鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
上 下
250 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十四幕 事情聴取と活気ある街

しおりを挟む
(これは不味い。実に不味い。計画に支障を来すだけでなく、エリーゼたちの視線が痛い。なんとかしなければ……)
 思考を巡らせる千夜だが、答えが出ないでいた。この場から逃げる事も考えたが、大勢に目撃された以上逃げたところで意味をなさない。それよりも千夜にはエリーゼたちの方をなんとかしたい気持ちに狩られていた。
 走行しているうちに事件を嗅ぎつけた憲兵隊数名がやって来た。

「おい、これは何の騒ぎだ!」
 先頭に立つ男が代表して事情を聞きだす。

「ヒッタクリをした男が短剣で襲い掛かって来た。だから身を護る為に反撃した。それだけだ」
「本当だろうな?」
 憲兵は疑いの目を向けてくる。その事に不満を感じたのかエルザが纏う雰囲気が淀みだす。
(不味い。このままだと殺人事件に発展する)
 どうにかして誤解を解こうとする千夜だが、その必要は無かった。

「その男が言っている事は本当だぜ」
「そうよ。私たちが見てたもの」
「捕まえるなら、あっちで倒れてる男を捕まえなさいよ」
 先程まで傍観していた住民たちが千夜たちを庇うように喋りだす。その光景に流石の憲兵隊も信じるほか無かった。

「解った。ただし念のために事情聴取はさせてもらう。詰所まで来て貰おうか」
「俺一人で良いか?」
「構わないが、後ろのは仲間か?」
「そうだ。今先程この都市に着いたばかりの冒険者だ」
「そうか。それは災難だったな」
 心にも無い事を吐きながら憲兵は気絶している男を捕まえるよう部下に指示を出す。

「事情を聞くのはお前だけで良い」
 了承を得ると千夜はエリーゼたちに宿屋を探して置くように伝える。
 思わぬ事件に巻き込まれた千夜たちだったが、どうにか穏便にすませられた事に内心安堵する。
 エリーゼたちと別れ、詰所で事情聴取を受け開放されたのは一時間後の事だった。

「椅子に座りっぱなしで腰が痛い」
 年寄り臭い事を呟きながら軽くストレッチをする。

「さて、エリーゼたちと合流するか」
 歩き出した千夜。しかし数歩歩いてその足取りは急遽止まる。

「合流場所決めてなかったな」
 千夜らしくもないミスを連発に本人は嘆息するがすぐさま切り替え歩き出す。

「あ、あの!」
「ん?」
「先程は有難う御座いました!」
 突如呼び止められ声の主に視線を向けると淡い緑と白いスカート姿の女性がお辞儀していた。
(20代前半と言ったところか。だが、何故お礼される?)

「どこかで会ったか?」
「わ、私は先程ヒッタクリにあった者です」
「なるほどな」
 よく見ると白いスカートの一部が土で汚れていた。

「気にするな。相手が剣を向けてきたんだ。事故防衛本能が働いただけだからな」
「で、でも」
「気にする事はない。それにこのあと仲間と合流しないといけないからな」
 そういい残して千夜は立ち去った。
 大通りを歩く事数分。屋台の串焼きを買い食いしながら観察する。
(平和そのものだな。活気もあるし村と違って値段もお手ごろだ。私利私欲を満たす代官ではないみたいだが……)
 街の光景に一つの答えに辿り着く。が、
(なら、何が目的で暗霧の十月ミラージ・サヴァンと手を組む)
 私利私欲を満たす以外に手を組む理由がまったく掴めないでいた。
(反乱や重鎮の暗殺を企むのならば、もっと早くしているだろう。代官としてこの領地に派遣される前にでもしている筈だ。なら、何が目的だ?)
 思考を巡らせるが一方に代官の目的が解らない千夜。すると、

「旦那様!」
「ん?」
 俯きがちに歩いていると前から聞き慣れた声が耳に届く。
 顔を上げ前を見るとエリーゼたちが立っていた。

「思ったより早く終わったのね。普通なら倍は掛かるもの」
「ああ、住民たちの口添えが大きかったようだ。あれのお陰で簡単な事情著種だけで終わったからな」
「なるほどね。宿屋は確保したけどどうするの?」
「明日冒険者としてギルドに向かう。今日はこの街の探索も含めて見物だな」
「なら、私が案内するわ」
 嬉しそうに喋るエリーゼの姿に微笑む。

「なら、頼むとしよう。特産品などがあればタイガーたちに土産として買って帰ろう」
「そうね。なら案内するわ」
 手を引っ張って案内する。その後姿は何処にでもいる健気な少女にも見えた。
 今日一日新婚旅行の続きをしている気分で終えた千夜たちはエリーゼたちが手配した中級の宿屋で寛いでいた。
 村の下級宿屋と違い。6人全員が寝泊り出来る一室を借りていた。と言っても千夜の屋敷にあるキングサイズのベットがあるのではなく。両脇にベッドが三つずつ並んでいるだけだ。

「買い食いし過ぎて夕食は食べられないかと思ったがこの宿のご飯は美味しかったな」
「そうですね。ベルガーさんたちの六王鬼の祠にも負けない美味しさでした」
「美味じゃったのじゃ」
「ロイドさん程ではないですが」
「美味しかったです!」
「そうね」
 各々感想を述べたが、切り替え真剣な面持ちで顔を付き合わせた。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。