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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第二十二幕 自由人と四天王オーガスト

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「それで旦那様どうするの?」
「そうだな。一旦保留だな。ダラはスケアクロウの知らせ次第で向かうとして、廃村に関しての情報が少なすぎる。廃村になった理由もそうだが、一箇所に魔物が集中するには何かある。もう少し準備が整ってから調べに行くのが得策だろう」
「あんまり慎重だと色々と後手に回るわよ」
「始まった時から後手さ。だがどこかで反撃するにも準備が必要だ。しかしその準備に必要な情報すら不十分過ぎるからな」
(相手が墓穴を掘ってくれるなら別だが)

「つまり明日からは?」
「また普通に冒険者活……」
「どうしたのじゃ?」
「………」
 突然口を閉ざした千夜の姿に疑問に感じてクロエが声を掛けるが、耳に届いていないのか何か考えるように黙り込む。その姿にクロエたちは顔を突き合わせて首を傾げた。
(隠密行動のために目立たない仕事をこなしたが、逆に冒険者として目立てばどうだ。最初は確かに疑うだろうがあからさま過ぎると想い監視対象を変更するんじゃないのか? しかしそれなら最初っからすべきだったな。先日とは多い違いになると逆に裏があると思われる可能性だってある。いや、大丈夫か? まだ一回しか依頼は受けていない。ルーセントでの力試しとして最初だけ目立たない仕事をこなしたって事にすれば怪しまれないだろう。となると)
 険しい表情から一転して不敵な笑みを浮かべる千夜の姿にウィル以外は確信する。
(何か思いついたようね)
(嫌な予感がします)
(悪巧みじゃな)
(不敵な笑みを素敵です主)
(?)

「明日からは冒険者として存分に暴れるとしよう」
「でも、旦那様」
「安心しろ。これで大丈夫だ。ウィル明日は朝稽古を再開する」
「解りました!」
 こうして予定が決まった千夜たちはベッドに横になる。

              ******************************

 時は少し遡り
 魔王の命により勇者暗殺と千夜に招待状を持っていく事となったウラエウスはヘンリーから受け取った招待状を懐にしまい自分の書斎に向かっていた。
 思わす立ち止まり空を見上げる。
 消して日差しが差込む事の無い曇天模様の空。まるで今のウラエウスの心境を表すかのようだった。
 その風景にふと、先程ヘンリーとの会話を思い出す。

「驚かれましたか?」
「ああ、魔王様の身にいったい何があったんだ。たった数ヶ月で前よりも遥かに強くなっている」
(禍々しさももな)
 ヘンリーは国で言うところの宰相である。そんなヘンリーに対してため口で話すウラエウス。これが周りから自由人だと言われる一つの原因にもなっている。
 言い方を買えるなら魔王ベルヘルム・ファウダーに対してだけ敬語を使うのは己との力の差はハッキリと自覚しているからとも言えた。

「私にも解りません。私はただ魔王様のお言葉を皆さんに伝えるのみですから」
「なら、その間の様子は知っている筈だ。悪いが教えてくれないか?」
「それは無理です」
「何故だ。魔王様に口止めされているのか?」
「いえ、違います。私は先日まで魔王様に会っていないからです」
「なに。ならどうやって魔王様からの指示を我々に伝えていたんだ?」
「多分スキルによるものでしょう。私の頭の中に魔王様の声が流れ込んで来ていましたから」
「なるほどな」
「書き終わりました。これを漆黒の鬼夜叉に渡してください」
 羽ペンを置くと黒いダイア封筒をウラエウスに渡す。

「解った」
 ヘンリーは何か思ったのかウラエウスに問いかける。

「そう言えば貴女は漆黒の鬼夜叉に会っているのでしたね」
「ああ。だがそれがどうした?」
「その方は魔王様からの招待に応じる思いますか?」
「ああ。必ず応じるとも」
「ほう、その根拠は?」
「奴も私と同類で戦闘狂バトル・ジャンキーだからな」
「なるほど。よく分かりました。だけどまったく愚かですね。史上初のXランク冒険者。世界最強の存在などと煽てられ調子に乗っているのでしょう。謙虚さえ持ち合わせていれば長生きも出来たでしょうに」
「……そうだな」
 ヘンリーの言葉に怒りを覚え拳を握り締めそうになるウラエウスだが先程の謁見の間で感じたベルヘルムの波動に拳から力が抜ける。
(私はどうしたのだ。センヤを馬鹿にされて怒りを覚えそうになるなんて。だが魔王様には……)

「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。明日には出発する」
「今すぐにでも向かって欲しいぐらいですが貴方も忙しいですからね」
「………」
(まったく年寄りの癖に口が減らないものだ)
 内心皮肉を吐きながら部屋を後にする。
(魔王様には勝てない。センヤ頼むから招待を断ってくれ)
 自分が何を思っているのかウラエウスは分かっていた。言葉にして誰かに聞かれたら間違いなく不敬罪になるかもしれない。それなのに思ってしまう。想ってしまう。
(あの時からだ)
 半径20メートルの舞台の上で対峙していた時の事を思い出す。
(圧倒的強さ。底が見えなかった。大抵は見るか一撃剣を交わらせただけで相手の力量が分かるものだがセンヤは分からなかった。魔王様と同じだった。だが違う」
 無意識に胸を握り閉める。
(感じなかった。恐怖を。恐れを。魔王様と初めて会った時は死を覚悟したほどだ。だがセンヤは違う。圧倒的強さの中になにか別のモノを感じる。あれはいったいなんなんだ?)
 答えの出ない問いに悩まされるウラエウス。しかしそれは当たり前だ。これまで産まれてから戦う事しかしてこなかったウラエウスにとって初めての感情なのだから。
(考えていても仕方が無い。早く部屋に戻るとしよう)
 立ち止まっていた足を動かし始める。が、数歩歩いてまた止める。

「よ、ウラエウスじゃねぇか」
「オーガスト……」
 その補佐を引き連れた筋骨隆々の男の姿にウラエウスの表情は一瞬にして険しくなる。
 オーガスト。ウラエウスと同等の力を持つ存在にして魔王ベルヘルより四天王の一人に任命された将である。
 四天王は魔王ベルヘルより東西南北の一つを治めるよう言われておりオーガストは南、アノルジ大陸の4分の1を治めている。

「そんな嫌そうな顔をするなよ」
(また、面倒な奴に会ってしまったな)

「で、私に何かようか?」
「いや、魔王様が姿を御見せなったって聞いてな。今からお会いに行くところだ」
(脳筋の癖に耳にするのだけは早いからな)

「で、ウラエウスこそこんな所で何をしてるんだ?」
「今さっき魔王様に謁見した帰りなんだ」
「何!? で、どうだった?」
 オーガストの主語が抜けた問いかけにウラエウスは思わず嘆息しそうになる。別に理解出来なかった訳ではない。魔王ベルヘルムの配下に加わって既に十数年が過ぎているのだから。いや、だからこそと言うべきなのかもしれない。十数年間の間に四天王がどういった存在なのかウラエウスはよく解っている。
 オーガストもまたウラエウス同様に戦闘狂バトル・ジャンキーなのだ。いや、それ以上と言うべきだろう。
 だからこそオーガストが何を聞きたいのか即座に理解したのだ。

「前に会った時よりも増している」
「どれぐらいだ!」
「それは自分の体で体験した方が良い」
「それもそうだな。そっちの方が楽しみが増えると言う物だ」
「ああ、そうしてくれ」
「それよりもウラエウスこの後また殺らないか?」
(だから会いたくなかったんだ)
 オーガストからの誘いに頭を押さえたくなる思いに駆られる。

「悪いがこの後用事があるから無理だ」
「そうか。それは残念だ」
「貴様! オーガスト様からの誘いを断るのか!」
 突如オーガストの後ろで控えていた十二神将の一人が声を荒立てる。
 ウラエウスは魔王ベルヘルム直属の隠密部隊の体長である。しかしウラエウスが隠密部隊である事を知っているのは魔王ベルヘルムと側近であるヘンリーだけである。
 四天王ですらウラエウスが隠密部隊である事は知らない。

「見ない顔だが随分と忠誠心の強い奴だな」
 しかしウラエウスは十二神将など無視しオーガストと喋りだす。

「此間の侵攻で十二神将とその補佐官二人を失ったからな。新しい十二神将だ。俺に弟子入りしたぐらい忠誠心が篤いからな信用出来る」
「そっか」
 魔族が他人に弟子入りするなどそうそうある事ではない。あるのは殺し合いか主従関係ぐらいだ。魔族は完全弱肉強食強者の気分次第で弱者は己の命を捨てるしかない。しかしそれが魔族である。命令が嫌なら戦い勝つしかない。単純明快にしてシンプル。

「ま、気が向いたらいつでも俺を呼んでくれ」
「分かったよ」
 オーガストと別れたウラエウスはこれ以上面倒な奴に会わないためにもさっさと書斎に戻る事にした。

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