時に拉致された。彼女を取り戻すことが、南郷の戦う理由だった。
 拉致から1年後、南郷の前に現れた佳澄は既に人間ではなかった。
 最強のAクラス改造人間、竜の魔女ドラゴンカースと化し、南郷の敵として立ちはだかった。
 ドラゴンカースは他の獣人めいた改造人間と異なり、頭部から角が生えている以外は普通の人間と大差ない外見となっている。
 普段は紅眼銀髪の美少女の姿で、拉致された当時と変わらない学生服姿で過ごしていた。服装に関しては、南郷への愛憎入り混じった当てつけである。
 元々は南郷に淡い恋心を抱いていた心優しい少女だったが、改造後は全ての人間を自分の餌と認識する奔放な捕食者と化している。
 結果として南郷によって討滅されたが、彼女の愛憎は一枚の呪布に残留し、今も戦闘時の南郷の首にマフラーとして巻かれている。


 ・宮元空理恵
 14歳、女性。中学二年生。
 宮元園衛の妹である……が、その実体は宗家の子女の生体パーツ用に産み落とされた古典的クローンである。
 10年前に本物の「宮元空理恵」が病死して以降、園衛の計らいにより家族として迎えられた。
 彼女自身は自分の出生を知らず、園衛の実の妹として生きてきた。
 性格は明るく、誰にでもフレンドリーに接する一方で、距離感をわきまえる配慮もある。
 何度も自分の危機を救ってくれた南郷のことはヒーローとして憧れ、兄のように慕っている。


 ・アズハ(小豆畑霧香)
 17歳、女性。高校二年生で現役の現代ニンジャ。関西弁で話す。
 見た目は金髪に日焼け肌と派手な格好をしている。要するに黒ギャル。かなり黒い。
 傀儡を用いる柳生忍術小豆畑流の正統伝承者であり、相当の実力を持つ。
 小豆畑流は悪と戦う正義の流派であったが、アズハは生活のために已む無く忍術を悪用している。
 彼女の出生は空理恵と同じく、生体パーツもしくは影武者用のクローンだったが、廃棄後も生き残り、小豆畑家の子女として受け入れられた経緯がある。
 その小豆畑家も経済的理由で実質断絶したため、「この世は弱肉強食」「何よりも金が優先」という意識が強い。
 普段は飄々と利己的な快楽主義者を気取っているが、根が悪人でないため、思いがけず情に流されることもある。
 過去の因縁から宮元園衛に強い憎悪を抱いている一方で、南郷や空理恵にはかなり好意的である。
 園衛との戦闘の果てに敗北を認めず、自決用の爆火筒で爆死したかに見えたが……?


 ・電磁反応装甲
 コロニウム素子由来のメタマテリアルを使用した、一種のリアクティブアーマー。
 極めて薄いマテリアルを装甲表面に付着させ、センサーと連動したオートあるいはマニュアルで敵弾の着弾と同時に発火、放出。
 流体化したメタマテリアルは敵弾を包み込むように吸着し、運動エネルギーを熱に変換して相殺し燃え尽きる。
 防御力は極めて高く、個人用の装甲服ですら12.7mm弾を完全に防御する。
 欠点は、流体発火現象が目立つこと。強い電磁波を放出するため、電子機器を搭載した車両や機動兵器に装備するには相性が悪いこと等が挙げられる。
 防衛省は機銃を浴びて装甲服が全身から火花を上げるテスト動画を公開しているが、「特撮ヒーローの弾着シーンに似ている」と一部マニアの間で妙な評判になっている。
 電磁反応装甲を個人用装備に採用したのは日本のみだが、アメリカやイスラエルでは部隊単位で防御できる広範囲防御兵装を採用している。

 南郷が運用していた装甲服は試作段階のものであり、10年が経過した現在では小型軽量化が進み、衣服同然の新型装備が試験段階に入っている。

 ・M.M.E.
 メタマテリアルエッジ。
 南郷十字の使用するマルチウェポン。エッジモードとガンモードの二形態に変型する。
 使用に必要な電力は装甲服の掌の外部出力端子から供給される。
 内部に貯蔵されたコロニウム素子に電荷を加え、メタマテリアルを励起状態にして発振し、斬撃や刺突に使用する。
 赤色のメタマテリアル刀身は硬度に優れ、原子一個分の薄さで理論上は全ての物質を切断する。
 二刀を柄の部分で接合したツインエッジ状態では、励起状態の刀身を最大50メートルまで延伸可能。
 延伸状態の刀身は横方向からの衝撃に脆く、また大きな慣性が生じるため、斬撃に使用することは不可能。使用は刺突のみに限られる。
 ガンモードではメタマテリアルの弾体を電磁射出するが殺傷能力は低く、目くらましや電磁拘束に使える程度の威力しかない。射程も50メートル程度。
 なお、メタマテリアルは緑→黄色→赤の順で硬度が上がり、それに反比例して剛性と耐久寿命が低下する性質がある。

 ・コロニウム素子
 この世界のハイテクノロジーの根幹を支えるマテリアル。
 もっばら島根県の一部でのみ産出されるレアメタルを加工して製造される。
 バッテリーや集積回路の超小型化と高性能化、常軌を逸した防御装甲、そして改造人間の腹に埋め込まれた〈ギガスの腕輪〉も、東瀬織のような人造神を作り出せたのも、元を辿れば全てコロニウム素子の応用テクノロジーが基幹にある。

 その正体は、3000年以上前に地球に降臨した光量子生命体――青空の装甲を持った太陽の巨神から剥がれ落ちた装甲片である。
 太陽巨神は、あらゆる次元、あらゆる宇宙の生命体が抗えない滅びに直面した時、その願いに応じて現れる、いわば破滅の対存在、善なる概念の結晶体だった。
 巨神は一体ではなく、"彼"には数十体もの同志たちがいた。
 彼らの出自は多種多様で、別の次元の地球で作り出された合体式スーパーロボットであったり、恐竜の神輿あるいは山車に憑依した高次元存在であったり、三人のニンジャマスターが死後その魂を憑依させた石像であったり、車のプラモがなんだか良く分からないパワーで巨大化合体した夢のマシンであったり、銀河を守る聖なる鋼の獣が合体した王者であったり、とにかく大勢の善なる巨神の内の一体が地球に来訪したのだった。

 当時の日本列島の片隅、イズモと呼ばれる土地には川に生贄を捧げる風習があった。
 荒ぶる川の神を鎮めるために、どこかの村から貧乏くじを引かされた乙女が、生きたまま激流に流される。
 川が荒れる度に放り込まれた乙女たちの死体は澱となって重なり、大量の怨念を集積させていった。
 その怨念が川底に眠る太古の大型爬虫類の生き残りに憑依し、巨大な八つ又の大蛇と化した。
 それから大蛇は毎年村々を襲い、適度に村人を食い殺していった。
 大蛇の鱗の一片一片が乙女の姿となって逆立ち、嘲笑うように言った。
「これからもずーーっと、適度な数だけ殺してあげるよ」
「死にたくない? じゃあ、ムラで一番キレイで一番良い身分の娘を差し出してよ」
「そう、ムラオサの娘がいい! その子も生きたまま丸呑みにしてあげる!」
「生きたまま心も体もグチャグチャに溶かして、あたし達と同じにしてあげる!」
 人外と化した乙女たちの笑いが、いつまでも山々に響いていた。
 ある意味で道理の通った復讐。しかし受け入れがたい殺戮。
 覆いかぶさる絶望に抗おうとした、ある一人の少年の思いと、ムラオサの娘の願いに応えて、太陽巨神が降臨した。
 巨神は、自分が物言わぬロボットだった遠い昔のように、正しき心の少年を体内に招き入れ、人機一体となって戦った。
 大蛇の怨念もまた凄まじく、巨神は体のほとんどを失った。
 戦いの果てに大蛇は討滅され、巨神は光となって空の彼方に還っていったという。

 巨神の装甲片は知的生命体の精神を物理的なエネルギーに変換する「場」を作り出す事象変換器であり、その残滓が今も島根県に鉱床として残っている。
 巨神が次元を超える際に飛び散った僅かな破片も、地球上と月面に散らばっている。
 伝説や神話の一部となって語られるコロニウム素子の起源を、人類が知ることはないし、物語にも一切関わってこない。
 これはあくまで、遠い昔の物語の断片でしかないのだから。

 ・ギガスの腕輪
 人間を異形の獣人……改造人間に強制進化させる装置。
 外見はベルト状の装飾品で、適合者が装着すれば肉体と一体化する。
 その本質は、遠い昔にグノーシス主義者たちが神に近づくために、原理も分からぬまま巨神の断片を組み込んだ宗教的アーティファクトである。
 無知な人類によって弄り回されたそれは、既に事象改変装置としての機能をほとんど失っている。



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