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第三話
剣舞のこと・舞姫は十字星に翔ぶ27
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暁のイルミナの作る改造人間には、ABCDの階位がある。
日本製のゲームではないので、Sクラスといった妙な評価区分はない。
Dクラス改造人間は、少し頑丈になった程度の人間だ。要するに適性の低い改造人間のなり損ないであり、ギガスの腕輪すら与えられず、寿命は短い。
彼らは延命処置の再調整と引き換えに、上位の改造人間に従属し、捨て駒同様に扱われる。
戦闘時にも大した脅威ではなく、拳銃弾で絶命させるのは難しいが、ライフル弾で脳か心臓を破壊すれば容易に殺傷が可能だ。
Cクラス改造人間は、ギガスの腕輪に封入された動植物のデータを元に変身する獣人である。
各個体が特殊能力を持ち、人間を超えた身体機能と半永久的な寿命を持つ。
生命力も強く、完全に絶命させるには、肉体に大きなダメージを与えた上でのギガスの腕輪の破壊が望ましい。
だが、これも成功体には程遠く、時間経過と共に人間性を消失。本能的な人間への回帰願望により、人間の内臓を欲する。定期的に内臓を摂取するか、抑制剤を打たない限り、いずれ肉体は崩壊する運命にある。
Bクラス改造人間は、ノーリスクという点では成功例である。
知能や理性の喪失もなく、回帰願望もない。能力的にもCクラス以上で、普通の人間が対処するのは不可能に近い。
そして、Aクラス改造人間。
データでは過去に一つだけ成功例が存在するのみ。
それも組織内の忖度、つまり高位の幹部クラスが改造されたので、口が裂けても失敗とは言えないという便宜的な成功例でしかなく、実質的には理論上の存在でしかない。
仮に完全な適合者がAクラス改造人間として完成すれば、組織の理想たる神の領域、高次元に至る神体となるだろう。
そんな――漠然として、雲を掴むような話が今、南郷十字の前に最悪の形で現れた。
現れて、しまった。
「アハハハハハ! どうしたの十字ィ~! まるで動きが止まって見えるのは、あたしが強すぎるからかなぁ~? アハッ!」
甲高い声で、竜の魔女が嗤っていた。
かつて辰野佳澄だったもの、Aクラス改造人間ドラゴンカースが腕を一振りする度に、舞い上がった血煙が収束。赤黒い鉄杭となって撃ち出される。
「くぅ……」
南郷は回避し切れず、電磁反応装甲が辛うじて鉄杭を弾いた。火花が散ってメタマテリアルが衝撃を相殺すると、鉄杭は形状を維持できずに血煙となって霧散する。
隙を見て、ドラゴンカースにサブマシンガンを向けるが
「はぁ……はぁ……ぁぁぁ……っ」
引き金の指が、動かない。
撃ってしまったら、殺してしまったら、全てが終わってしまう。
自分がここまで戦ってきた意味がなくなる。何もかも捨てて、見殺しにしてきたのが無意味になる。
恐怖。自分が完全に壊れることの、形容し難き本能的恐怖。
最後に残った人間の心が、南郷の全身を鉛のように重く固めた。
「ハハッ! まぁ~だ、人間の心なんか持ってるんだぁ?」
血煙の中で、ドラゴンカースが全てを見透かし、嘲笑う。
「あたし達、別に恋人じゃないでしょ? 中学二年の誕生日に、あたしがプレゼントしたマフラー、一度も付けてくれなかったよね? アレって結構ショックだったなぁ~?」
聞きたくもない昔話。
それは違う。付けなかったのは、ただの照れ隠しだ。中学生の男子が女の子から貰ったマフラーなんて巻けるワケがない。子供だったんだ。仕方なかったんだ。嫌ってるわけじゃない。嫌いなワケがない。
そんな言い訳が、今更言えるわけがない言い訳が、言ったところで意味のない遅すぎる言い訳が、喉に詰まって息が止まる。
「うう……くっ……」
「フフッ! 手も繋いだことないよね? なのに、なんであたしに付きまとうの? いつも素っ気なかったくせに、いなくなった途端に必死になるとかキモ……っ」
魔女の嘲笑が、心を抉る。
「俺は……か、佳澄ちゃんを……」
「取り返す? 何様ぁ? そのために、おじさんも、おばさんも、妹の桂子ちゃんも見捨てたんだっけぇ? アハハハハハ! バカじゃないの! ねぇ! だって――」
氷のように張りついた魔女の笑みが、ころりと斜めに傾いた。
「――あたしは、もう手遅れ」
ドラゴンカースがパチリと指を鳴らす。
南郷はHMD内に、波紋のように広がる無数の電磁波のゆらぎを見た。可視化された電磁波は広がり、一瞬で収束。それが意味するところは分からなかった。
直後、足元のコンクリートが液状化。硬質の流体カッターとなって南郷に襲いかかった。
「うっ……!」
回避は間に合わなかった。防御体制を取るが、消耗した装甲は限界を超えた。
アーマーゲージ、ゼロ。
最後の強烈な火花と共に、南郷は全身を切り裂かれた。
鮮血が噴出。
「がァ――」
体から力が抜ける。生きる意志が抜ける。倒れる。
南郷の危機に、〈タケハヤ〉は独自行動を取る。スラスターを吹かして、ドラゴンカースに飛びかかった。
『インパクト』
装甲車すら砕くタングステン衝角の拳槌は、しかし魔女の眼前で阻まれた。
足元から湧きあがった血が壁となって、〈タケハヤ〉の拳を止める。
ギィッ、と音を立てて人工筋肉が軋んだ。
「無理無理、お人形さんじゃ、むぅーりぃーーー♪」
笑顔を浮かべてドラゴンカースが指で〈タケハヤ〉の衝角に触れるや、装甲ごと腕が粉砕された。
人工筋肉が千切れ、ケーブルが飛び散り、破壊はボディにまで到達。
『エマージェンシー! 離脱 します!』
〈タケハヤ〉の機体は、不可視の力場によって四散した。完全な大破だった。
寸での所でAIユニットの内蔵された頭部が射出されたが、もはや戦闘継続の余力がないのは明らかだった。
南郷は倒れたまま、辛うじて首を起こした。
ドラゴンカースが、周囲の死体から血煙を集めていた。
「凄いでしょ? こうやって、人間から血を集めるから他の下っ端みたいにエネルギー切れはしないの♪」
それなら、あんな超能力を連発できる理屈は分かる。
だが、それは無関係な人間の命を吸っているということだ。
「やめ……ろ……」
「やめる? どうして? 今のあたしには人間は食べ物にしか見えないの。それに~……目的のために手段を選ばなかった十字が言えることかな~?」
そうだ。
他人を犠牲にするな、なんて正義感ぶった台詞を言える筋合いはない。
南郷は、ただ独善的な理由で止めろと言っている。
ドラゴンカースは、暫くして南郷の心情を察した。
幼馴染だから、理解されてしまった。
「ああ、そうか! 十字はあたしのイメージが壊れるのが怖いんだねえ。全てを捨てて助けたかった、幼馴染の辰野佳澄っていう女の子が、もうどこにもいないって……ヒヒッ……認めちゃうのが怖いんだあ♪」
ドラゴンカースは呪いの魔女。
歪んだ心が欲するのは、最愛の少年が完全に壊れる一瞬の煌めき。
魔女は死体の山を踏み越えて、横転した電車の壊れたドアに、無造作に腕を突っ込んだ。
「よ~いしょっと♪」
まるで、ちょっとした荷物を取り出すような仕草で、ドラゴンカースは電車の中身を引っ張り出す。
みちみちと強引に肉が押し退けられる音と、悲鳴が
「いぎゃあっ……」
誰かの最後の断末魔の悲鳴が聞こえた。
ドラゴンカースが掴んでいたのは、血まみれの少女だった。鮨詰状態で横転した車内から強引に引き抜かれたのだ。既に瀕死だが、まだ辛うじて呼吸している。
「う~ん♪ この子を見ると思い出すなあ~……ほら、小学生の頃に通学路で見つけた、巣から落ちた鳥の雛。憶えてる?」
場違いな昔話。
だが、南郷は憶えている。はっきりと憶えている。
登校中に偶然見つけた、まだ毛も生えていない鳥の雛。南郷と佳澄は、どうにかして雛を助けようとしたが、どうしようもなかった。
体を強く打った雛鳥は、佳澄の手の中で次第に弱っていって――
「そうそう、こ~んな感じに♪」
ドラゴンカースが少女を掴みあげるや、その全身から血煙を吸い出し始めた。
かつて雛鳥を救おうとして、救えずに涙を流した辰野佳澄は、もうどこにもいない。
それを南郷に見せつけるように、ドラゴンカースは少女の命を吸っていく。
「うふふふ……たまんなぁい……人間のあったかい血が胸に流れ込んでくる、この感触……っ」
「やめろ……やめろぉ……」
南郷の不様な懇願。独善的な願いは、魔女に届くわけがなかった。
やがて少女は魔女に全てを吸い尽くされた。
「ごちそうさま~♪」
ドラゴンカースは、これみよがしに舌舐めずりをした。
搾りカスになった少女は、何の感慨もなく投げ捨てられた。
辰野佳澄は、人間以外の存在に成ってしまった。
彼女を救うために支払った対価は、全て無意味だった。
運命に抗うために、人の身では勝てない分の悪い賭けに勝つために、片目を捧げ、片腕を捧げ、家族を捧げ、青春を捧げ、未来を捧げ、人生すら捧げた愚か者は、賭けに負けた。
南郷の目から、光が消えた。
仮面の奥の絶望を見透かし、響き渡るは魔女の哄笑。
「アハハハハハハ! 壊れた壊れた♪ ブッ壊れたあ♪ いつもスかした顔した十字が、跡形もなくボロボロに崩れるのぉ……見たかったんだぁ……っ」
歓喜に身を震わせて、ドラゴンカースが南郷に歩み寄る。
もう抵抗する気もなかった。殺したければ殺せば良い……。
そう俯く南郷の目の前に、はらりと赤い布が落ちてきた。
「まだ、だぁめ♪ あたしは、十字が人の心を自分で捨てるのが見たいの。心までバケモノになったら、きっとあたしとも互角に戦える。その布は、あたしからのプレゼント。今度はちゃんと首に巻いてね?」
それは、ドラゴンカースの衣の欠片だった。南郷への当てつけのつもりか、マフラーの形に千切られていた。
「それを付けたら……もう十字は死ねないよ。あたしが殺してあげるまでは……ね♪」
魔女が踵を返して頭上を指差した瞬間、ホームの屋根が崩落した。分厚いポリカーボネート板とスチールフレームが空中に散乱。砕けたプラ板の断面は鋭利で、人体を容易に切り裂くと予想できた。
自分に向かって落ちてくる破片を見る気も起きなかった。避けようにも力は残っていない。
この体はすでに抜け殻。死ぬなら勝手に死ねば良い。
轟音と衝撃が南郷の全身に降りかかり、そこで意識は途切れた。
南郷が次に目を覚ましたのは、ある自衛隊病院の一室だった。
身体的外傷は、奇跡的に軽傷だった。
悪運が強い、というだけでは説明がつかない。
要するに、そういう呪いをかけられたということだ。
ご丁寧に、南郷の所持品として、畳まれた衣服の上に赤いボロキレのようなマフラーが乗せられていた。
それは辰野佳澄からの、いやドラゴンカースからの最後のプレゼント……魔女の呪布だった。
意識を取り戻してすぐに、病室に神宮寺がやって来た。
「で、どうする? 続けるか、止めるか? 好きに選べ」
戦う理由を失った以上、もう南郷が部隊にいる理由はない。無理に留めても士気のない兵士など使い物にならない。
そういう合理的な判断と同時に、神宮寺なりの不器用な配慮があったのだと思う。
「別に辞めても構わん。ちょっとした監視がつくだけで、普通に生活はできる。尤も、お前にゃ帰る家もなかろうが……」
「俺は……辞めませんよ」
ぼそり、と南郷が漏らした。
神宮寺は困ったように頭を掻いた。
「あのなあ……ニュース見るか?」
そう言って、スマホにニュースサイトの記事を映して見せた。
二日前の電車の脱線事故の記事だった。死者82名、重軽傷者207名の大事故。原因は、レールの歪み――ということにされている。
「コレはお前のせいじゃねえ。だが、次に同じことが起きたらどうする? お前は愛しの佳澄ちゃんを殺れんのか? あ? 甘っちょろい恋愛ゴッコで『撃てましぇぇぇぇ~~ん』で何百人も死んだら、そりゃ完全にお前のせいだわな?」
「次は……撃つ」
「口では何とでも言えるわな」
「こんなこと……冗談で言ってると思ってのんかよ、神宮寺さん……!」
南郷の目には、殺気があった。
全てを諦めた死人の目ではなかった。
「殺れるのか?」
「殺るしかないなら……俺が殺る。他の誰にも殺らせない。いいや……あいつは、俺にしか殺れないんだ……!」
南郷の右手は、爪が食い込むほどに握りしめられていた。
悲愴なまでの決意と殺意。
神宮寺は、それを理解してくれた。
翌日、回収された〈タケハヤ〉のAIユニットから吸い出された戦闘ログの解析が開始された。
「フッ、これでもあのバケモノを殺れんのか?」
神宮寺が皮肉るようにパソコンのモニタを一瞥した。
そこには、ドラゴンカースの不可視の念動力が可視化されて表示されていた。
無数の電磁波のゆらぎは赤い波紋となり、画面を覆い尽くすほどに拡大していく。
「まるで悪趣味な弾幕ゲームだ。呪いっていうのも結局は大気を伝達する力場なんだが、これじゃ避けるのも迎撃も不可能だ」
「迎撃……できるんですか?」
南郷は素朴な疑問を抱いた。
神宮寺の言い方は、呪いに対して少なからず対処方法があるという含みがあった。
自衛隊に呪いといったオカルトめいた攻撃手段への対抗ノウハウがあるのは奇妙な話だが、それは宮元園衛たち一派との関係に由来しているからだと話の合点がいくのは、ずっと後になってからのことだ。
ともあれこの時点では、神宮寺は余計なことまで南郷に話すつもりはなかった。
「ん、まあな。この呪いの電磁場のサークルが収束し切る前に、その磁場を撹乱すりゃ良い。だが、この弾幕の物量は無理だ。11式のキャパを全部防御に回しても落とし切れん」
それは、説明としては十分すぎる内容だった。
「殺れる……確実に」
南郷の中に、明確な勝算が浮かび上がった。
人を超越した竜人を討滅するためには、入念な準備が必要だった。
そのために、南郷はポイントを稼いだ。
誰よりも多く改造人間を倒し、より高性能な装備を得るために、ひたすらにポイントを貯めた。
そして一年の後、最後の戦いの時がやってきた。
日本における暁のイルミナの根拠地、医薬庁薬事監査委員会の本庁舎への強襲命令が下った。
「なんで、こんな命令が出たかって? 要するに、お偉方の利権争いに決着が着いたのよ。かたや将来的に自衛隊の主力兵器として、肉体を調整した改造人間を使いたい医薬族。かたや従来の兵器を発展させたい防衛族。この二つの派閥が秘密結社内の内ゲバに呼応して争って、結果的に後者が勝った。俺たちが改造人間をブッ殺しまくったからな?」
つまり、装甲服を着た歩兵と支援ロボットのコンビネーションが、改造人間よりも優れた兵器だと南郷達が身を以て証明したわけである。
「だから、用済みの負け犬は消される。医薬庁自体もお取り潰しの方向で世論工作が始まってる。尤も、用済みなのは俺たちも同じだがな」
神宮寺は自嘲気味に笑うと、一本のメモリーカードを南郷に差し出した。
「下っ端は尻尾切りに合わんように、お偉方のキンタマを握っておく悪知恵が必要なワケだ。こいつをくれてやる」
「なんで俺に……?」
「それと、他の連中からの伝言だ。『俺たちが死んだら報酬の受取人は南郷を指名する。貰った金で墓を立てて、残りは好きに飲み食いしてくれ』だとよ」
「だから、なんで……」
「お前が一番、俺たちの中で強い。生き残る可能性が高いからだ。分かれよ……」
この部隊にいる人間は、帰る家もなければ、帰りを待つ家族もいない。
本人が死ねば報酬は受取人不在として全て没収される。
奪われるくらいなら、南郷に預けた方がマシなのだろう。墓を作ってくれ――というのは、ささやかなワガママなのだ。せめて、自分達が存在した証を残してほしいという……戦いだけに生きて死んでいく狂戦士たちの、最後に残った人間らしさ。
神宮寺が南郷にメモリーカードを渡すのは、どんな思いが込められているのだろうか。
「じゃあな、南郷。お互い、悔いのないように生きてから死のうぜ」
自分の運命を悟っているような、寂しげな笑顔だった。
それから数時間後、アジトに改造人間の急襲を受けて、神宮寺は死んだ。
その死に様は、敵部隊を道連れにしての自爆だったという。
どこかの誰かの思惑通りに、用済みの下っ端は諸共に消えて、一切の痕跡が消滅した。
南郷は一人、ドラゴンカースとの対決に向かった。
首に巻いた魔女の呪布が、戦いの場に誘ってくれた。
そこは、人気のない山間の廃工場だった。
他人の邪魔の入らない場所で、二人きりで殺し合いたい……それだけの理由で選ばれた場所だった。
「で、あたしを殺す決心はついたぁ?」
制服を着た辰野佳澄の姿で、魔女が問うた。
装甲服の南郷は、何も答えなかった。
無言で握るのは、二対の特殊武装MME。メタマテリアルエッジの略称である。
大型のスタンガンに似た形状だが、スイッチを押すことでメタマテリアルの刀身を形成する。刀身の薄さは原子一個分で、理論上はあらゆる物体を切断できるという試作兵器だった。
「じゃあ、始めようか? あたしと十字の、最初で最後のフォークダンスをさ!」
佳澄の姿が血煙の中で、紅衣の魔女ドラゴンカースへと変わった。
フォークダンス――また、厭な思い出をくすぐってくる。
中学の頃の運動会のフォークダンス。佳澄の手を握るチャンスがあったのに、南郷は気恥ずかしくて、指でちょこんと触れるだけだった。
あの時、佳澄は悲しそうな顔をしていた。
南郷の頭に、後悔がずっと残っている。
その思い出を消してしまおう。捨ててしまおう。人の心も全て投げ捨てて、己を殺戮機械に作り替えるのだ。
最後に残った、この心を対価として捧げる。
「アクティブ……トライスクワッド」
南郷のボイスコマンドと共に、背後から3機の戦闘ロボットが飛び出した。
〈タケハヤ〉含む同型3機の同時投入。装備も全て同一だ。両肩ハードポイントと両手には、自由電子レーザー砲をフル装備している。
このために、全てのポイントを費やした。
「だからあ、お人形じゃ無理だって!」
ドラゴンカースが吐き捨てた。
腕の一振り。見下す、呪いの連打が〈タケハヤ〉たちに殺到した。
赤く可視化された呪いの弾幕に向かって、〈タケハヤ〉が自由電子レーザーを断続照射した。それは、ミサイル飽和攻撃に対するイージスシステムのフル稼働が如く。3機連携の迎撃が弾幕に穴を穿ち、その隙間に南郷が突っ込んだ。
MMEの二刀流が、赤いメタマテリアルの残像となってドラゴンカースを掠めた。
「なっ……?」
超人の反射神経で避けたドラゴンカースだったが、脇腹と肩を切り裂かれていた。
〈タケハヤ〉3機をディフェンスとし、南郷がオフェンスを担当するスクワッド。今日のために、この戦術を練りに練った。
そして――人の英知と覚悟とが、神域に至った竜人を凌駕した。
死闘の果てに、勝敗は決した。
戦場となった廃工場は爆発炎上し、全壊した。
ディフェンス用ロボットは2機が大破。〈タケハヤ〉のみが残った。
南郷の持っていたMMEは稼働限界を超過し、基部が爆散して喪失した。
残された最後の武器は、カーボンスチール製のナイフ。あまりにも原始的な武器。神に等しき竜人を殺すには、おこがましい安物だった。
その野蛮極まる刀身が、ドラゴンカースの心臓を貫いていた。
ドラゴンカースの二本の角は叩き折られ、腰のギガスの腕輪は袈裟懸けに切断されている。
ナイフの刺突は、確実なトドメだった。
周囲は燃え盛る地獄だった。
炎の中で、サザンクロスと魔女が肉薄していた。
南郷の装甲服は、返り血で赤黒く染まっていた。
「ハハっ……信じらんない……」
ドラゴンカースが、悲しげに笑っていた。
「普通の人間があたしをマジで殺せるなんて……あり得ないでしょホント……。ああ、でもぉ……十字に殺されるなら……アリかなあ? キャハハハ……」
血を吐きながら笑う魔女は。無言の南郷の頬に手を伸ばした。
「あたしが死んだら……もう誰も十字を殺せないねえ? だから、ずぅっと苦しむのよぉ……」
べったりと、ヘルメットに血が付着した。
ドラゴンカースの細長い瞳孔が、バイザーの奥の南郷の両目と絡み合う。
「これは呪い……消えない呪い……。あたしは十字の消えない傷……永遠の呪いになるの……」
魔女の衣が解けていく。
ドラゴンカースは辰野佳澄の姿に戻って
「これで……ずぅっと一緒……」
南郷にもたれかかるようにして、いや抱き締めるようにして、灰となって朽ちた。
少女の体と同じ重さの灰を被る。
愛した少女の何分の一かの灰が両手に積もっていた。ずっと昔から知っている幼馴染の重みが、はらはらと腕から零れ落ちていく。
掴めない。彼女の何も掴めない。
消えていく。壊れていく。亀裂が入っていく。
頭の奥で、形のない何かが完全に崩れ落ちたのを感じた。
南郷の体は狂った機械のように不規則に震えた。
「ああ……っ? あ、あ……あ、か、佳澄ちゃ……? アぁ……っっ」
その日、南郷十字の心は死んだ。
守りたかったもの、愛していた人を自らの手で殺した時、精神は矛盾に耐え切れず砕け散る。
それこそが、ドラゴンカースの最後の呪いだった。
破壊された精神は、苦しみの原因を断つことで均衡を取り戻そうとする。それが自己修復の本能なのかも知れない。
自分から全てを奪った元凶を、暁のイルミナを、全ての改造人間を殺すという代償行為でしか、南郷の心の損失は埋められなかった。
即座に、残った武装を回収し、既に戦闘状態にあった医薬庁へと突入。
その場にいた改造人間を皆殺しにした。
「殺す……殺してやるっ……バケモノどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一切の容赦なき殺戮を行うのは、もはや南郷十字ではなかった。
改造人間を殺戮するために生まれ変わった黒き装甲の鬼、サザンクロスだった。
現地には暁のイルミナの最高幹部、グランドガバナーたる三つ首のAクラス改造人間、トリオバイトも待ち受けていたが、紛い物のAクラスなど問題ではなかった。
トリオバイトの能力は、無限再生。どれだけ殺しても元通りに再生復活する。
だから、死ぬまで殺した。
再生能力は無限でも、再生に用いるエネルギーと細胞テロメアの数は有限だった。
トリオバイトは再生が1000回を超えた辺りから肉体に不具合が生じ、2000回付近で立つことも出来なくなって命乞いを始めたが、無視して殺し続けた。
〈タケハヤ〉がカウントする殺害回数が2500を数えた辺りでトリオバイトは話すことも出来なくなって、3048回目に完全に死んだ。
医薬庁の庁舎は、誰かの放った核爆発並の線香花火で火葬された。
戦いは終わった。
もはや、南郷に帰る場所は無かった。
アジトの工場は自爆で吹き飛び、スタッフは誰もいなかった。生き残りはとっくに撤収したのだろう。
南郷の同僚たちは、全員戦死していた。南郷の目で確認した。生き残りは一人もいない。
虚無の心が、ふと気づいた。
最後の報酬を貰っていない――と。
誰に貰えば良いのだろうか。自衛隊に押しかけても相手にされまい。
アテといえば、神宮寺から貰ったメモリーカードだけだ。
〈タケハヤ〉のスロットに挿入して内容を確認すると、そこには何かの予定表が入っていた。
「明日にゴルフコンペ……? なんだよコレ……」
中身を読み進めていくと、それが医薬庁と防衛省の高級官僚たちのスケジュール表だということに気付いた。
この官僚たちに報酬の支払いを直談判しても無意味だろうが、神宮寺のことだ。強請りのネタに使える何かが隠されているに違いない。
そして、南郷の予感は最悪の形で的中した。
ゴルフコンペの後、別荘に集まった官僚たちは宴会で生肉を貪り食っていたのだ。
その肉の色形は、生き地獄の戦場で幾度となく見てきた、改造人間の犠牲者のなれの果てと良く似ていた。
遠目に官僚たちを監視していた〈タケハヤ〉が、唐突に自動解析を始めた。
改造人間と対峙した場合に行う、敵データのスキャニングであった。
『スキャニング バイオサイボーグ Dクラス相当 脅威判定 E-』
南郷は全てを悟った。
自分たちの戦いは所詮は盤上のパワーゲーム。対立したプレイヤーはゲームが終われば仲良く手を取り、富と成果の配分を行う。
医薬庁の成果は、暁のイルミナから接収した改造人間の技術だった。
それを使って、高級官僚たちは仮初の永遠の命を得たのだ。そして今、名前すら知らないどこかの誰かを貪っている。自らの醜悪な欲望のために、文字通り国民を食い物にしている。
なるほど、これをネタに強請ればいくらでも金を引き出せるだろう。
だから、神宮寺は消されてしまった。
不都合な事実を知っている連中は、誰も彼も敵も味方も全て消された。
残っているのは、南郷だけだ。
「フフッ……俺にどうしろって? 神宮寺さんよ……。決まってんだろうが、そんなことはッッッッ!」
それを分かっていて、神宮寺は南郷にデータを託したのだろう。
神を気取ったプレイヤーに、弄ばれた駒が怨念返しをする。勝ち逃げなど許さない。
あの官僚たちは、きっと南郷たちの名前すら知らないだろう。
正しく、人の気など知らないのだ。
血反吐を吐きながら戦い続けてきた下っ端たちを道具としか思っていないから、全滅した翌日に脳天気にゴルフに行って、人間を食っている。
〈タケハヤ〉のセンサーが集音した、官僚たちのバカ笑いが聞こえた。
『不思議ですなあ! こんな肉、昔なら聞いただけで吐き気がしたのに、今では実に旨そうに見えるのですから』
『柔らかくて甘味もあって……これはどういう出所なので?』
『青森の女子校生ですよ。まあ、ワケありの家庭だったんでしょうな。親の会社が破綻したとか何とか。どうでも良いことですが! ワハハハ!』
反吐の出るようなやり取りだった。
それでも音声は切らない。膨張し続ける殺意を止めないために。
「お前ら全員……地獄に墜ちろ……っ!」
この日、ゴルフコンペに来ていた防衛省と医薬庁の高級官僚、総勢11名が全員死亡した。
死因は、崖からの転落。遺体は個人の判別が困難なほどに損壊していたと報道された。
今から7年前のことだった。
これにて南郷十字の物語は終わり、希望を失ったサザンクロスの7年の放浪が始まった。
日本製のゲームではないので、Sクラスといった妙な評価区分はない。
Dクラス改造人間は、少し頑丈になった程度の人間だ。要するに適性の低い改造人間のなり損ないであり、ギガスの腕輪すら与えられず、寿命は短い。
彼らは延命処置の再調整と引き換えに、上位の改造人間に従属し、捨て駒同様に扱われる。
戦闘時にも大した脅威ではなく、拳銃弾で絶命させるのは難しいが、ライフル弾で脳か心臓を破壊すれば容易に殺傷が可能だ。
Cクラス改造人間は、ギガスの腕輪に封入された動植物のデータを元に変身する獣人である。
各個体が特殊能力を持ち、人間を超えた身体機能と半永久的な寿命を持つ。
生命力も強く、完全に絶命させるには、肉体に大きなダメージを与えた上でのギガスの腕輪の破壊が望ましい。
だが、これも成功体には程遠く、時間経過と共に人間性を消失。本能的な人間への回帰願望により、人間の内臓を欲する。定期的に内臓を摂取するか、抑制剤を打たない限り、いずれ肉体は崩壊する運命にある。
Bクラス改造人間は、ノーリスクという点では成功例である。
知能や理性の喪失もなく、回帰願望もない。能力的にもCクラス以上で、普通の人間が対処するのは不可能に近い。
そして、Aクラス改造人間。
データでは過去に一つだけ成功例が存在するのみ。
それも組織内の忖度、つまり高位の幹部クラスが改造されたので、口が裂けても失敗とは言えないという便宜的な成功例でしかなく、実質的には理論上の存在でしかない。
仮に完全な適合者がAクラス改造人間として完成すれば、組織の理想たる神の領域、高次元に至る神体となるだろう。
そんな――漠然として、雲を掴むような話が今、南郷十字の前に最悪の形で現れた。
現れて、しまった。
「アハハハハハ! どうしたの十字ィ~! まるで動きが止まって見えるのは、あたしが強すぎるからかなぁ~? アハッ!」
甲高い声で、竜の魔女が嗤っていた。
かつて辰野佳澄だったもの、Aクラス改造人間ドラゴンカースが腕を一振りする度に、舞い上がった血煙が収束。赤黒い鉄杭となって撃ち出される。
「くぅ……」
南郷は回避し切れず、電磁反応装甲が辛うじて鉄杭を弾いた。火花が散ってメタマテリアルが衝撃を相殺すると、鉄杭は形状を維持できずに血煙となって霧散する。
隙を見て、ドラゴンカースにサブマシンガンを向けるが
「はぁ……はぁ……ぁぁぁ……っ」
引き金の指が、動かない。
撃ってしまったら、殺してしまったら、全てが終わってしまう。
自分がここまで戦ってきた意味がなくなる。何もかも捨てて、見殺しにしてきたのが無意味になる。
恐怖。自分が完全に壊れることの、形容し難き本能的恐怖。
最後に残った人間の心が、南郷の全身を鉛のように重く固めた。
「ハハッ! まぁ~だ、人間の心なんか持ってるんだぁ?」
血煙の中で、ドラゴンカースが全てを見透かし、嘲笑う。
「あたし達、別に恋人じゃないでしょ? 中学二年の誕生日に、あたしがプレゼントしたマフラー、一度も付けてくれなかったよね? アレって結構ショックだったなぁ~?」
聞きたくもない昔話。
それは違う。付けなかったのは、ただの照れ隠しだ。中学生の男子が女の子から貰ったマフラーなんて巻けるワケがない。子供だったんだ。仕方なかったんだ。嫌ってるわけじゃない。嫌いなワケがない。
そんな言い訳が、今更言えるわけがない言い訳が、言ったところで意味のない遅すぎる言い訳が、喉に詰まって息が止まる。
「うう……くっ……」
「フフッ! 手も繋いだことないよね? なのに、なんであたしに付きまとうの? いつも素っ気なかったくせに、いなくなった途端に必死になるとかキモ……っ」
魔女の嘲笑が、心を抉る。
「俺は……か、佳澄ちゃんを……」
「取り返す? 何様ぁ? そのために、おじさんも、おばさんも、妹の桂子ちゃんも見捨てたんだっけぇ? アハハハハハ! バカじゃないの! ねぇ! だって――」
氷のように張りついた魔女の笑みが、ころりと斜めに傾いた。
「――あたしは、もう手遅れ」
ドラゴンカースがパチリと指を鳴らす。
南郷はHMD内に、波紋のように広がる無数の電磁波のゆらぎを見た。可視化された電磁波は広がり、一瞬で収束。それが意味するところは分からなかった。
直後、足元のコンクリートが液状化。硬質の流体カッターとなって南郷に襲いかかった。
「うっ……!」
回避は間に合わなかった。防御体制を取るが、消耗した装甲は限界を超えた。
アーマーゲージ、ゼロ。
最後の強烈な火花と共に、南郷は全身を切り裂かれた。
鮮血が噴出。
「がァ――」
体から力が抜ける。生きる意志が抜ける。倒れる。
南郷の危機に、〈タケハヤ〉は独自行動を取る。スラスターを吹かして、ドラゴンカースに飛びかかった。
『インパクト』
装甲車すら砕くタングステン衝角の拳槌は、しかし魔女の眼前で阻まれた。
足元から湧きあがった血が壁となって、〈タケハヤ〉の拳を止める。
ギィッ、と音を立てて人工筋肉が軋んだ。
「無理無理、お人形さんじゃ、むぅーりぃーーー♪」
笑顔を浮かべてドラゴンカースが指で〈タケハヤ〉の衝角に触れるや、装甲ごと腕が粉砕された。
人工筋肉が千切れ、ケーブルが飛び散り、破壊はボディにまで到達。
『エマージェンシー! 離脱 します!』
〈タケハヤ〉の機体は、不可視の力場によって四散した。完全な大破だった。
寸での所でAIユニットの内蔵された頭部が射出されたが、もはや戦闘継続の余力がないのは明らかだった。
南郷は倒れたまま、辛うじて首を起こした。
ドラゴンカースが、周囲の死体から血煙を集めていた。
「凄いでしょ? こうやって、人間から血を集めるから他の下っ端みたいにエネルギー切れはしないの♪」
それなら、あんな超能力を連発できる理屈は分かる。
だが、それは無関係な人間の命を吸っているということだ。
「やめ……ろ……」
「やめる? どうして? 今のあたしには人間は食べ物にしか見えないの。それに~……目的のために手段を選ばなかった十字が言えることかな~?」
そうだ。
他人を犠牲にするな、なんて正義感ぶった台詞を言える筋合いはない。
南郷は、ただ独善的な理由で止めろと言っている。
ドラゴンカースは、暫くして南郷の心情を察した。
幼馴染だから、理解されてしまった。
「ああ、そうか! 十字はあたしのイメージが壊れるのが怖いんだねえ。全てを捨てて助けたかった、幼馴染の辰野佳澄っていう女の子が、もうどこにもいないって……ヒヒッ……認めちゃうのが怖いんだあ♪」
ドラゴンカースは呪いの魔女。
歪んだ心が欲するのは、最愛の少年が完全に壊れる一瞬の煌めき。
魔女は死体の山を踏み越えて、横転した電車の壊れたドアに、無造作に腕を突っ込んだ。
「よ~いしょっと♪」
まるで、ちょっとした荷物を取り出すような仕草で、ドラゴンカースは電車の中身を引っ張り出す。
みちみちと強引に肉が押し退けられる音と、悲鳴が
「いぎゃあっ……」
誰かの最後の断末魔の悲鳴が聞こえた。
ドラゴンカースが掴んでいたのは、血まみれの少女だった。鮨詰状態で横転した車内から強引に引き抜かれたのだ。既に瀕死だが、まだ辛うじて呼吸している。
「う~ん♪ この子を見ると思い出すなあ~……ほら、小学生の頃に通学路で見つけた、巣から落ちた鳥の雛。憶えてる?」
場違いな昔話。
だが、南郷は憶えている。はっきりと憶えている。
登校中に偶然見つけた、まだ毛も生えていない鳥の雛。南郷と佳澄は、どうにかして雛を助けようとしたが、どうしようもなかった。
体を強く打った雛鳥は、佳澄の手の中で次第に弱っていって――
「そうそう、こ~んな感じに♪」
ドラゴンカースが少女を掴みあげるや、その全身から血煙を吸い出し始めた。
かつて雛鳥を救おうとして、救えずに涙を流した辰野佳澄は、もうどこにもいない。
それを南郷に見せつけるように、ドラゴンカースは少女の命を吸っていく。
「うふふふ……たまんなぁい……人間のあったかい血が胸に流れ込んでくる、この感触……っ」
「やめろ……やめろぉ……」
南郷の不様な懇願。独善的な願いは、魔女に届くわけがなかった。
やがて少女は魔女に全てを吸い尽くされた。
「ごちそうさま~♪」
ドラゴンカースは、これみよがしに舌舐めずりをした。
搾りカスになった少女は、何の感慨もなく投げ捨てられた。
辰野佳澄は、人間以外の存在に成ってしまった。
彼女を救うために支払った対価は、全て無意味だった。
運命に抗うために、人の身では勝てない分の悪い賭けに勝つために、片目を捧げ、片腕を捧げ、家族を捧げ、青春を捧げ、未来を捧げ、人生すら捧げた愚か者は、賭けに負けた。
南郷の目から、光が消えた。
仮面の奥の絶望を見透かし、響き渡るは魔女の哄笑。
「アハハハハハハ! 壊れた壊れた♪ ブッ壊れたあ♪ いつもスかした顔した十字が、跡形もなくボロボロに崩れるのぉ……見たかったんだぁ……っ」
歓喜に身を震わせて、ドラゴンカースが南郷に歩み寄る。
もう抵抗する気もなかった。殺したければ殺せば良い……。
そう俯く南郷の目の前に、はらりと赤い布が落ちてきた。
「まだ、だぁめ♪ あたしは、十字が人の心を自分で捨てるのが見たいの。心までバケモノになったら、きっとあたしとも互角に戦える。その布は、あたしからのプレゼント。今度はちゃんと首に巻いてね?」
それは、ドラゴンカースの衣の欠片だった。南郷への当てつけのつもりか、マフラーの形に千切られていた。
「それを付けたら……もう十字は死ねないよ。あたしが殺してあげるまでは……ね♪」
魔女が踵を返して頭上を指差した瞬間、ホームの屋根が崩落した。分厚いポリカーボネート板とスチールフレームが空中に散乱。砕けたプラ板の断面は鋭利で、人体を容易に切り裂くと予想できた。
自分に向かって落ちてくる破片を見る気も起きなかった。避けようにも力は残っていない。
この体はすでに抜け殻。死ぬなら勝手に死ねば良い。
轟音と衝撃が南郷の全身に降りかかり、そこで意識は途切れた。
南郷が次に目を覚ましたのは、ある自衛隊病院の一室だった。
身体的外傷は、奇跡的に軽傷だった。
悪運が強い、というだけでは説明がつかない。
要するに、そういう呪いをかけられたということだ。
ご丁寧に、南郷の所持品として、畳まれた衣服の上に赤いボロキレのようなマフラーが乗せられていた。
それは辰野佳澄からの、いやドラゴンカースからの最後のプレゼント……魔女の呪布だった。
意識を取り戻してすぐに、病室に神宮寺がやって来た。
「で、どうする? 続けるか、止めるか? 好きに選べ」
戦う理由を失った以上、もう南郷が部隊にいる理由はない。無理に留めても士気のない兵士など使い物にならない。
そういう合理的な判断と同時に、神宮寺なりの不器用な配慮があったのだと思う。
「別に辞めても構わん。ちょっとした監視がつくだけで、普通に生活はできる。尤も、お前にゃ帰る家もなかろうが……」
「俺は……辞めませんよ」
ぼそり、と南郷が漏らした。
神宮寺は困ったように頭を掻いた。
「あのなあ……ニュース見るか?」
そう言って、スマホにニュースサイトの記事を映して見せた。
二日前の電車の脱線事故の記事だった。死者82名、重軽傷者207名の大事故。原因は、レールの歪み――ということにされている。
「コレはお前のせいじゃねえ。だが、次に同じことが起きたらどうする? お前は愛しの佳澄ちゃんを殺れんのか? あ? 甘っちょろい恋愛ゴッコで『撃てましぇぇぇぇ~~ん』で何百人も死んだら、そりゃ完全にお前のせいだわな?」
「次は……撃つ」
「口では何とでも言えるわな」
「こんなこと……冗談で言ってると思ってのんかよ、神宮寺さん……!」
南郷の目には、殺気があった。
全てを諦めた死人の目ではなかった。
「殺れるのか?」
「殺るしかないなら……俺が殺る。他の誰にも殺らせない。いいや……あいつは、俺にしか殺れないんだ……!」
南郷の右手は、爪が食い込むほどに握りしめられていた。
悲愴なまでの決意と殺意。
神宮寺は、それを理解してくれた。
翌日、回収された〈タケハヤ〉のAIユニットから吸い出された戦闘ログの解析が開始された。
「フッ、これでもあのバケモノを殺れんのか?」
神宮寺が皮肉るようにパソコンのモニタを一瞥した。
そこには、ドラゴンカースの不可視の念動力が可視化されて表示されていた。
無数の電磁波のゆらぎは赤い波紋となり、画面を覆い尽くすほどに拡大していく。
「まるで悪趣味な弾幕ゲームだ。呪いっていうのも結局は大気を伝達する力場なんだが、これじゃ避けるのも迎撃も不可能だ」
「迎撃……できるんですか?」
南郷は素朴な疑問を抱いた。
神宮寺の言い方は、呪いに対して少なからず対処方法があるという含みがあった。
自衛隊に呪いといったオカルトめいた攻撃手段への対抗ノウハウがあるのは奇妙な話だが、それは宮元園衛たち一派との関係に由来しているからだと話の合点がいくのは、ずっと後になってからのことだ。
ともあれこの時点では、神宮寺は余計なことまで南郷に話すつもりはなかった。
「ん、まあな。この呪いの電磁場のサークルが収束し切る前に、その磁場を撹乱すりゃ良い。だが、この弾幕の物量は無理だ。11式のキャパを全部防御に回しても落とし切れん」
それは、説明としては十分すぎる内容だった。
「殺れる……確実に」
南郷の中に、明確な勝算が浮かび上がった。
人を超越した竜人を討滅するためには、入念な準備が必要だった。
そのために、南郷はポイントを稼いだ。
誰よりも多く改造人間を倒し、より高性能な装備を得るために、ひたすらにポイントを貯めた。
そして一年の後、最後の戦いの時がやってきた。
日本における暁のイルミナの根拠地、医薬庁薬事監査委員会の本庁舎への強襲命令が下った。
「なんで、こんな命令が出たかって? 要するに、お偉方の利権争いに決着が着いたのよ。かたや将来的に自衛隊の主力兵器として、肉体を調整した改造人間を使いたい医薬族。かたや従来の兵器を発展させたい防衛族。この二つの派閥が秘密結社内の内ゲバに呼応して争って、結果的に後者が勝った。俺たちが改造人間をブッ殺しまくったからな?」
つまり、装甲服を着た歩兵と支援ロボットのコンビネーションが、改造人間よりも優れた兵器だと南郷達が身を以て証明したわけである。
「だから、用済みの負け犬は消される。医薬庁自体もお取り潰しの方向で世論工作が始まってる。尤も、用済みなのは俺たちも同じだがな」
神宮寺は自嘲気味に笑うと、一本のメモリーカードを南郷に差し出した。
「下っ端は尻尾切りに合わんように、お偉方のキンタマを握っておく悪知恵が必要なワケだ。こいつをくれてやる」
「なんで俺に……?」
「それと、他の連中からの伝言だ。『俺たちが死んだら報酬の受取人は南郷を指名する。貰った金で墓を立てて、残りは好きに飲み食いしてくれ』だとよ」
「だから、なんで……」
「お前が一番、俺たちの中で強い。生き残る可能性が高いからだ。分かれよ……」
この部隊にいる人間は、帰る家もなければ、帰りを待つ家族もいない。
本人が死ねば報酬は受取人不在として全て没収される。
奪われるくらいなら、南郷に預けた方がマシなのだろう。墓を作ってくれ――というのは、ささやかなワガママなのだ。せめて、自分達が存在した証を残してほしいという……戦いだけに生きて死んでいく狂戦士たちの、最後に残った人間らしさ。
神宮寺が南郷にメモリーカードを渡すのは、どんな思いが込められているのだろうか。
「じゃあな、南郷。お互い、悔いのないように生きてから死のうぜ」
自分の運命を悟っているような、寂しげな笑顔だった。
それから数時間後、アジトに改造人間の急襲を受けて、神宮寺は死んだ。
その死に様は、敵部隊を道連れにしての自爆だったという。
どこかの誰かの思惑通りに、用済みの下っ端は諸共に消えて、一切の痕跡が消滅した。
南郷は一人、ドラゴンカースとの対決に向かった。
首に巻いた魔女の呪布が、戦いの場に誘ってくれた。
そこは、人気のない山間の廃工場だった。
他人の邪魔の入らない場所で、二人きりで殺し合いたい……それだけの理由で選ばれた場所だった。
「で、あたしを殺す決心はついたぁ?」
制服を着た辰野佳澄の姿で、魔女が問うた。
装甲服の南郷は、何も答えなかった。
無言で握るのは、二対の特殊武装MME。メタマテリアルエッジの略称である。
大型のスタンガンに似た形状だが、スイッチを押すことでメタマテリアルの刀身を形成する。刀身の薄さは原子一個分で、理論上はあらゆる物体を切断できるという試作兵器だった。
「じゃあ、始めようか? あたしと十字の、最初で最後のフォークダンスをさ!」
佳澄の姿が血煙の中で、紅衣の魔女ドラゴンカースへと変わった。
フォークダンス――また、厭な思い出をくすぐってくる。
中学の頃の運動会のフォークダンス。佳澄の手を握るチャンスがあったのに、南郷は気恥ずかしくて、指でちょこんと触れるだけだった。
あの時、佳澄は悲しそうな顔をしていた。
南郷の頭に、後悔がずっと残っている。
その思い出を消してしまおう。捨ててしまおう。人の心も全て投げ捨てて、己を殺戮機械に作り替えるのだ。
最後に残った、この心を対価として捧げる。
「アクティブ……トライスクワッド」
南郷のボイスコマンドと共に、背後から3機の戦闘ロボットが飛び出した。
〈タケハヤ〉含む同型3機の同時投入。装備も全て同一だ。両肩ハードポイントと両手には、自由電子レーザー砲をフル装備している。
このために、全てのポイントを費やした。
「だからあ、お人形じゃ無理だって!」
ドラゴンカースが吐き捨てた。
腕の一振り。見下す、呪いの連打が〈タケハヤ〉たちに殺到した。
赤く可視化された呪いの弾幕に向かって、〈タケハヤ〉が自由電子レーザーを断続照射した。それは、ミサイル飽和攻撃に対するイージスシステムのフル稼働が如く。3機連携の迎撃が弾幕に穴を穿ち、その隙間に南郷が突っ込んだ。
MMEの二刀流が、赤いメタマテリアルの残像となってドラゴンカースを掠めた。
「なっ……?」
超人の反射神経で避けたドラゴンカースだったが、脇腹と肩を切り裂かれていた。
〈タケハヤ〉3機をディフェンスとし、南郷がオフェンスを担当するスクワッド。今日のために、この戦術を練りに練った。
そして――人の英知と覚悟とが、神域に至った竜人を凌駕した。
死闘の果てに、勝敗は決した。
戦場となった廃工場は爆発炎上し、全壊した。
ディフェンス用ロボットは2機が大破。〈タケハヤ〉のみが残った。
南郷の持っていたMMEは稼働限界を超過し、基部が爆散して喪失した。
残された最後の武器は、カーボンスチール製のナイフ。あまりにも原始的な武器。神に等しき竜人を殺すには、おこがましい安物だった。
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ナイフの刺突は、確実なトドメだった。
周囲は燃え盛る地獄だった。
炎の中で、サザンクロスと魔女が肉薄していた。
南郷の装甲服は、返り血で赤黒く染まっていた。
「ハハっ……信じらんない……」
ドラゴンカースが、悲しげに笑っていた。
「普通の人間があたしをマジで殺せるなんて……あり得ないでしょホント……。ああ、でもぉ……十字に殺されるなら……アリかなあ? キャハハハ……」
血を吐きながら笑う魔女は。無言の南郷の頬に手を伸ばした。
「あたしが死んだら……もう誰も十字を殺せないねえ? だから、ずぅっと苦しむのよぉ……」
べったりと、ヘルメットに血が付着した。
ドラゴンカースの細長い瞳孔が、バイザーの奥の南郷の両目と絡み合う。
「これは呪い……消えない呪い……。あたしは十字の消えない傷……永遠の呪いになるの……」
魔女の衣が解けていく。
ドラゴンカースは辰野佳澄の姿に戻って
「これで……ずぅっと一緒……」
南郷にもたれかかるようにして、いや抱き締めるようにして、灰となって朽ちた。
少女の体と同じ重さの灰を被る。
愛した少女の何分の一かの灰が両手に積もっていた。ずっと昔から知っている幼馴染の重みが、はらはらと腕から零れ落ちていく。
掴めない。彼女の何も掴めない。
消えていく。壊れていく。亀裂が入っていく。
頭の奥で、形のない何かが完全に崩れ落ちたのを感じた。
南郷の体は狂った機械のように不規則に震えた。
「ああ……っ? あ、あ……あ、か、佳澄ちゃ……? アぁ……っっ」
その日、南郷十字の心は死んだ。
守りたかったもの、愛していた人を自らの手で殺した時、精神は矛盾に耐え切れず砕け散る。
それこそが、ドラゴンカースの最後の呪いだった。
破壊された精神は、苦しみの原因を断つことで均衡を取り戻そうとする。それが自己修復の本能なのかも知れない。
自分から全てを奪った元凶を、暁のイルミナを、全ての改造人間を殺すという代償行為でしか、南郷の心の損失は埋められなかった。
即座に、残った武装を回収し、既に戦闘状態にあった医薬庁へと突入。
その場にいた改造人間を皆殺しにした。
「殺す……殺してやるっ……バケモノどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一切の容赦なき殺戮を行うのは、もはや南郷十字ではなかった。
改造人間を殺戮するために生まれ変わった黒き装甲の鬼、サザンクロスだった。
現地には暁のイルミナの最高幹部、グランドガバナーたる三つ首のAクラス改造人間、トリオバイトも待ち受けていたが、紛い物のAクラスなど問題ではなかった。
トリオバイトの能力は、無限再生。どれだけ殺しても元通りに再生復活する。
だから、死ぬまで殺した。
再生能力は無限でも、再生に用いるエネルギーと細胞テロメアの数は有限だった。
トリオバイトは再生が1000回を超えた辺りから肉体に不具合が生じ、2000回付近で立つことも出来なくなって命乞いを始めたが、無視して殺し続けた。
〈タケハヤ〉がカウントする殺害回数が2500を数えた辺りでトリオバイトは話すことも出来なくなって、3048回目に完全に死んだ。
医薬庁の庁舎は、誰かの放った核爆発並の線香花火で火葬された。
戦いは終わった。
もはや、南郷に帰る場所は無かった。
アジトの工場は自爆で吹き飛び、スタッフは誰もいなかった。生き残りはとっくに撤収したのだろう。
南郷の同僚たちは、全員戦死していた。南郷の目で確認した。生き残りは一人もいない。
虚無の心が、ふと気づいた。
最後の報酬を貰っていない――と。
誰に貰えば良いのだろうか。自衛隊に押しかけても相手にされまい。
アテといえば、神宮寺から貰ったメモリーカードだけだ。
〈タケハヤ〉のスロットに挿入して内容を確認すると、そこには何かの予定表が入っていた。
「明日にゴルフコンペ……? なんだよコレ……」
中身を読み進めていくと、それが医薬庁と防衛省の高級官僚たちのスケジュール表だということに気付いた。
この官僚たちに報酬の支払いを直談判しても無意味だろうが、神宮寺のことだ。強請りのネタに使える何かが隠されているに違いない。
そして、南郷の予感は最悪の形で的中した。
ゴルフコンペの後、別荘に集まった官僚たちは宴会で生肉を貪り食っていたのだ。
その肉の色形は、生き地獄の戦場で幾度となく見てきた、改造人間の犠牲者のなれの果てと良く似ていた。
遠目に官僚たちを監視していた〈タケハヤ〉が、唐突に自動解析を始めた。
改造人間と対峙した場合に行う、敵データのスキャニングであった。
『スキャニング バイオサイボーグ Dクラス相当 脅威判定 E-』
南郷は全てを悟った。
自分たちの戦いは所詮は盤上のパワーゲーム。対立したプレイヤーはゲームが終われば仲良く手を取り、富と成果の配分を行う。
医薬庁の成果は、暁のイルミナから接収した改造人間の技術だった。
それを使って、高級官僚たちは仮初の永遠の命を得たのだ。そして今、名前すら知らないどこかの誰かを貪っている。自らの醜悪な欲望のために、文字通り国民を食い物にしている。
なるほど、これをネタに強請ればいくらでも金を引き出せるだろう。
だから、神宮寺は消されてしまった。
不都合な事実を知っている連中は、誰も彼も敵も味方も全て消された。
残っているのは、南郷だけだ。
「フフッ……俺にどうしろって? 神宮寺さんよ……。決まってんだろうが、そんなことはッッッッ!」
それを分かっていて、神宮寺は南郷にデータを託したのだろう。
神を気取ったプレイヤーに、弄ばれた駒が怨念返しをする。勝ち逃げなど許さない。
あの官僚たちは、きっと南郷たちの名前すら知らないだろう。
正しく、人の気など知らないのだ。
血反吐を吐きながら戦い続けてきた下っ端たちを道具としか思っていないから、全滅した翌日に脳天気にゴルフに行って、人間を食っている。
〈タケハヤ〉のセンサーが集音した、官僚たちのバカ笑いが聞こえた。
『不思議ですなあ! こんな肉、昔なら聞いただけで吐き気がしたのに、今では実に旨そうに見えるのですから』
『柔らかくて甘味もあって……これはどういう出所なので?』
『青森の女子校生ですよ。まあ、ワケありの家庭だったんでしょうな。親の会社が破綻したとか何とか。どうでも良いことですが! ワハハハ!』
反吐の出るようなやり取りだった。
それでも音声は切らない。膨張し続ける殺意を止めないために。
「お前ら全員……地獄に墜ちろ……っ!」
この日、ゴルフコンペに来ていた防衛省と医薬庁の高級官僚、総勢11名が全員死亡した。
死因は、崖からの転落。遺体は個人の判別が困難なほどに損壊していたと報道された。
今から7年前のことだった。
これにて南郷十字の物語は終わり、希望を失ったサザンクロスの7年の放浪が始まった。
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