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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第六十一幕 相談と事実だ

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 夕方、千夜は西の彼方に沈む太陽を背にして帆を畳んでいた。
 衛星もレーダーも無いこの世界で夜の航海は危険しかない。
 勿論、ちゃんとした船員もいるが、冒険者たちも早く夕食を食べたいため率先して手伝っていた。
 夕食を終えた千夜はベノワが居る部屋に向かった。
 トントン

「どなたかしら?」
「俺だ。センだ。少し話がある」
「……入って頂戴」
 入室の許可を貰った千夜は扉を開ける。
 豪華な装飾品で飾られた寝室だった。

「豪華な部屋だな。流石は船長室だな」
「あら、私は船長ではないわよ」
「違うのか?」
「私はグレムリン商会代表として今回の海底遺跡発掘に同行しているだけよ。それに私に船を操る力があると思うのかしら?」
「いや、無いな」
「正直なのね」
「お世辞や飾っても仕方が無い事だってある」
「そうね。それで私になんの用かしら。行っておくけど依頼料の値上げは出来ないわよ」
「別にそんな事の為に着たんじゃない」
「そうでしょうね」
 そんな探り合いも無言の睨みあう。

「それで?」
「ああ、アンタには伝えておこうと思ってな」
「何かしら?」
 千夜の言葉に掛けていた眼鏡を外す。

「これまでの海底遺跡探索の話を聞いた」
「………」
「大まかな事しか聞いていないが、この船か他の4隻のどれからに海賊の仲間が乗り込んでいる可能性が高い」
「でしょうね」
「気付いていたのか?」
「当たり前でしょう。海底遺跡に行った帰りに何度も襲われれば気付くわ」
「よく今まで生きて帰れたな」
「私もこう見えて昔は冒険者だったからね」
「そうか」
 ベノワの自慢話に興味の無い千夜はあっさりと話を終わらす。

「もしかしてそれだけ?」
「もう一つ訊きたい」
「あら、何かしら?」
「これまでの海底遺跡発掘で海賊の仲間を見つけた事はあったか?」
「いえ、一度も無いわ。この船だけでも50人近くの人間が乗ってるの。そう易々と見つけられる筈がないわ」
「そうか」
(考えるとしたら、毎回織り込む密偵を変えているか、見つかってない事をいい事に同じ人間を送り込んでいる可能性も捨てきれないな。逆にグレムリン商会の信頼を得ている可能性だってある。もしかしたら冒険者ではなく船員の中に交じっているってこともあり得るからな)
「話は終わりかしら?」
「もう一つ」
「今度は何かしら?」
「襲われるのは毎回夜なのか?」
「ええ、そうよ。いつも港に着く2、3日前に襲ってくるわ。早いときには発掘を終えた次の日の夜に襲ってきた事もあるぐらいよ」
「そうか」
(となると。間違いなく内部に海賊の仲間が居る事になる。でないのであれば遠くから偵察している事になるが、隠れる場所もない海の上で偵察は難しいだろう)

「今度こそ終わりかしら?」
「ああ。迷惑かけたな」
 千夜は部屋を出ようとした。が、

「あら、質問ばっかりしてくるくせに私には質問させてくれないのかしら?」
「……何が知りたい」
「もしかして貴方。海賊が送り込んだ諜報員を見つけ出す気?」
「そうだが?」
「正直好ましくは無いわね」
「何故だ? 船内が疑心暗鬼に陥るからか?」
「ええ、そうよ。だから大事にはしたくないわ」
「だが、見つけ出さない限り海賊の後手に回る事になる」
「………」
 千夜の言葉にベノワは渋い顔をする。

「本当に見つけられるのでしょうね」
「ああ。俺にはその力がある」
「随分と自信があるようね。でもそれは慢心よ」
「残念ながら自信でも慢心でもないな」
「あら、それなら何かしら?」
「事実だ」
「………プッ、プアハハハハハハハ!!!」
 ベノワは身体を仰け反らせて愉快そうに笑いだす。

「そんなに面白かったか?」
「御免なさい。そんな返答をしてきた人は初めてだったものでつい笑いを堪えなかったわ」
「そうか」
 今度こそ話を終えたと千夜はドアノブに手を伸ばす。

「もう一つ良いかしら?」
「なんだ?」
「見つけ出す方法とその者が海賊だという証拠を見つけ出す方法は?」
「企業秘密だ」
「あら、こっちは教えたのに答えてくれないのかしら?」
(この女狐め)
 内心ベノワを罵倒しながら千夜は口を開く。

「見つけ出す方法は言えないが、証拠を見つけ出す方法ならこれだ」
 千夜は懐から取り出すフリをしてアイテムボックスから取り出したのはサッカーボールより一回り小さい水晶玉だった。

「………もしかしてそれって」
「ああ、アンタの推測通りの物だろう。各国境、城門などで必ず使うものだからな」
 それは相手の名前、年齢、性別、レベル、ステータス、そして犯罪歴を映し出す物だ。これはギルドでも使用されているものだ。

「確かにそれなら一発で解るわね。でもそれを何処で手に入れたの?」
「それは言えないが友人から借り受けたものだ。今回の仕事が終われば返さなければならないからな」
「そう、解ったわ」
「なら、俺はこれで失礼する」
「最後にもう一つ良いかしら?」
「なんだ?」
「どうしてそこまでするのかしら?」
「簡単だ。敵に好き勝手されるのは好きじゃないからだ」
 不敵な笑みを浮かべて答えた千夜の姿にベノワは悪寒に身震いするのだった。
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