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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第二十三幕 蜥蜴人と二人の部下

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 オーガストと別れた後は誰にも会う事無く、周りからは『ウラエウスの遊び場』とも呼ばれている書斎に戻った。
 別に遊んでいる訳ではない。ただ誰がいつ何時来るか分からない部屋に隠密部隊に関する書類をそこらへんに置いておくわけにはいかないのだ。

「いつも以上に疲れたな。喉が渇いた」
 魔王ベルヘルムと謁見してから連続して精神的疲労が続いた事もあり、自然と喉が渇く。
 オフィスデスクの右端に置かれた鈴を二度振るとヒグラシの鳴くような音が室内に響き渡る。

「お呼びでしょうか?」
 数秒して隣接する部屋から入ってきた一人のメイド。
 清潔感漂う服を着こなしているが、顔や手には老緑おいみどり色の鱗が光沢を帯びて輝いていた。
 蜥蜴人リザードマンである彼女はウラエウスの専属メイドであり、彼女もまた隠密舞台の一員である。

「何か飲み物を持ってきてくれないか」
「畏まりました」
「あそれと。面倒だけど先日フィリス聖王国に任務で行っていた二人を呼んできてくれ。報告を聞きたい」
「畏まりました」
 数分してお茶が出され、喉を潤しているとドアがノックされる音が耳に届く。
 視線だけ向けて入る許可を出す。

「失礼しますウラエウス様」
「し、失礼しやす!」
 人は礼儀正しい返事をするが、もう一人は緊張しているのか声が裏返っている。

「ハクア、ギン、任務お疲れ。で、報告を頼む」
「分かりました」
 ハクアとギン。ウラエウスの直属の部下にして隠密部隊の一員である。
 先日、ウラエウスの指示でフィリス聖王国に諜報員として調査をした内容を資料をなぞるように報告する。

「七聖剣の急激な力の上昇の原因がこれなのか?」
「はい。『不屈の湧き水』と言う名のアイテムです」
「ふ~ん……」
 小瓶を持ち上げ下から覗き込むウラエウス。その瞳にはまったくの興味の色が無かった。

「それにしてもこんな短期間で任務をこなせたな」
「運が良かったですから」
「そう」
「内容は聞かれないのですか?」
「正直興味ないからな。こんなアイテムを使ってまで力を求める意味が私には解らない。普通に戦って殺しあっていれば自ずと強くなれるからね」
「そ、そうですか」
 小瓶を置き背もたれに体重を預ける。が、戦って直ぐ強くなれるのは世界中探しても極わずかだろう。大半の種族は地道に訓練して実戦を積まないと無理だ。

「この……なんて名前だっけ」
「不屈の湧き水です」
「あ、そうそう」
(本当に興味がないんだな)
 ウラエウスの態度にギンは内心確信する。

「これ一本だけなの?」
「それが取引でしたので」
「取引? それってお前たち二人が短期間で任務をこなせた事と関係あったりするのか?」
「はい」
「………はぁ、面倒だが聞かないと駄目だよな~」
 精神的疲労が思った以上に大きかったのか、今のウラエウスに覇気はない。
(ウラエウス様いつも以上にだらけてる)

「ま、聞いているから勝手に話して」
「解りました」
 小瓶で遊びながらハクアとギンの報告を聞く。

「なるほどね。そのカズヤ・アサギリっていう男も他国からの諜報員だったわけだ」
「はい。私たちよりも随分と前から潜入しているようでした」
「なるほ。で、その男との取引でこの一本以外は全部処分されたと」
「そうです」
「奪えば良かったと言いたいところだけど、ロアントでの実績を考えると二人にその男を殺す事は無理だな」
「はい。ですから任務を優先しました」
「解った。で、その男はどうなったの?」
「はい。最後に念話で話した時は他国の諜報員としての容疑を掛けられて包囲されている最中だったららしく」
「逃がしてくれたんだ」
「はい」
「で生死は?」
「海を渡る間際に聞いた話では死亡したと」
「なるほど。でもそれ絶対生きてるな」
「どうしてそう思われるのですか?」
「記録魔水晶を持ってたんだよな?」
「はい。宰相が我国の四天王と会話をしてる内容が記録されています」
「だったら間違いなく生きている。国としてはそんな情報を他国に知られる訳にはいかないからな。だとしたらその男は幻惑魔法か変化スキルで姿を変えて潜入していた事になる」
「それって」
「ああ。七聖剣を相手に第一席を倒して逃げ出せるだけの存在となると、仲の悪い火の国、ガレット獣王国、レイーゼ帝国だが、火の国は除外しても構わないはず」
「どうしてですか?」
「敵対している国から一番遠い場所にあり、ガレット獣王国とレイーゼ帝国が盾になっているからな」
「なるほど」
「ギン、貴方もう少し国について勉強した方が良いわよ」
「しかし、姉御。俺文字読むの苦手なんだよ」
「文句を言うな」
「すいません……」
 ハクアとギンが口喧嘩(?)を始めたが気にする様子もなくウラエウスは思考を巡らせる。
(七聖剣を同時に相手できる存在となると限りなく減る。思いつく限りだとガレット獣王国の女王、『焔姫ほむらひめ』か、ガレット獣王国を拠点に活動するSSSランク冒険者の『豪血のブラハム』あと考えられるとしたら……センヤ……)
 着物に袴姿の一人の男が頭に浮かび上がる。
(まさか……)

「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。その男については私が調べておく」
「人間大陸に用事でも?」
「ああ、魔王様からの命でな」
「解りました」
 報告を終えたハクアとギンは挨拶をして出て行く。
 誰もいない事を確認したウラエウスは天井を見上げて呟く。

「私もそろそろ明日の準備でもするか」

 
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