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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第四十四幕 神殺と転生者

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 宿屋に戻った千夜は軽く仮眠をとった。
 別に平気だとエリーゼたちに言ったが、話を聞く耳を持たず一方的に寝るよう指示され、仕方なく寝る事にした。だからといって直ぐに寝付けるものでもない。そんな千夜を見てエリーゼが膝枕をしてくれた。ありがたく感じながらもそれで何かが変わるわけがないと思っていた千夜だが、気がつけば意識を沈めていた。しかし何時もと違い心地よく感じた。海の底に沈む感じではなく、暖かな日光に照らされ空を漂う。そんな感じだ。
 気がつけば2時間ほど寝ていたが、千夜の体感的には8時間は寝ていたように感じた。
 その間ずっと膝枕をしてくれたエリーゼに感謝の言葉を送る。

「助かった。思いのほかぐっすりと眠れた」
「そうみたいね。直ぐに寝てたもの。それに旦那様の寝顔が特等席で見れて良かったわ」
「あんまり良いものでもないと思うぞ」
「あら、それは人それぞれよ」
「そうだな」
 そんなエリーゼの言葉に笑みを零すと千夜は立ち上がり背筋を伸ばす。

「それでこれからどうするの? 私的にはもう少し寝ていて欲しいけど」
「いや、十分寝れたから大丈夫だ。それより今はこっちが先だな」
「それは?」
 千夜が手に持っていたのは一枚の封筒だ。

「バンシーからの報告書だ。暗霧の十月ミラージ・サヴァンに関する情報が入っている」
「いつの間にそんな物が届いていたの?」
「帰る途中に送られてきた。宿屋に戻って読もうと思ったが、寝るよう言われたからな」
「そうなの。それなのに私たちったら……」
「気にするな。疲れも取れたことで脳も働く。エリーゼたちのせいでではないよ」
「それなら良いんだけど」
 気を落とすエリーゼの頭を撫でながら慰めた千夜はベットに座り封筒の中身を確認する。
 黙読で読み進めて行く千夜。
(書かれた内容は話しに聞いていた内容と同じだな。あとはタトゥーだが………っ!)

「なにっ!」
「ど、どうしたの!?」
 書かれていた内容に千夜は目を見開け思わず声が出る。
 そんな千夜の態度に困惑するエリーゼたち。

「このタトゥー文字は……」
「どれ見せて!」
 エリーゼは千夜から手紙を奪い目を通す。

「私には読めないわよ。ミレーネたちは?」
 エリーゼはミレーネに手紙を渡す。

「ごめんなさい。私にも読めません」
「我も読めんのじゃ」
「申し訳ありませんが、私もです」
「そう。でも旦那様は読めるのよね?」
「あ、ああ……」
 まだ困惑気味の千夜。その状態にエリーゼたちの心配は限界まであがる。

「ねぇ、旦那様。いったいなんて書いてあるの?」
「その手紙に書かれてあるタトゥー文字は『神殺』。俺が元住んでいた世界の文字だ」
「それって……」
「ああ、暗霧の十月ミラージ・サヴァンのリーダーは間違いなく転生者だ」
「「「「「っ!」」」」」
 千夜から告げられた言葉にエリーゼたちは目を見開ける。

「あ、あの………僕にはよく意味が分からないんですが、元居た世界ってどういう事ですか? それとテンセイシャってなんですか?」
「そう言えばウィルには話していなかったな」
「でも旦那様」
「良いんだ。どうせいつかは話さないといけない事だからな。その代わり今から話す事は他言無用で頼む」
「わ、分かりました」
 30分かけて千夜の生い立ちにも近いこの世界に来た理由と千夜になった理由を語った。

「そうだったんですか。お父様が無くなった勇者の一人……」
「落胆したか?」
「いえ、そんな事はありません! ただ……」
「辛くなかったのかなって……」
「ウィル、お前は優しいな」
「いえ、そんな事はありません。当然の事です」
「当然か……」
「お父様?」
「いや、なんでもない。そうだな……確かに辛くなかったと言えば嘘になるかもしれない。だがな、俺にはもうそんな辛さを吹き飛ばしてくれほどの大切な家族と仲間、友人に巡り合えた。だからもう辛くはない」
「そうですか。それなら良かったです」
 満面の笑みを浮かべるウィルに千夜もまた微笑み返す。

「それで旦那様。相手が転生者って事は……」
「ああ、間違いなく俺が居た国、日本人だろう。しかしこれは俺の予想を超えて面倒になってきた」
「どういう事ですか?」
「俺が住んでいた日本の技術や知識をこの世界で活用すれば間違いなく富を得る事が可能だ。最悪それが原因で国同士で戦争だってあり得るからな」
「そんなに……」
「ああ。一つの技術、製法がこの世界にとっては大きく時代の流れを変える事にも繋がるからな。俺はそれが嫌であんまり物の開発はしてこなかった。精精お酒の製法ぐらいだからな」
「確かにお酒の製法では戦争にはならないわね」
「その通りだ。だがもしも転生者の誰かが武器などの製法を一つの国に教えでもしたら……間違いなく戦争が始まる」
 そのほんの僅か焦りを含んだ千夜の言葉にエリーゼたちは黙り込む。いつも冷静沈着な千夜がこれほどまで困惑しているのだ。ただ事ではないことは一目瞭然であった。

「ねぇ、旦那様」
「なんだ?」
「そんなに旦那様がいた世界の文化は進んでいたの?」
「ああ、進んでいた。この世界より遥かにな」
「どれぐらい?」
「この世界の文化や風景を俺たちが住んでいた世界に当てはめるなら約800年前だ」
「そんなに……」
「ああ。ま、俺たちには関係の無いことだ。それよりも今は暗霧の十月ミラージ・サヴァンのリーダーを見つけ殺す事だ」
「捕獲するとか考えないのね」
「ああ、相手がいったいどんな知識を有しているのか不明な以上生かしてはおけない。ましてや闇組織を立ち上げる時点で犯罪者確定だ。どちらにしろ殺す事に間違いはない」
 冷徹にして冷酷。しかしの判断がこの世界の行く末に大きくかかわっていることは千夜だけでなくエリーゼたちも理解していた。

「さて、下に降りて夕食にしよう」
「そうね」
 一旦話を打ち切り千夜たちは食堂へと向かった。
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