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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第六十幕 バレルと見張り番

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 その後エリーゼたちを休ませるため船内に連れて行く。
 ウィルに看病をまかせると千夜は甲板に戻り海を眺めていた。

「よう、お前さんは平気なのか?」
「ん?」
 突然声を掛けられた千夜は声がする方に視線を向ける。
 そこには、身長190センチオーバーの筋骨隆々の男が立っていた。
 この都市育ちなのか、よく焼けており日焼け跡がクッキリとTシャツの袖から確認できた。

「別に大した事はない。船には何度か乗ったことがあるからな」
「それでか」
「で、俺に用か?」
 怪しい行動をすればいつでも反撃できるよう準備だけしておく。

「そうだ。今日から一週間は共にこの船を護る仲間だからな。俺は冒険者たちのまとめ役に選ばれたバレルだ」
「俺はセン。見ての通り武器は刀だ」
「それが刀か。火の国の武器は初めて見たが変わってるな」
「ま、最初は誰だってそう言うが、使ってみれば案外使いやすいものだ」
「そうか。で、魔法は?」
「水と風、あと闇が使える」
「ほう、三つもか」
「混合種だからな」
「なるほどな」
 納得した様子のバレルは自分の武器も見せてきた。

「俺の武器はコイツだ」
 長さ170はあるロングソードを鞘から抜く。

「随分と使い込まれているな」
「当たり前だ。俺が冒険者になって初めて買った武器だからな。愛着も生まれるってものだ。違うか」
「確かにな……」
 千夜は腰に携える鬼椿の頭を指で撫でながら同意する。

「さて、今夜からの夜の見張りについて他の奴らと一緒に話し合いたいんだが構わないか?」
「ああ、大丈夫だ。妻たちには俺から伝えておく」
「そうか。ならこっちに着てくれ」
 バレルの後をついて行き冒険者たちが集まっている甲板中央へと移動する。
 その後バレルの進講で夜の見張り番が決まっていった。
 話し合いが終わると千夜はエリーゼたちの許へ向かった。

「大丈夫か?」
「ええ、旦那様がくれた酔い止めの薬のお陰で楽になったわ」
 と言ってもまだ立ち上がれるまでには回復していなかった。
(顔色は良くなったが、まだ休息が必要だな)

「ウィルは平気か?」
「はい。僕はなんともありません」
「そうか」
 笑顔で答えるウィルの頭を千夜は微笑みながら撫でる。

「さっき他の冒険者たちと夜の見張り番について話し合ってきた」
 その言葉にエリーゼたちの表情は真剣なものになり、上体を起こし壁に凭れる。

「それで?」
「奴隷たちからも数人見張りを立たせるらしいから、俺たちは二人一組で一日交代だそうだ」
「それで平気なの?」
「ま、夜は敵の接近に遅れやすいからな。もっと立てても良いような気がするが、行きと帰りの両方あるからななるべく力を温存しておくためだそうだ。それに海賊が襲ってくるのは海底遺跡に行った帰りに襲ってくることの方が多いらしいからな」
「それって内部に海賊の仲間がいるか斥候が遺跡の近くに居るって事ですよね?」
「そうだ。だが、内部に海賊の仲間が居るって噂が流れた瞬間、疑心暗鬼に陥ってもしもの時に連携できなくなる。それなら周りに伝えないほうが良い」
「そうですね」
 一番最悪の事態は避けたい千夜は情報を隠すことにした。
(それにもしも海賊の仲間が居るなら俺たちが見つければ良いだけの話だからな)

「それで、見張りの組み合わせはどうするの?」
「夜は敵の接近に気付くのが難しい時間帯だ。そこで、夜目が利く俺、クーエ、ルーザは別々にする」
「残念じゃが仕方あるまいのぉ」
 少し長い耳が垂れるクロエ。

「で、組み合わせは俺とウィル。クーエとエリー、ルーザとミーネとする」
「私とクーエじゃないんですね」
「今回はな。もしも海賊が船に乗り込んできたとき、接近戦が得意な者が傍に居た方が連携も取りやすい。後衛のミーナに前衛ではないクーエと組ませるのは少し不安だったからな。言っておくが別にクーエが弱いとかではない。お前は近接戦闘も得意だからな。だが、ルーザやエリーに比べれば後衛を護りながら戦うのには慣れていないと判断しただけだ」
「分かっておる。我がそんな事でメソメソすると思ったのか。この戯け!」
「わ、悪かった」
 クロエにとって自分がミレーネと一緒で無かった事よりも、千夜に弁明された事の方がショックだった。
(まったく俺もまだまだだな)
 自分の不甲斐なさに後頭部を掻く千夜であった。

「見張りの日だが、俺たちは明後日の夜からだ」
「随分と遅いのね」
「ああ。初日や二日目より気が緩みやすい三日目以降を任される意味を忘れないようにな」
「ええ、解っているわ」
「ま、本当は二日酔いのお前たちに今日明日と見張りをされるのが心配だからという俺と他の冒険者たちからの気遣いなんだがな」
「それは気遣いとは言わないわよ!」
「そうか」
 拗ねるエリーゼたちの姿に安堵した千夜は軽くあしらいながら甲板に戻るのだった。
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