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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第五十八幕 考え方と友好な関係

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 グレムリン商会で買い物を済ませた千夜たちは大通りを歩いていた。

「それにしても旦那様、本当に良かったの?」
「ん? なにがだ?」
「宝石よ」
「嫌だったか?」
「そんな事ないわ。とても嬉しいわ。でも、グレムリン商会に気に入られるためだけに宝石をいくつも買うなんて」
「俺らしくないか?」
「そ、そんな事は……」
 あまり無駄遣いしない千夜はどりからといえば、節約するタイプだ。ましてや冒険者活動のためだけに金貨を何十枚も使うような事はしない。それはいつも傍に居るエリーゼたちとっては尚更だった。

「ま、確かに船に乗るためだけに金貨何十枚も使うのは俺らしくないかもな」
「じゃあ、なんで」
「考え方の違いだな」
「考え方の違い?」
 千夜の言葉にエリーたちは疑問符を浮かべながら首を傾げる。

「ああ。船に乗る為にグレムリン商会と仲良くなるのには何か購入するのが手っ取り早い。だが、そんなの誰だって嫌だ。ま、今後の関係のためにって考えるならちょっとした出費って言えなくもないが、流石の俺もそんな事で金を使うのは嫌だな」
「なら、どうして?」
「簡単だ。エリーたちに喜んで欲しかったからだよ」
「旦那様……」
 千夜の言葉にエリーゼたちの歩みが止まる。

「何か買うなら目的の為でなく、誰かの為に喜んで貰ったほうが買う行為にも意味がある」
「ほんと旦那様はずるいわ……」
 頬を赤く染めるエリーゼたちの頭をそれぞれ撫でる。

「嫌だったか?」
「バカ……そんなわけないでしょ」
「そうです。愛する人からプレゼントされて嬉しくないわけないです」
「そうなのじゃ」
「そうです」
「そうか。それなら良かった」
 そんな愛する妻たちの言葉に千夜は安心したのか微笑むのだった。

「あ、あのお父様」
「ん、どうしたウィル」
 言い難そうにウィルが千夜に声を掛ける。

「出来ればそういう事は宿屋に戻ってからしてくれませんか」
「ん?」
 ウィルの言葉に千夜たちは周りに視線を向けると、男たちの嫉妬と怒りの篭った視線と、頬を赤く染めて羨ましそうに見つめる女性の視線が千夜たちに集中砲火を浴びせていた。

「確かに大通りのど真ん中ですることじゃないわね」
「そ、そうですね」
 恥かしさからエリーゼたちの顔がますます赤くなっていった。

「それじゃあ、これ以上目立つ前に宿屋に戻るとするか」
「そ、そうね。そうしましょう」
「「「は、はい……」」」
 堂々と歩く千夜と違い、エリーゼたちは俯きながら宿屋に戻るのだった。

              ******************************

 千夜たちが宝石を購入し出て行った後の一室では。

「どうかなさいましたか?」
 一人の女性がベノワに話しかけていた。

「あの、冒険者は何者か知っているかしら?」
「申し訳ありません。私は存じておりません」
「あなたは?」
「多分ですが、噂の冒険者ではないかと?」
「噂?」
「はい。先日のこの都市にAランクの冒険者パーティーが来たとか。なんでもそのパーティーは6人組で、家族でパーティーを組んでいるとか」
 メガネをかけた女性店員は先日耳にした噂をベノワに伝えた。

「なるほど。多分その噂の冒険者でしょうね」
「それがどうかしましたか?」
「あのリーダーの男。本当にただの冒険者かしら?」
「それはどういう意味でしょうか?」
 ベノワの言葉に女性店員2人は首を傾げる。

「Aランクの冒険者パーティーともなれば力だけでなく、知識も求められてくるもの」
「確かにその通りですね」
「でも、Aランクの冒険者とはいえ、高価な品に触る時手袋をするなんて知識、冒険者が知りえるものかしら?」
「そ、それは……」
「確かに言われてみれば……」
「その証拠に妻たちである女性陣は普通に素手で触っていた。にも拘わらずあの男は手袋をしていた。大手の商会でしかしない事を」
「まさか、どこかの商会が送り込んできた諜報員という事でしょうか」
「それは解らないわ。でも、ただの冒険者ではないのは確かよ」
 顔の前で手を組んだベノワは千夜の姿を思い浮かべる。
(もしも、彼が諜報員などではなくただの冒険者だとしたら、友好な関係を築くべきでしょうね)

「少しでも多くあの冒険者について調べて頂戴。大至急よ」
「「は、はい! 畏まりました!」」
 慌てて出て行く情勢店員を視界の端で確認したベノワは思考の海に潜っていく。
(それよりも今は今度の海底遺跡の発掘よ。あれが上手くいけば、グレムリン商会は間違いなく今の危機を乗り越える事ができる筈よ)
 予想外の出来事続きでグレムリン商会は未曾有の危機に立たされていた。
 その事を知っているのはまだベノワと夫であるグレムリン商会の会頭のみ。

「なんとしても絶対に成功させて見せるわ」
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