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第三話
剣舞のこと・舞姫は十字星に翔ぶ31
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装備の調整が終わったのは、夕方になった頃だった。
軽トラにはブルーシートがかかっているが、中身は空だ。
〈タケハヤ〉は防盾を装備した状態で、中型トラックのコンテナに搬入されていた。トラックは別に手配したもので、一般に運送会社などで使用されている車両だ。
その辺りの事務処理を、分舎の職員と行っているのは園衛の秘書の右大鏡花だった。
鏡花を遠目に見ながら、園衛と南郷は並び立っていた。
園衛の表情は露骨に暗い。
「まだ話してないんですか」
南郷が問うた。
鏡花の兄、右大高次の件だ。
「言うチャンスが……掴めんのだ」
「まどろっこしい……。殺るとか殺られるとか、そういうのに馴れてる仕事じゃないんですか」
「あの子はそういうのは知らん世代だ。それに……鏡花は色々と……な」
園衛が言い淀む。
鏡花にも事情がある。そういう含みがあった。
他人の過去というのは安売りするものではない。触れられてほしくない傷痕なら尚更だ。
だが園衛は意を決して、俯き加減に秘密の蓋を開いた。
「鏡花には姉がいた。右大一花という人だ。その人と結婚したのが高次さんだ。二人には子供も出来て、鏡花は家族が増えると喜んでいたが……程なく姉が大病を患った。現代の医療では完治の難しい病気だった。暫くして、姉夫婦は失踪した。鏡花が小学生の頃だったよ」
南郷は黙って話を聞いていた。
エイリアスビートルの語った恨みつらみにピースがはまって、納得できる物語になった。
右大高次は愛する妻の病を治すために、腹の中の我が子を生かすために、藁にもすがる思いで暁のイルミナを頼ったのだろう。
そして妻は改造人間となり、延命と引き換えに人間性を喪失して、南郷に殺された。
腹の中の赤子ごと。
「鏡花は早くに両親を亡くしていてな。それから親戚の所で世話になったが……大分荒れた生活を送っていた。一見すると普通に学生生活を送っていたようだが、その実は鬱屈した感情を腹の中に抱え続けていた。だから……邪法に手を出した」
「邪法?」
急に聞き慣れない単語が飛び出して、南郷は聞き返した。
女子学生がグレたとか、反抗期だとか、そういう単純な話ではなさそうだ。
「そう、邪悪な法術だ。死者の魂を呼び出すとか、それを憑依させるとか、獣を殺して使い魔にするとか……そういう類の術だな。鏡花は霊媒体質だったから適性もあった。そういう術を使えば失踪した姉夫婦を見つけられる。あるいは死んだ姉の魂に会えると思っていたのかも知れない」
「イタコ紛いにしては、穏やかな感じじゃありませんが……」
「邪法は所詮、邪法。魂の救済には使えん。鏡花はワケの分からんモノを自分に憑依させまくって、神がかり的な巫女になって、人を惹き付けるようになった。それがカルト紛いの宗教になるまで、そう時間はかからなかった」
「女の子の教祖……?」
そんなもの、カリスマ性が足りないと思う。
カルトの教祖というのは、それなりに年季の入った人間がインドで修行しただの、神のお告げを聞いただのと、それらしい宣伝文句を持ち出すから説得力が生じるものだろう。
仮に神がかりだとしても、小娘一人が喚いたところで誰が耳を貸すのか。
園衛は「うん……」と、嘆息して頷いた。
「教祖というよりアイドル……俗っぽい言い方をすればオカルトサークルの姫といった所だな。それがネットで評判が広がって、ちょっとした地下アイドルみたいになって、鏡花が高校二年になる頃にはそこそこの教団モドキになっていた」
「で、どうなったんです」
「規模が大きくなって漸く私の耳に入ってきた。身内が世間に迷惑をかけているなど冗談ではないので――ブッ潰した」
それに関しては園衛も堂々としていた。物騒な物言いだが、恥じる点は一切ないようだ。
「具体的に……どうやって」
「教団の会合に直接踏み込んだ。つっかかってきた信者は全員殴り倒した。鏡花……というか鏡花に憑依していた自称『山の神』は丁重にもてなした後、成仏してもらった」
「オモテナシ……だから具体的に何をどうしたんですか」
「私も若いころなら悪霊なぞボコボコにしばいてブッ殺していたのだが、まあ穏便に済ませることにした。仮にも神を名乗る者ならば、神として応対する。酒とご馳走でもてなすのだ。酒はアルコール度数96のスピリタス。食い物は最高級のワサビを山ほど盛った寿司。出されたものは全て食うのが礼儀だと、神としての振る舞いをしてもらった。イヤだイヤだと抵抗したらブン殴って、強引に鼻を抑えて口を開けて食わせた。吐き出したらミキサーにかけて液体したのを流し込んだ。食い終わったら、自称『山の神』は消滅して、気絶した鏡花が転がっていた」
なるほど、確かに比較的穏便で、かつ格式高いオ・モ・テ・ナ・シである。
ワサビはトウガラシとは異なり、舌に触れずとも飲み込めば胃粘膜に直接刺激を与える。焼かれるというより溶かされ、痺れるようなダメージが体内に直接響くのである。拷問に使うなら最適であるといって良い。
やはり、園衛は南郷とある意味同類なのだ。オモテナシに関しては全く悪びれていない。
尤も、強制飲食に抵抗していたのは途中から本当に悪霊だったのか疑わしい気もしたが、駒かいことは気にしないことにした。
「それから私は鏡花を説得して、真っ当な道を歩ませることにした。鏡花も更生して高校を出て、大学に進学して、ちゃんと卒業して今は私の下で働いてる……というワケだ」
「なるほど。自分がグレた原因の兄貴が今さら出てきて、しかもバケモノになってるなんて……確かに辛いでしょうね」
「だろう? だから、どう説明したものかと――」
園衛が同意を求めると、南郷は既に前に向かって、鏡花に向かって歩きはじめていた。
「ちょっ……南郷くん!」
「ゴチャゴチャグタグダと、あんたらの都合なんてどうでも良い。俺がハッキリ教えてやるよ」
速足で進み、園衛が肩を掴んだ頃には南郷は既に鏡花の背後に立っていた。
「右大鏡花さん、だったな」
「はい……それが何か?」
仕事の手を止めて、鏡花が南郷に振り返った。
眼鏡をかけた鋭い目つきの怜悧な女性という印象だ。態度で分かる。南郷のことは厄介者として見下している。
嫌ってくれているなら、こちらとしても話が早い。
「突然だが、ハッキリ言っておく。あんたの姉さんを殺したのは俺だ」
「はい……?」
「右大一花さんだったか? 名前も知らなかったが、人間辞めてバケモノになってたから殺した。妊娠してたらしいが、そんなモン知ったこっちゃないんでね」
困惑する鏡花に構わず、南郷は露悪的に続けた。
「で、ついこの間あんたの義理の兄さんとも会った。奥さんと子供殺されて、俺に復讐しに来たんだとさ。右大高次とかいう……あのオッサンもバケモノになってた。だから、次は確実に殺す」
「あなた……何を言って……」
「頭の回転遅いなあ、あんた? 園衛さんと俺がこんな所に武器貰いにきた理由、分からないのか? 分かれよ、その程度」
「うっ……」
現実を真正面からぶつけられて、鏡花は上ずった声を漏らした。
「お姉ちゃんと……義兄さんが……っ? ちょっと……えっ、えっ……?」
「安心しな。あんたの義兄さんを殺すのは俺だ。園衛さんは関係ない。恨みたければ、せいぜい俺を恨むんだな」
南郷は鏡花を肩を押し出すように跳ね飛ばすと、〈タケハヤ〉を積み終わったトラックに向かっていった。
園衛は南郷の気持ちを察して、敢えて言葉を遮らなかった。自分に代わって恨みを一身に背負う南郷の覚悟に、ただ複雑な思いを抱いていた。
狼狽した鏡花は、園衛に縋り付いた。
「そっ……園衛様っ! あ、あの人の言ってたことって……っ!」
「全て事実だ。私もつい先日に知ったばかりのことで……ああ、言い訳などすべきではないな」
「嘘……そんな……嘘でしょ……」
現実を受け止めきれずに、鏡花は園衛に崩れるようにもたれかかった。
園衛は鏡花を抱きとめてやることしか出来なかった。下手な慰め、飾り言葉が何になるだろうか。
10年分の喪失が、悪夢のような現実になって正面衝突してきたのだ。受け止め切れるわけがない。
失踪した姉も、甥とも姪とも分からぬ赤子もとうに殺されていて、義兄は人外の怪物と化して人間に仇なしている――こんな衝撃、どうしろというのか。
どうにも出来ないから、鏡花は園衛の腕の中で震えている。
不意に、ポケットの中でスマホが着信音を鳴らした。空理恵からの着信だった。
だが今は電話に出られるタイミングではない。
園衛の胸が、鏡花の涙でじわりと濡れていた。
「なんなの……なんなの……あの疫病神……っ!」
歯を食いしばるような涙声で、鏡花は南郷への怨みを漏らしていた。
誰かを恨むのが、最も手っ取り早く精神を安定させられる。これが自然な反応なのだろう。
南郷はそこまで分かっていて、憎まれ役に徹した。
彼もまた、鏡花のように全てを奪われた経験があるから……分かるのだ。
一方、着信音は30秒ほど鳴り続けて、諦めたように止まった。
(これで本当に良いのか……南郷くん)
我が身を躊躇なく犠牲にしようとする南郷の行いに、園衛は大きな不安を抱いていた。
空理衛からの着信は、どうせただの雑事だろうと……この時は気にも留めていなかった。
軽トラにはブルーシートがかかっているが、中身は空だ。
〈タケハヤ〉は防盾を装備した状態で、中型トラックのコンテナに搬入されていた。トラックは別に手配したもので、一般に運送会社などで使用されている車両だ。
その辺りの事務処理を、分舎の職員と行っているのは園衛の秘書の右大鏡花だった。
鏡花を遠目に見ながら、園衛と南郷は並び立っていた。
園衛の表情は露骨に暗い。
「まだ話してないんですか」
南郷が問うた。
鏡花の兄、右大高次の件だ。
「言うチャンスが……掴めんのだ」
「まどろっこしい……。殺るとか殺られるとか、そういうのに馴れてる仕事じゃないんですか」
「あの子はそういうのは知らん世代だ。それに……鏡花は色々と……な」
園衛が言い淀む。
鏡花にも事情がある。そういう含みがあった。
他人の過去というのは安売りするものではない。触れられてほしくない傷痕なら尚更だ。
だが園衛は意を決して、俯き加減に秘密の蓋を開いた。
「鏡花には姉がいた。右大一花という人だ。その人と結婚したのが高次さんだ。二人には子供も出来て、鏡花は家族が増えると喜んでいたが……程なく姉が大病を患った。現代の医療では完治の難しい病気だった。暫くして、姉夫婦は失踪した。鏡花が小学生の頃だったよ」
南郷は黙って話を聞いていた。
エイリアスビートルの語った恨みつらみにピースがはまって、納得できる物語になった。
右大高次は愛する妻の病を治すために、腹の中の我が子を生かすために、藁にもすがる思いで暁のイルミナを頼ったのだろう。
そして妻は改造人間となり、延命と引き換えに人間性を喪失して、南郷に殺された。
腹の中の赤子ごと。
「鏡花は早くに両親を亡くしていてな。それから親戚の所で世話になったが……大分荒れた生活を送っていた。一見すると普通に学生生活を送っていたようだが、その実は鬱屈した感情を腹の中に抱え続けていた。だから……邪法に手を出した」
「邪法?」
急に聞き慣れない単語が飛び出して、南郷は聞き返した。
女子学生がグレたとか、反抗期だとか、そういう単純な話ではなさそうだ。
「そう、邪悪な法術だ。死者の魂を呼び出すとか、それを憑依させるとか、獣を殺して使い魔にするとか……そういう類の術だな。鏡花は霊媒体質だったから適性もあった。そういう術を使えば失踪した姉夫婦を見つけられる。あるいは死んだ姉の魂に会えると思っていたのかも知れない」
「イタコ紛いにしては、穏やかな感じじゃありませんが……」
「邪法は所詮、邪法。魂の救済には使えん。鏡花はワケの分からんモノを自分に憑依させまくって、神がかり的な巫女になって、人を惹き付けるようになった。それがカルト紛いの宗教になるまで、そう時間はかからなかった」
「女の子の教祖……?」
そんなもの、カリスマ性が足りないと思う。
カルトの教祖というのは、それなりに年季の入った人間がインドで修行しただの、神のお告げを聞いただのと、それらしい宣伝文句を持ち出すから説得力が生じるものだろう。
仮に神がかりだとしても、小娘一人が喚いたところで誰が耳を貸すのか。
園衛は「うん……」と、嘆息して頷いた。
「教祖というよりアイドル……俗っぽい言い方をすればオカルトサークルの姫といった所だな。それがネットで評判が広がって、ちょっとした地下アイドルみたいになって、鏡花が高校二年になる頃にはそこそこの教団モドキになっていた」
「で、どうなったんです」
「規模が大きくなって漸く私の耳に入ってきた。身内が世間に迷惑をかけているなど冗談ではないので――ブッ潰した」
それに関しては園衛も堂々としていた。物騒な物言いだが、恥じる点は一切ないようだ。
「具体的に……どうやって」
「教団の会合に直接踏み込んだ。つっかかってきた信者は全員殴り倒した。鏡花……というか鏡花に憑依していた自称『山の神』は丁重にもてなした後、成仏してもらった」
「オモテナシ……だから具体的に何をどうしたんですか」
「私も若いころなら悪霊なぞボコボコにしばいてブッ殺していたのだが、まあ穏便に済ませることにした。仮にも神を名乗る者ならば、神として応対する。酒とご馳走でもてなすのだ。酒はアルコール度数96のスピリタス。食い物は最高級のワサビを山ほど盛った寿司。出されたものは全て食うのが礼儀だと、神としての振る舞いをしてもらった。イヤだイヤだと抵抗したらブン殴って、強引に鼻を抑えて口を開けて食わせた。吐き出したらミキサーにかけて液体したのを流し込んだ。食い終わったら、自称『山の神』は消滅して、気絶した鏡花が転がっていた」
なるほど、確かに比較的穏便で、かつ格式高いオ・モ・テ・ナ・シである。
ワサビはトウガラシとは異なり、舌に触れずとも飲み込めば胃粘膜に直接刺激を与える。焼かれるというより溶かされ、痺れるようなダメージが体内に直接響くのである。拷問に使うなら最適であるといって良い。
やはり、園衛は南郷とある意味同類なのだ。オモテナシに関しては全く悪びれていない。
尤も、強制飲食に抵抗していたのは途中から本当に悪霊だったのか疑わしい気もしたが、駒かいことは気にしないことにした。
「それから私は鏡花を説得して、真っ当な道を歩ませることにした。鏡花も更生して高校を出て、大学に進学して、ちゃんと卒業して今は私の下で働いてる……というワケだ」
「なるほど。自分がグレた原因の兄貴が今さら出てきて、しかもバケモノになってるなんて……確かに辛いでしょうね」
「だろう? だから、どう説明したものかと――」
園衛が同意を求めると、南郷は既に前に向かって、鏡花に向かって歩きはじめていた。
「ちょっ……南郷くん!」
「ゴチャゴチャグタグダと、あんたらの都合なんてどうでも良い。俺がハッキリ教えてやるよ」
速足で進み、園衛が肩を掴んだ頃には南郷は既に鏡花の背後に立っていた。
「右大鏡花さん、だったな」
「はい……それが何か?」
仕事の手を止めて、鏡花が南郷に振り返った。
眼鏡をかけた鋭い目つきの怜悧な女性という印象だ。態度で分かる。南郷のことは厄介者として見下している。
嫌ってくれているなら、こちらとしても話が早い。
「突然だが、ハッキリ言っておく。あんたの姉さんを殺したのは俺だ」
「はい……?」
「右大一花さんだったか? 名前も知らなかったが、人間辞めてバケモノになってたから殺した。妊娠してたらしいが、そんなモン知ったこっちゃないんでね」
困惑する鏡花に構わず、南郷は露悪的に続けた。
「で、ついこの間あんたの義理の兄さんとも会った。奥さんと子供殺されて、俺に復讐しに来たんだとさ。右大高次とかいう……あのオッサンもバケモノになってた。だから、次は確実に殺す」
「あなた……何を言って……」
「頭の回転遅いなあ、あんた? 園衛さんと俺がこんな所に武器貰いにきた理由、分からないのか? 分かれよ、その程度」
「うっ……」
現実を真正面からぶつけられて、鏡花は上ずった声を漏らした。
「お姉ちゃんと……義兄さんが……っ? ちょっと……えっ、えっ……?」
「安心しな。あんたの義兄さんを殺すのは俺だ。園衛さんは関係ない。恨みたければ、せいぜい俺を恨むんだな」
南郷は鏡花を肩を押し出すように跳ね飛ばすと、〈タケハヤ〉を積み終わったトラックに向かっていった。
園衛は南郷の気持ちを察して、敢えて言葉を遮らなかった。自分に代わって恨みを一身に背負う南郷の覚悟に、ただ複雑な思いを抱いていた。
狼狽した鏡花は、園衛に縋り付いた。
「そっ……園衛様っ! あ、あの人の言ってたことって……っ!」
「全て事実だ。私もつい先日に知ったばかりのことで……ああ、言い訳などすべきではないな」
「嘘……そんな……嘘でしょ……」
現実を受け止めきれずに、鏡花は園衛に崩れるようにもたれかかった。
園衛は鏡花を抱きとめてやることしか出来なかった。下手な慰め、飾り言葉が何になるだろうか。
10年分の喪失が、悪夢のような現実になって正面衝突してきたのだ。受け止め切れるわけがない。
失踪した姉も、甥とも姪とも分からぬ赤子もとうに殺されていて、義兄は人外の怪物と化して人間に仇なしている――こんな衝撃、どうしろというのか。
どうにも出来ないから、鏡花は園衛の腕の中で震えている。
不意に、ポケットの中でスマホが着信音を鳴らした。空理恵からの着信だった。
だが今は電話に出られるタイミングではない。
園衛の胸が、鏡花の涙でじわりと濡れていた。
「なんなの……なんなの……あの疫病神……っ!」
歯を食いしばるような涙声で、鏡花は南郷への怨みを漏らしていた。
誰かを恨むのが、最も手っ取り早く精神を安定させられる。これが自然な反応なのだろう。
南郷はそこまで分かっていて、憎まれ役に徹した。
彼もまた、鏡花のように全てを奪われた経験があるから……分かるのだ。
一方、着信音は30秒ほど鳴り続けて、諦めたように止まった。
(これで本当に良いのか……南郷くん)
我が身を躊躇なく犠牲にしようとする南郷の行いに、園衛は大きな不安を抱いていた。
空理衛からの着信は、どうせただの雑事だろうと……この時は気にも留めていなかった。
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