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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第四十二幕 指名依頼とサイム

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「ま、兎に角その時の話を是非聞かせて貰いたいんだ。今後似たような事が起こらないようにするためにね」
(よく言うわね。自分が首謀者の癖に!)
 ラロスの言葉に憤りを感じるエリーゼ。

「別に構いませんが、あんまり面白い話ではないかと」
「何を言うんだ。誰だって強い冒険者には憧れる。その武勇伝を聞きたがるのが子供も大人も関係ない。ま、私の場合は領主代理として聞くつもりだから面白い云々は除外させて貰うがね」
「……分かりました」
 テーブルに置かれた紅茶で喉を潤してから口を開いた。
 一時間かけて説明した千夜。ちょくちょくラロスが説明を求めてくる事もあって時間が掛かってしまったが気にするほどではなかった。

「ほう、君一人でゴブリンジェネラルを……」
「ま、仲間たちがゴブリンやホブゴブリンたちを引き付けていたおかげですので、一人で倒したと言うには御幣があるかもしれませんが」
「いやいや、そんな事はない。それが君の力だよ」
 優しげな笑みを浮かべ千夜を賞賛するラロスその姿はからはどう考えても闇組織と手を組むようには見えない。

「そう言って頂けるとありがたいです」
 社交辞令のように心にも無いことを口にした千夜は再び紅茶を飲む。

「サイム、セン殿たちに紅茶のお代わりを」
「畏まりました」
(随分と気が利くな。よく観察している)

「いえ、紅茶のお代わりは結構です。私たちはそろそろ、御暇させて頂きます。エドワード様は多忙の身のようですのでこれ以上お時間をとるわけにはいきませんので」
「何気にすることはない。それにたまにはこうして冒険者たちと話すのもいい気分転換になるからね」
「そうですか。ではもう一杯だけ頂いて御暇させて頂きます」
 そう言って千夜はソファーに座りなおす。
 サイムが新たな紅茶を入れ終えたのを確認したラロスは先ほどとは打って変わって真剣な面持ちで千夜を見据える。

「実は君たちに頼みたい依頼があるんだ」
((((((来た!))))))
 ラロスの口から吐かれた言葉に千夜たちは、その時が来たと覚悟する。

「依頼ですか?」
「そうだ。君たちも噂ぐらいは聞いたことがあると思うが、ここから数日の距離にある廃村の事は知っているね」
「ええ、噂を耳にした程度ですが。なんでもそこに魔物が住み着いたとか?」
「その通りだ。場所が場所だけに村人や行商人を襲うことは少ないがそれでも被害がないわけではない。そこで君たちに討伐して貰いたいのだ」
「なるほど。しかしそれなら普通にギルドに依頼を出せば宜しいのでは?」
「確かにその通りだが、騎士たちに確認させたところ魔物数はおよそ100~200程、種類は最低でも5種類。そしてなにより一番危険なのがAランクであるジャイアントオーガが5体確認されている。ゴブリン軍団に比べれば数は少ないがそれでも無視できる敵では無いと判断した」
「なるほど確かにそれは無視できるものではありませんね。しかしそれならば討伐部隊を編成して行かれては?」
「確かにそれも考えた。しかし魔族との戦争が間近に迫っているいま無闇に兵力を消耗するのは得策ではないと考えたのだ」
「確かに一理ありますね。魔族は種族関係なく共通の敵ですが、冒険者は兵士ではない。自分たちが住まう村や都市が危険に陥れば戦いますが前線に行くわけではありませんからね」
「その通りだよ。いや、冒険者の中にこれほど優秀な者が居るとは是非騎士になって貰いたいものだ」
「生憎と私にはそのような力はありません。冒険者として家族を守るのが精一杯です」
「そう言われれば仕方が無い。おっと話が逸れたね。それでこの指名依頼受けて貰えないだろうか?」
「……分かりました。受けましょう」
「本当かね! いや、有難う! 報酬は金貨50枚支払う予定だ」
(適正価格だな。色をつけるわけでもないか。大げさに喜んで気づかせないようにするつもりか)
 内心そんな事を思いながら千夜は紅茶を飲み干す。

「分かりました。では、早ければ明日明後日にでも廃村に向かうとしましょう」
「分かった。こちらでもできる事があるなら言ってくれ」
「分かりました。では私たちはこれで失礼します」
 一礼すると千夜たちは領主邸を後にした。
 行きと違い帰りは馬車に乗ることなく自分たちの足で買える。勿論送ると言われたが丁重に断った。

「まさか旦那様の推測通りになるなんてね。未来余地並でちょっと怖いわ」
「本当です。でもまさか代官自ら指名依頼してくるとは思いませんでした」
「ま、ゴブリン軍団討伐をした俺たちに興味があったんだろう」
「確かに興味津々て感じだったわね。でも本当にあの男が村を襲わせた張本人なの? どうみたって優秀な代官にしか見えないけど?」
「どれだけ優秀でも野望や欲望が無いとは言い切れないからな」
「確かにそうね。でも本当に魔物は居るのかしら?」
「居るだろうな」
「どうして言い切れるの?」
「簡単だ。あの男が俺たちを殺したいのなら暗霧の十月ミラージ・サヴァンに頼むしかない。しかし殺すにしても魔物に殺されたように見せかけなけらば暗殺されたと怪しまれる」
「確かにそうね」
「そこで怪しまれないようにするには魔物のしたいが散乱していなければならない。そうれば戦闘中に魔物に殺されたと思わせれるからな」
「でもそれなら最初から魔物の死体をばら撒いておけば良い話でしょ」
「確かにそうだが、ゴブリン軍団を討伐するほどの力を持つ相手に最初から戦うのは分が悪い。そこで魔物と戦わせ少しでも体力を消防させる事が目的だろう」
「なるほどね」
「卑劣です!」
「卑怯なのじゃ!」
「あの男らしい小賢しい作戦です」
(俺たちもよく似たような作戦するだろうに。奇襲や誘い込みとか)
 内心そんな事を思う千夜だが絶対口にはしなかった。

「それじゃあまずは情報収集からだな」
 千夜の言葉に全員に気合が入る。
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