鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

月見酒

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第七章忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十一幕バンシーと外套

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　今後の話し合いも終わったエリーゼとウィルは装備を外すだけで冒険者として活動する服のままベッドに横になる。理由は幾つかあり、何時如何なる時でも直ぐに戦闘が出来るようにするためと、安宿のベッドで寝巻き姿で寝たくないという思いからだ。別に汚いわけでもない。普通に清潔感のある白いシーツだが、エリーゼはこの宿が気に食わないようだ。

「あら、旦那様まだ寝ないの？」
　ベッドの横になったエリーゼが千夜に視線を向けるとまだ立ったままだった。

「撹乱のために準備する事が幾つかあるからな」
「そう。なら私は先に寝るわ」
「出来るだけ静かにするが煩かったらすまない」
「気にしないわ。それじゃウィル寝ましょう」
「僕はお父様が何するのか見てみたいです」
「そんなに気になるのか？別に大した事はしなぞ。正直見ていた楽しい事なんてないと思うが」
「それでも僕は見てみたいです！」
「そ、そうか。ならベットに座って見学すると良い」
「はい！」
　背筋を伸ばす好奇心を宿した瞳で今か今かと待ち遠しそうに千夜を見詰めるウィル。
(そんなに見られると流石にやり難いんだが)
　自分に憧れを持つウィルの強い好奇心に考えを改めるのだった。
　気を取り直して千夜はスキルを発動する。

「出でよ。我が眷属、不滅の死霊使いアサナト・キャスター」
　ラッヘンの時と同様に魔物生成スキルによって生み出された魔人は魔方陣も無く、その場に出現した。
　黄金の刺繍が施された藍色のローブに身を包む女性はフードを深く被りその場に跪いていた。ただ死人かと思わせる青白い肌に白い長髪がフードの隙間から姿を見せるだけ。

「何なりとご命令を我が創造主君」
「不滅の死霊使いアサナト・キャスター、お前に名前を与える」
「有難き幸せ」
「これからは『バンシー』と名乗ると良い。それが名前だ」
「畏まりました我が君。それで私は何をしたら良いのでしょうか。この村に住むすべての人間を皆殺しにすれば良いのでしょうか？それとも催眠を掛けて殺し合わせせるのもまた一興かもしれません。うふふ」
　バンシーの言葉にウィルの表情は見る見る青ざめていく。

「そんな事でお前を創ったわけではない。お前にはもっと重要な役目がある」
「重要な役目？それはなんでしょうか。まさか国民全員をアンデットにすれば良いんですね。解りました今すぐに」
「違う！」
「あぅん！」
　流石の千夜も呆れて拳を落とす。死霊使いとはいえ女、痛みを感じた時は予想外にも可愛らしい声で鳴く。
(死霊使いを創るイメージとしてマットサイエンティストをイメージしたが、流石にこれは遣り過ぎたかもしれない)

「はぁ……」
　項垂れてため息が漏れる。

「重要な内容は明日呼び出した時に説明する。それまでは亜空間で遊んでいろ。スケルトンたちが居るだろうが殺すなよ。強くするなら問題ないが」
「はい、遊んでいます！」
(なんて弾んだ声だ。少し顔も赤らんでいるし)
　自分が創りだした者に今になって後悔する千夜であった。

「ウィル」
「はい」
「寝るとしよう」
「はい」
　二人は今の記憶を夢にする為にベットに横たわる。どうせ明日の昼前には現実だったと項垂れると解っていたとしても。

　次の日、不味い朝食を食べ終えた千夜たちは出発すべく準備を整え個室に全員が集まっていた。集合場所を宿屋前にしなかったのには理由がある。
　全員が集まった事を確認した千夜はアイテムボックスから体型を隠せるほどのフード付き外套を全員に手渡す。

「お父様、昼間はそこまで寒くありませんが？」
　防寒のためだと思いウィルは千夜に問い掛ける。

「確かに防寒対策のためでもあるが、一番の理由は昨夜に言った撹乱の為だ。姿が解らなければ相手は混乱するだろうからな」
「なるほど」
　まじまじと手に握られた外套を見るめる。

「それにしても少し大きめに作られてるけど、これって全員の体型を知っていないと作れないわよね？」
「確かにそうだ。だが、夫である俺がお前たちの体型を知らないと思うか？」
「そ、それもそうね」
　千夜の言葉にエリーゼたちは顔を赤らめる。その姿にウィルは顔をキョトンとさせるが千夜は気にする事無く話を進める。

「これは着て出発する。それぞれの都市に向かう別れ道で一旦止まるが、それまでは休憩は無いと思って良い」
「解ったわ。それじゃさっそく行きましょうか」
　全員千夜に渡された外套に身を包み宿屋を出発する。勿論まだ村の中のため顔は出しているが村が見えなくなれば直ぐにフードを目深く被るつもりだ。
　数分歩き村が見えなくなり、周りに人の姿と気配が無い事を確認した千夜たちは無言でフードを被る。
　全員が被り終わったのを確認した千夜は一度頷く。それに反応するようにエリーゼたちも頷いた次の瞬間には空気を裂くほどの速度で走り出した。

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