鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十九幕 海賊とおしどり夫婦

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 無事サンライトの実を手に入れた千夜たちは、行きより1時間遅れの3時間かけてルーセントに戻ってきた。
 しかしギルドには行かずそのまま宿屋に戻った。
(さすがに今日依頼を達成したら目立つからな)
 それなりに千夜たちの噂は流れ始めている。だからこそこれ以上目立ちたくないのだ。
 宿屋に戻ると早速汗を流す。
 この宿は中級宿の中でもお風呂がある宿だ。そのため他の宿に比べて少し値段が高めだが、「お風呂に金は厭わないわ!」
 と言うのが女性陣の考えのようだ。
(俺もお風呂は嫌いじゃないが、この程度なら軽く汗を拭く程度で良いんだがな)
 そんな事を思いながら千夜も湯船に浸かる。
 夕食を終えた千夜たちは明日の予定を軽く話し合うと直ぐに就寝についた。
 ウィルにいたっては疲れが出たのが直ぐに寝てしまった。


 翌日千夜たちは昼前に宿を出た。朝早くに行くと人が多いのと依頼達成が早いと思われたくないからだ。
 ギルドに到着した千夜たちはカウンターに依頼達成報告に向かう。

「お疲れ様です」
「お疲れ、アミー。依頼を達成してきた」
「解りました。では、ギルドカードの提出と素材の確認をします」
「解った」
 懐から出す振りをしてサンライトの実が入った袋とギルドカードをカウンターの上に置く。

「それじゃ、確認しますね」
 手馴れた手つきで依頼の達成確認を行う。
 数分して、

「はい、依頼達成です。今回の依頼達成でウィル君はBランクに昇格しました。おめでとう」
「有難う御座います!」
 ウィルは嬉しそうにギルドカードを受け取った。

「良かったな」
「はい!」
「これが今回の達成報酬の銀貨80枚になります」
「どうも」
 いつもSランク以上の依頼をこなす千夜たちとしては銀貨80枚は小遣い程度にも感じられないが、お金が欲しくて依頼を受けたわけではないため不愉快な気分にはならなかった。

「それじゃあ俺たちはこれで」
「あ、待ってください!」
「ん?」
 突然呼び止められ首を傾げる。

「なんだ?」
 それに対してアミーは周りのキョロキョロしたあと小声で喋りだす。

「実は冒険者の方々が噂していたんですが、どうやらダラに海賊が出たそうなんです」
「海賊が?」
「はい。ダラは大きな港街ですから稼げると思ったのか最近よくダラに出入りする船を襲っているそうです」
「そうか。で、どうして俺たちにそんな情報を?」
「もしかしたらダラに行く事もあるかと思いまして。Aランクパーティーはどこのギルドでも貴重ですから。あ、私が言ったって事は内緒にしてくださいね」
「ああ、解っているよ」
 苦笑いを浮かべて了承した千夜たちはギルドを後にした。
(海賊か。もしも暗霧の十月ミラージ・サヴァンが盗賊だけでなく海賊まで従えているとなると何が目的だ。盗賊たちを使って儲けを生み出すのは理解出来る。だが、海賊は何の為に?)

「どうしたの旦那様?」
「ん。あ、ああ。ちょっとな」
 思考の海に深く潜っていた千夜はエリーゼの問いに引き戻される。

「教えて。旦那様が考え込む時って大抵私たちには悪い事だから」
「まだ、昔の事を言っているのか。もうお前たちを置いて危ない事はしない」
「確かに最近は一緒に居るけど……」
「悪かった。お前たちを危ないところに連れて行くのが怖かったんだ。俺の過保護過ぎるのが悪かったんだ。だからそう暗い顔をしないでくれ」
「………」
 エリーゼたちは黙り込む。別に千夜が悪いわけではない。誰が悪いわけでもない。エリーゼたちは自分たちだけが温かく安全な場所に居る事が許せないだけであり、千夜は愛する妻たちを危険な場所に連れて行きたくない。互いに相手の事を想ってこその行動なのだ。

「それで、何を考えていたの?」
 この話をこれで終わりと話を切り替える。

「いやただな、代官が暗霧の十月ミラージ・サヴァンを通じて盗賊を使い金儲けしているのは解っている。だが海賊まで使う理由が解らなくてな」
「さっきアミーが言っていた海賊が船を襲っているってやつね」
「そうだ」
 顎に手を当てて考えこむ。

「ねぇ、その海賊ってどの船を襲っているの?」
「それはどういう事だ?」
「この大陸は大まかに二つの海に囲まれてるの」
「二つの海だと」
「そう。一つは北の海。私たちが住むこの大陸とアノルジ大陸の間にある海は海流が流れがとても速くいつも悪天候で巨大な魔物が住んでいて航海不可能と言われている海なの。それに対して南の海は台風がたまにあるだけで大抵は穏やかな海。勿論魔物も居るけど北の海ほどじゃない。それに南の海には数百年か数千年前なのかは解らないけど昔あったとされる大陸が海の底にあるとされているわ」
「ただの迷信だろ。その証拠に海底に街を見たわけでもないんだろう」
「そうだけど。今の技術では解明できない魔道具やお宝が発見されてるの」
「そうなのか?」
「ええ。だから一攫千金を狙うトレジャーハンターたちが南の海、南の港には沢山居るの。勿論ダラにも居るわ。だから海賊たちはトレジャーハンターたちの船を襲ってるんじゃないのかしら?」
「なるほどな」
(財宝なんかを横取りしてそれをお金に換えているわけか。ありえる話だがどうしてそこまでお金に拘る。私利私欲を肥すためには見えないが)

「駄目だ。やはり何度考えても答えが出ない」
「うふふ」
「何が面白いんだ?」
「いえ、旦那様でも苦戦する事があるのね」
「当たり前だ。俺はいつもエリーゼたちに嫌われないように頭を悩ませてるんだからな」
「あら、そうだったの。ならもう安心ね。私たちが旦那様を嫌いになる事なんてありえないもの」
「そうか」
「ええ、そうよ」
 どんな状況であろうとラブラブな夫婦をである事は間違いなかった。
(お父様、お母様街中でいちゃつかないで下さい。見ているこっちが恥ずかしいです)
 顔を赤らめて周りからの視線に耐えるウィルは千夜たちから少し離れて歩くのだった。
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