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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第二十八幕 英雄級の武具と古代級の武器

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 ゴブリン軍団との戦いは千夜たちにとって過激なモノではない。しかし、ウィルにとっては過酷な戦場に他ならなかった。
 ゴブリンとの戦闘は勿論経験した事がある。
 魔法騎士学園での実戦訓練や友人たちと休日に冒険者活動などで何度も戦った相手だ。
 しかし、目の前に居る数が桁外れなのだ。斬っても斬っても次から次へと襲い掛かってくるゴブリンたちに恐怖すら覚えそうになる。
 それでもウィルは剣を振り襲い掛かってくるゴブリンたちを斬り倒していく。

「くっ! 逃げ場が……」
 側面から奇襲の意味も込めて突撃したにも拘わらずいつの間にかウィルは囲まれていた。
(どうしたら……)
 苛立ちと焦りがウィルの思考を鈍らせる。
 ゴブリンの身長は平均120センチとウィルよりも20センチほど低いが接近戦では大して気にする身長差ではない。そのためウィルにとっては年下の子供を相手にしているものだ。
 だからといって同情や躊躇いなど一切無い。ウィルにとってゴブリンは大事なルーセント領に済む民たちを傷つける害悪でしかないのだ。
 しかし数の差にはさすがのウィルも体力、精神と疲労が大きい。ふと、視界に入る千夜たちの戦いを見詰める。
 流れるような、また舞い踊るようにゴブリンたちを一掃する姿に嫉妬すら覚える。それでもウィルは諦めない。
(お母様でもあんなに強くなれたんだ。僕だってなって見せる!)
 拳に力を込めて剣を握り直す。が、

「ギャギャアアァ!」
「しまっ!」
 背後から襲い掛かって来たゴブリンに反応が遅れる。
 棍棒で殴られる覚悟をするが、一向に衝撃と痛みがこない。
 それもその筈で飛び上がったゴブリンは真下から飛んで来た短剣によって顎下から突き刺さり絶命したのだから。

「周囲への気配察知を怠るではない!」
 短剣を両手に持って現れたのはアミッツを送り届けに村に寄っていたクロエだった。

「すいません……」
「謝罪など要らぬは馬鹿者。それよりも今は目の前の敵に集中するのじゃ」
「はい!」
「初めてで焦ったかえ?」
「……はい……」
「誰でも最初はそうじゃ。我だってそうじゃったからな」
「クロエお姉さんでも?」
「無論じゃ。そんな時センヤはこう言いよったぞ。深呼吸しろとな」
「深呼吸……」
 クロエの言葉にウィルはこれまで千夜との稽古を思い出す。

『良いか、どんな時であろうと頭は冷静にだ。それが難しい時は深呼吸しろ』
 ウィルは剣を構えたまま大きく息を吸い、吐く。

「落ち着いたかえ?」
「はい」
「なら、ウィルは目の前の敵に集中するのじゃ、後ろは我に任すのじゃ」
「お願いします!」
「うむ、素直で良いのう」
 こうして2人は徐々に敵を減らしていった。

              ******************************

 襲い掛かろうとそうで無かろうと斬り刻んで行くエルザを視界の端に置き、千夜はゴブリンメイジと対峙していた。
(一回り大きいな)
 140センチの身長のゴブリンメイジは手作りであろう不恰好な杖を翳してファイヤーボールを千夜目掛けて放つ。
 勿論千夜にとって躱すのは造作も無く、簡単に躱した千夜はそのままゴブリンメイジに接近して鬼椿を振り下ろす。が、
(こいつっ!)
 近くに居たゴブリンを盾にして攻撃を免れたゴブリンメイジの姿に思わず舌打ちが漏れる。
 その隙にと詠唱を始めるゴブリンメイジだが千夜との距離は僅か2メートル。

「この距離なら斬った方が早い!」
 そう言って千夜はゴブリンメイジの首を刎ねる。
(まさか仲間を盾にするとはな。まるで人間や魔族と一緒だな。知能が身に着くとこんな事もしてくるのか)
 そんな事を思う千夜の心には悪知恵が身に着いた事への悲しさと戦いの幅が広くなった事への喜びが渦巻いていた。
 その時、千夜に影が落ちる。
 日光を阻む正体を確かめようと目線を上げるとそこには錆付いた兜と甲冑を身に纏った2メートルを越えるオーガにも似たゴブリンジェネラルの姿があった。

「お前がこの集団のボスだな?」
「イカニモ、オレ様コソガ、コノ軍団ヲ、ヒキイル、最強ノ、戦士ダ!」
 流暢とはいえないが聞き取れる程度には喋れる姿に千夜は不敵な笑みを浮かべる。

「最強の戦死か」
 その言葉に自然と鬼椿を握る手に力が入る。

「その言葉、嘘か真か確かめてやるとしよう」
「コノ剣ノ、錆ニシテクレル!」
 既に錆付いてボロボロの大剣を千夜目掛けて振り下ろす。
 今にも折れそうな大剣だがそんな事は無く、土煙を発生させながら千夜が立っていた場所に小さなクレーターを作り出す。
(あのゴブリンジェネラルの強さはそこまででもないが、あの身につけている武器と武具は思って以上に厄介だな)
 錆付いていて大した物ではなさそうに見える武器と武具だが、その実態は英雄級の武具であり、大剣にいたっては古代級とこの世界では国宝級とも言えるレベルの武器だ。
(あんな武器、ゴブリンジェネラル程度が手に入れられる武器ではない。元々どこかにあったものを偶然見つけたか、もしくは誰かが与えたかのどちらかだろう)
 自分がたてた推測に思わず眉を顰める。

「どうやらお前には聞かないといけない事があるようだ」
 不敵な笑みを浮かべ千夜は鬼椿を構える。
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