鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
上 下
305 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第六十九幕 追加依頼と暗殺依頼

しおりを挟む
 海底遺跡を出て螺旋階段を上る千夜たちの足取りは下りる時も軽いものだった。戦闘があったわけではないが、それなりに動いている。なのに軽い軽い足取りなのは海底遺跡で見つけた財宝の効果がとても大きいのだろう。
 地上に戻るなり点呼をして全員居るか確認を終えると解散した。
 既に財宝を見つけた事が地上にいる連中にも耳にしたのか一目見ようと集まっていた。
 そんな群集など気にすることなく千夜はエリーゼたちと一緒に部屋に戻ろうとしていた。

「よ、セン。財宝を見つけたそうだな」
「まあな」
「なんだよ。もう少し嬉しそうな顔でもしたらどうなんだ」
「いや、嬉しいとは思うが別に大した事じゃないからな」
「流石はAランク冒険者だな。俺たちと言う事が違うぜ」
「正直俺としては宝石よりお酒の方が良かったんだけどな」
「あはは!確かに財宝は飲めも食えもしないからな」
「センさん少し宜しいでしょうか?」
 バレルと雑談していると、ベノワの秘書が話しかけてきた。

「どうした?」
「ベノワ様がお呼びに御座います」
「俺にか」
「はい」
(海賊に関しての事か)
 なんとなく理解した千夜は、エリーゼたちに先に部屋に戻っていろと伝え秘書と一緒にベノワの許へ向かった。
 人工島の中で最も豪華な建物に案内された千夜。と言っても二階建ての小さな家だ。そのうちの一部屋に通された千夜は眼鏡をかけて仕事をするベノワの前に立つ。
 しかし、会話が始まる気配がない。
 何かを計算するベノワとそんな彼女を待つ千夜。
 十分ほどして計算が終わったのか眼鏡を外して千夜に視線を向けた。

「お呼びして申し訳ありません」
「別にそれは構わない。それで話ってなんだ」
「二つほどあります」
(二つもあるのか)
 千夜の中では海賊以外で話すことがあるのかと思ってしまうほどだ。

「一つ目は海賊の事です。他に忍び込んでいる奴は分かりましたか?」
「ああ、二人はな。だがあと二人だけはどうしても分からない」
「そうですか。では早く見つけてください」
「なにか問題でもあるのか?」
「いえ、そうではありません。ただあれだけの財宝が見つかったのです。どれだけの海賊船が襲い掛かるか分かりません。ですから早く情報のやり取りを断っておきたいのです」
「なるほど分かった。今日の話し合いにでも探してみる」
「お願いします」
「それでもう一つはなんだ?」
「これはお願いではなく決定事項です。明日からも海底遺跡の探索に向かって貰います」
「一度探索に入った冒険者は次の日休みじゃなかったか?」
「その通りです。ですが今日の探索で危険度が増しました。正直Cランクの依頼ではありません。最低でもBランクです」
「確かにその通りだな」
「ですから死人が出ないようにしたいのです。勿論海賊の密偵は別です。探索中に殺して貰っても構いません」
「どちらかと言えば後者の方が一番の目的に感じるんだが?」
「否定はしません」
「そうか。だが良いのか?今回の事で間違いなく冒険者たちに情報が回った筈だ」
「見つけたらそのうちの一つをあげるって事ですか?」
「そうだ。それなら出来るだけ探索に参加したいと誰もが思うはずだ」
「確かに特別扱いはあまりよくわりませんが、誰もが貴方の実力を認めています。特に今回の探索で最後まで同行した冒険者たちはそうでしょう。ですから誰も文句は言わないと思いますよ」
「確かにそうだろうな」
 文句は言わないだろう。だが、不満に感じることも間違いないと千夜は内心そう思った。

「ま、決定事項だから仕方がない。その事は今日の話し合いで言うのか?」
「ええ、そのつもりです」
「なるほど。で、一つ聞きたいんだが」
「なんでしょうか?」
「参加するのは俺だけか?」
「そのつもりです」
「出来ればもう一人だけ同行を許して貰いたいんだが」
「それはどうしてですか?」
「俺の仲間に暗殺が得意な奴がいる」
「なるほど、よく理解できました。ですがあれだけの美女の中に暗殺者が。なんて恐ろしい」
 ベノワが呟いた言葉。それは美女の暗殺者がいることに対しててだけでなく、そんな暗殺者を虜にするほどの魅力と力を備えている千夜に対する畏怖が込められているとは千夜は思いもしないだろう。

「それじゃ、俺は部屋に戻る」
「分かりました。明日からもよろしくお願いしますね」
「依頼だからな」
 話を終えた千夜はエリーゼたちが待つプレハブ小屋に戻るため外に出た。既にお酒を飲み始めている冒険者や武器の手入れや情報交換、博打など様々なことをしながら夜の話し合いまで時間を潰していた。
(エリーゼたちにも参加させるべきか?)
 エリーゼたちを束縛しているつもりはない千夜だが、ガラの悪い冒険者たちと一緒にさせたくないと考えている。だから帝都でもエリーゼたちが会話をするのは同じ女冒険者ぐらいだ。だがこういう場所で情報を手に入れるには話すしかない。千夜が話せば問題ないが、こういう時の効率を考えるなら自由に行動させるべきかと思うのであった。

「お帰りなさい」
「ただいま」
 考え込んでいるといつの間に到着していた千夜は考えるのをやめてベッドに腰を下ろす。

「それで話ってなんだったの?」
「明日からも海底遺跡の探索に参加するように言われただけだ」
「ま、当然でしょうね」
「驚かないのか?」
 意外な返答に思わずエリーゼたちに視線を向ける。

「今日の出来事を考えたら仕方がないわよ」
「はい。冒険者の皆様の実力を考えたらセンさんが居なければ全滅しますからね」
「そうか」
 エリーゼたちが成長していることに内心嬉しく思いつつ千夜はエルザが用意してくれたお茶を飲む。

「それでだ明日の探索なんだが俺とクロエだけ参加する」
 その言葉に一瞬にして部屋の空気が重たくなる。ウィルにいたってはエリーゼたちが発するオーラを感じ取ったのかあたふたとしていた。

「理由を聞いても?」
 輝きを失った瞳で問いかけるエリーゼに対して千夜はあたふたとすることなく口を開いた。

「理由を話す前に話す事がある」
「何かしら?」
「どうやら冒険者の中に海賊の密偵が紛れ込んでいるらしい」
「それは本当なの?」
「ああ。前に酔っ払って船から落ちた奴が居ただろ」
「ええ。もしかして」
「そうだ」
 なんとなく理解したのかエリーゼたちの目に輝きが戻り真剣な面持ちに変わる。

「残り四人いると分かっている。でそいつらを」
「探索中に暗殺するのね」
「そうだ」
「だから暗殺が得意なクロエなわけね」
「その通りだ。だがまだ四人のうち二人しか判明していないが、今日の話し合いで見つけるつもりだ」
「分かったわ。その間私たちは何をしていたら良いかしら?」
「出来れば情報を集めて貰いたい。勿論如何わしい事をしてくるようなら死なない程度に懲らしめても構わない」
「分かったわ」
「ウィルはエルザたちと一緒に情報収集の勉強か剣の稽古だな」
「分かりました」
 こうして明日の予定を話し合っているうちに時間は過ぎ話し合いの時間となった。 
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。