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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百十六幕 教育指導と王宮半壊

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 強姦未遂から数日が過ぎた。
 あの事件以来誰も千夜に逆らうものは居ない。独裁的な表現になるがそれも仕方がなかった。あの出来事を間近で見た奴隷たちは千夜の姿を見るだけで怯えてしまうのだ。一種のトラウマである。
 そんな千夜は書斎でバルノたち酒造班から贈られてきた報告書を読んでいた。
 オールリキュールには大きく別けて二つの班、役割がある。
 一つはバルノたち酒造班。
 果実酒、ビール、ウイスキーを製造したち、新しい酒を開発する班。
 もう一つは接客班。
 オールリキュール店で接客をする班だ。しかし職員の数が少し多い事もありお店で働く以外の職員は宿舎で家事を行ったり、休暇を楽しんだりしている。
 現在同時進行で造っている新作果実酒3つの報告書には千夜にとって予想通りの内容が書かれていた。
(可もなく、不可もなくか。ま、造り始めて3週間だからな。仕方がない)
 書類を机に乱雑に置くと首を鳴らす。

「少し椅子に座りすぎたな」
 固まった体を解す千夜の許にセバスがやって来る。

「失礼します、センヤ様」
「どうしたセバス」
「はい、セレナ様がお願いしたい事があるとかで、急遽参られております」
「分かった。通してくれ」
「畏まりました」
 洗礼された一礼をしたセバスは物音立てずに書斎を退室する。
(昔、暗殺者か諜報員をしていたに違いない)
 失礼な推測をする千夜の許にセレナがやって来る。

「お久しぶりです、センヤさん」
「久しぶりだなセレナ。で、今日はどうした。お願いしたい事があると聞いたが」
「はい……」
 千夜の問いかけで表情に影が落ちる。

「どうしたんだ?」
 流石の千夜でも心配になる。

「実は勇治さんたちの事です」
「あいつらか」
 勇治たちの名前を出されて表情が少し険しくなる。

「で、勇治たちがどうした?」
「はい、フィリス聖王国からの知らせが衝撃的だったのか未だに寝込んでいらっしゃるんです」
「おいおい、あれから一ヶ月は経つぞ」
 流石の千夜も驚きを隠せずに居た。

「ですからお願いします! どうか勇治さんたちを元気付けて貰えないでしょうか!」
「断る」
 無感情に吐き捨てられた言葉にセレナの表情は一層暗くなる。

「どうしてですか?」
「あいつらと関わって碌な事が無いからだ」
「ですが友達ですよね。家族ですよね」
「元だ。今は赤の他人だ」
 冷たく吐く千夜の言葉にセレナは涙を流す。

「どうかお願いします!」
「無理だ。だいたい俺に何が出来る。俺は和也じゃない、千夜だ。あいつ等との仲は良いか悪いかで言えば、悪い方だ。そんな俺にどうやって元気付けろというんだ」
「そこをなんとかお願いします! 私にとっては大事な友人でもあるんです!」
「………」
 涙を流し頭を下げるセレナの姿に千夜は反論できない。
(……将来の妻の頼みと意地じゃ勝ち目はないか)

「分かった。なんとかしてみよう」
「本当ですか!」
「ああ。だが期待はしないでくれ。失敗したら諦めてくれ」
「大丈夫です。センヤさんなら成功しますから」
「まったく。その自信はどこからくるのやら」
「うふふ、将来の妻ですから」
 先程とは裏腹に満面の笑みを浮かべるセレナの姿に感嘆の念を覚え笑みを零す。


 セレナと共に王宮へとやってきた千夜がまず向かった場所はベイベルグの所だった。
 事前に知らせておいた事もあり千夜たちは応接室に通された。

「センヤ久しぶりだな」
「ベルグもな」
「で、急に来てどうした?」
「なに、ちょっと頼まれて勇者たちに喝を入れに来た」
「そうだったのか、手を煩わせてすまないな」
「気にするな。それよりもちょっと荒っぽくなるかもしれないが勘弁してくれると助かる」
 千夜の言葉にベルグの表情が強張る。

「一つ訊くが荒っぽくなるとはどの程度だ」
「この城を全壊させる事はない。最悪半壊程度だ」
「何処がちょっとだ!」
 身を乗り出して反論するベルグ。

「安心しろ。力は制限する。壁に穴があく程度で抑えるつもりだ」
「安心などできるか!」
「勿論破壊した壁等は俺が全額負担するつもりだ」
「そういう問題ではない!」
「なら、どういう問題なんだ?」
 キョトンとした表情で首を傾げる千夜。

「いきなり王宮の壁に大穴が開くほどの出来事なんぞ直ぐに帝都の民に広まるに決まっているだろう!」
「そこは、実技指導として俺を呼んだって事にすれば言いだけの話だ」
「情報規制するのにも限度があるのは知っているだろう!」
「確かにそうだが、このまま勇者たちを放置しておくのか?」
「そ、それは……」
「一ヶ月間、室内から出てこないなど国の威厳云々の前に人々が不安になるんじゃないのか?」
「情報規制はちゃんとしている」
「ベルグ、今はお前自身が言った筈だ、情報規制にも限度があると。このまま長引けば間違いなく情報は民たちに広まるぞ」
「それは……」
「勇者たちを鍛えるために俺が王宮の壁に穴を開けたって事にしておいた方が民の不安も少ないと思うがな」
「…………」
「どうする?」
「……分かった。好きにしろ!」
「ああ、そうさせて貰う」
 ベイベルグの許可を得た千夜はソファーから立ち上がり部屋を退室しようとする。

「あ、そうそう言い忘れていた」
「なんだ?」
「さっき王宮に穴を開けると言ったが、それは最低でもだ。相手の反応しだいではそれ以上になるかもしれにが勘弁してくれ」
「ちょっ――!」
 ベイベルグは慌てて千夜を引き止めようとしたが既に遅く部屋を退室した後だった。


 

 
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