290 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第五十四幕 盗賊出現と幸運
しおりを挟む
次の日、テントの中で目を覚ました千夜はまだ寝ているミレーネたちを起こさないように外に出る。
「あら旦那様、おはよう」
「おはようエリー」
「お早う御座います、主。どうぞお水です」
「おはようルーザ。ありがとう」
エルザから貰った水を飲み干すと千夜は鬼椿をアイテムボックスから取り出す。
「朝稽古?」
「ああ、やっておこうと思ってな」
「今日ぐらい休めばいいのに」
「やらなければ、鈍るからな。それに習慣だからな。しないと落ち着かない」
「そうれなら仕方ないけど」
「朝食の準備が出来次第お呼びします」
「ああ、頼む」
千夜は少し離れた森の中で抜刀する。
刀を構え振るう。形などない。ゲーム時代と同じ動きを淡々と繰り返す。
時々自分が考えた動きを混ぜ合わせながら新しい剣術の試行錯誤も行う。
「主、朝食の準備が整いました。すでに全員起きて集まっています」
「ああ、直ぐに向かう」
時が流れるのを忘れ没頭していた千夜はエルザの呼びかけで我に戻ると、納刀しエルザと一緒にみんなの許へ戻るのだった。
朝食を終えた千夜たちは都市ダラに向けて出発した。
ダラまではあと4日かかる。
千夜たちが本気で走ればすでに到着しているが、今回は護衛依頼のためそれは出来ない。
荷馬車に揺られながらゆっくりと進む。
結局何事も起きる事無く一日を終えた。
都市ルーセントを出発して3日目。
大陸の南側とはいえ、この時期はまだ肌寒さを感じさせる。
途中、都市ルーセントに向かう行商人とすれ違いながらもゆっくりと街道を進んでいく。
お昼休憩を終え、進んでいると突然千夜たちが臨戦態勢へと移る。
その行動に御者を行うドルンも背中で感じ取っていた。
「お、おいどうした。まさか盗賊か?」
「ああ、その通りだ。この先、800メートルほど進んだところで待ち構えている」
「は、800メートル……」
そんな離れた先に盗賊が潜んでいる事に気付ける千夜たちの凄さに驚きを隠せないドルンとその弟子たち。
「そ、それで盗賊の数は?」
「13人といったところか」
「よくそんなこまけぇ数字まで言えるな」
「ま、経験の賜物だ」
話を打ち切ると今度は千夜が指示を出した。
「このまま真っ直ぐ進んでくれ。あとは俺たちで対処する」
「わ、解った」
「エリーとウィルは荷馬車の護衛。ミーナとクーエは戦闘開始次第援護射撃を開始、魔法と弓で攻撃。ルーザと俺は荷馬車から降りて戦闘だ。質問はあるか?」
「俺たちはどうすれば良い?」
「そのままで良い。戦闘が終わり次第止まってくれ」
「もしもお前たちがやられたら?」
その言葉にエルザは顔を顰めるがドルンたちには見えていないので気にしない。
「その時は全力で逃げろ」
「わ、解った」
指示が全員に行き渡るとドルンは震える手で手綱を握り締めたまま進んでいく。
数分後、千夜たちが断言した800メートルにまもなく到着するというところで盗賊たちが道の両側から出てきて道を塞ぐ。
気がつけば既に後ろにも回りこまれ、完全に包囲されていた。
(前方に7人。後方に6人といったところか。リーダーらしき人物の姿はなし。森の中にも伏兵なし)
マップと危機察知スキルを使い敵の情報を出来るだけ集める。
(それにしてもあいつらの武器、ただの盗賊が手に入れられる物じゃないだろうに)
ロングソード、ショートソード、弓矢など武器を構えるが、その全てが綺麗に磨かれ新品当然に見えた。
(やはりあいつらも暗霧の十月の捨て駒の一つだろうな)
荷馬車から降りた千夜は鬼椿を抜刀する。
エルザもまた双剣を抜き構える。
「おいおい、この状況下で俺たちと殺り合うつもりかよ」
ゲラゲラと笑う盗賊たち。しかしそれは千夜たちにとって絶好のチャンスでしかない。
未だに笑い続ける目の前の男に対して容赦無く一閃。
笑みを浮かべた生首が宙を舞い、血飛沫が噴水のように溢れ出る。
一瞬の出来事に盗賊たちは言葉を失い、固まる。それは先ほどまで森に響き渡っていた不快な笑い声すら無くなり静寂を意味していた。
「て、てめぇ――!」
我に返り憤りを爆発させようとした男もまた首を刎ね飛ばされ絶命する。
そこからは一方的な狩の時間だった。
刀や剣で斬られ、魔法で突かれ、矢で射られと完全に立場が逆転していた。
数が多いからと油断していたことが敗因に感じられるが、それは違う。いや、それもあっただろう。それのお陰で殺り易くなったと言うべきだろう。
相手の力量すら測ることが出来ないのだから自業自得言えばそうなのかもしれないが、見ている方からすればそれは驚きを越え恐怖を感じる程だった。
「終わったな。ドルン」
「………」
「おい、ドルン」
「お、おう! なんだ?」
「こいつらの後片付けをするから少し待っててくれ」
「わ、解った」
そうして千夜たちは一箇所に盗賊たちの死体を集めだす。
その光景にドルンは思わず荷馬車の中で護衛をするエリーゼに問いかける。
「な、なあ」
「なに?」
「いつもあんな事をしているのか?」
「あんな事って?」
「盗賊と戦ったりとかだよ」
「ま、まあそうね。冒険者だし」
「怖くないのかよ」
「怖くないと言えば嘘だけど。一番怖いのは大切な家族が死んでしまうこと。だから私たちは強くなって互いに守りあってるの」
「そ、そうか。それにしてもお前らは本当に強いな」
「まあね」
この時ドルンは千夜たちが自分たちの護衛の依頼を受けてくれたことに喜びを覚えるのだった。
「あら旦那様、おはよう」
「おはようエリー」
「お早う御座います、主。どうぞお水です」
「おはようルーザ。ありがとう」
エルザから貰った水を飲み干すと千夜は鬼椿をアイテムボックスから取り出す。
「朝稽古?」
「ああ、やっておこうと思ってな」
「今日ぐらい休めばいいのに」
「やらなければ、鈍るからな。それに習慣だからな。しないと落ち着かない」
「そうれなら仕方ないけど」
「朝食の準備が出来次第お呼びします」
「ああ、頼む」
千夜は少し離れた森の中で抜刀する。
刀を構え振るう。形などない。ゲーム時代と同じ動きを淡々と繰り返す。
時々自分が考えた動きを混ぜ合わせながら新しい剣術の試行錯誤も行う。
「主、朝食の準備が整いました。すでに全員起きて集まっています」
「ああ、直ぐに向かう」
時が流れるのを忘れ没頭していた千夜はエルザの呼びかけで我に戻ると、納刀しエルザと一緒にみんなの許へ戻るのだった。
朝食を終えた千夜たちは都市ダラに向けて出発した。
ダラまではあと4日かかる。
千夜たちが本気で走ればすでに到着しているが、今回は護衛依頼のためそれは出来ない。
荷馬車に揺られながらゆっくりと進む。
結局何事も起きる事無く一日を終えた。
都市ルーセントを出発して3日目。
大陸の南側とはいえ、この時期はまだ肌寒さを感じさせる。
途中、都市ルーセントに向かう行商人とすれ違いながらもゆっくりと街道を進んでいく。
お昼休憩を終え、進んでいると突然千夜たちが臨戦態勢へと移る。
その行動に御者を行うドルンも背中で感じ取っていた。
「お、おいどうした。まさか盗賊か?」
「ああ、その通りだ。この先、800メートルほど進んだところで待ち構えている」
「は、800メートル……」
そんな離れた先に盗賊が潜んでいる事に気付ける千夜たちの凄さに驚きを隠せないドルンとその弟子たち。
「そ、それで盗賊の数は?」
「13人といったところか」
「よくそんなこまけぇ数字まで言えるな」
「ま、経験の賜物だ」
話を打ち切ると今度は千夜が指示を出した。
「このまま真っ直ぐ進んでくれ。あとは俺たちで対処する」
「わ、解った」
「エリーとウィルは荷馬車の護衛。ミーナとクーエは戦闘開始次第援護射撃を開始、魔法と弓で攻撃。ルーザと俺は荷馬車から降りて戦闘だ。質問はあるか?」
「俺たちはどうすれば良い?」
「そのままで良い。戦闘が終わり次第止まってくれ」
「もしもお前たちがやられたら?」
その言葉にエルザは顔を顰めるがドルンたちには見えていないので気にしない。
「その時は全力で逃げろ」
「わ、解った」
指示が全員に行き渡るとドルンは震える手で手綱を握り締めたまま進んでいく。
数分後、千夜たちが断言した800メートルにまもなく到着するというところで盗賊たちが道の両側から出てきて道を塞ぐ。
気がつけば既に後ろにも回りこまれ、完全に包囲されていた。
(前方に7人。後方に6人といったところか。リーダーらしき人物の姿はなし。森の中にも伏兵なし)
マップと危機察知スキルを使い敵の情報を出来るだけ集める。
(それにしてもあいつらの武器、ただの盗賊が手に入れられる物じゃないだろうに)
ロングソード、ショートソード、弓矢など武器を構えるが、その全てが綺麗に磨かれ新品当然に見えた。
(やはりあいつらも暗霧の十月の捨て駒の一つだろうな)
荷馬車から降りた千夜は鬼椿を抜刀する。
エルザもまた双剣を抜き構える。
「おいおい、この状況下で俺たちと殺り合うつもりかよ」
ゲラゲラと笑う盗賊たち。しかしそれは千夜たちにとって絶好のチャンスでしかない。
未だに笑い続ける目の前の男に対して容赦無く一閃。
笑みを浮かべた生首が宙を舞い、血飛沫が噴水のように溢れ出る。
一瞬の出来事に盗賊たちは言葉を失い、固まる。それは先ほどまで森に響き渡っていた不快な笑い声すら無くなり静寂を意味していた。
「て、てめぇ――!」
我に返り憤りを爆発させようとした男もまた首を刎ね飛ばされ絶命する。
そこからは一方的な狩の時間だった。
刀や剣で斬られ、魔法で突かれ、矢で射られと完全に立場が逆転していた。
数が多いからと油断していたことが敗因に感じられるが、それは違う。いや、それもあっただろう。それのお陰で殺り易くなったと言うべきだろう。
相手の力量すら測ることが出来ないのだから自業自得言えばそうなのかもしれないが、見ている方からすればそれは驚きを越え恐怖を感じる程だった。
「終わったな。ドルン」
「………」
「おい、ドルン」
「お、おう! なんだ?」
「こいつらの後片付けをするから少し待っててくれ」
「わ、解った」
そうして千夜たちは一箇所に盗賊たちの死体を集めだす。
その光景にドルンは思わず荷馬車の中で護衛をするエリーゼに問いかける。
「な、なあ」
「なに?」
「いつもあんな事をしているのか?」
「あんな事って?」
「盗賊と戦ったりとかだよ」
「ま、まあそうね。冒険者だし」
「怖くないのかよ」
「怖くないと言えば嘘だけど。一番怖いのは大切な家族が死んでしまうこと。だから私たちは強くなって互いに守りあってるの」
「そ、そうか。それにしてもお前らは本当に強いな」
「まあね」
この時ドルンは千夜たちが自分たちの護衛の依頼を受けてくれたことに喜びを覚えるのだった。
0
お気に入りに追加
10,111
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。