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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第六十八幕 巨大ウツボとトラップピラニア

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 大人三人が横に並んで歩いても少し余裕のある階段の先頭をゆっくりと下りる千夜。
 螺旋階段かと最初思った千夜だが、そこはビルの非常階段と変わらない造りになっていた。
 たった2分で二階層へと到着した千夜たち。その事に呆気取られてしまう。
(地下一階に下りただけな気がするな)
 内心そんな事を思いながら千夜は後ろにいるベノワに視線を向ける。

「お願いします」
 その言葉に千夜は扉を開けた。
 天井や床に取り付けられた大理石のような石の発光でうっすらと明るい第二階層は第一階層となんの造りも変わらない場所であり、ただ戻ってきたような錯覚を覚えそうになる。
 しかしそこは二階層であると千夜は瞬時に理解する。

「全員臨戦態勢だ」
「センさんどうかしたの?」
「魔物の気配だ」
「え!?」
 信じられないと言わんばかりのベノワの声音に思わず笑みが零れる。

「どうやらここは、ただの海底遺跡じゃないようだ」
 その言葉に冒険者たちは納得したのかすぐさま武器を構える。

「造りはたぶん、上と変わらないだろう。どうする複数に別れて行動するか?」
「いえ、今日は全員で行動します。まだ何がいるか分からない場所で少数で動くのは危険です。今日は近場の部屋だけ調べて戻るとしましょう」
(焦っているかと思ったが冷静な判断は出来るようだな)

「分かった。部屋は俺が決めるが問題ないよな?」
「ええ、危機察知の戦いセンさんに任せます」
「それはどうも。全員周囲を警戒しつつ離れないように行動しろ。それと天井や床、壁にも警戒を怠るなよ」
「どうして壁や床まで警戒する必要があるのですか?」
「俺の経験上こういう場所はいきなり壁や床を破壊して奇襲を仕掛けてくることがあるからだ」
「分かりました。みなさんしっかり警戒してください!」
「「「「おうっ!」」」」
 ベノワの一言に全員が大声で返事をする。

「ウィルはルーザかクーエから離れるなよ」
「わ、分かりました!」
(くそっ、ウィルには少し早かったかもしれないな)
 内心そんな事を思いながら千夜は二階層へと足を踏み入れた。
 ――瞬間だった

「ギョァヤアアアアアアァァァ!!!」
「チッ!」
「旦那様!」
 キィイイイイイイイィィ!!
 左の壁が壊れそこから巨大なウツボのような生物が千夜に襲い掛かってきた。
 しかし壁が破壊される音で気がついた千夜は即座に鬼椿で防ぐ。がその場で勢いを殺す事は出来ず押されてしまう。巨大ウツボの鋭い牙と鬼椿が火花を散らすたびに金属が擦れ合うような甲高い音を部屋中に響き渡らせながらもどうにかその巨体を止めることに成功すると、安堵する暇もなく千夜は巨大ウツボの側面に回りこみ鬼椿を振り下ろし一刀両断しようとする。が、
(こいつっ!)
 危険を察知したのかそのまま前方の壁を破壊して逃げ去ってしまった。
 危機察知とマップを使い巨大ウツボの位置を特定しようとするが、すでに殺気や殺意を消しているのかどこにも姿が見当たらなかった。
(それにしてもなんて奴だ。あの見た目で知能も高いと見える。斬られると思ったのか動いて俺の一撃を弾くとは)
 鬼椿を見下ろしながら内心そんな事を考えていると、

「旦那様!」
「センさん!」
 エリーゼとミーナが駆け寄ってきた。

「怪我はありませんか!」
「ああ、問題ない。少し服が汚れただけだ」
「そう、良かったわ。あんまり心配させないで頂戴」
「すまなかったな」
 心配する二人の頭を撫でてやりながら千夜はベノワの許に戻る。

「どうやら大丈夫のようですね」
「ああ。でもまさかいきなり襲い掛かってくるとはな」
「それには私も驚きましたが、あの攻撃を防げるのはセンさんぐらいですよ」
「商人のアンタがそんな事分かるのか?」
「商人として長い間色んな冒険者を見てきましたから、それぐらい分かります」
「そうか。それでこれからどうする。今のを見て戦意喪失した奴も少なからずいるようだが」
「そうですね……」
 千夜の言葉にベノワは背後に密集する冒険者たちを見る。
 そこには半分近くが青ざめた表情をしていた。
(それを考えると平然としているベノワは凄い商人だな)

「これ以上進むのは無理だと思う方は上に戻っても構いません。しかし依頼達成時に払うお金は減りますけど構いませんね」
 その言葉に一部の冒険者たちは考えを改めてこの場に残る決意をするが、それでもお金より恐怖に負けた冒険者たちはそのまま地上へと階段を上って行くのだった。

「残った冒険者は俺たちを含めて10人か」
「私と奴隷たちを合わせても15人ですね」
「仕方がない。あんまり長い間いても危険しかないからな。さっさと終わらせるとしよう」
「そうですね」
 千夜たちは密集して探索を開始した。
 全方位警戒すること10分ようやく一つ目の部屋を見つけた。
 千夜が視線を向けてきたことに気がついたベノワはただ頷いた。
 その意味を理解した千夜はゆっくりとドアを開け、中に入る。
 これと言って目ぼしい物はなく、完全に倉庫と言えそうな場所。しかし壁には幾つもの引き出しがあった。

「開けるぞ」
「お願いします」
 千夜が代表して適当に引出しを開ける。
 そこには大量の金銀財宝が埋め尽くされていた。

「「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」
 意気込みの時よりも大きな咆哮が室内に木霊する。

「まさかここにある引出し全て宝物なのかしら?」
 そんなエリーゼの言葉に冒険者たちは我先にと引出しを開けようとする。が

「止まれ」
 殺気篭った千夜の一言に全員が体を強直させながら停止した。

「ま、まさか独り占めするきか?」
 一人の冒険者がそんな事を口にする。

「そうじゃない。無闇に引出しを開けるな。トラップが仕掛けられていたらどうするんだ」
「そ、そんなモノあるわけがないだろ」
「全ての引出しのうち一個でもとても危険なトラップが仕掛けられていたら俺たちは全滅する。それでも良いのなら好きに開けろ」
「「「「……………」」」」
 そんな千夜の言葉に誰もが黙り込む。

「引出しは俺が開ける。危険がないと分ければお前たちで回収しろ。それで良いな」
「わ、分かった」
 千夜は警戒しながら二つ目の引出しを開けた。

「ギャアアアアァァ!!」
 すると、引出しの中からピラニアのような魚が千夜の顔面目掛けて飛び出してきた。しかし警戒していた千夜は焦ることなく鬼椿で突き刺して殺す。

「これでも文句のあるやつはいるか?」
 その言葉に全員が首を横に振る。
 それから千夜は一つ一つ引出しを開けていった。結果二十近くあった引出しの半分以上がトラップだった。その事に冒険者たちは驚きを隠せないでいた。

「もしもあのまま開けていたら俺たちの半分はこの気色悪い魚に殺されていたかもしれないのか」
「考えるだけでチビリそうだぜ」
 そんな会話を聞き流しながら千夜はベノワに話しかける。

「で、どうするまだ探索するか?」
「いえ、今日は戻りましょう。この量は流石に一旦持ち帰られないと無理ですね」
「そう……だな」
 部屋の中央に集められた金銀財宝に古代武器の山に視線を向けながら千夜たちは全員納得した。

「ですが、皆さんには感謝しています。ですので財宝の中から一つだけ差し上げます。どうぞ好きなのを取ってください。ただし財宝だけです。武器類は駄目ですから」
「良いのか?」
「ええ、構いません。このままだと我が商会だけが利益を得るだけです。そうなれば暴動が起きるかもしれませんから」
 その言葉に冒険者たちは大喜びしながら欲しい財宝を一つだけ選ぶのだった。たまにこっそり二つ目を貰おうとした冒険者は千夜によって打ちのめされたが、冒険者たちはその光景をただ笑い飛ばすだけだった。
 こうして皆心を高ぶらせながらも警戒は怠らずに地上へと戻ったのだった。
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