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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第四十七幕 第二ラウンドと作戦名【ドーナッツ】

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「ねぇ旦那様、どーなっつって何?」
「ああ、俺が居た世界のお菓子だ」
「そうなの。食べてみたいわ」
「材料さえあれば俺にでも作れるだろう。家に戻ったらロイドに作り方を教えるから食べてみるといい」
「ええ、楽しみにしているわ。で、そのお菓子の名前をつけた作戦ってどんなのなのかしら?」
「ああ、それは今から説明する」
 そう言って千夜は小枝を鉛筆代わりに地面に地図を描き説明しだす。

              ******************************

 その頃、ラロスは一人の男と旅愁邸の書斎で対面していた。

「あんまり日中には会いたくないんだがな。俺とお前が会っている事が知れたら面倒になるかもしれないんだからな」
「安心しろ。もしも誰かに見られたとしても怪しまれることはない」
「確かにそうだろうな。なんせお前は冒険者ギルドルーセント支部のギルドマスターなんだからな」
「………」
「おっとこれは失言だったな」
 ラロスは先日の会談の時とは違い余裕のある態度でフランと会話する。

「で、今日はなんのようだ。私は忙しい身なんでな」
「それは俺も同じことだ」
「もしや、あの冒険者共の情報でも入ったのか?」
「いや、まだそれは調査中だ」
「では何しに来た?」
「部下からの報告だ。廃村での戦闘は既に始まっていたらしい」
「早朝に出立したと聞いていたが既にか。流石と言うべきなのかもしれないが、だがもう終わりだな。なんせあの村に居る魔物の数は200ではなく800なのだからな」
 勝利を確信し思わず笑みが零れる。が、フランから齎された報告にその表情は一変する。

「いや、奴らは撤退した」
「なに?」
「120体倒したあたりで、リーダーであるセンが魔物の数に違和感を覚えたのだろう。すぐさま撤退の指示を出し、仲間と一緒に廃村を離れた。また離れるまでに90体を倒し、残りは600体を切っている」
「チッ! 勘の良い奴め」
「そうでなければAランクの冒険者パーティーのリーダーは務まらんよ」
「それは私に対する指導かなにかのつもりか?」
「いや、ただの情報提供だ」
「チッ!」
 ラロスは作戦が上手くいかない事に苛立ちを覚える。

「で、奴らは如何した? 逃げ帰ってきたのか?」
「いや、街道近くで止まっている。まだ魔物たちと戦うつもりなのだろう」
「ほうそれは良い情報だ。ま、逃げ帰ってくるようなら、腰抜けって言ってやるところだったがな」
 ラロスは己の策に酔いしれていた。
(こんな男がよくも領主代理に選ばれたものだ。いや、普通にしていれば優秀だから選ばれたのだろう)
 フランは内心そんな事を思いながら出された紅茶を飲む。

「で、もしもの時の為に準備は出来ているんだろうな」
「勿論だ。暗殺部隊を2部隊送り込んだ。魔物との戦闘で疲れている所を狙うよう指示してある。流石の奴らも総勢24名の暗殺者には勝てないだろう」
「そうだろうな。これで異物が排除できるな」
 ラロスは今に笑いそうになるのを必死に堪える。そんな姿を視界の端に持っていったフランは思う。
(そう簡単に上手く行けば良いがな)

              ******************************

「さて、それじゃあ再戦と行こうか」
「ええ、そうね」
「ウィル、遅れないようにな」
「はい。精一杯ついていきます」
 作戦が決まった千夜たちは先ほど戦っていた廃村目掛けて走り出す。
 先ほどと違い、廃村入り口には何体もの魔物が千夜たちを出迎えてくれた。

「ミーネ、ルーザ、今だ!」
「「はい!」」
 千夜の号令を合図にエルザとミレーネがそれぞれ廃村一口目掛けて魔法を放つ。
 先ほどとは違い、いきなり魔法攻撃を浴びた魔物たちは躱すことが出来ず、絶命してしまう。しかし魔物はまだまだいる。勿論それは千夜たちも解っていた。最初の攻撃は通る道を作るための最初の一撃でしかない。

「突っ込むぞ!」
「ええ!」
「はい!」
「行くのじゃ!」
「仰せのままに」
「頑張ってついていきます!」
 千夜を先頭に魔物たちの群れに突っ込む。
 目のつく敵を次々殺していく。まるでそれは壁を貫く飛矢のようにまっすぐ魔物の群れの中を突き進んで行く。
 僅か十数秒足らずで魔物の群れの中心部までたどり着いた千夜たちは急遽そこで停止する。
 完全に囲まれた千夜たち。しかし魔物たちは直ぐには襲ってこない。千夜やエルザ、エリーゼ、クロエ、ミレーネから放たれる殺気に恐怖で動けなくなっていたからだ。しかし、それも時間がたてば直ぐにでも慣れてくる。ましてや数で優勢である魔物たちがそこに気がつけば直ぐにでも襲い掛かってくるだろう。
(だからこそ、それまでに準備を終わらず)

「エリー、クーエ建物は頼んだ!」
「ええ!」
「任されたのじゃ!」
 千夜の指示で二人は魔法を発動する。

「「防空壕エイリットシャトル!」」
 二人の声が重なり発動した魔法は次々に家を土の家で覆う。一分も満たない時間で全ての家、小屋を覆った土家に千夜は笑みを零す。

「これで最後だ」
 千夜の呟きと当時に廃村を覆うよう高さ約8メートルのアースウォールが出現する。
 突然の事に魔物たちは動揺を隠せないでいた。
(やはり、指揮官が居ないと混乱するのもあっという間だな)
 内心そんな事を思いながら自分たちにエイリットシャトルを発動する。
 完全に覆われた空間は真っ暗で何も見えない。だが、それでも構わない。

「さて、仕上げだ――」
 千夜は短縮詠唱で魔法名を呟く。

氷槍大嵐アイステンペスト
 すると、土壁に当たる鈍い音が聞こえたかと思えばすぐさま、魔物たちの阿鼻叫喚が千夜たちの耳まで届く。
 しかしそれも5分後には聞こえなくなる。

「もう良いだろう」
 そう言って千夜は魔法を解くと、目の前に広がっていたのは氷の槍に襲われ突き刺された魔物たちの死骸が一面に広がっていた。中にはまだ息があるのか呻き声漏らす者もいたが力尽き静かになる。

「これは凄いを通り越して恐ろしいわね」
「ま、この作戦は自分たちを劣りにし、周囲を囲ませ優位だと思わせたところを魔法で退路を断ってから火力、もしくは殺傷能力重視の広範囲魔法で殲滅だからな」
「それが【ドーナッツ】なのね」
「ま、今回の場合は建物も含まれていたからドーナッツにはならなかったがな」
 そんな訂正は要らないと思うエリーゼたちである。

「さて、建物内に残りの魔物が居ないか確認したら帰るとしよう」
 こうして千夜たちは直ぐさま後処理に取り掛かった。
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